帰る子達と残る子達
5日後、日本の朝――。
「えぇぇ! もう帰っちゃうの⁉︎」
理美の声から始まる。
前もっては言っていたが日にちまでは言ってはおらず、急遽今日になったのだ。
ジルだってもう少し色々したかったが、子供達を連れて行く為に戻らなければ行けなかった。
「しゃあねぇだろう? フィリアとか他の子供達も今日出発だ」
フィリアや他の保護された子達も皆、帰れるとなり喜びもするが、すぐに離れるのかと嫌がってる子もいた。
「だが、人が居なくなると正直困るんだが」
アダム的には少しでも長居して欲しいのも本音だ。
同時に早く帰せる場所や安全な施設へと移動させたい。
ジルも分かっている。
「わーてるって、だから無闇矢鱈と外出んなよ、特にゼフォウ」
「なんで俺?」
普通に目の上のたん瘤なのだろうかとつい勘ぐってしまうだろうが、それでも外よりは断然安全でもあった。
「今は大人が少ない状態ほど、危険が増すのだ。もう少しすれば他の出来る者達が来てくれる予定だ、だから少し辛抱しておくれ」
本来ならこの人数でなら別段問題などはない。
だが、今回は前に来た例の慈善団体ベネヴォレンティアと言う団体は表向きの話はとても良いが、裏の話はとてもどす黒いと言われ、嘉村友吉ですらあまりいい印象は無いと断言されていた。
噂ではマフィアと繋がっているや表向きでは子供達の環境は良いだろうが、裏では奴隷や人身売買等も行う叩けば叩くほど埃が舞うような団体で、その代表者がガジェール・ヴォルバだ。
ゼフォウの怯えようからして、人身売買を行った人物或いは、客だった可能性がある。
なおのことゼフォウは安全な施設へと移送が出来れば良いのだろうが、下手に動かしている最中に襲われるのはごめんだ。
ただディダやマルスには徐々に心を開いているので、このままの方がゼフォウの心を治療するのが1番と考え、動ける人を今探している最中で、とりあえず近いうちには再度琴が戻って来てくれる。
他にも時間が必要と言われてはいるが来てくれる約束をしてくれた。
「……」
まだ納得は出来ないだろうが、無理にでも理解してもらわないとこちらも困る。
「とにかく、帰れる連中は帰さないとダメだろ? お前にとっては大事な仲間だが、アイツらにだって家族がいる。家族の居ない奴らも別の施設で大切にして貰っているから安心しろ」
「そうだけど……」
ジルはゼフォウの雰囲気で分かる。
「何か悩んでる?」
普通に羨みしいのか、よく分かっていないのだろうと思っていたのだが、ゼフォウの言葉に重たさを感じた。
「いやそうじゃないけど、出て来れて幸せなのに、結局ああいう連中が彷徨いていて、なんで俺らは幸せになっちゃいけないのかなって」
ディダがやって来て、ゼフォウの為にと言う。
「ゼフォウ君を幸せにしたいから頑張らないとね、僕達大人が」
一生懸命頑張って来たのに幸せを感じさせないのは申し訳ない。
だからこそ、どんな形にせよ、まずはこの状況を如何に護りきるかを考える。
しかし、ディダも良い加減屈むのは止めるべきだと皆が思った。
案の定、ゼフォウはまたもやディダのサングラスを奪って逃げ出すのであった。
「なんで⁉︎」
「お前も良い加減学習しろ」
――午後、マイクロバスが着き、保護された子供達数人が乗る。
理美はフィリアが乗ろうとした時に言うとフィリアも手を振りながら答えた。
「フィリアちゃん、またいつか遊ぼうね」
「うん、またいつか必ずね」
他の子達もお見送りとばかり顔を出す。
ゼフォウもやって来て言う。
「皆元気でな」
ぶっきらぼうなゼフォウに対してフィリアは心配そうに言うが、素っ気ない態度なままなゼフォウに困った笑い方でお互い笑い、そのままバスは出発する。
「あんたこそ、人に迷惑かけないでよね!」
「はいはい、またなフィリア」
「んじゃねゼフォウ」
冬美也もバスを見送る中、寂しさがあった。
皆もだ。
