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別れの時

 夕方、結局何をしたのかと言えば、殆ど何もせずに終わり、理美も目を覚ましたのもほぼほぼついさっき。

 そのままお開きとなった。

 玄関先にて、晴菜が車に乗ったばかりの才斗に深々と頭を下げる。

「ほん、とうに申し訳御座いませんでした!」

 才斗は笑っており、皆無事だったのもあってかあまり気にも留めてすらないようだ。

「良いんです良いんです、自分もこうなるとは思っても見なかったんで」

 理美も自分のせいで大丈夫にせよ、危険な事をしでかしたと言う認識があった。

「ごめんなさい……」

「良いの良いの、君は悪くないでしょ?」

 意外と気さくに返し、そこまで才斗も責める事なく、返って理美は困惑してしまう。

「でも……」

 絆はずっとその様子を見ていて、この状態で帰すのも危ういと判断。

「流石に今日はこの状態ですので泊めた方が」

「そうね! もう1泊しましょ!」

 晴菜の顔が必死に嬉しさを抑えている様にしか見えない。

「では、帰ります。美空」

「理美ちゃん!」

「何?」

「また会う時あったら熊に乗せて!」

 空気が読めているのかいないのか、さっぱり分からないが、とても楽しかったようで、凄い明るさで眩しいかった。

 理美の一言。

「無理です」


 才斗が運転中、美空は景色を見ながら言った。

「お父さん、また嘉村さん家に行く?」

 美空からしたら、有り得ない出来事が有り得た日。

 再度理美に会いたいっと思っていたが、才斗はバックミラーから美空を確認しながら言う。

「うーん、多分これから忙しくなるから無理かもな」

「えぇー! 今度こそ仲良く遊ぶよ!」

 あの後遊べず仕舞いだった分、次は仲良くなると自信満々に言った美空に対して才斗は何か思い詰めているように見えた。

「……」

 だが、子供の美空にとっては何を考えているかなんて分る筈もなく声を掛ける。

「お父さん?」

「いや、なんでもない、呼ばれるなら考えるよ」

 そうは言ったものの、あまり行きたいと言う顔ではなかった。

 

 夜、今回は冬美也の意思で総一達と共に寝るとの事で、理美は1人になる。

「大丈夫? 理美1人で?」

 心配する冬美也だったが、理美は笑って自分1人で寝られるようにすると宣言。

「うん、少しは慣れないと」

 少し心配なのはあるが、いい加減慣れないといけないと思っていた。

 ただ晴菜としてはこれから家族になるのだからそういうのはもっと後でで良いと考えてうっきうきな瞳で言うも、すぐに絆に止められる。

「それなら一緒に寝るわ!」

「今慣れないとと言った矢先ですよ奥様」

 なんとなくあの影響だろうか、ただの寝る挨拶なのに少しだけ別れの時を感じてしまう。

「おやすみ冬美也」

「うん理美もおやすみ」

 冬美也は部屋に入ると、優紀は既に眠り総一と衣鶴が待っていた。

「父さん、母さん、記憶戻ったの言えなくてごめん」

「おいで、大丈夫、衣鶴さんにも言われているから、ぼくも今まで何処に居たのかは聞かない」

 総一も衣鶴の意見に賛同し、冬美也はなんて話せば良いのか分からないでいたが、この話だけはしなくては行けない。

 ジャンとジャンの父、レオが死んだ話を――。

「うん……でも、ジャン死んじゃった……ジャンのお父さんも……‼︎」

 本当の話をしても誰も信じて貰えないかも知れない、例え信じて貰えても同時に自分の今の状態も教えなければいけなくなり、化け物として万が一下手に連れ去った組織を調べて命の危険性が及ぶ可能性だってある。

