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セェロと言う男

 侵入されている事に気付いていないアリスとマルスはようやくクマの洗いが終わり、山へ戻って行くのを見届けた後、翼園に入る。

 どんな人間でも子供の声が聞こえない園は不気味であり、異変にすぐに気付いた。

「アリス、何か変だ」

「ちょっと、漸く落ち着いたって思ったら今度はな――!」

 アリスはもうこりごりと言わんばかりに口にしようとした時、背後から何者かに刺され、倒れてしまう。

「アリス! どうしよ、どうしよ!」

 本来ならすぐに助けを呼ぶか応急処置が必須だろうが、マルスは触らなずにどうすればといわんばかりにパニックを起こす。

 アリスを刺した女が言った。

「おいおい、何怯えてるんだぁ? 刺されてビビってるなんて男としてどうなんだぁ?」

 ところがマルスはいたって冷静で、アリスから夥しく流れる血に対して、掃除が大変と騒ぐばかりで、相手を思い遣っていないのだ。

「違う! 大根の汁全部使っちゃったから掃除が大変だし! 俺、血は触れない!」

「はっ? 男の癖に白状なやつだネェ」

 刺したナイフを抜き、マルスに近づけると背後に気配を感じる。

 アリスがゆっくり立ち上がり、血で汚れた服に廊下を見てながら話す。

「本当に触っちゃダメなのよ、コイツ。あーどうしよう、さっきあのクマに使っちゃったから大根の汁無いわ」

 女は思った。

『コイツら血痕消す話しかしてない……!』

 そもそも刺された側がピンピンしているのもおかしいのだ。

「なんなんだ、あんたら? あのドラゴンと管理者を追い出し実験体のガキ共の力さえ封じ込めれば楽に捕まえてられる簡単な仕事じゃないのか?」

 女が全て話して来れたので、尋問しなくて済みそうだ。

 後は主犯が誰かと聞くまでだが、その間にディダ達なら別で主犯について聞いているだろう。

 アリスはため息混じりに逆に聞き返す。

「あんたらもバカよねぇ、普通の人間がここに住み込みでやってる訳ないでしょ? どっちが狩られる側か分かってる?」

 殺気めいたモノを感じ、女は武器ではなく体を変形させながら言う。

「こっちだって、力がない訳じゃないよ!」

 二本足で立つ猪のような化け物になった女が通路を破壊するのを見て、アリスとマルスは絶望する。

「あー、これアダム神父に怒られちゃうかも」

「ですね……」


 その頃一方では、ザム達の居る部屋に子供達が避難している。

 実は1人に危機感知の子供がおり、敵が入ってきた事を知らせ、ザムは急いでここに住む子供達共々避難させた。

 最初は話しても胡散臭さで信じてもらえなかったが、見知らぬ男が歩き回っているのに気付き、皆慌てて1部屋に避難し、その部屋には隠し通路と繋がる場所もあり、皆一斉にそこへと隠れる。

