夢と少年
夜の8時、食事も早々に終わらせ、晴菜が改めて理美へのプレゼントを渡す。
「これ、開けてくれるかな?」
「えっ? 良いの?」
「うん、一度試して欲しいんだ。一応絆ちゃんや総一君が足見てくれたから大丈夫と思うけど」
どう言う事だとそのプレゼントを開けると、なんと新品の靴が入っていた。
初日から動き回ると分かっての事でスニーカーだ。
履いてみると、丁度良い具合だ。
「丁度良いよ、ありがとう!」
あの時とは本当に嘘のように笑顔で外を走り回る。
他の子達とあまり違わない子供だ。
なんだかホッとする光景に、小さな子供2人が理美に近づいた。
あの時ぬいぐるみを壊した子達だ。
「ぬいぐるみ、壊してごめんなさい」
「ごめんなさい」
最初、皆息を呑むも、理美も直った事でもう怒ったり悲しんだりしてなかった。
「今度からはちゃんと断ってね。後乱暴にしないでね」
「本当にごめんなさい」
「ごめんなさい!」
そう言って、小さな子供達は走り去って行った。
反省したかは別だがちゃんとあやまってくれた、それだけで良いと感じた。
丁度、総一も到着し、理美が総一に気付いて走って来た。
「総一さん! こんばんわ」
「理美ちゃん、こんばんは、靴貰ったんだね」
「うん、後、ぬいぐるみ直してくれてありがとう!」
今の今まで暗く、誰にも近づこうとしない野良猫の様な雰囲気があった理美が家猫みたいに懐いて来てちょっと嬉しい気持ちになったのは内緒だ。
「どういたしまして、医者として当然の事をしたまでだよ」
総一が答えていると、ディダがやって来た。
「どうも、ありがとうございます。遅くにわざわざ」
「いえいえ、寧ろ招待ありがとうございます」
「そだ、理美ちゃん、短冊書けてないけど、書かない? 総一さんも?」
「願い事が、ない!」
理美にしてはなんか色々叶ってしまって本当に無い。
逆にこっちが困ってしまう。
「いやいやいやいや、せめて考えてもっと我儘な事書いて、習い事してみたいとかあったら言って、習い事は難しいと思うけど、ご近所さん結構無償で教えてくれるから」
まだまだ我儘の練習が必要の様だ。
マルスもやって来て、総一に短冊を渡す。
「ははは、自分達も書いたんで良かったら、どうぞ」
「良いんですか? と言っても自分もどう書けば……」
「なんでも良いんですよ、願い事、せめてで良いんです。自分もディダ神父がとりあえず長生きしてくれれば良いんで」
「あの人、見た目に反して行動がちょっとねぇ」
「そうなんですよ、お爺さんなんですよ」
「ちょっと、アダム神父よりは若いよ」
ディダのツッコミ以上にアダムの威圧的発言が飛ぶ。
「おい、聞こえてるぞ!」
この後、ディダが怒られたのは言うまでもなく喧嘩みたいになっていた。
理美は渋々書こうと思っても書けず、ふと隣にいた総一の短冊を見た時だ。
「総一さん、ふゆみやが見つかります様にって誰?」
「これで冬美也って読むんだ。理美ちゃんが七夕の日に産まれた様に、冬美也はクリスマスイブに産まれてね。綺麗な冬景色で産まれたから冬美也って名前にしたんだ」
理由を聞き、理美は素直に今の印象を伝えた。
「綺麗な名前だね」
総一は嬉しそうにするもすぐに暗くなってしまった。
「うん、ある時冬美也が行方不明になってもう一年、せめて願いだけでもと思って書いたんだ。ごめんね、重い話をして」
話を聞いて理美も書き出す。
「はい、私も一緒にしたよ」
「一緒? 理美ちゃんのお願い事あるんじゃないの?」
「昔はあったけど、さっきも言ったけど今は無いよ。だからせめて一緒の願いにすれば叶うかなって」
理美には父に会いたいと言う昔から書いていたお願い事があったが、忘れ去られてしまった上、20年以上の月日が流れた今、きっと父も自分を覚えていないだろうと諦めていたが、せめて総一の願いが叶えばと思い、一緒にした。
