侵入
数日は過ぎ、無事に子供達が親元へ戻った話をディダ達大人は聞かされた。
これで一安心かと言えば、そうでは無く、新たな心配がある。
未だに動きを見せないガジェールの事だ。
ただの負け犬の遠吠えだけで終わるならまだ良い。
即戦力になる大人が少なくなった今、何処かで聞いていてもおかしくはないのに、手を出さないのが不気味だ。
いや、あちらも慈善団体ベネヴォレンティアとして動いている。
表で動き手を出すのも可能だろう。
そんな怖さを感じるも、幸いその辺は斎藤や他の管理者になんと嘉村家も動いてくれているらしく、下手に動けばあちらがボロを出してしまう恐れはあるのだから手は出しづらい。
だから来ないとは限らない。
今は細心に気を付けて行くしか無いようだ。
しかし限界だってある。
「あーなんで俺だけ1人庭先だけなんだよ……!」
窓辺で1人ただずむしかないゼフォウは苛立っていた。
これはガジェールのせいだ。
黒麟村だけで遊ばせるとも出来る。
でも、あの時祠を破壊し、再生させたばかり、まだ少々不安定だからこそ入られたと絆は分析して、並べくは園内で過ごしてほしいと言われ、ゼフォウは最初大人しく言う事を聞いていた。
しかし、他の子達はそれぞれ遊びに出たりしていて楽しそうにしているのを見ていると段々ストレスになり、限界が近い。
そんなゼフォウを放っておく訳にも行かず、冬美也も一緒に園内で過ごしていた。
最近、あの男の名前を知ってから、こちらもあまり好いていない。
「怨むならガジェールでしょ?」
ディダ達は最善策の1つを取っているだけで、ゼフォウに意地悪しているわけでは無いのだ。
勿論、ゼフォウだって分かっての事で、ガジェールがどんな奴かも知っていた。
「……あいつは嫌いだ。あいつは客として来ていたんだ。しかも根回し出来る程の地位もある」
この時、総一達もその慈善団体を目にしていた為、憶測でしかないが、その憶測はかなり信憑性が高く、運悪く耳に入ってしまったと考えられる。
「そんな奴がなんで今更? やっぱり保護したせいで話が耳に入ったとか? 表のその慈善団体結構デカいって父さん達から聞いてたから自然と入っちゃったとか?」
それでもここに来た以上、ゼフォウが居るのを確信したか異能を持っているので、人身売買目的が大いにあり得るだろう。
ゼフォウとしてはもっと恐れているものがある、それは回りがあまり協力しないところだ。
「かもな、でも悪い話が多いのに回りは見てみぬふりだ。あの客が来なくなったのもアイツのせいだ、アイツから口にしていたから」
唯一の救いだったのかもしれない。
それを無くせる程の権力があると言うべきなのだろうか。
金任せでゴリ押せるならあっちも出来たのではないだろうかと考えてしまう。
きっともっと深い事情があったのか、或いは興味を無くしたかだ。
万が一後者なら1番傷付くのはゼフォウだ。
冬美也はゼフォウととにかく付き合い、もう大丈夫と言われるまでは一緒にいる事にした。
「とりあえず、良いって言うまでは僕らも園内にいるからさ」
「ごめん、ありがとう」
園内から飛び出す理美の姿があった。
「どうしたんだろ?」
窓辺から消えたかと思えば、クマを連れて戻って来て毛が逆立つ。
「なんでクマ連れて来たんだ理美の奴⁉︎」
ゼフォウが言っている間に、ディダ達も慌ててやってきた。
一体何の話をしているのか気になり、戸を開ける。
「あん時のクマじゃん!」
「何があったんですか?」
「いや、狸なんだかアライグマなんだか分からない生き物が事務室の窓叩いてたから、なんだと思ってたら理美ちゃんが急に飛び出して、今に至ると」
クマの方を見れば、まだ驚いたまま毛が逆立っているのが見ているだけでも分かるが、どうも今いる人間に対して怯えていると言う訳では無いようだ。
よく見れば、左前足にべっとり血が付いている。
あんな賢いクマがとうとう人を殺めてしまったのかと皆驚いているが、クマの話を聞いている理美が説明した。