 だから今回はいやもう今後は連れ去られた話を言う気は無い。

 今は泣きながら父と母に甘えるだけ……。


 朝が来る、理美は眠れなかったのか、何故か頭はボッサボサ、目はしょぼしょぼ、そのまま食堂に来たのか、パジャマのままだ。

「おはよう……ございます」

「おは、よう? 大丈夫か?」

 パットでネット新聞を見ていた颯太が声を掛けて驚いてしまう。

 すかさず絆が理美を部屋に戻しながら言う。

「ちょっと、身支度させに行きます」

「そ、そうね、お願い」

 晴菜ですらあの状態はちょっと驚いてしまうが、なんとか1人で寝たのかと思うと寂しいような悲しいような気持ちにもなった。

 同時に神崎家族が食堂に入って来て、冬美也が挨拶と共に理美を探す。

「おはようございます、あれ理美は?」

「おはよう、今ね絆ちゃんが理美ちゃん身支度させに戻って行ったわ」

「そう、なんだ」

 冬美也のぎこちなさに麗奈が気付き、それとなく聞いてみるが、あまり聞いてほしくない反応だ。

「なんか、昨日からぎこちない感じだったけど、何かあったん?」

「べ、別にただ……」

「ただ?」

 衣鶴が代わりに話す。

「理美ちゃんは友達とお別れしちゃったんだよ」

「そうなんだ? てか、既にお別れしてない?」

 フィリア達とも別れ、ゼフォウ達とも別れたのに何故と思っていたが、衣鶴は一切包み隠す事もなくありのまま言った。

「野生動物のお友達と」

「お、お? おぉん?」

 麗奈はどう反応すれば良いのか分からず、バグる。

 寧ろこれが普通の反応だろう。

 そこへ何も知らない絆が理美を連れて戻って来た。

「お待たせしました」

「おはようございます」

 普段の服とは違う本当に女の子らしく、フリルとか付いたワンピースを着た理美の姿に冬美也の顔が赤く染まる。

 麗奈も理美の格好を見て、一体いつの服を取り出したのかと聞けば、晴菜が理美の為に服を買っていたらしく、絆がわざわざ持って来て着せてくれた様だ。

「あらぁ、これ何処から引っ張ってきたの?」

「引っ張って来たんじゃなくて、前に買った物、一度着せようかと思っていて用意してたんだけど、良かった服のサイズ合って」

 颯太が理美の身なりを見て気づく、靴やヘヤピンも全てそのワンピースに合わせた新品だ。

「てか、全て揃えたのか母さん?」

 流石に買うなら友吉も突っ込む。

「買っても良いが、事前に聞きなさい」

「ごめんなさい、いやぁ、出会った当初は本当に怯えてたりあまり人と関わったりしない子だったから心配だったけど心を開いてくれてホッとした」

「家族として迎え入れるには、やはり心を通わせてくれなければ家族とも言えないだろう」

「まぁ通うまでの長い時間を味合うのも醍醐味だけど」

 颯太の一言で最も苦労された側の晴菜と友吉は苦笑い、麗奈ですら突っ込んだ。

「お前が言うなって」

 折角なので、お昼まで嘉村家の屋敷で過ごすことになり、昼食後に翼園へと帰って来た。

「それで、このまま帰って来たの?」

 ディダも一通りの話を聞き、内心驚きだ。

 理美的には可愛い服を着てとても気に入っているのでずっと自慢げと言うべきか嬉しそうだが、アリスが服を持ってやって来てすぐに着替えるよう言う。

「うぃ!」

「凄い可愛いけど、このままだと拗ねる子出るから、服着替えて絆に渡して返すわ」 

「オーノー!」

 折角気に入って着ていたのにいきなりそう言われてショックで倒れ込んでしまった。

 翼園ではそういう子はあまり居ないのだが、嫉妬して何するか分からない子も実際いるので、折角の服はきちんと返却の方が服にとっても良い。

