表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/39

山の中で

 遡る事、まだ朝の5時にアダムとジルは翼園を出た。

 山の中を縦横無尽に走り、飛ぶ、もはや人間業では無い。

「アヌビス、どの辺まで行けば良い?」

「もっともっと先、人里なんて無い場所」

 オースはもうこの辺に人の気配なんて無く、あの時理美を見つけた場所の様な気配になって来たのを感じ言った。

「既に無いんだけど?」

「ううん、ここはまだ道路があるから人里からは離れてない」

「しかしよう、こんな場所からどうやって冬美也がやって来れたんだ? あの村の付近まで子供の足だって無理じゃね?」

 ジルが言う様に普通は不可能だ。

 だが、アダムは理美が熊に乗って冬美也を連れて来た辺りで大体の見当は付いていた。

「多分、熊の足の速さだ。仮にその辺に居たとすれば、なんら不思議でもない」

 ツキノワグマの足の速さは約40㎞だ。

 しかもあの理美と仲の良い熊の図体は通常よりも大きい為、もしかしたらもっと速い可能性がある。

「成る程、熊ならイケるな」

 そう言っている矢先に何かの気配を感じ取って、アヌビスとオースは足を止めた。

「どうした、オース?」

 アダムの問いに苦々しくオースは答えた。

「歳取ると本当に鈍くなるの何とかならね? こっちも影響受けるんですけど?」

 どうやら年老いるとアースにも影響を与えてしまうようで、こうなると下手な行動による機転もままならい。

 それでも長年の経験でなんとかなっているとも言える。

 オースの話を聞いたジルは思った。

『影響あったんだ』

 アヌビスも思った。

『多分、ジルは気付いていない、歳取ったらこっちもつられてしまう事を』

 決して口にせず、お互い思っていても言ってしまうと無駄な喧嘩して時間を潰すのは目に見えるので、黙ったままだ。

 目の前に居たのはなんと絆だった。

「申し訳ないですが、私も同行してもよろしいですか?」

「おや? 良いのですか? 晴菜さんの所に居なくて?」

「大丈夫です。食事の手伝いは絶対にしないよう、念を押し、いえシンの方で分からせてから来ました」

 よく分からないがとても怖い言葉だと感じジルは戸惑う。

『えっ? シンって何?』

『シンって、ディダによくやっているヤツか』

 ただし、アダムは理解してアレしたのかと少し引いていた。

「体の芯に訴えかけただけですのでお気になさらず」

「分かっている、それでどうして同行を?」

「冬美也君が来る前から、騒がしくなっていて、“皆”困っていたのです。一応冬美也君も見てましたが何となくそれっぽいものを感じてはいたので、私と同行すれば見えないあなた達のツレよりかは随分楽になるかと」