「クマは怪我してないんだけど、知らない人達が来て驚いて引っ掻いちゃったって、臭い嫌で舐めてないから大丈夫なんだけど、落ちなくて困ってるんだって」
一緒に来たマルスはつい言ってしまう。
「人引っ掻いちゃったのってやばいよ!」
どう考えても処分されてもおかしくはない。
「処分されちゃう⁉︎」
ディダが近付くも、やはり違うモノと分かって怯えているが、殴ったら殴り返されるだろうと分かってそっと左前足を出す。
「ちょっと待って、調べるから……コレ、何処でなのか聞いて欲しいんだけど」
ただオースとアースがクマの左前足を見て何かに勘付いたが、まだ理美には知らせないようにアースは言う。
「あー、これは」
「口にしないで、理美は知らないしまだ精神的に幼いの」
「お、おう」
オース的にはどちらでも構わないが、アダムを見て仕方がないと言った感じだ。
それを知ってか知らずか、理美はディダに話をした。
「向こう、なんか知らない言葉を話している人達が居て、動物達も警戒してたんだけど、そっちから向かって来たから、驚いて振り払おうとしたら綺麗に顔面に入っちゃったんだって」
普通の人間なら熊が居るのが分かった時点で絶対に近付いていけないし、もっとも見えた瞬間から背中を見せて逃げないのが出会った時の対処法だ。
アダムはそっとディダにだけ耳元で話す。
「たぶん、イビトだ」
「でしょうね、この世界の匂いじゃない」
「なら、私も探す……きっと例の男の仕業の可能性もある。事が思い通りに行かず呼んだ可能性があるだろう」
「……分かりました、僕も探します。子供達はマルスとアリスにお願いします」
ディダとアダムは話し合いの後、それぞれにお願いをする。
「マルス、アリス、暫く私達は熊の被害者を探す。お前達は絶対に子供達を危険だから出すな」
これだけで、もう何かあったのは確か、マルスもアリスもコレばかりは大人しく頷くしかない。
続いて下手に舐めてしまい、人の味を覚えてしまわないようにと理美に伝えようとしたが、返ってとんでもない事になる。
「クマさんには舐めないでって言って毒だら」
理美にはそう伝えるよう言ったのだが、理美は毒をすっ飛ばす。
「舐めたら死ぬって」
『直訳し過ぎ‼︎』
確かに毒はイコール死ではあるが、そういう意味ではない。
お陰で怯えてずっと不安そうな鳴き声で鳴きっぱなしだ。
マルスはホースを取り出して、クマの左前足に水で流そうとする。
「とりあえず、ほら、クマさん、手を出して、洗うから」
すぐにアリスはマルスを止めた。
「あんたは血で怪我するタイプなんだからこっちでするから、ほら、大根の汁でも持ってきて確か血痕とか落ちるし」
大根の汁は血の跡を取る手法だ。
「ありがとう、でも放っておくのも危ないですよね」
ホースをアリスに渡しながらも、このままだと本当に動物達に被害が、いや動物達が加害を加えかねないのが心配で仕方がなかった。
勿論、ディダもだが、自分だけ見に行ってもいいが下手にその連絡が彷徨かれたら危険だ。
せめて即戦力を置いておきたい。
「見に行くにしても人手がねぇ、ほら前は管理者達が未然に防いでくれたってのもあったけど、それだけの人数が居たからって言えばそれまでだし」
「それは分かります、誰かに頼むと言っても……」
アダムの力で惑わすのも可能だろうが、それは使い時があって即戦力とは言い難い。
そんな時だ。
「どうかしましたか?」
絆が何かを持ってやって来た。
ディダは驚くも、驚かれた絆は不服だ。
「うおっ! き、絆さん!」
「そこまで驚く必要ありますか?」
「い、いやぁ」
どう言えば良いか分からない中、マルスがここぞとばかりに冬美也達のいる窓辺から入って軽やかに消えた。
「とりあえず、大根の汁貰えるか眞子さんに聞いてみるよ」
ディダとしては逃げないで欲しかった。
「逃げられた……!」
どうせ気付かなかったとか言い訳するだろうと思い、クマに話しかける。
