17 普通にしようか
「せ、背中…?」
「はいっ」
現在お泊まり会が開催されている自宅で遥輝は人気モデルの美晴と共に風呂に入っている。
そして美晴から色々と誘われたので遥輝は折れて背中を流してくれと告げた。
すると美晴は驚いた様子でこちらを見つめてきてまた頬を赤く染めながら口を開けた。
「そ、それだけ…?」
「はい、そうですけど…」
「そっか…。うん、そうだよね。まだ遥輝くんは知らないか」
(…なんか絶妙に馬鹿にされている気がするがまあいいか)
美晴からは多分子供だからそういう事は知らないという評価を得ているのだろう。
そんな思春期の男子高校生のメンタルをズタボロにする発言には屈さず、ただ心を落ち着けることに執着する。
(とにかく美晴さんのことは見ずに平常心でいこう。そう、平常心だ)
遥輝は自分にそう言い聞かせつつ、早速湯船から上がって椅子に座った。
「じゃあその…お願いします」
「う、うん…。任せてっ」
美晴はまだ戸惑っているようだが、何とかお姉さんキャラを貫き通そうと張り切っている。
「じゃあ早速、失礼するねっ」
そう言って美晴は手を背中に当ててくる。
「ちょ!?普通に背中洗ってくれませんか!?」
「あ、ああ…ごめんね。遥輝くんの…大好きな彼氏の背中に圧倒されちゃった♡」
美晴はそう言いながら今も背中をまじまじと触り続けてくる。
そして美人な彼女にそんなことをされると純粋な男子高校生は大変なことになる。
(あ、ヤバい)
普通に彼女に背中触られるなんてシチュエーションヤバいでしょ。
美晴の柔らかくて小さい手の感触や体温、謎にいやらしい手の動き。
それらが背中に伝わり、平常心でいられる男などいない。
なので遥輝の脳内は当然の如く滅茶苦茶になっていたが、それは何とか制御することに成功する。
(これは背中を洗っているだけこれは背中洗っているだけコレ背中あらてるダケ)
制御…できてる?
一応なんとかなってはいるか。
とりあえず今すぐに襲わなかった自分に感心しつつ正面を見て美晴の次の行動を促す。
「あの…そろそろ背中洗ってもらっていいですか?」
そろそろ限界なので。
「あ、うん。そうだね。じゃあ、洗っていくね」
いよいよ背中を流す気になったのか、美晴はボディタオルを取って石鹸をつけた。
それを泡立てている途中、背中越しにとんでもない感触が伝わってくる。
(は?なんだこの柔らかい感触…間違いなくボディタオルの感触では…)
そんな風に推測をしていると、美晴が口を耳元に近づけてきて耳打ちをしてきた。
「(コレで洗ってあげよっか?♡)」
「っ!?」
美晴はそう言いながら胸元を指さしている。
遥輝は一瞬で目を逸らし、一旦美晴から距離を取った。
「な、何言ってるんですか!?普通に洗ってくれたら良いでから!!」
「そう?本当にいいの?こんなチャンスなかなかないよ?♡」
確かにそうだな。
(いやいやいや、仮にチャンスがもうないのだとしても無理だろ!!)
チャンスが無くなってしまうのは悲しいが、それも仕方あるまい。
遥輝は断固として美晴の言葉を否定し、普通に洗うように言いつけた。
すると美晴には少し拗ねられてしまうが、こればかりは致し方ないと割り切って背中を託した。
「じゃあ、普通に洗っていくけど、本当にいい?」
「だからさっきからそう言ってるじゃないですか」
「そっか…。まあ別に今じゃなくてもいいか」
いや何が???
美晴の意味深な発言に思わず心の中でそう呟いてしまう。
つまり将来的にはそういう事をしようとしているのか?
いや確かに長い付き合いになったらそうなるかもしれないけれども。
(いや現実味ないなぁ…)
そんなの多分もっと先の話だ。多分。
美晴に誘われても自分の心を落ち着けて暴走を抑えることができたら。
でもいつかは抑えきれなくなりそうでとても怖い。
(ま、それは部屋でゆっくり考えるか)
面倒臭い事を後の自分に丸投げし、今は彼女とのラブラブなお風呂タイムに集中した。