総一は申し訳なく言うも、理美はあまり気に求めていなかった。
「ありがとう、ごめんねなんか」
「ううん、一緒に短冊付けよう総一さん」
「分かったよ。高い方に付けようか」
「うん!」
竹の高い方へ付けていると、天の川が見え、そこから何処かの流星群だろうか、沢山の流れ星が降り注ぐ。
理美はその流星群に驚き喜んだ。
「凄い凄い!」
「本当に凄い、理美ちゃんは知ってるかい?」
「何?」
「流れ星が流れ尽きる前に3回願い事を言うと叶うって」
「やってみる!」
理美が願い事を言うというより念じていた。
総一はつい笑って自分もあえて言わずに一緒に念じる事にし、皆終わるまで流星群にお願いした。
こうして夜は更け、子供達は就寝時間となり、興奮した分ほぼ全員例外なく眠りにつく。
理美もあれだけ寝たのに意外にもそのまま眠った。
夢の中、誰かが暗闇を必死に走り続ける、薄汚れた銀髪が息を切らしながら声を出すのも難しい程だ。
「……! だ……!」
声を聞こうとするも、そこで目を覚ましてしまい、意味が分からなかったがまた深い眠りに入って、忘れてしまうもその日を境に毎日見る様になった。
日本の国境から少し離れた位置に、地図にも載らず、まして衛星のカメラにすら映る事すら無い、寂れた小さな島があった。
そんな島に異様な程の重装備の兵士が何人もおり、森にも感知センサーに無人機も幾つも動き回る。
夜空にも無数に飛び交うドローン、森の奥へ進めば、軍事ヘリに戦闘機も何台も並んでいた。
軍事施設が存在するもどの国の軍かも分からないマークも無い不気味な施設だ。
だがそこから離れた位置に妙な小さな小屋がある。
中は埃臭く、色んな肥料やら腐葉土が袋に入って有る。
それをどかせば鉄板で作られた下階段があり、そこから降りると近代のエレベーターが存在した。
エレベーターから乗り何処までも降りて行く。
一体いつまで降り続けるのかと不安になる中で、到着すれば、巨大な研究施設が現れた。
かなり厳重な管理の元扱われている液体が無数に機械で操作され、全ての職員は全身防護服を着込んでの作業が殆どだ。
重い扉が何十も存在し、その過ぎた場所には何人も何十人も子供達が劣悪な場所に置かれており、殆どは精神が崩壊し動かない。
連れて行かれた多少精神が残った子供が暴れるも、その例の液体が入った注射器で射たれ、正気を失い、最終的にはバケモノの様な姿になり、防護服を着た兵士達がバケモノとなった子供を殺す姿を分厚い強化ガラスの5枚先で見ていた1人の防護服を着込まない白衣を羽織った白髪の男が言う。
「やはり、あのNo.1159に適したモノをおらんな。他のナンバーを利用し武器として生成する実験に移行、No.1159適合者のみ実験続行だ」
その話をしている最中に、バケモノの前に2メートル近いスキンヘッドに薔薇のタトゥーが掘られた黒のコートを羽織った男が立っていた。
スキンヘッドの男がバケモノとなった子供に触れ呟く。
「苦しかっただろう安らかに眠りなさい」
そう言って、拳一つでバケモノの頭を粉砕したのだ。
白髪の男が非常ボタンを押して、マイクを使って全放送する。
「全員配置に付け侵入者だ! この際、中途半端な他の連中なんてどうでもいい、完全適合した実験体のみ運び出せ!」
防護服の兵士達が銃器を使ってスキンヘッドの男を囲うも、スキンヘッドは気にせずに床を拳一つで壊してしまった。
あまりの光景に白髪の男の顔が歪む。
「……!」
しかし、若干笑みも覗かせた。
