04 家族愛?
あれから約一時間後。
遥輝は美晴に買って来てもらったおにぎりやパンを食べた後、適当にテレビをつけて眺めていた。
「ん〜やっぱこの時間は面白いのないな」
「まあ平日の15時だしね。仕方ないよ」
「あ〜暇だなぁ。スマホもないのに俺はどうやって生きていけばいいんだ」
勢いよく寝転びながら意味不明なことを言う遥輝に、姉の遥香がジト目を向けてくる。
「スマホがなくても死なないでしょ」
「いや、現代人はスマホが無いだけで簡単に死ねるんですよねこれが」
「いやそんなわけ__」
「うん!わかるよその気持ち!」
突然美晴が手を握って遥輝の言葉を肯定した。
そして適当に冗談を話していた遥輝はホンモノを見る目で美晴を見つめた。
「あ、そっすか…」
「い、いいと思うわ…人それぞれだものね白雪さん…」
遥香も美晴をドン引きの目で見つめ、少し距離をとった。
そんな姉弟に対し、美晴は反抗するように声を上げる。
「2人してそんな目で見ないでぇっ!!仕方ないでしょ!!スマホは便利なんだから!」
「まあ、それはわかりますけど」
「死ぬっていうのはね…白雪さん」
「それは言葉のあやだよ!あと急に苗字呼びになるのやめて遥香ちゃんっ!!」
「わかったわ…じゃあ、〈しらはる〉さん…」
「その呼び方はやめてぇっ!!」
〈しらはる〉とは美晴の愛称みたいなものだ。
苗字の〈しら〉と名前の〈はる〉を取って〈しらはる〉。
すごく安直な愛称であるが、世間の人からはかなり評判が良いらしい。
本人は気に入っていないらしいが。
なので今も美晴はその呼び方をすると即座に止めに入ってくる。
「え、でも俺は結構好きですけどね。しらはるってなんか呼びやすいし可愛いじゃないですか」
「か、可愛い…じゃなくて、本当にやめてっ!!嫌いなのそれ〜!!」
美晴は一瞬頬を赤く染めた後、ふと我に返ってまたしても止めにかかってきた。
「んっ!?ちょ、そんな無理矢理口塞がないで__!?」
美晴は小さい手を使って遥輝の口を全力で抑えている。
流石にそこまでされると息ができなくなって。
「ホントに苦しい!死ぬ!死ぬって!!」
「そのくらいじゃ死なないわよ人って」
「死ぬに決まったんだろ!!早く助けてくれよクソ姉貴!!」
その瞬間、遥香の目から光が消えた。
「いいわ。助けてあげるわ」
「!!まじ頼むっ!!」
「この世のしがらみからね」
「……え?」
美晴は怖い笑みを浮かべて低いトーンで話し続ける。
「この世界で生きるのは苦しいでしょう?だから、救ってあげるわ」
「いや思想強っ!?そんな人間中世ヨーロッパの過激派宗教団体にしか居ないわ!!!」
そうやっていつも通り姉弟で会話をしていると、急に病室の扉が開かれた。
「あら、思っていたより元気そうね」
「ったく…病室でぐらい静かにしろよ」
そう言いながら男女2名がこちらに向かってきた。
「どう?遥輝の容体は」
「足が砕け散っているわ」
「言い方…」
「そう。安静にしていれば治るの?」
「ええ、お医者さんはそう言ってたわ」
遥香が2人に状況の説明をすると、2人は同時に胸を撫で下ろした。
「よかった…死んでしまったらどうしようかと…」
「そうだな…死んでしまったら大変だよ全く」
「ええ…死んでしまえばいいのに全く」
「うん、最後のヤツ心配してないな?さらっと死ねって言ってるやんめっちゃ人でなしやん」
当然最後のヤツは遥香である。
この人、本当に家族か?
たまにマジで家族とは思えない発言をされる為、実は血が繋がってないのではないかと思ってしまう。
まあ両親曰く、血は繋がっているらしいが。
信じて良いのかはわからないが。
「ったく…家族愛とかはないのかね」
「あの…お2人はこの2人とどういう関係で…」
4人でいつも通りの会話をしている中で、美晴はずっと頭の上に?を浮かべていた。
それでも皆んなで仲良く話してある姿を見て大体は察しているが。
美晴の投げかけた疑問に、遥香が返答する。
「紹介するわね。こちらが私たちの父親の」
「遥斗です」
「こちらが私たちの母親の」
「香織です」
「こちらが私たちのペットの」
「ポチです」
「この3人と1匹で私たち夜桜家です」
「「よろしく」」
「よろしくお願いします」
3人は同時に軽く頭を下げ、挨拶を交わす。
その近くで、ペットは声を大きくしてツッコミを入れる。
「いや誰がペットやねん!!誰がポチじゃい!!」
「ポチって言ったのはあなたよ」
「ワンワワワンワン」
「よしよし、えらいわね〜」
ポチは遥香に頭を撫でられて笑顔を浮かべた。
そんな異常な家族の姿を、美晴は遠い目で見つめる。
(す、すごいご家族だ…)
美晴は心の距離を感じた。