 そんな中で、マルスも戻って来て何をしてるのとディダに軽く聞き、あぁと呟いた後冬美也に記憶が戻った話をするも、冬美也はずっと上の空だ。

「冬美也君もお帰り、聞いたよ記憶戻ったんだって? 良かった、ね? 冬美也君?」

 声を掛けられても内容なんて聞いてないのと一緒で、いきなり理美と遊ぼうとする。

「ううん! なんでもない! 理美、着替えたら遊びに出よう!」

 落ち込んでいた理美も切り替えて、アリスと共に着替えに事務室を出た。

「うん、良いよ」

「その前に着替えるわよ」

「はーい」

 男衆だけとなって、改めてディダが冬美也を見て聞く。

「可愛かったね理美ちゃん」

「――‼︎」

 一気に真っ赤になる冬美也を見れば分かる。

 漸く理解出来るようになったんだとマルスは優しい笑顔だ。

「青春だねぇ」

 冬美也の顔が更に赤くなって、マルスの足を蹴り始め、マルスはなんでなんでと笑うのは分かっている証拠、ディダも止める気もない。

 状況を知らないアダムが入ってきた。

「何しているんだお前達?」

「アダム神父、どうでした? 学院建設の状況?」

「あぁ引き継ぎも上手く行ったし、理美も里親が決まった以上、ここに居る事も無いだろう、明日辺りには帰ろうと思う」

 いきなりだったのでディダもマルスも驚きだ。

「また急ですね?」

「いやかなり引っ張った方だし、下手すれば数年位いるの覚悟はあった。それにここ暫くいたお陰で少しは仕事進んだようだし?」

 アダムからすれば、理美が落ち着くまでと言う事でいた。

 数年は覚悟していたが思ったより早く慣れてくれた為、冬美也を拾う前には実は後を任せて自身の仕事も含め帰る気だったのだが、しかしどうだろうか、実際冬美也を拾って来てからゴタゴタが一気に続き、仲間に支援を求めたり、救援を求めたり、同時進行で自身の仕事もこなしつつだ。

 もしディダ達だけの状態だったらどうだったのだろうかと考えると無意識に声が鳴る。

「ゔっ!」

「ディダ神父、そんな反応しない、普段からの仕事の他に色々起きたのに回せたんだから、良かったと思わないと」

「う、うんそうだね、うん」

 その話をずっと聞いていた冬美也の顔色が曇るのが見え、マルスが聞くと理美の事で暗くなっていた。

「……」

「あれ? 今度は落ち込んじゃったけどどうしたの?」

「理美の友達のクマ達、昨日いきなりお別れしちゃって、お母さんがライフル撃ったと同時に皆何処かへに行っちゃった」

 ディダはその内容を知っている。

 だが居たとは言えないので、ずっと無言を貫き、代わりにアダムが話す。

「……そうだったのか、でも、いずれはそうなる。人の生活に慣れるまで彼ら彼女らはずっと見守っていた、だから安心して帰った、彼ら彼女らは皆自然の理へと戻っただけ、私も話はする安心しなさい」

「でも理美泣いちゃう。ぼくもいつかは帰るからアメリカに」

 少し涙目な冬美也に対し、アダムは続けて言った。

「別れはきっちりとしなくていけない、しかし今生の別れでは無い」

「うん」

 丁度着替え終わった普段着の理美がアリスと共に戻って来た。

「今着替えてきたよ」

「行っておいで、私はまだ纏めなければ行けない書類があるから」

「分かった、理美行こう」

「うん、どこで何――」

 話しながら何処かへと行く声と足音。

「……理美と話をする際は共に居てもらって良いか?」

 珍しく弱気なアダムにディダは揶揄う。

「良いですとも、いやしかしまさかアダム神父もこういう感情があるんですね」

「笑うな! やはり1人で話す!」

「冗談ですよ、寂しいですよやっぱり別れは、理美ちゃんにとっては別れの連続で疲弊してしまうのはちょっと怖くなってしまうかも知れませんが、一期一会もあれば何度だって会えるんですから」