スキンヘッドの男は下に着地し、広い場所は先程の瓦礫となった上の床で散乱してしまうが、男は気にせず床に触れると、何人かの子供達を無理矢理銃器や武器で嬲って黙らせ、連れて行こうとするが見え、足で床を蹴った直後、お構いなしに壁をぶち破って直接そこへと辿り着く。
殴られ連れて行かれそうになった黒髪の少年や傷付いて泣き出している浅黒い肌の少女、他にも沢山の子供達が怯えていた。
防護服の兵士達がすぐにスキンヘッドの男に銃器を向け、乱射したが、当たっても弾が跳ね返るだけでびくともしない。
「ああぁぁぁ‼︎ なんだ、バケ――⁉︎」
スキンヘッドの男の拳が顔面に入るもかなり手加減してくれたのだが、ぶっ飛んだ。
他の防護服の兵士達もびびって逃げ出す。
「ひぃぃ‼︎」
「バケモノだ‼︎」
ただの雇われ兵のようで、そこまで強いと言う感じでは無く、階級がここに存在すれば使い捨て程度の1番下よりも下だろう。
黒髪の少年がよく分からず手をかざしてきた。
その直後、頭の近くで爆発したのだ。
「やめないか、普通の人間だったら死んでるぞ。ここに誰かが助けを求めて続けていたのではないか? ずっと助けてと言った内容を電波か何かで辺り構わずに」
あまりの大きさに体が震え動けないでいる黒髪の少年の代わりに肌が浅黒い少女は答えた。
「それは分からないでも、助けてほしいあなたは?」
「自分は真実そう呼ばれている。成る程、分からないか、でも確かにここからずっと助けを求めているとクレヤボヤンスが言っていたが、アイツは目の方だし、脳に直接来るのは考え難いが……? だが、出会ったのも何かの縁だ。脱出しよう」
「ハゲのおっさん!」
「ハゲは余計だろう? 自分じゃなきゃ、怒られるぞ?」
呆れる真実に対して、黒髪の少年が必死になって頼んできた。
「冬美也、冬美也を助けてほしい! アイツ、別の実験で連れて行かれて、このままじゃアイツ、殺されるんじゃ、下手したらもう……!」
どうやら、ここの部屋に居る子供達の他にもう1人いるようで、冬美也と言う子供を助けて欲しいと懇願してきて、真実はどうしたものかと悩んだ。
「まぁ、何かの縁だ。その子供を連れて脱出しよう」
「ありがとう!」
「マジかよ、してくれるのかよ?」
「別にただ、派手にやってしまったんで、早めに動くぞ。ところで名前は? 名前ぐらいあるだろう?」
「私はフィリアです」
「俺はゼフォウだ」
真実は頷き、ここのエリアにある全ての扉を片手だけで破壊し続け言った。
「よし、とりあえず君らだけ来なさい。他の子らは先に逃げなさい」
急に扉が壊れて驚く子供達もいれば、全く微動だにしない子供達もいた。
その内一つの部屋から出て来た1番大きな少年が真実を見て驚愕した。
「だ、誰⁉︎ まさか、さっきの騒ぎってあなた⁉︎」
「そうだ、君、臨時でリーダーになってくれ、一応君にはここの逃げ道、否避難経路を教える」
いきなり見知らぬ大男が目の前に来て、頭を触ってくるのは恐怖そのものだ。
1番大きな少年が一気に頭が冴え渡るような、地図が鮮明に分かり、何処へ行けば良いかも分かった。
「えっ? とりあえず、ゼフォウ。君らも脱出しよう」
しかしゼフォウは断り、先も言っていた冬美也を助ける為に動いていた。
「ザム、俺らは冬美也を助けに行くから、とにかく動ける奴だけで良い、頼む先に行ってくれ」
それでも心配してくれるザムを見て、真実はこう伝え、床に触れ何かを感じ取って、また床に穴を開けた。
「万が一、敵が出て来ても下手な戦闘はせぬように、少年を助け次第すぐ自分がやるので」
「は、はい、分かりました」
ザムは真実の強さに恐怖するも、すぐに動ける子供達をかき集め、脱出を試みる。
脱出を始めるのを見届けてから、床に開けた穴から、真実はフィリアとゼフォウを抱き上げ降りて行った。
かなり降りて行き、再度真実が壁に触り、何かに気がついた。