 まずは一安心と言いたい所だが、ザムだけは子供達を残し、囮になることを選んだ。

 通路に出て、歩き敵が居ないか見て回る。

 ただ背後の確認を怠ってしまった。

 いきなり後ろから何者かに攻撃を受け、空き部屋へと吹き飛ばされてしまう。

「いぃっ……どうして硬くならない?」

 ザムは冬美也みたいな金属にはならないが、皮膚全体が硬い物質のように変わるタイプだ。

 実際非力ではあるが、防御面では秀でていた。

 しかしそれがどうも上手くいかない。

 攻撃一発でもう身動きを取るのもやっとになってしまう。

「たくよぉ、実験体のガキ共にも能力の封じ込めが可能だからって言うから受けたのに、他の連中が何人も消えるし、まずは1人――イッタ!」

 そう言いながら、男が近付くと何かに噛まれ、慌てて振り払おうとした。

 一体何が起きているのか分かっていないザムはとにかく立ち上がると、丁度壁板が外れ、冬美也達が出てきて誰かに指示している。

「そのまま噛み砕いてしまえ!」

 ゼフォウは分かっていないが、よく見ると男の右肩には何か猫位の大きさの翼を付けた爬虫類が嚙みついていた。

「いや、なんなんアレ?」

「さっきみたいに泡吹いて倒れないね?」

 理美に至ってはあまり緊張が伝わらない。

「しょれより! 御無事でしょうか?」

「ひっ! 犬が喋った……!」

 コマがザムに近づくも、ザムとしては動物が喋っているのだから引くのは当然だろう。

「大丈夫、これぼくの父さんの使役だから、根本的に動物じゃないから」

「とっっってもえらぁぁいそんじゃいでしゅよ!」

 2本足で立って仁王立ちした当たりでコマが動物ではないのとザムも理解する。

「今ので理解した。そうだ、何人か侵入者がいるみたいだ」

「さっきので4人だけど、他にまた侵入者が増えた」

 男は自分を忘れて呑気に会話をされ腹立だしくもメリュウを引き剝がす。

 投げ飛ばすもメリュウはすぐに空中で立て直す。

 ここまで子供達の大人に対して怖がらないのが非常に腹立だしく、すぐにでも掴み掛ろうとした。

「おい! お前ら、おれを忘れるな! 取れた! ふざけ……!」

「すいません、少々手こずりまして、こちらにいたのですね、良かったです」

 が、丁度絆が到着し、その男を掴み上げる。

 ザムの状態からして攻撃を受けたのは一目瞭然で、絆は遅れたのを悔やむ顔になるも、すぐに男を投げ飛ばす。

「ぐがっ!」

 男は壁にぶつかり身動きが取れない。

 流石に大人の体は重く立て直すにも無理だ。

 ゆっくりと絆は近付き、男に言った。

「さてと、少々手荒な方法で出て行ってもらいましょうか」

「や、やめっ!」

 手をかざし、さっと横に動かすと、男はもう居なくなっていた。

「消えた?」

 ザムの言葉に絆はただ移動しただけとし、他の子達を心配する。

「いえ、別の場所へ移動させただけですので、それより他の子供達が見えませんが?」

「他の子達は別の場所で非難させては居るのですが、いつばれるか……」

「よく頑張りました。大丈夫です、すぐに向かいましょう」

 絆は優しくザムの肩に手を置きながら安心して良いと言われ、ザムはホッとし泣きそうになる。

 その間に、理美がいつの間にか戻って来たアースにそっと聞く。

「アース、今まで何処に?」

「絆さんの所にいたわ」

「何してたの?」

「いやぁ凄かったわ、助けるつもりであの毒刃を掴んでいたら、いきなり絆さん、片手で相手をぶん投げた後、落とした毒刃を素手で破壊した後が本当に……」

 あの物理的な神の鉄槌をどう口にすべきかと悩んだが、アレは本当に子供が見ていいものでは無い。

 その話をこっそり聞いていた冬美也も素手で刃の方を持っていたのにと口にはしたいが、理美に勘ぐられたくないので必死に平静を保つ。

 ゼフォウは2人を見て思った。

『理美が知らない方向で独り言を言い、冬美也に至っては何か言いたそうだな』


 ザムにより子供達が避難していた部屋の隠し通路。

 見知らぬ男達が部屋を物色する。

「けっ! 湿気てんな」

「施設にいるガキだ、無いに等しいだろう」

「確かに、どうせ何処かに隠れているんだろう、ぜ!!」

 1つのベッドを蹴ると子供達の怖がる声、泣きじゃくる声に男達が笑う。

 この辺かと思い、振り返れば部屋の中に入る大きな鳥の頭がそこにあった。

 嘴が開けば泣きじゃくる声、怖がる声が響く鳴き声。

 逃げようにも鳥の身体が邪魔して逃げれず、嘴が1人を捕まえ、食べられてしまう。

 声にならない声をあげながら、外へと飛び出す。

「ふ、ざけんな! 聞いていたのと違うぞ!!」

 とにかく逃げなければと思った時、大きな影が自分に掛かり上を見ればクマがいた。

 クマは目を光らせながら左前足を男に振りかざす。

「ぎゃ――!!」

 数分後、理美が2階の窓から顔を出し、クマに話しかける。

