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12 後悔と羞恥


「で、学校どころか世間にまで騒がれていると」


幸せな時間を過ごしつつ家に帰り、そのままベッドでゴロゴロ考え事をしていると突然遥香(はるか)が部屋に入って来て状況の説明を求められた。


遥輝(はるき)は包み隠さず真実を伝えると、美晴は頭を抱えながら顔を下に向けた。


「はぁ…せめて人がいないところでしなさいよ…」

「ん、俺が美晴(みはる)さんと付き合ったのは怒らないんだ」

「何で怒るのよ」

「だって…姉さんいっつも何かと怒ってくるかr__」

「お黙り」

「ぶふぇっ!?ほら!!それだよそれ!!」


事実を述べただけなのに、遥香からは渾身のチョップが飛んできた。


(やっぱ怒ってんじゃん…)


長年の経験から、ほぼ確実に遥香が怒っていることはわかった。


遥輝は怯えつつも許しを乞うために何となく頭を下げた。


「ご、ごめんなさい…」

「何に謝ってるのよ?」

「いやその…迷惑かけたから?」

「疑問形じゃない」


遥香は基本人に迷惑をかけた時に怒ってくるので何かしたのだろうとは思ったが、ぶっちゃけ何をやらかしたのかはわからない。


(…心当たりがあり過ぎてわからない。どれだ?どれに怒ってるんだ?)


などと言った悲しい現実があるため、安易に特定のことに対して言及できない。


遥輝は慎重に言葉を選びつつ遥香の怒りの原因を探る。


「えと…学校で破廉恥なことをしてから…?」

「ん…そんなことしてたの?」

「あ、いや嘘っす」


やばいやばいやばい…!


遥香の表情がどんどん恐ろしくなっていく…!


(てか、本当になんで!?別にいいじゃん!弟の新しい門出だぞ!祝えよ!!)


遥輝の脳内にはそんな文句が浮かぶが、そんなことを口にしては大変なことになってしまうため心にとどめておいて。


それからもずっと遥香の怒りの原因を探るが結局答えには辿り着けず、解説タイムが始まってしまった。


「遅いのよ」

「…なにが?」

「告白するのがよ」

「え?」


うーんと、理解ができない。


告白するのが遅い?


それってどういうこと?


そんな遥輝の疑問を解消するように、遥香が解説を続けた。


「ずっと前から美晴はあなたにアピールしてたのに、あなたは全く相手にしなかったわよね」

「あ…」

「美晴、前から私に相談してたの。あなたの好みとか、性格とか。あと、年下好きな理由とか」

「……」


ここでようやく気づく。


遥香は友達の恋心を無碍にしていた言動に怒っているのだと。


そして何より、美晴の気持ちに正直になれなかった哀れな弟に落胆していた。


(やっぱ、全部俺が悪いか…いやでも…)


遥香の顔からは、どこか後悔のようなものが見えた。


これといった証拠はないが、弟の勘がそう言っていた。


「後悔してるのか…?」

「…!?」


遥香が図星かのように驚いたのを見てその憶測が確信へと変わった。


「俺が年下好きになった理由が自分だからとか、そんなとこかな?」

「…」


遥香は口を閉じた。


そしてその沈黙が肯定であることを教えてくれる。


「はぁ…」


遥輝は大きなため息をつく。


そして今までの遥香の姿を思い出した。


(大雑把ですぐ怒ってきて、いつも泣かされて)


いつも最初に浮かんでくるのは嫌な景色だ。


でもこういった出来事を思い返すたびに見える景色がもう一つだけある。


(でもなんだかんだ優しくて、繊細で臆病で…)


それは、大好きな姉の本性。


遥香が怒るときは、いつも筋が通っている。


そして遥輝のことを守るため、外ではかなり気を張り詰めている。


怖い出来事や悲しい事があった日は、夜な夜な部屋で泣いていたり。


そんな強くて弱い姉のことを、心底愛している。


だからこそ、遥香の後悔する表情なんて見たくない。


いや、そんな顔をさせるわけにはいかない。


「言っとくけど、年上が嫌いなんて一言も言ったことないぞ?どちらかと言えば年下の方が好きってだけで、普通に年上でもいいぞ?」

「え…」


遥香は目を見開いて固まる。


「で、でもあなたその割には年下にすごく執着してたじゃない…」


遥香の疑問はもっともであるが、それに対する反論も用意済みだ。


「ん、まぁ…な。だって、年上は姉さんぐらいの人じゃないと…無理っていうか…」

「?」


遥輝はいつになく顔を赤く染めて恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。


「だから、姉さんぐらい優しくて真っ直ぐな人じゃないと嫌なんだってこと!2回も言わせんな恥ずかしい」

「!?」


そして遥香は再度固まる。


見たことのないほどの涙を流しながら。


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