03 ロリコン
美晴が病室から出ていき、この空間には遥輝と遥香の姉弟しかいない状況になった。
(なんか…気まずい…)
いつも家では同じような状況なのに、今はなぜか微妙に気まずさを感じる。
この空気が嫌なので遥輝は適当に話題を取り出した。
「そういえば、今日は早退したの?確か皆勤だったよな」
「ええまあ、早退したわ。皆勤は別に狙ってた訳じゃないし、こればかりは仕方ないわ」
「そっか。あ、そういえば今日は生徒会の仕事があるんじゃなかったの?」
今朝遥香が先に登校したのもそれが理由だ。
もし今日も遥香と共に登校していたら事故に遭っていないだろうが、それはあくまで結果論だ。
「まあ、あったわね」
「いいのか?生徒会長がいなくても」
「それはまあ…後日謝ればいいことだし。そもそもあの子たちは優秀だから、私がいなくてもどうにかなるわ」
「なるほど…つまり弟が心配すぎて全部すっぽかして来たと」
「ええそうね」
「あ、そうなんすね」
そんなんでいいのか生徒会長!!!
遥香はたまに弟が心配で自分の立場を悪くするようなことを平気でしてくる。
だから普段は怒られてばかりでも恨めないんだよなぁ。
これが彼女なりの愛情表現なのだろうと自分に言い聞かせつつ、遥輝はパッと浮かんできた疑問を投げかけた。
「そういえば、白雪さんとは同じクラスになったんだっけ。仲良いの?」
「そうね。昨日初めて話して、結構気が合ったの」
「へぇ…姉さんと気が合うなんて、どんな変態なんd__」
その瞬間、遥香の拳が腹に直撃する。
「ぶふぇっ__!?」
「何か言ったかしら???」
「いや病人にする躾け方じゃないだろ!?」
「人は痛みを伴うと覚えが速くなるのよ」
「そういう問題じゃねぇだろ!?俺!今病人!!か弱い乙女!!!」
「本当にか弱い乙女だったらどれほど楽だったか…」
遥香が額に手を当ててため息を吐いているのを見て、遥輝は姉に怒られた時のことを思い出した。
ある時はスーパーヒーローになりたくて(?)家を出て2日ほど帰ってこなくて怒られて。
ある時は伝説の勇者になりたくて(?)三日三晩年下の女の子をナンパしてて(?)怒られた。
………何やってんだこの人。
普通に怒られる要素しかないじゃん。
でも遥輝はなぜ怒られたのか全く理解していないため、遥香は今でも手を焼いている。
「本当、私にはいくらでも迷惑かけていいから、人様には迷惑かけないでよね」
遥香は怒るたびにこの言葉を遥輝に言い聞かせている。
これが家族愛というやつか。
遥香は本当に優しくていい姉である。
だが遥輝は全くそのことを理解しておらず。
「俺は誰にも迷惑かけてないだろ?姉さんが勝手に怒ってるだけじゃん」
「よし、ちょっと裏来なさい」
「あ、ちょっと待って!?足!!足動かないから!!ちょ、そんな無理矢理!?いやぁぁぁぁっ!!!!!」
と、遥香に連れ出されそうになった時、病室の扉が勢いよく開かれた。
「や、やめてっ!!!それ以上遥輝くんに辛いことさせないでっ!!!」
そこには少し息を荒くした美晴がいて、遥輝を救い出すために勢いよく病室に入って来た。
「遥香ちゃん!!遥輝くんをいじめるのはやめてあげて!!」
「い、いやこれはこの子が…」
「理由はどうあれ、病人に無理をさせるのはダメなのっ!!」
美晴は両手を使って×を作り、遥香に「めっ!」と言いながら説教をしている。
可愛いなこの人。
(ん!?今俺可愛いって思った!?年上に???あり得ないだろ!!!)
自分の気持ちに素直になれない遥輝は今日も年下好きを貫く。
ちなみに年上が苦手な理由の17割は姉がああだからである。
あれだけ説教されたらトラウマにもなる。
年下好きな理由?
それは単にロリコンだから。
(いやロリコンじゃねぇぇぇ!!!!!)
今日も遥輝は自分の中の誰かと戦い続ける。