「ふむ、この階にいる様だが、急いだ方がいい様だ」
暗い方から大きな無人軍用機が現れ、何か承認システムを搭載されて、真実達がその登録された者で無いとすぐ判断され、いきなり付属された銃器を乱射し、真実が盾となりゼフォウとフィリアを守るもこの状態だと手も足も出ない。
もう数台出て来て、間髪入れずに乱射が始まる。
「おっさん!」
「きゃあぁぁ‼︎」
「1人なら行けるが、下手に動くに動けん」
痛くは無いのか、真実は銃弾の反動で動く事もない。
しかし、今回は子供2人も連れての為、下手に動きが取れないでいた。
弾が切れるまでずっとこのままでも良いが、時間も掛かるし、どんどん追加の無人軍用機がやってこられても、少年が連れて行かれても正直困る。
渋々、ゼフォウとフィリアを隠しながら進むかと決めて動こうとした時、何が起きたのか無人軍用機の1台がおかしくなり、同志撃ちを始めたのだ。
この瞬間から隙が生まれ、真実はゼフォウとフィリアを背後に移し、拳に力を入れ振るった。
途端、突風が生まれ無人軍用機が吹っ飛んだ。
一体この突風は時速何メートルなのかと考えるだろうが、そんな悠長な時間がない。
「急ぐぞ」
真実の一言で2人は頷き、足を進めた。
ある部屋近くまで行き、そっと窓ガラス越しから見ると色違いの防護服の人間が何か操作していた。
どうやらパソコンで何かデータを移動して、避難するつもりだ。
「あと、ちょっと……あと」
真実は壁をわざと壊し、色違いの防護服が驚き振り返れば、明らかな力の差を見ればより分かるが、色違いの防護服はずっとパソコンが気になっていた。
「悪いが、こちらにも用事と言うものがある」
「くそぉ! おかしいだろ! 感染による異能と全く異なる奴がいるなんて!」
「その奥に居るのは探している少年か確かめようか」
どう見ても、この色違いの防護服は焦っており、まるでこうなるなんて思ってもいないようで、しかもパソコンのデータの移行ばかり気にしている。
ゼフォウが手を構えるよりも、フィリアが何かをした。
「うごっ! ゲホッ……ゲホッ! まさか、おまっ、番号28003を連れて来て! ひっ! 番号15104も⁉︎」
フィリアの力なのかずっと咽せっぱなしで、ぜフォウの存在にも怯えた。
だが、色違いの防護服の人間はデータが80%越えを確認してパソコンをぶん投げ、逃げ出した。
必要なメモリーを持たずに走るなんて、慌てすぎだろうと真実は軽口を叩き、奥の部屋へと進むと、まるで人体実験を物理的に行う試験場のようで、様々な物騒な手術器具に冷たいただの板の手術台、幾つか水槽が列を成す。
その中で一際目立つ、筒状の水槽は試験管のようで、その上下には培養液を巡回させる為に必要な分厚く太いホースが幾重にも連なっていた。
試験管の中に眠っている少年を見つけた。
「冬美也!」
「酷い、一体なんの実験をしてたの?」
どうやら探していた冬美也がそこにおり、真実はどう取り出すかと考え触ろうとした瞬間、アナウンスが聞こえる。
「システムエラー、システムエラー、維持装置を解除します、維持装置を解除します、シス――……」
急激に培養液が抜け落ち、冬美也が液が無くなって咽せ続けるも、どう言う訳か目を覚ます事は無く、試験管が開いたのを確認後、真実がすぐに冬美也の状態を確認した。
「……?」
何か違和感を感じる、確かに探し求めていたのと、ここからの電波の様に脳に直接助けを求めていた筈だ。
だが、今は無いし、既に助かったのが分かったからか、違う何かなのかとずっと考えるも、ゼフォウが言った。
「なぁ、おっさん、冬美也は無事なのか? それとも死んじゃって?」
真実は不安がるゼフォウを心配させまいとありのまま話しつつも、先程の違和感だけは言わなかった。
