19 心を決めて
「じゃあそろそろ寝ますか」
あれから襲われるのは何とか回避し、少しだけお話をしてからそう切り出した。
すると美晴は少し寂しそうな顔をするが、時計を見ていい時間だということに気づいて渋々首を縦に振った。
「電気消しますね」
「うん」
遥輝は間接照明をつけてから部屋の電気を消した後、美晴の待つベッドに入り込んだ。
「ふふっ、やっと一緒に寝れるね♡」
「そ、そっすね…」
美晴はニヤニヤと笑いながら手を背中に回してくる。
そしてギュッと身体を引き寄せられ、遥輝の顔は美晴の胸の中に埋まった。
「!?」
「ん〜♡前からこうしてみたかったんだぁ♡」
遥輝は何とか逃げようとするが、美晴の力が強くてびくともしなかった。
「ちょ、美晴さん!?離してください!」
「だ〜め♡遥輝くんは私の胸で気持ちよく眠って?♡」
そう言いながら美晴はさらに腕の力を強めてくる。
そんなことをされると流石に胸の感触が伝わってきてしまうわけで。
(うおぉぉぉなんだこれぇぇ!?)
マシュマロのような感触、そしてフローラルな良い匂い。
それらが遥輝に伝わり、全身から力が抜けていく。
そして完全に美晴に身を任せる状況となり、遥輝は美晴の思うがままとなる。
「可愛い〜♡ずっとよしよししていたいな〜♡」
まるで子供を愛でるかのように頭を撫で、優しい言葉をかけてくる。
それにまたドキドキされるも、遥輝は一切動かない。
しだいに美晴の手が止まり、少し腕の力が弱くなった。
「ねえ、遥輝くん」
美晴は遥輝の頭上で小さく声を上げた。
「何ですか?」
遥輝は美晴の胸の中で癒されながら言葉を返す。
「今日はありがとね」
「いえ、俺も楽しかったので、礼なんていりませんよ」
「そっか。やっぱり君は優しいね」
美晴は再び頭を撫で始めた。
「私ね、遥輝くんのそういうところが好き」
「そうですか…」
突然褒められ、遥輝は恥ずかしくなって胸に顔を埋めた。
「ふふっ、やっぱり遥輝くんは可愛いね」
「可愛いって…子供扱いはやめてください」
「そんなつもりはないよ?ただ本当に可愛くて。母性?が湧いてくるの」
それを子供扱いしてるって言うのでは?
などといった感想は胸にしまい、遥輝は美晴の胸から脱出した。
「むぅ…もっといても良かったのに」
「いや、それはマズイです」
「ふ〜ん、マズイこと考えちゃうんだ…」
「あ、いやそういうつもりでは…」
あ、この人話聞いてないな。
美晴は顎に拳を当てて考え込み、少しずつ顔を赤く染めていった。
「いいんだよ?マズイことしちゃっても」
「いやダメですよ。流石に」
「…前から思っていたんだけど、なんでいつもえっちなことをしたがらないの?年頃の男子高校生なら喜んで襲ってくるんじゃないの?」
いやどこの情報だよ。間違ってはいないけれども。
でもやはり例外というものはいるわけで。
その例外こそが遥輝である。
正直遥輝は他の人に比べてそういったことに疎い。
だから変に襲ったりして失敗したら…などと考えてしまう。
まあこんな事情言えるわけもないけど。
「えーっと…やっぱり、気軽にそういうことはするべきじゃないと思ってまして。この人しかいないっていう人としかするべきではないというか…」
「ふ〜ん…。じゃあ私は君としてもいいってことだよね?」
美晴は至極当然のことかのようにそう言うが、遥輝にとってそんな筈はなく。
「いやもう少し考えてくださいよ。冷静に考えてから答えを出しましょうよ」
「私は冷静だよ?」
「…」
あーもうダメだ。
やはりこの人にこういうのは無理だ。
もうこうなったら何か別のことをして忘れさせるしかない。
(もう、やるしかない!)
遥輝は強硬手段に出る事にした。
「美晴さんの気持ちはわかりました。なら、いいですよね?」
「うん、いいよ」
美晴は顔を真っ赤に染めて遥輝の動きを待つ。
「じゃあ、触りますね」
遥輝は美晴の腰に手を伸ばした。
そしてそのまま美晴を抱き寄せ、至近距離まで顔を近づけた。
「え、遥輝くん__!?」
美晴は驚くが、それに構わず唇を合わせた。
そしてそのまましばらく美晴の唇の感触を堪能し、息が苦しくなった頃に唇を離した。