 絆にはアースが見えてはいないが、理解して言っている分、ついジルが反応する。

「おぉ言うねぇ」

 アダムはすぐに間に入ってジルに言おうとした。

「絶対喧嘩するなよ! この方は――!」

 でもジルも分かっていて反応しただけで、寧ろ絆が出てくると言うことが如何にこの状況が大きいかが分かり、声を荒げたくなるほどだ。

「分かってます、分かっています! と言うか出てくる方がもっと問題が大きんじゃ……‼︎」

 当の絆はとても冷静だった。

「見てからにしても良いですか? こっちも“代表”として動いてるので」

 そう言ってから、動き出し、その後から2人は付いて行った。


 更に山深くなった辺りで、ある場所まで着いた。

 軍事用ヘリが墜落し、ほぼ燃えカスだ。

 かろうじて骨組みだけとなり、寧ろ山火事にだけならなかったのは奇跡そのもの。

 ヘリの羽根部分を見たアダムは絶句した。

「……なんて言う事だ⁉︎ そんなあり得ない‼︎」

 燃えて真っ黒となった人の形があり、その形の頭部だけ薔薇のタトゥーが薄ら残っているだけで誰だか分かってしまったのだ。

 ジルは死体に慣れているのだろう、マジマジとどうなっているか確認しつつ、普通に聞いてしまう。

「俺会った事無いけど、コレが真実?」

 アダムは頭の整理が追いついていなく、何も話せないでいるので、代わりに自身のアースであるアヌビスが代わりに答えた。

「うん、間違いない番人の真実だよ。でもこうなっても普通復活するんだよね?」

「何それ怖い⁉︎」

 ジルが驚くので、アヌビスはすぐにアース達の間で話されている内容だと言うも、何と無く何か違和感を感じ取っていた。

「アース間での話だからね? でも、まるで肉体を捨てた様にも見える」

「分かるー。まるで脱皮の感じだよなコレ?」

 オースもまた同様の意見だ。

 それを見てジルも冷静になり、とりあえずそのままにしておくのも失礼な気もするので、まずは安置出来る場所を絆に聞いた。

「……まぁ仕方がない、絆さん? 俺、この真実運ぶんで何か安置出来る場所ありません?」

「そうですねぇ、仕方がないのでこちらにある廃屋の一つに安置して貰いましょう。そこなら誰も近づかないですので」

 絆の提示した場所にジルが妙な事を言った。

「やだ、日本の誰も近づかない廃屋って誰か来ちゃうヤツじゃん」

 そう肝試しで皆の迷惑を掛けるタイプがわざわざ来てしまう様な場所は実際幾らでもある。

 下手すれば見つけられて騒ぎになる可能性も考えての言葉だったが、絆はこう返した。

「その前に遭難してバカ見て皆に怒られる様な話ですので寧ろ健全レベルです。それともこれから行ったら帰れない所に案内しますか?」

「ジャパニーズ怖いよ」

 絆は真実の焼けた遺体に近付き言った。

「ですが、お二人だけで運べますか? こんな大男焼けても重いと思いますよ? 私が運んでも良いですが粉砕しそうで……」

 そう、絆は身長として165よりは高いが断然真実の方が大きい。

 触るに触れないようで、下手すれば粉砕と言ってしまう程力があるみたいだ。

 今まで思考停止していたアダムが我に戻って言った。

「なら、ディダを呼ぼう」

「あぁ……大丈夫です?」

「運んでもらうためなら平気です。真っ直ぐ来てくれればですが」

 思う節があり過ぎて、絆はなんとなく不安な口調だ。