「大丈夫だ、液が肺には詰まっていなかったし、先の咳で全部出たようだ。後適当に服無いか? 少年を裸のまま運べん」
「今、ここにあるので良い?」
「助かる」
その問いにすぐさまフィリアが丁度良い服を見つけ、真実が冬美也に服を着させ、3人を抱き抱えた。
「でも、ここからどうやって?」
「簡単だ、落ちたなら今度は飛び上がればいい」
真実はそう言って、今まで開けてきた穴を今度は勢い良く飛び上がって、次から次へと登って行った。
ザム達は後ちょっとの所で防護服の兵士達に銃撃を受け、皆隠れるも兵士達が増えてきていつ殺されるかいつ捕まるかの状態にまでなる。
「あの人、手を出すなって言っていたけど、無理だよこれ!」
そう泣き言を言った時だ。
「すまん、思ったより地下深かったよ、ゼフォウ達を頼む」
真実が漸く到着し、ゼフォウ達をたくした直後に、先程と打って変わって何か力を込めながら拳を振るった。
その突風はもう台風の様に全て持って行き飛んで行く。
非常口も既に凹んで使い物にならない、回りにあった壁も消え、防護服の兵士達に至っていは壁にめり込んだ者、挟まった者、天井にいる者もいた。
本当に何があったのか分からない場所と化すも、真実はこう言う。
「悪い、全員相手するとこうなってしまったが、階段というかエレベーターは無事の様だ」
子供達は真実が味方で良かったと絶対逆らってはいけない存在だと認知した。
このエレベーターは別の発電で動く様になっており、ここの研究所とは分離されて好都合だ。
しかも、全員乗っても大丈夫でエレベーターが上がる。
上に到着すると、全く別の場所ではあるが、軍事ヘリの近くだった。
軍事施設は騒ぎで皆、研究員やスタッフを逃すのに慌てふためき、既に外にいるのに気付かず、全員あの小さな小屋に入って行く。
その隙をつき、真実達は軍事用ヘリに乗り、全員乗ったのを確認後、真実が触った直後にヘリが起動した。
「……?」
若干の違和感があったものの、すぐに離陸し回りの兵士達が気が付くも、混乱したままでは戦闘機も動かせずにいた。
どこまで飛ばし続けたのか、海を越え何処かの地上の上を飛び続ける。
そこで、冬美也が目を覚ます。
「……うぅ、はっ! やだ、やだぁ‼︎」
かなり混乱している冬美也をゼフォウが宥めに入った。
「冬美也! 大丈夫だ、俺だよゼフォウだ。動ける皆も無事だ」
ずっと何かと連絡を取ろうと何度もしていた真実だったが、センサーを確認し頭を抱えた。
「無事、だと、良かったが……せめて知人と連絡取れれば良かったんだが」
「はっ? どういうこと」
「アイツらが執拗について来てる、2機だ」
センサーに二つの光が入り、明らかに狙って向かっていた。
戦闘機がミサイルを次々撃ち込む。
ミサイルを何回か避け切るも、子供達が悲鳴をあげるほどの揺れだ。
何かを感じた真実は下へと高度下げ続けた。
『なんとか、間に合ってくれ……』
だが、一発だけ近くで爆破し操縦が不安定になってしまう。
「くそっ! 全員、飛び出せ! 大丈夫、飛び降りても死なない高度まで下げた! 後こっちでなんとか維持する!」
皆怯える子も居たが、仲間と一緒に飛び降りる子、最初から1人で飛び降りる子、何ふり構わず小さな子を抱っこして飛び降りるザム、全員降りたのを確認後、真実も飛び降りた。
その間にもう一発ミサイルが飛んできてヘリに直撃した。
必死に皆を非難させる真実だったが、パニックとなった子供達を宥めるのは容易ではない。
「おっさん! 冬美也見てね⁉︎」
「どうした! ゼフォウと一緒に居たんじゃないのか⁉︎」
「降りた時に逸れてしまって、それにあの中に暫く居たのなら動き悪い筈だし、早く見つけないと」