「で、どうしましたか? ツキノワグマさん」
ビクッとクマが驚き立ち上がってしまう。
普通のツキノワグマよりも大きな2mのクマを見ると、やはり貫禄が違い、アリスも驚いた。
「いや、本当にデカイわ」
「ディダより若干大きいな」
アダムもその大きさに感心してしまう。
「クマ、変な奴が来て驚いて叩いちゃったんだって」
「なるほど、だから血が……ここの住民では無いので、そうですね、舐めてませんよね」
「舐めてないよ、死ぬから」
絆の意味深な態度は余計クマを怖がらせる。
それ以上に意味の分からない理美の言葉に、ディダに対する視線はより痛さが増す。
すぐに違うと頭を振るが、どうしても疑いが晴れない。
アダムはこのままだと話が進まないと出るに出れず、絆に訳を話した。
「とにかく! すまないがその住民の者ではない奴がまた出た以上、流石に放置も出来ん、それに結界の不安定さがあってもこう易々入って来るのも怪しい。一応見には行きたいが、今戦力になる者も非常に少ないのですまないが戻るまでここに居てくれないか?」
軽くため息を吐く絆は了承し、ここの翼園にはより強い結界を張ることを約束する。
「……分かりました。下手に私が回るより良いでしょう、今日は晴菜様達も屋敷に1日いるようですので、多分大丈夫でしょうし、ついでにここの翼園に強固な結界を張っておきますのでお願いします」
「すまんな、ディダ行くぞ」
「分かったよ、それと」
「なんです?」
今度はなんだとばかりの絆だったが、ディダの言った言葉は理解出来た。
「ゼフォウ君を見ていてあげて、彼は漸くここに慣れ始めたばかりだから」
「知ってます、見つけたら半殺ししてここに連れてきなさい、こちらで片付けてあげます」
『それ命をで合ってる?』
あまりに不敵な笑みの絆にディダは言いかけたが心に止めとくだけにした。
「それでは行ってくる」
「んじゃ、お願いします」
「生け捕り失敗したらタダじゃおかないからな」
絆の激励にディダの背中は悪寒で毛が逆立ったまま中々収まらない状態で山へと入っていく。
それを見届ける理美にアリスは入るよう促す。
「ほら、理美ちゃんも中に入って、クマは理美ちゃん居なくなると暴れるとか無いなら中に居た方が良いわよ」
「うん、クマ」
クマ的には居ては欲しいが、危ないと知っていれば話は別だ。
「だいじょうぶ、さすがにココであばれたら、ぎゃくにアタシがバンゴハンだよ」
「なんて?」
ふごふごと鳴くクマがなんて言ってるのかアリスは分からないので理美に聞く。
「晩御飯になりたくないから暴れないって」
「分かっているじゃない、クマさんは」
この瞬間、アリスも危険な存在としてクマに認知される。
「ほら、理美様も入ってください。それとツキノワグマさんも前足綺麗にしたら帰ってくださいね、見られると本当に晩御飯とはく製ですよ」
絆がなんて言っているのか、クマでも分かる。
晩御飯とはく製と言う言葉だけは直接脳内に言われたから――。
理美は大人しく遊び部屋から入ると、なんとなくゼフォウが元気がないのに気が付き言う。
「どうしたのゼフォウ?」
「ん、いや、なんか俺のせいかなって思い始めっちゃっただけ」
冬美也もそれに関してやはり気にかけていた。
「ゼフォウらしくないよ、ディダ達が戻って来たら甘やしてもらえば?」
わざと言ったわけでなく本気で甘やかしてもらうべきと思っての言葉だ。
「う、うっせ」
「そうだよ、サングラスまだ取ってないんだから戻って来たら取らないと」
「なんでノルマ的に言うんだよ」
理美のノリの良さと言うべきか、天然と言うべきかよく分からないが笑ってしまう。
そうして、翼園の外に居るのはタヌだけで帰ってくるまで大人しく待つつもりで丸まっているが、何かの気配に辺りを見渡す。
これは不味いと感じるが結界を張られて後な為入れない。
その内何か不味いものが現れるのを確認し、慌てて嫌だけど行くしかないと走り出した。