 ジルはそれを知らずに聞くと、アダムは分かっていた。

「来ない時あんの?」

「やめろ、大体アイツは巻き込まれタイプだ」


 翼園にて――。

 電話が鳴り、たまたま仕事中のディダが受話器を取った。

「はい、もしもし?」

 電話相手はアダムでなくジルだ。

「あーもしもしディダ? ちょっとこっちに来てくれる?」

「来てってどうやって」

「GPSって無理だな、お前表示出来ないし」

「うーん、何か目星とか無いの? 匂いとかでも良いし音とかでも行けるって言えば行ける――」

 その時、丁度運悪くワクチン接種直前の理美の断末魔が聞こえて来た。

「いやぁぁぁっぁっぁぁぁ‼︎ 痛い怖い‼︎」

 ジルの方が煩さに負け、スマホを投げ出してしまう。

「びっくりしたぁ!」

 拾い直して、流石に音量を下げた。

 別部屋なのに十分断末魔が耳を襲いかかり、ディダは耳に頼る事は不可能だと答えた。

「ごめん、音は無し、2度目喰らったからもう無理」

 向こうではマルスとアリスが対応していた。

「まだ打ってないでしょ!」

「一瞬で終わるから、暴れない!」

 声からして押さえつけられているようで、回りは容赦していない。

「嫌だぁぁぁぁ‼︎」

「はい、打ちますねぇ」

 医者である安藤もこう言う患者良くいるのだろう、かなり慣れていた。

「あぁぁっぁぁぁぁぁ‼︎」

 その悲鳴は電話越しでも聞こえつつ、ジルは言う。

「おっかな……!」

「ジルもちゃんと打ってるよね? 打ってないと病気移るし移されたら一番困るの本人なんだからね」

「わ、分かってます。で、さっきの話なんだけど、絆さんも同行してるから多分追跡可能にしてるって言ってくれてるから来てくれ、来ないと面倒な事が起きる」

「言われなくても行くよ。マルスに伝えてから行くから」

「お願いします」

 電話はそこで切れた。

 ディダは深いため息を吐き、廊下を出たら泣きながら歩く理美を慰めながらいるマルスがいたので話し掛ける。

「マルス、悪いけどアダム神父にお願いされたから行ってくる」

「はい、分かりました」

 泣きながら理美はどこに行くのか聞く。

「どこか行くの?」

「何だろね? 頼み事らしいから多分運ぶ物でもあるんじゃない? 知らないけど?」

 流石にその内容ではマルスですら突っ込んだ。

「知らないのか」

「知らないで行くの?」

 ディダは既にこの状況は慣れきっていたのか笑っていた。

「うん、行くしかないの、んじゃ早ければ夕方前には戻れるでしょ。それまでよろしく」

 そう言って、ディダは翼園を出た。

 少しして山の中を歩いたかと思えば、誰も居ないと分かった途端走り出す。

「僕も歳とったからどうも動きが鈍るなぁ、絆さんなら触りたくないモノがあると良く呼ぶから、僕が見つかられるようにちゃんと……あったあった光小石だ。この辺からあるからすぐ行けそう、行けるかな……?」

 自身が巻き込まれやすい体質なのを自覚している為、若干不安になってきた。

 なんだかんだ、大分進み、もう少しの所で何かに気が付いた。

「んー、んっ? 無いな? おっかしいなぁ、確かにこの辺までは普通にあったし、カラスとか鳥が取るなんて、見える系じゃないと拾わないしと言うか動物系はコレ拾う子いないって本人言ってたし?」