しかも、ゼフォウが冬美也と逸れてしまう。
そんな中、ヘリが羽を回しながら横に傾き、落ちていく。
落ちて行く方向を真実が見ていると、冬美也の方向へと向かっているのに気付き皆が声を掛ける。
「冬美也! 逃げて!」
「走れぇぇ!」
ところが、冬美也は声に気付きはしたが、その襲ってくる燃えたヘリの羽に逃げるどころか、何かを察して止まってしまう。
「冬美也‼︎ 諦めるな、逃げろぉぉぉ‼︎」
真実がその間に入って、拳で止めるにはもう間に合わない。
挙句には彼だけを助けるにも、奥に走っていく子供達を見かけ、どちらも不可能と理解した真実はそのまま盾になるほかなかった。
墜落と共に爆発音に鳴り響く。
戦闘機はヘリが落ちたのを確認後去って行く。
きっとこの後に遺体でもなんでも回収する為に、後日何らかの理由を付けて、入って来るだろう。
それすら分からず、燃え盛る炎の前に座り込んだまま冬美也は動けない。
動けない筈だ。
目の前には血塗れの真実が立って、大量の血を吐き出し、ヘリの羽が左から右に掛けて突き刺さった状態で、普通の人間なら助からない。
「ガハッ……! 少年、ぶ、じ……か?」
「ご、ごめ……」
冬美也は謝るにも謝りきれない事をしてしまい、酷く動揺した。
真実は吐血をしながらも、必死に伝える。
「きに、する……な、元……から……もう」
この先元から短いと伝えようとしているが、冬美也としては、自分が居なければこうはならなかったのだ。
酷く動揺し、冬美也は泣きじゃくるしか出来なく、動く事すら出来ない。
ヘリにはまだ燃料があり、その内もう一度爆発する可能性があった。
一刻も早く冬美也を遠ざけねばいけないが、今の冬美也には到底無理だ。
『あまり、可能性としては低いが、彼を救うにはこれしかない』
真実はある事を試すしかないと決断した。
「少年……手を……出す……んだ」
必死に右腕を動かし、こちらに来るよう言うが、冬美也は動くことがままならない。
「で、でも、ぼ、ぼくは……!」
何か言おうとする冬美也に対して、全て分かってのことと言わんばかりに真実は声を出す。
「かま、わん! さ、手を、出し……て」
恐る恐る、冬美也は腰をあげ、真実の手に触れた。
その直後、何かが強烈に入ってくる。
冬美也の皮膚には薔薇のようなタトゥーが現れ全身を覆う。
何か体のもっとも奥が焼け付くように熱くなった。
真実は全てを諭し、穏やかな顔となり話す。
「成功だ……大丈夫、悪魔とか、そ……そういうので……はない、ちょっと……ばかし……じゅ、みょう、が……伸びるだ……け」
けれども、冬美也はどうしてもこれだけは伝えたいと声を出すも、真実はそれを踏まえてやったのだった。
「おじさん、ごめん、でもぼく!」
「分かって、る、さあ、行く、んだ……は、や……く」
最後には力つき、動かなくなったのを知り、冬美也はなりふり構わず走り出す。
ゼフォウが冬美也に叫ぶも、気付いていないのか、そのまま走り去ってしまった。
「冬美也! こっちに来い!」
「ゼフォウ! 無理よ、早く逃げないとまた爆発しちゃう!」
「くそっ!」
フィリアに止められ、渋々各々分かれてしまったグループでここからより遠くへ逃げるしかなく、祈るしか出来なった。
『頼む、死なないでくれよ、冬美也』
その直後、ヘリの燃料が引火し更なる爆発が起き、冬美也は足を止めて見ようと思ったが、いつあの防護服の連中が来るか分からず、とにかく逃げるしかない。
「だれ、誰か、助けて……お願い……」
泣きながら、誰もいない山奥へと走った。
その日の朝、理美はまた少年の夢を見て、ある事に気付く。
「あの子、今回泣いてたな」
ほぼ同じ夢を見ているのに、その日だけ少年は涙を流していた。