「クマ! 今外から声が!」

「ダイジョウブだよ、すてるヨテイのグローブつけてもらってぶったたいたから」

 普通のツキノワグマのパンチ力は強い。

 しかもクマのパンチ力ならもっとだろう、案の定ぶっ飛んで失神していた。

「そっか良かった!」

「それよりそっちは?」

「なんか皆と合流したら、眞子さんの隣になんかおかしな事言ってる人居たけど、消された絆さんに」

 最後の言葉にクマが全身毛が逆立つ。

「消してません、移動しただけです」

 一方、施設内ではよほど怖かったのだろう子供達が眞子に抱きつき離れない。

「もう大丈夫だよ。全く、他の連中はどうしたんだい?」

 眞子としてはディダ達がこんな状態で居なくなるなんてありえないと言った言葉に、絆が説明する。

「ディダ達は外回りしに行ったは良いんですが、その隙にやられてしまい、この有様のようで」

 こちらも万が一の対策で手を打ってはいたが、甘かったと言えばそれまでとも言える。

 今回は狩人でありイビト、一部が異能持ちも混じっていたのだから仕方がない。

 ただ眞子からすれば、こういうのは前提で動いての事で、自分達を弱い勘定にされてるなんてとバカにしないでもらいたいと言った感じだ。

「舐められたモノだね、アイツは前線部隊なだけで護衛は常に後ろだと言うのに」

 マルスがこちらに合流したがアリスがいない。

 それでもすぐに答えが出て、眞子は断ってしまう。

「眞子さ〜ん、ごめん、アリスがすごい事になった」

「そっちはそっちでなにやってんだい!」

「ごめ〜ん、血だらけになっちゃって、ディダがいないから、ちょっと手当して」

「バカ言うんじゃないよ! これから昼食の時間なんだよ!」

 衛生上、子供達のご飯が優先になった。

「なら私がしますので、マルスは血触っていませんよね?」

「はい、あの後子供がトラウマレベルになるので、そのままにしてますし、子供達は絶対良いと言うまでこっち来ないで欲しいです」

「それだけで、どれだけの惨事か分かりますね」

 呆れ返る中、アリスの方ではディダ達が帰ってきて早々の声が聞こえた。

「ただいま! 今狩人達がぁぁ!!」

「お前、また派手に殺られたなぁ……」

 アリスは頭を抑えながら言う。

「まさか、金槌で頭やられる日が来るとは、因みに背中刺されたわ」

「わぁぁ……」

 かなり引いたディダの声、絆は子供達をマルスに託し、1階へ降りた。

 声をする方へ行けば、絆が本気で引く。

「――!! これまた殺人現場にしましたね、アリス」

 流石に自分がやった訳ではなく、もう精神異常を来した女が色々やらかしたのだ。

「私じゃないわよ! そこの女が刺して殴って来たのよ

!」

 もう1人居たのにどうしてと思うっていたが、マルスにも出来ない事情もあり、手を出させづらいので武器だけ渡しただけで止まっていた。

「マルスは何してたの?」

「倒そうとして来れたんだけど、この惨劇のせいで大惨事の予感しかしなかったから、とりあえず取り押さえるまでこっちがやってた」

 怒ってはいるが、こればかりはとディダも同情する。

「あぁそうだね、この惨劇じゃマルス手も足も出せないもんね」

「す、すいません、一応武器持って応戦したんだけど」

「それ、結局私が使ってコレですからね」

「脳みそは無事?」

「無事じゃないわよ」

 頭蓋骨からちょっとこんにちはしているのが見え、これは本当にダメだなと感じ、ディダは絆に再度お願いした。

「確か、緊急用のアリスの部屋にあるから、絆さんすいませんが」

「分かってます、全くこれならマルスと先に合流すべきでした、一応布で覆った方が良いですね」

「本当ありがとう絆さん」

 これで一安心だろうが、何かがおかしい。

 大体冬美也達を連れ去る為に下っ端連中ではあったが、かなりの規模でそれなりの人数を揃えて向かわせていた連中でもそれなりの組織だからこそだと思えば分かる。

 ガジェールがケチな男なら分かるが、こんな大した下手すれば子供でもある程度力があれば対処できる程の知能の連中だ。

 逆に実験に使われていた子供達が皆口を揃えて力が上手く出せないと言っていた気がした。

 ここに結界を張っている理由もおかしい。

 仲間を入れる為だけの結界とは言い切れない、それにこの結界や子供達の能力を抑えつける程の力がこんな連中にはないに等しいのだ。

 少々絆には違和感を感じ拭えなかった。

 だが、ゼフォウだけがこっちにやって来てたのだ。

 絆はなんとなくゼフォウを見送るも、アリスが止める。

「あんた、まだそっち行っちゃだめ‼︎」

「ゼフォウ君、どうして⁉︎」

「ディダの声が聞こえたから」

「すぐ戻るつもりだったんだけど、結界の縫い目を掻い潜って漸く戻れたんだよ、玄関前で行き倒れちゃった狸がいるんだけど、あの子のお陰で戻れたよってどうするのその狩人?」

