14 刺されたくない!
流石にあのまま放置しておくわけには行かず、現在美晴と共に事務所まで来ている。
美晴がいたのですんなり中に入ることができ、そして一旦客室に案内された。
「ひ、広いですね…」
「そうかな?まあ一応大きい事務所だからね」
「大きな事務所に所属しているならそれなりの自覚を持ってくださいよ…」
結局悪いのは遥輝な気もするが、それはまあいい(よくない)。
「自覚ならあるよ?だから皆さんに隠れずに恋愛するって決めたんだよ?♡」
「いやそうではない」
これは何を言っても無駄な気がする。
ならもう事務所のお偉いさんにどうにかしてもらうしかない。
さもないと街中で堂々とデートさせられる気がする。
そう、変装もなしに堂々と公開処刑させられるデータという名の地獄を。
(それだけ、絶対に防がねばっ!!)
その為にも、まずは事務所のお偉いさんにガツンと言ってもらわないと。
そんな風に思考を巡らせているうちに、扉から一人の女性が入ってきた。
「あ、社長」
「ど、どうも…」
「いいから、座って」
美晴が社長だと言った女性はとてもオーラのある人物で、彼女が実際にモデルとして活躍していても違和感がないほどに貫禄があった。
その社長に反射的に頭を下げた後、緊張しつつ腰を下ろした。
「さて、何の話かはわかっているだろうね」
「は、はい…」
社長の言葉に心臓が大きく跳ねる。
そして緊張が加速し、口が動かなくなる。
話さねば。
そして交際の許可を頂かねば。
…あと美晴を説得してもらわねば。
そんなことが頭の中に浮かぶが、やはり口に出せない。
(クソ、どうしてこんな大事な時に…!)
遥輝は自分の不甲斐なさに失望する。
自然で拳を強く握り、身体が震え始める。
「大丈夫」
そんな時、隣から女神のような声が耳に入る。
そして握られた拳の上からその女神の手が乗せられる。
「私たちなら、きっと大丈夫」
隣にいる美晴に優しく言葉をかけられ、緊張はおさまっていく。
そして冷静さを取り戻した頃、一度深呼吸をした。
「社長さん」
「はい?」
遥輝は堂々と社長の目を見た。
「僕は、真剣にこちらの白雪美晴さんと交際をしたいと思っております。どうか、許していただけないでしょうか」
自分の真剣な気持ちが伝わるよう、目に力を入れる。
社長もこちらの目をじっと見つめ返してくる。
「そう…」
社長は顔を下に向けて数秒黙り込んだ後、優しく笑いながら顔を上げた。
「ええ、構わないわ。あなたと美晴の交際を認めましょう」
「そうですよね。やっぱり看板モデルと交際だなんて…えぇっ!?」
まさかこんなに早く了承してくれるとは思っておらず、ガチの驚きを見せてしまう。
「え、い、いいんですか??」
「ええ、美晴が選んだ人だもの。何も問題ないわ」
「いやでもぉ…」
「そんなに嫌ならやめておく?」
「いやそれはちょっと…」
「ふふっ、面白い子ね」
社長さんが軽く笑うのと同時に、遥輝の隣でも美少女がクスクスと笑っていた。
「そうですよねっ。この人、すごく面白いんです。でもいざという時はとても頼りになるんですよ?」
「へえ、それはいいわね」
「ですよね!」
謎に称賛されまくっているせいで言葉が出なくなる。
そしてかなり恥ずかしさを覚えた。
「よし、その話はこの辺で終わらせておきましょうか。それより社長さんにお願いがあります」
「あら、何かしら?」
遥輝は社長に近づいて美晴に聞かれない程度の声量で話し始めた。
「(美晴さんに外では控えるように言っておいてくれませんか?)」
「(それはどうして?)」
「(どうしてって…そうでもしないとまた騒ぎになりますよ?)」
「(別にいいんじゃないかしら)」
「(え??)」
うーんと、社長の意図が読めない。
「(いやいやいや、また炎上して大変なことになりますよ?)」
「(またって…いつ炎上したのよ?)」
「(え?)」
どこか話が噛み合っていない気がする。
「(今回の騒ぎで大炎上してるんじゃ…)」
「(え?そんなのしてないわよ?)」
遥輝は咄嗟にスマホを取り出した。
そして美晴について検索をかけると、そこには想定外のものが。
「(『やっとしらはるに春が来たか』『おめでとうございます』『幸せになって爆発してください』って…ナニコノ優しい世界)」
ネットでは思いの外祝福をしてくれているようで、炎上というものは全く見られない。
「(もういいかしら?あなたたちは外でも普段通りでいいのよ)」
「(い、いやそれじゃ__)」
「はい、話は終わり!二人とも遅いから送っていくわね」
「あ、ちょっと__!」
社長は勢いよく外に出て行った。
「はぁ…マジかぁ…」
「どうしたの?早く行こ?」
「…はい…」
もうおしまいだ…。
未来の自分が刺されていないことを祈る…。