先に現場到着をしたのはディダだ。
アダムとは二手に別れ、今周辺の調査を行っている。
「確かに匂いはここだ、フィリアちゃんみたいな能力は無さそうだけど……?」
複数の気配と何かに入ってしまったと言う感じだ。
下手に動けば攻撃を受けかねない。
クマがケガをさせたと言う連中の1人の血だけ微かに香る。
同時に入ってしまったせいで層が分厚くなっているのも分かった。
『困ったなぁ、あっちも警戒しているようだ。多分十中八九、イビトの狩人だ』
さてどうしたものかと構えると、どこからか数人の男達の声がする。
「やっべ、実験体のガキ共連れて来いって言われていたのに、まさかオリジナルの方が来たぜ」
「これは生け捕りにして売っちまおうぜ!」
「馬鹿言え! こっちは顔をやられたんだ! 全員焼け殺しちまえ!」
「どう見てもお前が悪いってぇの!」
風の無い場所、走り抜けるにしてもこの層からは抜け出せないだろう。
それなら声の主達を見つけ出し、誰が雇い主か問い質した方が早い。
ディダは1歩足を前に出す。
一瞬だけ葉の擦れた音が聞こえた。
来ると身構え、視界に入る狩人の姿にディダも合わせて動き、狩人は鉈の様な物を振りかざす。
ディダは両手を龍の鱗で覆い、鉈を掴み粉々に砕く。
「もういっちょ!」
狩人が隠していた、鋭利なナイフを取り出し、ディダの龍の鱗で覆われていない場所を切りつける。
切りつけられてもすぐに離れてが、若干の違和感にディダは気付く。
「……あ、やばいな、これ」
毒だ。
麻痺毒系か神経毒系かどちらにせよ、このままではまずい。
狩人達はこれ見よがしに一斉に動いた。
「畳みかけろ!」
「一気に片を付ければあっという間だ!」
「殺さずに生け捕りだぞ!」
「わーてるよ!」
ディダは動きが鈍っているものの狩人達の動きは読めており、どの位の毒で自分が動けなくなるかも動きながらなんとなく分かってしまう。
剣や弓矢、挙句には何を飛ばしたのか分からない鋭利な物、それを躱す。
だが次第によろけ、視界も悪くなる。
「生け捕りじゃぁあ」
「それは流石にごめんだ」
急に狩人達の視界が真っ暗になり、何が起こったのかと辺りを見渡すが何も見えず、悲鳴だけが聞こえた。
仲間の悲鳴が1人2人と増えていく。
「一体何があった!」
声を上げたが、悲鳴は一切消えシンと静まり返り、音沙汰もない。
「くそっ! 聞いていた能力とは違うぞ!」
「ほう、狩人にしては一応どんな系統か調べるんだな」
声が後ろから聞こえ、振り向けば急に光が差し込み目が眩む、その直後自身が宙に浮いているのに気づく頃にはもう地面に頭を打っていた。
「ぐはっ……」
暗闇は煙の様に消え、アダムとディダがいた。
「二手に分かれて正解だったなディダ」
「そのようで」
ディダは狩人達を縛り上げ、1人だけ叩き起こす。
「ではお前ら死ぬ前に吐いてもらおうか、誰に雇われたか」
「ぐふ……誰が……死ぬのに言うか」
どうせ拷問しても話す気の無い連中なのは分かってのことだ。
それならとゆっくり手を近づけながらアダムは幻覚に愛されし者の力がどのように使えるかを言いながら狩人の1人の額に置こうとした。
「なら、苦痛を脳内に与える方法ならいくらでも思いつけるぞ? やってみるか? それで死ぬなら死んだで構わないからな管理者は」
一瞬嫌なものが見えた。
死よりも怖い何かが、これは不味いとすぐに口を割ったが他に居るのもほのめかす。
「ひっ! ガジェールだよ、狭間の闇市で声を掛けてきた羽振りも良い、珍しいのも居るから生け捕りでも何でも狩れば良いし、それに俺らだけが来るはずないだろ?」
「他がどこにいるのか言え」
「流石に言った所で間に合うかな?」
もうこれだけでどこにいるのか分かってしまい、ディダは慌てて戻ろうとすると、狸がびくびくしつつも走って来たではないか。
しかもあの狸、たまに理美に話しかけてくるタヌだ。
