10 逃げの選択
「んじゃ、そろそろ行きますかね」
退院翌日、遥輝は久々の学校に向けて家を出る。
本来なら遥香も共に登校する予定であったが、急に生徒会の用事が入ったため先に行ってしまった。
なので今日は一人で登校することとなる。
何だか少しだけ寂しさを覚えるが、仕方がないので一人で道を歩く。
「懐かしいな〜この景色」
「そうだね」
遥輝は通学路を見回しながら感慨に浸る。
「そういえば、あの時この辺でおばあちゃんを助けたよな」
「そうなんだ」
「それで遅刻が確定して」
「ふむふむ」
「諦めてゆっくり行ってたんだよな」
「そんなんだ」
遥輝は独り言を発しながらダラダラと道を歩く。
そして気づけば事故にあった交差点についていた。
「で、ここで事故ったと」
「その節は本当にごめんなさい」
「いえいえ。て、え???」
「ん?」
なぜか隣から返球が来たのでそちらを見てみると、そこには人気モデルが立っていた。
「え〜と、美晴さん?」
「うん、美晴だよ」
「あの人気モデルの?」
「そう」
「ふ〜ん…いやなんでナチュラルに隣にいるんですか!?」
「退院したからかな」
全く気づかなかった。
一体いつからいたんだこの人は。
「いや理由になってないですけどね。てか何で退院した日を知ってるんですか」
そう、美晴は途中から病院には来なくなった。
そして学校でも様子がおかしくて遥香もほとんど話していないと聞く。
ならば、一体どうやって?
そんな当然の疑問が遥輝の頭に浮かぶ。
それに対し、美晴は至極当然かのように答える。
「私が遥輝くんのことを好きだからだよっ」
「……」
思考が停止する。
(ん?好き?誰が何を?)
「私が、遥輝くんのことを好きなんだよっ。もう、2回も言わせないでよ♡」
「……え!?」
脳天に雷が落ちる。
「いやいやいや、今日エイプリルフールじゃありませんよ!?」
「そんなことわかってるよ」
「じゃあ何でそんな嘘を…」
「嘘じゃないよ?」
美晴は勢いよく腕を組んでくる。
「私、君のことを好きになっちゃった♡」
「〜〜!!」
遥輝は恥ずかしさで声が出なくなる。
美晴の顔を見ると、彼女は少し頬を赤くして笑っていた。
その笑顔に、またドキドキさせられる。
「や、やめておきましょう!こんな男好きになっても何もないですから!!」
そうやって何とか美晴と距離を取ろうとすると、美晴は力強く腕に抱きついてきた。
「ううん、遥輝くんは世界一の男の子だよ?♡」
(やめてくれぇぇぇっ!!!!)
本当に理性がもたなくなりそうである。
だがそれ以前に、周りからの視線がヤバい。
それもそのはず。
人気モデルが男の腕に抱きついているのだから。
普通にスキャンダルものである。
「い、一旦落ち着いてください。とりあえずそのまま離れましょうか」
「ん〜?や〜だ♡」
「っ!?」
美晴は上目遣いで否定してくる。
これはホンマにアカン。
色んな意味でマズすぎる。
(もうこうなったら無理矢理にでも__!!)
遥輝は耐えられる自信がなくなり、とうとう強硬手段に出た。
腕に思い切り力を入れ、美晴の身体を引き剥が__
せない。
「逃げようとしても無駄だよ♡?愛の力で君の居場所がわかるから♡」
「え?」
「だ〜か〜ら〜、君の全ては私の中にあるってこと♡」
「!?」
美晴は目の中に♡を浮かべながら腕の力を強めてくる。
「一生離さないからね?♡」
その文字通り、美晴は絶対に離れるまいとギュッと腕にしがみついてくる。
そしてそんなことをされてしまうと、遥輝の腕に色々と当たってしまうわけで。
(あああまずいまずいまずああああ)
遥輝は何も考えられなくなり、今にもフラッと倒れてしまいそうな状況になるが、一瞬だけ理性を取り戻して思い切り全身に力を入れる。
「!?」
「はぁ、やっと離れれた…」
ここでようやく美晴から距離を取ることができ、遥輝はそのまま走って逃げて行く。
「あ、ちょっと!!遥輝くん!待って〜!!」
リミッターが解除された遥輝は誰よりも速く走り、いつもよりだいぶ早く学校に着くことができた。