 光小石が無くなったのだ。

 均等に置いてあったのに急にそこから消えた。

 ずっと悩むももう微かに感じる匂いを頼りに向かえば良いかと歩き出した時、何処からか子供達の悲鳴と大人の怒鳴り声が聞こえて来た。

「きゃぁぁぁ‼︎」

「いやだ! 誰か‼︎」

「うるせぇ‼︎ テメェらのせいでこっちは回収する羽目になったんだぞ‼︎ 大人しく来やがれ‼︎」

 そう言いながら、持っていたライフルを使って殴ろうとした。

「あー、流石にそれは虐待だよ」

 いつの間にかその男の後ろにディダがおり、そのライフルを掴む。

 良く見れば、防護服を着ていた。

「あ゙っ? 誰だ⁉︎ この辺に外人が居るって聞いてねぇぞ‼︎」

 防護服の男がライフルを振るうも一切動かない。

「ちょっとどうして殴ろうとしたのか聞きたいなぁ?」

 ディダは冷静に怒りながらライフルを曲げた。

 丸い黒いサングラスから覗く目は人間の目では無い。

 ここで漸く防護服の男がディダとの力の差に気付き、先程の怒り狂ったような態度が一瞬にして消え、逃げ出す。

 子供達は怯え、何されるか分からずただただ震えていた。

 ディダはそんな子供達に言った。

「ちょっとここで動かず待っててね」


 先程の防護服の男がある場所まで走っていた。

 そのある場所は簡易的に出来たキャンプ基地だ。

「た、助けてくれ! ば、化け物が!」

 見張りで立っていた同じ防護服がその話を聞く。

「はぁ? ガキに反撃喰らったのか? コレ着てればあっちは攻撃出来ないんだぞ?」

 必死にあの時の話をしようとするも冷静さを欠いた者の言葉は中々通じない。

「違う! 人間じゃない、ば、化け物が‼︎」

 こうなると見張りも面倒になり、とりあえず休憩中の仲間に見回りを頼もうとした。

「ちっ、上がもみ消ししてる最中だから人員割けれないって言われてるし、おい、一回チーム組んでって⁉︎」

 気が付けば声すら出さずに全員気を失い、倒れ込んでいた。

「ば、化け物がここに⁉︎」

 怯える防護服の男に怒鳴った。

「お前がここに真っ直ぐ来たからその化け物が来たんじゃないか⁉︎」

 見張りが肩に掛けていたライフルを構えた時、木の上からディダが出てきて言った。

「正解、んじゃちょっと寝ててねお説教はまた別の人に頼むから」

 この瞬間からディダ以外誰も動かなくなり、コレでもかと縄で縛り上げ、下手に動かない様にした。

「ふぅ……こんなものか、で、君らは何だい?」

 ずっと後ろに隠れていた子供達が現れ、何も言わないが味方と理解してくれたのかくっついて離れなくなってしまった。


「――で遅くなったと」

 頭を抱えて何も言えない絆に全て事情を話し素直にディダは返事をした

「です」

 ディダ以外にまだ気を許していないのか、子供達がディダから離れない。

 ジルは子供達を連れて帰るにしても、多過ぎてすぐに騒ぎになりそうと理解出来る為、普通なら連れて帰るには難しい。

 もうディダに判断させるしかないのでこの言葉しか出なかった。

「どうすんの?」

「全員人種が違うから国も違うだろう。仕方がない斎藤には申し訳ないが連絡しよう」

 アダムもこの子供達の格好が冬美也と同じなのが良く理解出来た。

 そして同時に斎藤に申し訳ないとばかり連絡をしようとした時、絆がある提案をした。

「なら、好きではないですが、直接坂本に頼んでみては如何でしょう? どうせ、斎藤も手に余る可能性が大ですので」

「確かに……でもどうしよう?」

「ディダに懐いてるなら、ディダの言う事聞くと思いますよ?」

「じゃぁ、そっちのお姉さんと居てもらっていい?」

 すると大人しく皆、絆に近付くも威嚇され怯えてしまう。

 アダムはすぐにディダに言った。

「おい、誰が案内するんだ誰が?」

 確かに誰が安置場所まで案内出来るかと言う話だ。

 ディダも分かって絆にしたのもある。

「えぇぇ。でもジルはあんなんだし、アダム神父に頼むも歳だし」

 絆だってディダの言い分位汲んでいたが、ずっとムスッとしたまま無言だ。

 アダムが間に入って、子供達の面倒はジルに任せる事にした。

「気持ちは分かるが、ジルしか居ないだろう? 場所案内は絆、運ぶのはディダと私だ」

 最初イライラを募らせていた絆だったが、納得したのか、その辺に落ちている適当な枝を見つけてジルと子供達を囲うように円を描く。

「勿論、その後すぐ戻りますし、何か出て来ても困るのでこの輪から出ない様に、簡単な結界です」

 留守番が確定してしまい、ジルはアダムが適切ではと言った。

「あっ、本当に俺が留守番? 力的な意味でアダムが留守番じゃね?」

 当のアダムは留守番がジルで良かったと内心思いつつ、動くなと釘を刺す。

「適当に動かされて困るからな、戻って来る際にいないとかないように」