こんな時にどうしてと思っていたが、必死に怯えながらも、ディダの足の裾を引っ張っているのが見え、これは嫌な予感が的中してしまう。
「すぐに案内してくれ」
そういうと理解してくれたのかタヌは走り出す。
アダムも追いかける前に、狩人に言った。
「1つ良い事を教えてやろう、アイツはこう見えてどれが繋がりを持たせる道具かよく理解している。ゆっくりと死を楽しめ屑共」
狩人は他の仲間全員を見て、壊された腕輪やリングに壊れていく仲間の1人だけでなく、消えゆこうとする者すらおり、その恐怖に耐えられず絶叫する頃にはアダムもディダも既に翼園へとひたすら走り続ける。
しかし真っ直ぐには走らないタヌ、きっと既にあいつらの仲間の結界内と言う事か。
無事であってくれと願うしかなかった。
全く知らない翼園では、絆がまず違和感に気付く。
『おかしい、しっかり張っておいているのに、数名紛れ込んでいる?』
遊び部屋で遊んでいたゼフォウがおもむろに立ち上がり、トイレに行こうとした。
「俺、トイレ行ってくる」
「ならぼくも行く」
「私も行く」
ついでとばかり他2名も付いて行く。
流石に今の現状を考えると並べく1人にさせたくはなく、絆は建前として理美に付いていくと言い、一緒にトイレまで同行する事にした。
「なら私も行きましょう、理美様だけ女の子ですし」
若干違和感を感じるのは絆だけではない。
トイレに行っている間も何か居る気配を感じる。
理美はトイレから出た後にトイレ前で待っていてくれた絆に言う。
「ねぇ、絆さん」
「なんです?」
「人の気配ない?」
下手に刺激してパニックを起こされるのは避けたい絆はさりげなく嘘をつく。
「多分、気のせいでは?」
ただ後から男子トイレから出てきた冬美也も同じものを感じ、しかも鮮明に人数まで言い出した。
「そうかな? 5人位増えてませんか?」
「5人?」
「分からないんですが、なんか遊んでいる時にモヤっぽいのがあってそれから男の人なのか分かりませんが5人ってのだけは分かる……って感じで」
流石に冬美也の話に後ろで聞いてたゼフォウですら怯えた。
「何それ超コエェよ」
「おかえり」
「お、おう」
理美は一切気に求めず、普通な感じに拍子抜けしてしまう。
「とりあえず、食堂に行きましょう。もうすぐ昼食ですよ」
「はーい、今日の昼ごはんなんだろなぁ」
絆に促され、皆食堂に向かう中、何も無い場所からヌルッと1人の男が出てきた。
手が子供達に忍び寄る。
掴む瞬間、頭を絆が掴んだ。
「誰だ? 貴様らは? 名を名乗れ」
「誰が言うかよ! くたばれが!」
男は隙を狙ってナイフで絆の脇腹を狙う。
しかし通ってない。
いや、何かが当たって歯が立たないのだ。
「はっ? なんだ?」
「あなた達はすぐに避難しなさい!」
絆に言われて、冬美也はすぐに理美達の手を引っ張るも、1人だけ動かない。
「は、はい! ちょっと! ゼフォウ!」
そうゼフォウが動いかないのだ。
何かに意識を持って行かれているように見える。
「ゼフォウ! 急ぐよ!」
理美に言われてゼフォウがようやく我に返ったように見えた。
冬美也が後ろを見れば、アースが絆の脇腹に当てようとしたナイフをまさかの素手しかも片手で止めていおり、声が出そうになると静かにと合図を送られ、急いで2人を引っ張り走り出す。
それでも、他にも追っ手がおり、別方向から別の男が出てきて隠れる暇が無い。
「おら! 大人しく捕まれば痛い思いも……!」
だからと言って、攻撃ができない訳でも無く、ゼフォウが手を翳した瞬間に、男の顔が爆発した。
とは言え、威力もあの時とはあまりにも弱い。
男は痛さで踠くだけで、未だ元気だ。
動揺しているのかと、ゼフォウがいつもの調子が出ないのに驚く。
「あんまり威力が出てない?」
今まで引っ張っていた冬美也だったが、隠れられる場所を考える暇もあまり無いし、いつ襲われてもおかしくなかった。
ここで理美がある提案をする。
「とにかくこっちに!」