 ディダの指差す方には息切れで舌を出したまま倒れたタヌの姿があった。

 本来なら理美を呼びたいだろうが、あまり見せるべきではないと判断し、とりあえず先程と同様に手を翳す。

「移動させます」

 後で尋問も出来るだろうと踏んでだ。

 この女が万が一へんな呪文など唱えようモノならと考えるが、どうも自分らはただ雇われモノだの簡単だと思ってだのと言っているだけなので、さっと動かした。

 ただの雇われだとすれば、こんな下っ端を出すとは舐められたモノだと思うが再度皆を確認する。

 匂いも姿も魂も全て本人だ。

 ディダもその違和感を言い当てた。

「……アリス、血を出し過ぎてないかこの量?」

「そういえば、流石にここまで出ないわよ」

 確かに血の量がおかしい。

 ここまで出ていたら、2人分以上の血が飛び散るに必要だ。

 マルスも気をつけながら見ていたがそんな量はアリスから出てはなかったし、先程の女の血とも違う。

 ほぼ一方的に刺され殴られて、返って発狂させる程出来るが、ここまで血が広がるはずが無い。

「あれ? そこまで出てなかった筈ですよ?」

 ディダも絆もここで勘付く。

「一旦離れ――!」

 急にその血が暴れ出し、皆自分を庇うのに精一杯でゼフォウまで見えていなかった。

 それでもマルスがゼフォウを庇う形を取り、防げはしたが急に声を荒げ倒れてしまう。

「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼︎」

 体から湯気が出て、よく見れば血が掛かった箇所だけ酷い火傷のように爛れていた。

「マルス!」

 ディダが必死に歩くも歩けば歩く程、血の池に足が取られ、下手すればマルスに掛かってしまうが、このまま放置するわけにもいかない。

「マルス、しっかりしろ!」

 アダムも下手に動けず、必死にどうのような状況でこうなったのか考えるも外からの術としか分からない。

「落ち着け! くそ! 何処からだ?」

 1番驚いているのは負傷したアリスだろう。

「まって、本当にどうなってるの?」

 ここで絆は冷静に判断するも、このままでは行けないのも分かっていた。

「誰かが血を出せば、術を発動させれる様になっていたようで、あれは当て馬でしょう」

 力を使おうとすれば、一気に飲み込まれるのも分かり、力が使えない。

 ディダももう既に下半身が埋まって動くに動けず、アダムに至っては管理者と相手側が分かっていたのだろう、肩まで埋まっている。

 それを見ていたゼフォウが泣きそうになりながら、気を失ってしまったであろうマルスにしがみつく。

「マルス! マルス! どうしよう……どうしよう……」

 ゼフォウの声になんとか目を覚まし、マルスは言いながらも頭を撫でるも、その手は焼け爛れており、かなり深刻だ。

「だい、じょうぶ、ゼフォウ、君は?」

「違うんだ、俺、理美に行くなって言われたのに、いても至ってもいられなくて……!」

 園内ならと油断した自分達も悪い。

 力を使おうモノならきっと一気に埋まってしまうだろう。

 ディダはこの状況を鑑みてすぐに離れるよう叫ぶ。

「君はまず、すぐにでもここから離れるんだ!」

 それに合わせて動こうとした時、血がゼフォウを襲い、何処かへと引き摺り込まれてしまった。

『あー……どうして人の言う事聞かなかったんだ……俺……』

 自分を庇ってしまったばかりにマルスが酷い火傷のようになり、あの時理美が手を掴んで行かないで行ったら何処かへ連れて行かれると言っていたのにどうして言う事を聞かなかったんだと薄れ行く意識の中、もっと深い何処かへと落ちていく――。

