13 絶望の未来
遥輝今まで見たことのない涙を流す姉を優しく抱きしめた。
「たまには甘えてくれていいんだぜ?頼り甲斐のある男を目指してるからサッ」
そうやっていつものようにふざけ、遥香励ます。
「ふふっ、面白いことを言うわね」
「いや面白いこと一つも言ってないんだが?つい身を任せたくなるような素晴らしいこと言っただろ!」
遥香はクスクスと笑いながら体重をこちらに預けてくる。
「そうね。今のは素晴らしかったわ」
「フッ⭐︎流石の姉さんでも俺の魅力には敵わなかったかっ」
「ええそうね」
「…そこは否定してこないのね」
なんか調子狂うな。ツッコミ役がいないと。
でもまあ、微妙な居心地の悪さもたまには良いものだ。
遥輝は今の空気を堪能しつつ、腕の中にいる遥香をギュッと抱きしめた。
そして顔を見られないうちに本音を全てぶち撒けた。
「姉さんが俺を愛してくれているのは伝わってるよ。いつも気にかけてくれてありがとう。そして散々迷惑かけてごめん」
「迷惑なんかじゃ__」
「ああ、わかってる。優しい姉さんは迷惑だなんて思ってないことぐらい」
遥香は上を向こうとするが、遥輝はそれを阻止するべく腕の力を強める。
「でもこのままじゃダメだな。俺、何も姉さんに返せてない」
「そんなの、いらないわよ。ただ、生きていてくれるだけで」
またそうやって優しい言葉をかけてくる。
その度に思う。
この人は本当に愛情深い人だと。
(流石に、そろそろ大人にならないとな)
今が丁度良いタイミングではないか。
変わるなら今だ。
いや、変われるのは今しかない。
「姉さん」
「なに?」
今すぐ立ち上がって走り出そう。
大きな姉の背中を追いかけて。
「俺も、愛してる」
「!?…」
一瞬腕の中で遥香がビクンと震えたのがわかった。
でも仕方ないだろう。
これが恐らく人生で初めて伝えた姉への気持ちなのだから。
「そう…それはよかったわ」
遥香は震え出した。
一体遥香がどんな顔をしていて、どんな感情でいるのかはわからない。
でも微かに熱い水気が胸に沁みてくるのを感じた。
それが一体何を示すのか遥輝は理解したが、遥香の為にも黙って顔を下に向けた。
尊敬する姉の愛を感じながら。
◇
「ん!?美味しいじゃない!!」
「ならよかったよっ」
心を入れ替えた遥輝は家事を手伝うことにし、早速料理で実践した。
すると思いの外うまくいき、普段料理をしている遥香から絶賛される。
「このお肉なんて焼き加減が絶妙だし肉汁がしっかり包み込まれててとてもジューシーだわ」
「饒舌っすねぇ」
遥香は美味しそうに肉を頬張りながらベラベラと賛辞を述べてくる。
それに少しむず痒さを感じつつも、心の中で軽く拳を握った。
「で、結局どうするのよ」
「何が?」
「美晴とのことよ。ネットで大騒ぎよ」
「あ、」
遥香にそう言われ、遥輝は焦りながらスマホを開いた。
そしてそこにはとんでもないものが映っていた。
「『しらはるに恋人か!?』『あの人気モデルの彼氏とは??』って…これマジ?」
「どう見てもマジね」
遥輝は目を思い切り開けたままスマホをスライドさせていく。
「…これ、もしかしてヤバい?」
「もしかしなくてもヤバいわね」
遥輝は心の中で焦りを感じながら美晴とのトーク画面を開いた。
「と、とりあえず美晴さんに連絡してみるか」
「それがいいわね」
遥輝はスマホに文字を入力していく。
『なんか大変なことになってますけどどうしますか?』
『そうだね…』
ものの数秒でそう返信が来て驚くが、今はそれどころではない。
遥輝は対処法を脳内で考えつつ美晴の返信を待つ。
(とりあえず事務所に相談か?てかそもそも恋愛OKなのか??いやマジでこれヤバいって)
少し諦めを交えたような考えをしていると、スマホから通知音が鳴った。
『まあ大丈夫だよ!なんとかなるよ!』
「いやならねぇだろぉぉぉぉ!!!」
少しはプロ意識というものを持ってもらいたい。
告白した側が言うセリフではないが。