「ふん、お前の場合は常に一期一会だろう」

 それ以上の会話は無いが、ディダは笑いつつも何処かサングラス越しから寂しげな瞳が窺える。

 長年の付き合いからのお互いの表情は何処となく分かり合い柔らかだ。


 理美と冬美也はいつものように遊び、お菓子を食べ、勉強もして、夕食も皆と一緒に取る。

 夜の身支度をしもう寝る時間となった時だ。

 冬美也が丁度大浴場に行って、理美が1人、誰がやって来た。

 その声はアダムだ。

「理美ちょっと良いかな?」

「何どうしたのアダム神父」

 アダムが入って来て、大事な話と言うのですぐに理解出来た。

「今日は大事な話をしに来たんだ、良いかな?」

「もしかして、お別れ……?」

 声を詰まらせるアダムだったが、否定はしない。

「……そうだ」

 理美は動揺等無く、寧ろ納得していた。

「前から言ってたもんね、慣れるまでだって」

 当初から言っていた為、理美は心の準備を何処かしらしていたかも知れない。

 アダムはベッドに座って、理美もその隣に座る。

「あぁ、最初の頃は本当にヒヤヒヤした。理美はなかなか慣れないから」

「怖かったから、元々と言うか今も人付き合いは苦手で多分慣れるのは無理だと思ってた」

 お互いなんとなく昔を思い出し笑ってしまう。

 少々荒療治もあったがキッカケのお陰で今がある。

「そうか、でもキッカケがあったんだな」

「うん、どれかとは分からないけど、本当に色々あったね」

 これなら大丈夫とアダムも一度荷物を纏めていたが、ここでまさかの冬美也を拾って来たのは今でも驚いた。

「本当はもっと前に帰るつもりがまさか、冬美也君を拾って来るのは驚いた」

 理美もあれには自身でも、ここまで驚きを起こすとは未だに笑ってしまう程だ。

「あはは、私もタヌ達が困っているって言ってなかったら冬美也とは会うなんて無かったと思うし、男の子を好きになるって思いもしなかった」

 だがアダムは同時に始まる養子の件で返って心配事が増えてしまい荷解きしてしまったのを思い出す。

「そうか、寧ろ私は晴菜さんがお前を家族として迎えたいと言い出した時はハラハラしたんだ。人慣れしてない理美が心配で」

「私も、他にも沢山いるのに来たての私が? って思ってたし、なんか変な事言って冬美也を勘違いさせちゃったし……場を作ってくれたのに喧嘩しちゃった」

 あの頃、理美は知らないだろうが、回りに大人達が居たからこそなんとかしのげた。

 もしアダムが帰ってしまっていたら、きっともっと早い段階で管理者達を集める事も警戒も出来なかっただろう。

 冬美也の異能に関しても運良く琴が居た為、異能の付き合い方も出来た。

 それに負傷をさせてしまったが、ちゃんと仲直り出来たのはアダムとしても喜ばしい事。

「だが、ちゃんと仲直りし話をしたんだろ?」

 出来はしたが、告白に関しては色々邪魔が入り過ぎて結果上手くは行っていない。

「うーん、途中でメリュウも邪魔して、その後わちゃわちゃした」

「ディダに聞いていたが、大変だったな」

「と言うか、冬美也のお母さんが言ってた様に、まさかそれだけじゃ伝わらないのは分かったよ」

 空気を読むのでは無謀と言う事を小さいながらも理美は理解した。

 アダムはその話を聞き改めて別れの話をする。

「一気に辛く寂しくなるだろうが、私も明日出発する」

「思ったより早い」

 せめて早くて明後日とか思っていた理美だったが、アダム的には昨日言うつもりだった。

「いや、昨日話す予定だったが、まさかあのクマが先だったのは予想外だったんだ」

「そっか……色々ありがとうアダム神父、また会える?」

 管理者なら時代を越えても、いつでも会えるだろう、でも理美はまだ幼い。

 そこでアダムはこの日本に来た本来の目的を話す。

「会えるさ、そうだ、実は私が集会の為と言うよりここ日本にある学院の設立の為に来日していてね。その大詰めを迎えていて、今回ようやく完成日程と開院が決まったんだ。もし興味があれば入学してほしい。ただちゃんと勉強して試験を受けてだがな」

