25 執念
「ねぇしらはるさぁん」
「そんな彼氏置いて俺らと遊ぼぉよ」
美晴にスキーのやり方を教えている最中、突然二人組の男から絡まれる。
「ごめんなさい。今は彼と楽しんでいるので」
「そんなのどうでもいいからさ」
「俺らと遊んだ方がたのしいよ?」
美晴は笑顔で優しくあしらおうとするが、それは全く無意味なようで。
男は美晴との距離を縮めて威嚇しようとするが、それは遥輝が間に入って阻止する。
「やめてください。彼女は俺と遊んでいるので」
美晴を背中に避難させ、男と対峙する。
すると男達は不満そうに距離を詰めて来た。
「ああ?お前に用はねぇんだよ。さっさとしらはるよこせや」
一人の男が強引に胸ぐらを掴み、殴るような素振りを見せてきた。
「いい加減にしないと、痛い目見るぜ?」
「痛いのは嫌なのでやめてください」
「ならさっさとどけや」
「それはできません」
「ああ!?話の通じねぇヤツだな!!」
男の拳が遥輝の顔面に直撃する。
「遥輝くん!?」
「いいですから、美晴さんは下がってて」
美晴は心配そうにこちらを見つめるが、今彼女が近づくと危ないのでなんとか手で静止して待機させる。
だが男からすればそんなのはどうでもいいようで、男は続けて殴ってくる。
「ほらっ!!さっさと消えろや!!」
「…」
遥輝はひたすら耐える。
何回、何十回でも。
(美晴さんにだけは…絶対に近づけさせない…!)
ただその一心で、遥輝は男の拳を耐え続ける。
そしてそれからいくらか時間が経った頃、五人の男の人がやってきて。
「君!やめなさい!」
「兄ちゃんから離れろ!」
その五人の男が一斉にナンパ男の身柄を押さえ、遥輝はようやく気を抜くことができた。
「遥輝くん!大丈夫!?」
「はい、大丈夫です」
「いや、あれだけ殴られたんだから…!今すぐ治療してもらわないと…」
美晴は心配そうにこちらを見つめてくる。
その目には涙さえ浮かんでいて、身体も震えている。
流石にそんなに心配そうな顔をされたままでは調子が狂うのでなんとか安心させなければ。
「いや本当に大丈夫ですから。これでも一応、身体は鍛えてるんですよ?」
「そ、そうは言っても…」
「アレぐらいでへばってたら美晴さんの彼氏なんて務まりませんよ」
「そ、そう…?」
美晴は少しだけ嬉しそうな表情でこちらを見上げる。
だがやはり身体は震えたままで。
「それよりも…」
遥輝は今一番心配であることを解決させるべく、美晴に質問をかけた。
「美晴さんは、大丈夫ですか?」
「も、もちろん!君に守ってもらったから…」
「そうじゃなくて」
遥輝は美晴の震える肩に手を置き、彼女の目を直視した。
「怖かったですよね?あんなデカい男に急に迫られて」
「…うん、怖かった…」
美晴はまだ忘れられないのか、目から恐怖の念が出ている。
そして遥輝はそんな目を見せられたて行動せずにはいられず、反射的に美晴を抱きしめた。
「大丈夫ですよ。美晴さんは絶対に俺が守りますから。だから安心してください」
「…うん」
美晴は一瞬だけ遥輝の胸に顔を埋めた後、またいつもの笑顔を向けてくれた。
「ありがとう。私を守ってくれて」
「当然のことです」
「じゃあ、これからもお願いしちゃおっかな」
「任せてください。命に変えてでも守りますから」
「それはダメ。命大事に、だよ?」
「…はい」
美晴はいつもの調子に戻ると、また遥輝を子供のように叱った。
「それと、今回みたいな無茶もダメだよ?遥輝くんの綺麗な顔に傷がついちゃうから」
「綺麗ですかねぇ」
「私が綺麗って言ってたら綺麗なのっ。そこ大事」
「あ、そっすか」
美晴はなぜかドヤ顔を浮かべ、自信ありげに胸を張った。
なんで美晴が得意げであるのかは謎であるが、いつも通りに戻ったからよしとしよう。
「ねぇ、またスキーのやり方教えて?」
「いいですよ」
「やった」
さっきは少し面倒な人間に絡まれたが、そんなのは美晴とのデートで忘れることにしよう。
遥輝は先程教えていたことの続きから美晴にレクチャーを始めた。
身体に残る痛みを隠しながら。