「アダム神父が場所知らないとなんか困るんじゃない?」

 ディダは早々に運ぶよう言われた遺体を見て静かに驚いた。

 その姿に絆が気付く。

「なんだ? 知り合いなのか?」

「んーちょっとね、色々と……本当に色々と」

 分かってから、真実の遺体に祈りを捧げた後、ヘリの羽根から取り出し、持ち上げた。

 崩れるのではと内心恐ろしく思っていたが、意外と運べると分かってホッとする。

「では行くか、絶対動くなよ」

「出なければ肉食動物とか人間にも気付かれませんので」

 絆が言った後に、ディダは運ぶ準備も整ったので、お願いすると同時に子供達にも言った。

「んじゃ案内お願いします。皆、怖いお兄さんに見えるけど、良い人だから離れちゃダメだよ」

 その言葉に子供達全員頷いた。

 アダムは行く直前に再度連絡を入れるようジルに言った。

「ジル、その間に連絡入れといてくれよ。坂本に」

「今loinで連絡したし、序でに電話もしておくよ」

 諦めてスマホを取り出し見せながら、アダム達を見送った。


 村からは遠いものの、発見した場所よりも大分離れている。

 その中の一つ、物置として使われていたのだろう。

 簡素に作られた建物があった。

 扉は引き戸で建て付けも大分悪くなって開きも悪い。

 それでも何度か繰り返すうちに開いた。

 誇りと言うべきか砂が舞う。

 本当にもう使われていないのが分かるような錆びついた農機器具や動物対策用の古びた武器や罠が無造作に置かれている。

「よく、こんな場所があったなぁ? 絆さん」

 絆はアダムの問いに答えた。

「ここは晴菜様もとい、嘉村家所有の管理地区で、現在は別の場所に物置があるので管理している人もここまで来ません」

 どうやらここは嘉村家所有の土地で管理用の物置だったが、動かすのが面倒だったのかそのままになったようだ。

 まだ中に入れていないディダが言う。

「あの? 真実のご遺体何処置けばいい?」

 最初どうしようかと悩む絆だったが、そういえばと壁際に放置されている箱の中から何かを取り出した。

「アダム神父、ここにある古びてはいますがまだ使えるビニールシートがあるのでこちらを使って下さい」

「助かるありがとう」

 アダムは礼を言ってから、すぐにビニールシートを敷き、ディダがその上に遺体を置いた。

 その後に再度ビニールシートを敷いて、見えないように何枚か更に敷く。

 ここまでやってから、ディダが改めて絆に問う。

「……で、僕らに協力姿勢で色々してくれるのか、ちょっと気になるけど? あそこに住む方からお願いされただけじゃ動かないでしょ、絆さん。他にあるんじゃないの?」

 ディダの言葉に苦虫を噛む顔になり、嫌々ながら絆は答えた。

「本当に嫌な奴だな貴様は、実は晴菜様がその理美様に関して興味があるようで」

「そういえば、そうだね。他の子とはちょっと付き合いがおかしいと言うか、食い気味だよね?」

 ディダも長年の付き合いで違いを感じていた。

 何となく話に入れないアダムはここで話すべきではないと思い、ジル達の元へ戻りながら聞く事にした。

「ここで話すのも何だし、戻りながらで良いか?」

「えぇ、その前にちょっと結界貼っておきますね。変なの来られても困りますし」

 絆は外に出てすぐに簡単だが、先程とは違う円陣を描く。

 下手に見つけられても困るのもあれば、食事にありつけなかった動物が遺体の臭いに引き付けられてはたまったものでもない。

 ディダの口振りからしてそれだけでもないようだ。

「動物もだけど変なのたまに来るからねぇ」

「貴様も変な分類だがな」

 絆の悪態には慣れてしまっている為、ディダはそれに対して軽く流す。

「はいはい」

 そうして、走りながらジル達の元へ戻っている最中に絆が事情を改めて話してくれた。

「実は、晴菜様は理美様をご家族に招き入れたいと思っているようで、少しでも懐かれるように少しでも何が苦手か何が好きかを見る為に色々試行錯誤してるらしく、多分そろそろ養子縁組の話をしようと考えてるらしく、ですが、あなた方は一体何を隠してますか? 調べるより連れてきた人間に聞くべきと判断したまでです」

「あぁ……」

「分かった、話そう、ただ晴菜さんには内密に」

「それくらい大丈夫です」

 アダムは全て絆に理美の身の上を話した。

「――成る程、これは一筋縄とは行きませんね」

 忘れ去られ20年以上時が経った話等を聞き、納得した上で今家族が欲しいと感じていないと絆は理解を示す。

 ディダは合流前にあった騒動を思い出して、2人に話した。

「と言うか、こっち来る前にちょっと騒動あって、記憶が無くても冬美也君がお父さんとして総一さんを認識してくれて良かったと思ったんだけど、どうやらそれに対して嫌な顔になったんだよね、理美ちゃん」