 途中途中、理美の顔が渋くなるも、笑って言う。

「出来るかな」

「出来るさ、さあもうそろそろ冬美也君も来る、ゆっくり寝なさい」

 アダムは立ち上がり、理美も言う。

「うん、おやすみなさい」

「あぁおやすみ、理美、良い夢を」

 そう言ってアダムは部屋を出ると冬美也がいた。

 凄い真っ赤な顔で座り込んでいる。

 アダムが声を掛ければ冬美也は声を裏返ったまま挨拶し部屋に入ろうとした。

「冬美也君?」

「お゙、ぉやすみなさぃ‼︎」

「冬美也君ちょっと待ちなさい」

 いきなり止められなんだと振り返ると、理美の事を頼まれてしまう。

「な、何⁉︎」

「理美の事頼んだよ」

「へっ⁉︎ ぼくも帰っちゃうのに……?」

 喧嘩もすれば、色々あったのに、なんならもうすぐ帰ってしまうのに何を言っているのか。

「一期一会では無いのだから」

 その言葉は一度しか見る、次に会う事は無い諺だ。

 冬美也もそれでお終いにしたくはなく、少し返事も納得しづらい感じになってしまう。

「まぁうん」

「ではおやすみ」

「おやすみ」

 そうして部屋に入ると理美が1人座って待っていた。

「冬美也お帰り」

「うん、明日も早いし寝よっか?」

 電気を消して眠るも、やはり寝付けれない。

 そして珍しくちゃんと自身のベッドに理美が居る。

「理美?」

「どうしたの?」

「眠れないから少しだけ話しない?」

「良いけど?」

「こっちに来てほしい、聞いてほしい話があるんだ」

「分かった」

 理美は冬美也の居るベッドに行く。

 一緒に向かい合って寝ころむ。

「あのね、ぼく、記憶戻ったって言ったよね?」

「うん」

「ぼくね、友達がいたんだ、ジャンって言う男の子」

「うん」

「ずっと素直に慣れなくて、でもジャンはそんなぼくでもずっといてくれて」

「うん」

 冬美也はこの話に入る度、涙が止まらず、声もちゃんと話せているのか分からないまま、話を続けた。

「でも、ある時キャンプに誘われ出掛けた夜に、あの白い防護服の連中がキャンプ中の人達に何かして皆死んじゃって、逃げようとしたけど、捕まってジャンとジャンの父さんもぼくもあるものを打たれてジャンとジャンの父さんはそれで死んじゃって、ぼくだけ生き残って、連れ去られた先にゼフォウ達と出会って、でも記憶はここまでしかなくって、その先に理美が居た」

「うん」

「皆優しくて、父さんにも母さんにも優紀にも会えた……それでも、もうジャンには会えない、どうしてジャンやジャンの父さんが死んで、ぼくだけ……」

 本当なら自分ではなく、ジャンが生きていればと言おうとした時、ずっと頷くだけだった理美がある事を話す。

「クマのお母さんがね、言っていたよ。理不尽な自然界では大事なモノはいつ何時消えるか分からない。子供が食べられる、オスに殺されるなんてざら、許せないしやるせない」

「……」

「それでも生きてしまったからには、その命の分まで生きなさい、その子の分も食べた命の分も全て生きなきゃ行けないって」

 本来なら冬美也の様に諭せれば良かったけれど、理美には昔聞いた話しか思い付かず、なんだか申し訳ないと感じていたが、冬美也にとって十分だった。

「理美」

「ん?」

「ごめんありがとう……」

「ううん、良いよ」

 そう理美は笑って、2人はいつの間にか眠りへとはいる。


 朝――……。

 まだ、子供達が寝入っている時間、門の前でアダムとディダ達の姿があった。

「――では、後を頼むぞ、ディダ」

「はい、分かってます、次会う時には……」

「そうだな再生した後だろう。理美が気付いた時、大人になった時に話すから話すなよ」

 念を押されている分、ディダは理解するも、流石に歩いて行くのは歳もだし危ないだろうと止めに入るも、長年歩いていた分と本気で走った方が実際速い為にアダムは断ってしまう。

「えぇ、あの本当に歩くんで? 電車やバスあるんでそこを利用して」

「どうも飛行機や船は慣れたんだが、徒歩の方が速い」

「ごもっともで」

 ディダもマルスも確かにと言う顔になり、アリスは呆れていると誰がやって来た。

「アダム神父!」

 なんと理美だ。

「理美⁉︎ まだ寝てても」

 その隣にはアースがおり、よく見れば自身のアースであるオースが立っていた。

 わざわざ起こしに行ったのかと少し呆れてしまうも、理美は言う。

「ありがとうございました、どうか、どうかお元気で!」

 ここまで成長したのを見て、ようやく胸をなでおろす。

「……そうだな、理美も正式に決まったら、晴菜さん達にあまり迷惑掛けずにな」

 アダムは笑い返すと理美も笑い返した。

「うん、またね」

「あぁまた」

 そうしてアダムは翼園を後にし、理美はずっとアダムが見えなくなるまで見守った。

 

 一週間後――。


 黒麟駅前、黒い車が2台止まっており、ホームには総一達家族と晴菜達家族がいた。

 颯太は笑いながら総一に話し掛ける。

「いやぁまさか自分達と一緒に帰るって中々ないですね」

「冬美也の臨時パスポートが発行出来て正直ほっとしました」

「普通考えたら、不法入国者なんですもんね冬美也君」

 そう、冬美也は理由はあれど、不法入国者だ。

 ディダやアダム経由で表立った事はせずに済み、必要な書類と一度だけ総一が大使館まで行った位で、本来なら本人と思っていたがそこまでせずに済んだのは、きっとその知り合いの人だと思い礼をしたかったが、ディダに止められ合う事なく帰る事になった。

