11 結び
(…視線を感じる…)
あれからというものの、美晴は毎時間のように遥輝のクラスを覗きにくるようになった。
そして毎度期待の眼差しをこちらに向けてくるが、それに気づいてしまうと美晴がやって来て凄く厄介なことになってしまう。
なので遥輝は美晴の視線を完全に無視し、一日をやり過ごした。
そして放課後、特に用事のない遥輝は生徒会の用事のある姉を置いて帰宅しようと学校を出ようとした…その時だった。
「あ、きたきた」
「え、美晴さん?何してるんですか?」
校門の辺りから突如美晴が出現し、遥輝は目を見開きながら近づいて行く。
「もちろん遥輝くんを待ってたんだよっ」
「え〜っと、なんで?」
「え〜?ん〜…一緒に帰りたいから?」
「そうなんですか。なら丁重にお断りさせていただきますね」
遥輝は美晴を置いて帰ろうとするが、美晴に腕をガッチリと掴まれる。
「ね、ねぇ…もしかして、私のこと避けてる…?」
美晴は涙目になりながらそう問いかけてくる。
流石にそんな顔をされては心が痛むので咄嗟に美晴の言葉を否定した。
「い、いえ…そんなことはありませんよ…!ただその…」
遥輝は言葉に詰まる。
本音を言っても言わなくても大変な未来が見えているから。
「……?」
だが今回ばかりはだんまりも通用しない。
ではもう、彼女を悲しませない未来を取るしかない。
「美晴さんは…美人だし、人気モデルだし…俺なんかじゃ釣り合わないなって思って」
「そ、そんなことは__!!」
「はい、わかってますよ。そんなのどうでもいいぐらいに俺のことを好いていてくれていること。それは素直に嬉しいです」
遥輝は美晴の目を見つめながら自分の本心を伝える。
「でも、世間はそれを許してはくれないでしょう。自分の好きなモデルがどこの誰とも知らない男と付き合うなんて、下手したら自殺モノですよ」
「え、そんなに…?」
「ええ、世界にはそういう輩がいるんですよ」
遥輝は少し説教をするように美晴に話す。
「だから、これからは距離感を意識してください。適切で純粋な距離感を__」
「やだ…」
「え?」
美晴は朝のように、いやそれよりもすごい力で遥輝の腕を引き寄せた。
「やだ!そんなの!」
「えぇぇぇ!?」
美晴は拗ねた顔でこちらを見つめてくる。
「他の人が理由で遥輝くんと離れたくなんてない…君は私だけを見て…」
美晴は暗い表情で見上げてくる。
それを見て遥輝は直感的にしまったと思った。
この人はこんなにも想ってくれているのに、自分はどうして他人の目ばかりを気にしていたのだろうか。
(このままじゃ…美晴さんに失礼だな)
もう自分の気持ちを全て話すしかないか。
全て吐き出して、そして後は流れに任せよう。
勇気を振り絞り、遥輝は思い口を開く。
「はい。俺は、美晴さんだけを見ますね」
「!?そ、それって__!!」
もう自分に嘘をつくのはやめよう。
自分の気持ちに正直になろう。
(俺は__)
「美晴さんのことが、好きです」
「え…」
美晴は不意をつかれたように目を見開き、そのまま固まる。
だが遥輝は全く止まることなく口を動かす。
「多分、入院してる時から好きだったんでしょうね。でも、やっぱり周りの目を気にしてたら、正直にならなくて。でも、美晴さんは気にするなって言ってくれましたよね。だから、俺は自分の本心を全て伝えます」
そしてもう一度、力強く言葉を発す。
「好きです、美晴さん。俺と、お付き合いしてください」
そして美晴と少し距離をとって手を差し出した。
美晴はその手をじっと見つめ、そして目を見つめて来た。
美晴は涙が出そうになっているのを抑えつつ、その手を取った。
「はい!♡」
美晴はそのまま勢いよく遥輝に抱きつき、思い切り腕に力を入れた。
「嬉しい!ありがとう!」
「どういたしまして」
二人は全く周りの目も気にせず自分たちの世界に入り込んだ。
そして幸せを感じつつ二人は帰路に着いたのだった。