31 取捨選択
「で、あの夢を忘れるためにわざと長時間お風呂に入ってのぼせたってことね」
全身を真っ赤にしながら温泉を出ると一瞬で美晴に捕まってしまい、そのまま部屋まで連行された。
そして今はまた膝枕されながら事情聴取を受けている。
「はい…」
「もう…遥輝くんってたまにとんでもないことするよね」
「……」
否定したいがそのような言葉は口から出てこず。
その沈黙が自覚ありだと察した美晴は呆れたようにため息をつきながら頭を撫でてくる。
「まったく、こんなことしてたらいつか身体が壊れちゃうよ?君には長生きしてもらわないと私寂しくて死んじゃいそうになるんだからねっ」
「…はい」
美晴の言葉が「一生一緒にいてね」という意味を孕んでいることがわかってまた全身が熱くなる。
だが美晴は当たり前のことを言ったかのような顔で特に気にするような素振りを見せない。
(よくそんなこと平気で言えるよなぁ…)
遥輝は半分も見えない美晴の顔を見上げながら美晴と話し続ける。
「で、話を戻すけど、そんなにあの夢を忘れたかったの?」
「はい」
「なんで?」
「なんでって…それは…」
脳内で勝手に色々妄想が捗ってしまって大変なことになりそうだったから。
なんて言ってしまえばまた美晴にニヤニヤされてしまいそうだ。
なので一旦真実を隠し、適当にそれっぽい言い訳を綴る。
「美晴さんに失礼かなーって思って…」
「ふ〜ん、失礼、ね」
遥輝の言葉を聞き、美晴は拗ねたような顔を浮かべた。
「別に私は遥輝くんにそういう妄想をされても不快に思ったりしないし、他の女の子で妄想してほしくないからしむしろてほしいな」
あれ?
妄想とかの話はしてないんだけどな…。
「いやいや、何の話してるんですか」
「え?だから、遥輝くんのおかずは私だけにしてほしいなって話だよ?」
(いや何言ってんのこの人!?)
かなり話が飛躍している気がする。
このパターンはあまりよろしくないやつだと、自分の直感がそう告げている。
なのでとりあえず話を変えようと考え、何とか話題を絞り出した。
「そ、そういえば美晴さんって今日は何の仕事が__」
「だからね、私毎日そういう写真送るね。そうすれば多分困らないよね?もし足りないんだったら言ってね。いくらでも送ってあげるから」
(いや話聞いてねぇし!!!)
美晴の目には♡が浮かんでおり、もうこちらの話など聞かずに一人で話を進めていっている。
まさか美晴にこういう一面があったなんて。
(もしかしてこの人…ヤンデレってやつか…?)
まだ確証はないが、そういう気質はありそうなのでこれから気をつけねば。
そんな風に考えている間も美晴は一人でブツブツと話しており、いよいよ恐怖を覚えてきた。
(いつになったら止まるんだ…)
そんなことを考え続けていると、もう二十分という時間が経っていた。
いよいよ終わりが見えなくなり、今日の朝礼に間に合うか心配していたか頃、突然美晴のスマホから通知音が鳴った。
「?誰だろ」
美晴はようやく正気に戻り、スマホを手に取っていじり始めた。
「……」
美晴は黙ったまま顔色を青くしていき、最終的にはもう完全に血の気が引いてしまっていて。
「どうしました?」
「え、あ…いや…」
なかなかに感情の変化が激しくて心配になるほどであるが、美晴なら多分大丈夫__
「わ、私行かないと!!遅刻しちゃう!!!」
そう言いながら美晴は遥輝を置いて支度を始めた。
荷物を用意したり、化粧をしたり。
あと遥輝がいるのに普通に着替えたり。
美晴は慌てながら支度を終わらせ、勢いよく部屋の扉を開けた。
「じゃ、じゃあね遥輝くん!!」
「あ、はい…。仕事頑張ってください…」
美晴は走りながら出て行き、部屋には遥輝だけとなってしまった。
そこで美晴の部屋に残った彼女の匂いを少し嗅いだ時に大切なことに気づいてしまった。
「え、鍵どうすんの!?」
気づいた時には美晴はもう旅館から出ていて。
遥輝はどうするか悩んでいると、もうそろそろ自分も時間がないということに気づいた。
「あ、もう無理やこれ」
とりあえず朝礼は諦めて遅刻することにし、一旦美晴と連絡を取って鍵問題を解決させることにした。