 一方ではディダが必死に潜ろうとするも、すぐにアダムに止められた。

「ゼフォウ! くそ!」

「バカよせ! この状態だと、我々は圧死か窒息死かのどっちかだ動くな!」

「でも、でも……! せめてマルスをこの状態にしたくない! マルス! マルス――‼︎」

 直後、一気に血の塊が消えた。

 それだけではない、今までの結界丸ごと消えたのだ。

 ゼフォウを連れ去ったから消えたと考えるも、あれは明らかに追いかけて来ない様に自分達を殺す気でいた。

 そんなのはどうでも良く、ディダは一目散にマルスへ掛けより自身の首筋を切り、マルスを抱き上げ切った首筋へと口を運ぶ。

「しっかりしろ……しっかり……」

 弱々しくもマルスの口元が動くのを感じ、ディダはホッとして力が抜けてしまう。

 回りも漸く解放され、絆もアリスの傷が悪化していないか確かめていると、誰かが土足で入って来た。

「いやぁ、すいません、ここにゼフォウって子居ませんかね?」

 そこにいたのは、肌は色白、黒髪は長いがウェーブ掛かり、束ねた背の高い男に皆が釘付けになる中、また今度は2人、靴を脱ぎながら言う。

「セェロ社長! ここ日本は靴脱ぐんですって!」

 赤毛と黒の混じった若い男性に対して、血の跡に対してセェロは言い返す。

「だって、血塗れで靴下ぐちょりそうなんだもんよ」

 それでも大分血の跡も徐々に薄く本来の血の跡だけになっており、別の女性もやって来て言う。

「でも社長が大体なんとかしてるんだから、もう呪術も消えてますから大丈夫じゃないんですか?」

 セェロは後ろを向きながらディダ達をそっちのけで話す。

「ただの無効化しただけだし、そっちは無力化したのか? セガとスオウ」

「勿論です社長」

「と言ってもマウゼスのおっさんが全部やってくれたから大丈夫っしょ?」

 分かっていてこんな話をしているかの様で少々癪に触る中、改めてこっちに話し掛ける内容はゼフォウの事だ。

「まぁそんな訳なんで、ゼフォウ居ます?」

 正直、連れ去られたばかりな上、身動きも取れなかった。

 奴らの仲間かと疑うも、ゼフォウを連れて行かれた事に気付いていない様子にアダムが言う。

「たった今、連れ去られた、狩人に」

 本来なら言わないで帰らせたいが、今の現状では誰も救助なんて出来ない。

 ただ諦めて帰ればそれで良いとも思った。

 ところがセェロはこの辺りを見渡し、奥の廊下角から階段の所とか見れば、子供達が凄く心配そうにこちらを覗いているのがよく分かる。

 アダムと絆を見てセェロは話す。

「……詳しくお話し聞かせてください。ついでにこっちで尋問しますので、生きていたらで良いので差し出して下さいませんかね? 絶対にここの村、ここの園、ここの出身の子供達、住民の方には手なんて出しませんお約束します」