「騒動?」

「もうすぐ総一さんの期間終わるでしょ? それでね、安藤さんが代わりにワクチン接種しに来てくれたんだけど、その時、ドジっ子発動して医療器具ぶちまけて」

 絆も安藤のドジぶりに悩まされていた。

「またですか? 腕良いのに何でこうなんです? 手術はドジらない癖に」

「あまり動かないからじゃないのか?」

 確かにアダムの言う通り動かないし、冷静な判断を求められる手術は下手な事が出来ないので、集中力が一段と増すのだろう。

 だが今はその話をしていない。

「話それたけど、その時に注射器を持った安藤さんが恐ろしい物として認識してパニック、あれはもうトラウマだと安藤さんも僕も思ったよ」

 アダムはこんな事になっているなんてと驚いていた。

「まさか、我々が居ない間に凄い事になっていたんじゃないか」

「その後、冬美也君が逃げ出して、探している時に総一さんが来て、説明中に上から降ってきた理美ちゃんと共に」

 2人が話を聞いて思ったのはこれだった。

「……もう、こっちのポケットマネー出すから直せリフォームしろ」

「いっそ、友吉様に話通しましょうか?」

 もう隠し通路等を潰さない限り、また同じ事を何度も繰り返しそうで怖く感じての事だった。

「マジで、出してくれるの?」

「話を戻してくれディダ」

「冗談だったの?」

 ショックがデカかったようで、落ち込むディダに絆はイラっとするもきちんと話す気でいた。

「違いますよ、この後話しますよ」

 アダムは話を戻す。

「で、その時に理美は嫌な顔をしていたのか?」

「そうそう、まぁあの後アリスがワクチン接種の事ばらしたもんだから断末魔放たれて……」

 あの時丁度、その様子を見ていたアダムと絆はそれであの断末魔かと納得もした。

「ジルも断末魔に驚いてたぞ、音量設定出来る時代で本当に良かったが、採血も大分大変だったようだし」

「でも、やっぱり時代が変わって針も大分細くなりましたが、結局全て打つ側の腕前によりますからね」

 実際、見ていたアダムと絆も聞こえており相当な怯えっぷりには多少同情した。

「その後呼ばれたから何ともだけど、いきなり欲しいと言われてもなぁ」

「漸く、戸籍が出来たばかりで、翼園に入ってまだだから、半年位待てんか?」

 せめて理美が園の子達と仲良くなれるまで、学校も夏休み明けには通い始め、学校に馴染むのを考えると半年は欲しい。

 ただ、ディダと絆は半年も居るのかとショックと心配が大きかった。

「半年も居るの⁉︎」

「アダム神父、ちゃんと労働手続きで来てるんですよね?」

 本来、集会も園の様子も序でであり、もっと別の仕事の為に来た時、本当に偶然理美を拾ったのが真意で、拾ったからこその責任がある。

「なんだ! 本来なら学院の建設等の話や最終手続きとか色々あって来たんだ! 丁度、あそこで集会もあるからと言われて行った時に迷惑撮影班を追っ払った時に熊に会って、理美に会ったんだぞ! 放って置けるか!」

 絆はアダムを宥めつつ、同意もした。

「まぁまぁ、気持ちは分かりましたし、何より心配なのは分かります。ただ理美様は心を開いてまだ間もない、家族だけでも相当ストレスですから、慣れさせるのも含めるとかなりの年月が必要ですね」

 しかしディダは意外にも反対だ。

「でも僕は反対だなぁ」

「おや? お前が反対派だと?」

「あの子は多分今必要なのは、我慢する癖を取ってあげる事とどの辺で我儘のセーブ掛けてあげるかだから家族はもっともっと先だし、下手すると大人になるまでに治るかどうか。それに他の子達が運よく家族が出来ても最低1年の付き合いはさせてもらってから申請して頂いてるから特別視しない」