 ちなみに頑張ってくれた方は会う暇も無いくらい自身の仕事をしている。

 最後と言うにはあまりにも呆気ない。

 アナウンスが流れる、もうすぐ電車がやって来る。

「そろそろお別れだね」

「冬美也、コレ! 誕生日全然早いし、何あげれば良いか分からなくって、今これしかないから受け取って」

 それは理美にとって唯一の家族から貰ったプレゼントの熊のぬいぐるみだ。

「ダメだよ‼︎ それ大事なぬいぐるみなんでしょ!」

「でも、私より冬美也ならもっと大事にしてくれるから受け取ってほしいの」

「……分かった、ありがとう理美大切にするよ」

 受け取ってくれて本当に嬉しかったのに、まだ一緒にいて欲しいと願ってしまう。

 いっそ理美は冬美也を連れて山の中へ行こうとか考えてしまうがやめておく、こんな事をしてもただ悲しいだけなのを知っているから。

 1週間と言う時間があったのに何も変わらない日常のまま、ずっと過ごして来た。

 言うチャンスは幾らでもあったけど、結局勇気がなく今になる……。

 これが最後かも知れない。

 ちゃんと言わなければ。

「冬美也……あの」

 言いたいのに喉から声が出ないのだ。

 ちゃんと言って悔いを残したくない。

 悔しいと感じると冬美也は笑顔で言った。

「理美、目を閉じて」

 どういう意味か分からないが、とりあえず冬美也の事だからお別れに何かあるのだろうかと瞼を閉じる。

「うん、こう」

「そうそのまま」

 冬美也がそう言った直後、理美にキスをした。

 回りが呆気に取られ、何故か麗奈は颯太により視界妨害され見れていない。

 何か柔らかいのが唇に当たって、つい瞼を開ければ、キスをしているのだ。

「えっ? えっ? 何したの⁉︎」

「ぼくもだよ理美」

「へっ……はへっ⁉︎」

 理美の顔を真っ赤になり、湯気まで出た。

 丁度電車が到着する。 

「バイバイまたね理美、絶対に会いに来るから!」

「うん、また会おうね」

 総一は晴菜に住所を書いた紙を渡す。

「これ、ぼく達の住所なので後で理美ちゃんに教えてください」

 友吉と晴菜は寂しくなりながらも言う。

「分かりました、住所と連絡先は前って衣鶴さんに渡してある」

「衣鶴さん、総一さんも気をつけて帰ってくださいね」

「はい」

 そうして電車の扉が閉まり、出発した。

 追いかけても良い気がした、でも、皆の迷惑になるから理美は精一杯、手を振るう。

 電車が見えなくなり、駅から出て、友吉はそろそろと言い出した。

「さて、私も会社に行かねば、流石に居なさ過ぎて何起きてるかオンライン会議じゃ分からなんからな」

 確かに有給を使って、もう大分経つ、勿論行かない日はオンライン会議等で仕事をしていたが、実際見てみないとどうなっているかなんて分からないのだ。

「そうでしたね、行ってらっしゃいあなた」

 車椅子から車に乗り込みながら、つい友吉からの愚痴が出る。

「本当なら都心部まで車で送るって言ったのに、総一さん達もその日に帰るって知った途端、電車で帰ると言い出して」

「うふふ、そうでしたね、大きな車無かった分仕方ないですね」

 全員乗せれる車をとなると先ほどの数台使ってになるので、結局お話がしたくて一緒に行ったのだから、正直な話車椅子でも行っても良かったが、駅員に迷惑が掛かる為止めるしかない。

 もうすぐ理美が自分達の家族の一員になるのだからと、また帰ってくると伝えると、必死に父として慕おうとする理美の姿に感涙だ。

「だな、理美、しばらくは帰れないだろうが、近い内にまた帰って来るからね」

「はい、お、おと」

「良い、良い、理美にも家族が居る、無理に上書きしなくて良い」

「そうね、養子縁組が決まってから練習したり、別の言い方にすれば良いわ」

 まだ決まってはいない分、そんな焦らなても良いのだが、理美からすれば家族として迎えてくれるのだからと実は必死だった。

「でも、やっぱりちゃんと言えた方が良いと思って、お父さん?」

「――!!」

 友吉は会心の一撃を喰らう。

「あなたしっかり!!」

「ごめんなさい! ゆっくり覚えていくから!」

 晴菜と理美が驚いてしまう程に、効果抜群だった。

 改めて友吉は都心部へと戻っていく。

「そ、それじゃ、近いうちに」

「無理しないで下さいね」

「またね」

「では出発します」

 車は出発し、こちらも見えなくなるまで見守った。

 友吉は運転手に言う。

「理美の養子縁組が決まり次第、再度家に戻ろう」

「はい旦那様」

 そうして、理美と晴菜、もう1台の車には絆だけとなる。

「帰ろっか理美ちゃん」

「うん!」

 秋が深まる前に、正式に理美は嘉村晴菜、嘉村友吉の養子として迎えられる事となった。

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