 とりあえず、応接間と言いたいがマルスもアリスも負傷で手当てに看病しなくては行けない状態だ。

 アリスの手当ては絆にと言っていたが、スオウと言う女性も手伝うと言い、現在は絆とスオウがアリスの手当てをしている。

 マルスと言えば、あの後火傷が嘘の様に消え、今は自室へと連れて行き、ベッドの上で深い眠りでいつ起きるのか分からない。

 ディダはマルスが心配で動くのも躊躇うほどだ。

 それでもゼフォウが連れて行かれたままなのは非常に危険なのは変わらないのは分かっていた。

 立ち上がろうとした時セェロが言う。

「待った、彼を放置して探しに行くんで? ゼフォウの居場所も分からないのに?」

「……匂いなら追える、それに園内の安全を脅かしたんだ、許せる訳ないだろ!」

 相当頭に来ているのだろうディダの声は荒々しく、誰もが怯えてしまうだろうが、セェロは本調子では無いのを分かってディダの肩を掴む。

「あんたも、相当血をやって貧血気味じゃないですか?」

 セェロの言う通り、実際立つのだってやっとだ。

 どうしてもゼフォウを連れ戻したい、保護者としての責任があるからこそで、絶対彼を1人にしてはいけない。

「別に、僕はゼフォウの保護者だ。必ず連れ戻す」

「自分達が見つけて連れ戻しますので、休んでて下さい」

 本来なら誰かに頼めるなら頼みたいが、絶対にセェロにだけは頼みたくない理由があった。

「信用出来るか! お前らも裏社会の人間だろ」

 匂いで分かる。

 血生臭いどす黒い匂いだ。

 セェロは否定をせずに認める。

「えぇ、そうです」

 その素直さにもあまり良い印象を受けず、ただ睨むしか出来ないディダは悔しさで唸る声が漏れた。

「……」

「ですが、子供らを奴隷にも商売道具にはしません。部下として入るならまた別ですがね」

 最後の言葉は絶対に人として扱わない暗示が感じられ、ディダは警戒を緩めない。

「結局、使う気じゃないか!」

「表も裏も人を使わなきゃ動かない。人して使います。奴隷として決して扱わない、それは誓います。勿論、ゼフォウがここに居たいと言えば連れ戻した後は何もしません。同時に先も言ったように手は出しませんし、出させません」

 終始セェロは人として扱うのと、ここには手を出さないと言う言葉と態度は本当のようで、ディダも言い合いする気力ももうない。

 結局椅子に座り直し、項垂れるもある事に気が付いた。

「何故、ゼフォウ君を? ……まさか⁉︎」

 そうまだゼフォウの名前を言っていないのにずっと最初から名前を言っているのだ。

 ゼフォウが前に言っていた。

 客の中で気に入った名前で言っているのを思い出し、改めてやはりまともな人間がそういう店に行くはずがないのだ。

 ただセェロもそこは否定する。

「大丈夫大丈夫! 手なんて出さないし、嫁に殺されるわ」

 嫁が居るのにそんな場所に行くのかと、サングラス越しから凄い白い眼差しを受け、平然と装うセェロも苦笑いするしかない。

 そんな状況を知らないスオウが部屋に来た。

「社長、手当てと掃除終わりました」

 セェロも腕時計の時間を見て、少し経ち過ぎているのが分かると些か眉間に皺が寄るも、すぐにいつもの平然な顔になって、部屋を出ようとしたがディダは認めようとしなければお願いするつもりもない。

「んじゃ、セガと合流して迎え行きますか」

「誰がお願いした!」

 言い合う時間も惜しいのだろうが、ディダの気持ちもよく分かるし、疑われて当然だ。

「こう見えて、早く迎えようと努力はしてたんですよ、最初は穏便に金だけで済ませようとしたけども、客が名のある金持ちも多く、中々縦に振ってくれなくてやむなく強硬手段に打って出たんですが、病気が分かって捨てる序でに金になるって話があって売りはしたがどこの組織かは知らないの一点張りだったんですよ」

 ゼフォウの話をある程度把握しているが、どこまで本当なのかは分からず胡散臭いままでつい言葉が出てしまう。

「胡散臭い」

「本当ですって、それに自分らずっと探してたんです。必ずやゼフォウを連れてきましょう。その時はちゃんと良い返事下さいね」

 セェロはそう言って、部屋を出た。

 事務室前にアダムが立っているのにセェロは気付き止まる。

「お前らはゼフォウを武器として道具として使うのか?」

 アダムの問いに何故と不可思議な事を言うのかと言いたげな目でセェロは答えた。

「違いますが」

「答えろ」

「人として育ててやりますよ。ただ、なにぶん、自分らは表立って歩く事は出来ませんが」

「なら何故こだわる?」

 ディダと同じく、それ以上にアダムは疑って掛かっているのがセェロでも分かる。

 保護し、徐々に心を許し始めた彼をせっかく表で歩ける様になったのに、どうしてまた裏の暗闇に落とさなければならないのかと――。

 だからこそセェロも質問する。

「逆に聞きます、同情で子供を保護してるんです? それとも彼らを人として扱いますか?」

「愚問だな、あの子らにはあの子らの人生がある。それを見守り、力があったとしても扱い方さえ覚えれば、あの子らの生きる道を支えになってくれる筈だ。私は我々はそう願い寄り添う」

 確かに真っ当な答えだ。

 しかしセェロは見透かしている態度で、外へと向かう。

「流石神に仕える者、人生なら彼らの意見を聞いてからにして下さいね、ではゼフォウを連れ戻したらまた来ます」

 まるで最初から自分達の元に来るかの様な態度で、アダムはゼフォウを心配するしか出来ないのが悔しくて腹立たしくもあった。

 何も知らないもうすぐ秋が見え隠れする空気はセェロ達が開けた玄関口から入ってくる。

 少しだけ頭が冴えた気もするが、今は仲間からの連絡を待つしかなかった――。

 

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