 ディダなりの意見を聞いた上で絆もそれこそ必要なのは心を許せる家族ではと言い返す。

「なら尚更、家族と言うモノが必要では? 児童養護施設の中では斡旋もかなり充実してるからって驕るなよ」

「別に驕ってないよ、今必要なのは家族よりも心を休められる時間だ」

 アダムは2人とも段々険悪化し始めて来たので、間に入りつつ、宥めた。

「お前らなりに心配してくれるのは嬉しいが、ディダの言う通り早すぎるが、絆さんの言う通りやはり家族が必要だ」

 そうこうしているとジルの所へと着いた。

「……俺、アイツら来るまでここ居ることになりました。ご飯だけ置いてくれませんか?」

 絶望しきった目でジルにアダムは聞いた。

「アイツらって、坂本と斎藤か?」

「おう、別国の子供の保護騒動で斎藤も近くに居たらしくって、それ聞いたから車を出して保護してくれるらしくって、でもって序でにすぐ来てくれるらしいが、ここからだと半日掛かるから暗くなる絶対、後、“しばき隊”も来てくれるからディダが締め上げた連中連行予定だけど、早くは着かないしな、あっちも」

 お陰で子供達は坂本と斎藤が保護という形で話が纏まって、翼園での保護は無くなったがそれまでここに居るよう言われたようだ。

 絆も呆れつつも、残る判断をしてくれた。

「仕方がないですね、私も残りますので、あなた方は一度戻ってもらって良いですか?」

 自分が助けた身なのでディダも責任持って食事を運ぶと言ってくれたと同時に先の話が本当なら今日辺りに相談入りそうと思って口にした。

「後で食事を持ってくるよ、それに今日辺り晴菜さんが話しそうだし」

「早めに来いよ。お前は」

「分かってますよ」

 結局、ジルと絆が子供達と共に残り、一度ディダとアダムは帰る事となった。


 一度食事提供でディダがやって来た頃にはもう夜で、丁度その頃にジルのスマホに坂本から連絡で道路が載ったGPS画像が送られ、1時間ほど歩いた所にマイクロバスが止まっていた。

 扉が開いてすぐに坂本が降りて来て、肩に白い蛇のアースを出し、お互いのアースを見せあい、偽物ではない事を確認し話だした。

「あんたら、大丈夫だった? さっきさぁ明らかに怪しい連中が道路整備してくれちゃってさぁ、それで確認するって言った時ドンぱち始まったわ」

 ジルがその話を聞くも、マイクロバスは無傷だ。

「何それ、怖い、やっちゃった?」

 無論坂本はやったらしい。

「やったわよ。他にも管理者や同僚達連れてたからこっちが有利に決まってるし、何より邪魔だもん、仕方がないから最古参に後処理任せる電話したからすぐ動くよ。序でにこの子達だね。半分は捜索依頼のある行方不明の子供達で他は売られたかなんかだろうね」

 マイクロバスには他に数名乗車していたのが見える。

 同時に狼のような狐やら小さな白いリス等のアースが覗いていた。

 ジルはアース達に手を振ると同時にアース達も振り返す。

 その様子をずっと見ていたディダが、子供達に伝えた。

「怯えなくて良いよ。このお姉さん達が安全な場所まで連れて行ってくれるし、しばらく匿ってくれるから」

 最初怯えるも、1人ずつマイクロバスに乗り込み、全員乗り込んだのを確認後、坂本が絆に言った。

「ごめんねぇ、ありがとう。この件はこっちで預かるから今日はこの子達を保護するだけですぐ戻るけど、この後は本格的に入る事を許してね」

「早々に対処お願いします」

 この後、扉が閉まり、マイクロバスは走り出す。

 今日一日、本当に疲れた日だったが、これからもっと気を引き締めなければいけないと感じ取った日となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