そこは、壁の向こうの隠れ通路だ。
とにかくここに隠れていれば、先ずは発見されない。
あいも変わらず壁の隙間から光が入る。
その隙間から人の気配が無いかと確認しながら息を潜めた。
3人居ればそこまで怖くも無いが、まだ子供で怖いものに追いかけられているのだから緊張で気が狂いそうだ。
他に後3人いるとなるとどこから来るか分からない。
タレ目の男が徐に目を見開き、何かを凝視しながら歩く。
「ガキどもが隠れそうな所は……まさか、こんな所に?」
壁の向こうに隠れる理美達を見つけ、意気揚々とその壁を壊そうと近づいた時だ。
「我の主人から許可をもらった。ここで排除する」
右側から声がしたと思えば、真っ黒な物体がこちらを見ている。
喋ろうとした瞬間、既に黒に飲み込まれてしまう。
「はっ? だ――」
急に消えた男に驚き声を出しそうになるも、いつもの呑気な声につい緊張の糸が切れて隠し通路から出てきた。
「皆しゃまご無事でしょうか?」
「コマかぁ」
冬美也はコマで安心してしまうが、先ほど黒い物体は何だったのかと思い尋ねるも、コマは知らぬ存ぜぬを貫く。
「処でさっきのあれは?」
「さっきとは?」
「いやさっき居たでしょう」
「しゃぁどうでしたか?」
こいつ、白を切る気だとゼフォウが思っていると、理美は初めて見たのだろうコマを抱き上げギュッとする。
「もっふもふ!」
「もふぅ」
可愛がられるコマを見て男2人の感想がこれだ。
「なんかムカつく」
「物凄く分かる」
しかしどうしてこんなところに怪しい男達がいるのか分からない。
今まで一切そのような事なんて1度もなかったのにだ。
急に視界がぼやけたり、違和感を感じたり、一体どうなっているのかと不安がる3人を見てコマは話す。
「おしょらく、別の結界内でしゅね、しょのしぇいでブレている状態でしょう」
「まともにしゃべれや」
「まぁまぁ」
「土地神しゃまの力を悪用した形跡がありましゅゆえ、その元を退治しゅるしかありませんが、我々では今しょいつがどこにいるかはわかりかねましゅる」
「結界を悪用して別結界にぼくらはいるらしいんだけど、悪用した奴が今どこにいるか分からないってさ」
「でもこのままいると別の連中が来そうだし、他の子達も心配だ」
「早く探そう、きっと俺らみたいな子供を誘拐するのが目的だ」
自分達の声ではない、薄汚れた声に振り返ればあの時爆発を顔面に食らった男が立っており、しかも何かを振りかざす。
「正解だぜ、ガキ共、さっさと捕まってくれいや」
が、何かに当たりはしたが一体何が当たったのか分からない。
理美はよく見れば姿を消しているメリュウがその何かを真剣白刃取りをかまそうと失敗し当たっているではないか。
「あっ……」
「おい! なんで動かない!? くそ! これで動けなくする毒が当たらねぇじゃねぇか!」
一々なんて説明すれば良いのかと思うが、受け止めれなくて当たっていても大丈夫なのかと返ってメリュウを心配した。
ところが、いきなり普段の緑色から紫の龍になり、その男を噛んだ。
「イッテェ! なんだいき――!」
そのまま泡吹いてぶっ倒れてしまう。
しかも倒れたまま影へと飲み込まれ消えてしまった。
普通なら悲鳴の1つや2つあってもおかしくないのだが、もうどうしてこうなったのかという訳分からないまま終わってしまい、声もツッコミに近い。
「えぇぇ……」
一部始終見ていたゼフォウと冬美也はこの影の正体を知って、口にするも当人は変わらずの知らぬ存ぜぬを貫き、他の子供達を探す為匂いを嗅ぎながら進む。
「コマ、今、コマから影出て飲み込んだよな?」
「ぼくもそれ見えた」
「なんのことでしゅか? しょれより、はやく他の皆しゃまの元へ」
本来なら隠れた方が良い。
でも、先程みたいな隠れている場所を把握出来る者が他にも居る可能性もある。
隠れるならバラバラでも良いが、いざと言う時に避難も出来ない。
早く皆の元へと急いで向かうしかなかった。