お別れ会は一応したのだが急遽だったし、午後までに適当なお菓子を作ったり、買ったりでただただゴタゴタの何の為の会か分からず迎えてしまった為、未だに未練はあるだろうがある意味思い出として見ればかなり印象を残した。
保護された子供もゼフォウと冬美也を含め、翼園に残ったのは数人だけだ。
いずれ、冬美也も帰り、理美も申請が通れば嘉村家に養子として入る。
そうなると理美はともかく、ゼフォウ達はどうなるだろうか。
坂本が現在残る子供達にも戸籍を用意する話で纏まっていると言っていたが、理美はともかくゼフォウ達みたいに年齢不詳、出身地も分からない。
今は斎藤に頼んでみているが、坂本達とも相談してもう日本国籍取らせるかと話が纏まりつつある。
しかし他の各国からも引き抜きを考えている節が垣間見えて、実際、近くの国が口を出しているらしく下手すれば話がと頓挫しえないまでも起きていた。
ただ今はとにかく安全な場所を提供する為に行動するしかない。
そんな話になっているなんて、子供達は皆知らないのだ。
勿論、ゼフォウ達もどうなってるなんて知る由もない。
数時間経ち、殆どの子達は切り替えが早く、今は学校組の子達は皆、もうすぐ始まる学校の準備を始めていた。
ゼフォウは何気なしに部屋を覗き、何をそんなせわしなくしているのかと晃に尋ねる。
「何、そんな色々詰め込んでるんだ?」
「おっ、大人を凍り付かせた奴、学校だよ学校」
「学校って何?」
普通の感覚なら、驚いて当然だ。
閉園して来たとは聞いているが、急に来たり別の園に引っ越しが決まったりと怪しい部分がも多い。
何よりゼフォウがあそこの慈善団体ベネヴォレンティアから逃げ出して匿ってもらっていると言う噂が子供達の間で広まっている。
無論ディダの方で否定しているが、名前の由来の話のせいであまり説得力がなく、そっちの方がしっくりくるまであった。
で、案の定学校の存在を知らないのは驚きで、日本に住んでいればまずそんな話なんて出ないのだ。
晃は必死に考え多分こうではと思いながら話す。
「まずそこから!? なんて言えば良いかなぁ? 勉強する為に皆集まって教えてもらう場所と言うべきか……」
「楽しいの?」
「ゼフォウは1回聞けばすぐ覚えられるけど、皆が皆覚えられないから何回も聞いたり、書いたり、それを皆で教えてもらったり、でもやっぱりどうでもいい話とか休憩時間遊んだり、給食が楽しみだったり、意外と楽しいものだな」
結構苦になる事が多い学校でも、やはり仲間、友達がいるだけで全然変わってくるのを再発見した気分でいた。
「へぇ、じゃあ俺もその内学校行けるかな?」
「園長あたりから許可が出ればな、理美だってなんかまだ出ないらしいけど、行きたがってないからアイツ」
「ふぅん、理美に行きたくない理由聞いてくる」
「いやいやいや、アイツ勉強苦手だから無理に話すな――っていねぇし!」
晃が止めるも、もうゼフォウの姿が消えていた後だった。
「えっ? 学校行きたくないのかって?」
遊び部屋で遊んでいた理美に学校行きたくなのかとゼフォウがいきなり聞いてきて戸惑う。
「そう、理美って色々凄いのにどうして行きたくないのかって」
「人間付き合いは苦痛です……」
絶望した人間の姿がそこにあり、見回りに来ていたディダが間に入って説明した。
「人生敗北者みたいな顔しないの! 理美ちゃんみたいに学校苦手な子もいるの、友達作るの下手な子は特に喋るの苦手だし、覚えるのが苦手なら尚更だよ」
「理美はどっち?」
「どっちも」
ゼフォウからすれば、最初に出会ったのがあまりにも凄く、冬美也を助ける為にあれだけの判断が出来、それ以上に直感と言う言葉を使うが実際は先見の能力の凄さを讃える。
「えぇ! 理美って意外と直感が鋭いと言うか、とにかく判断する動きが凄いのに?」
「いや、それも嫌われ原因だったし、気味悪がられてたし」
褒めているのに自身で傷つけて行く理美に対して、ゼフォウはその能力のお陰だと褒めた。
「そんな事ないし、そのお陰で冬美也無事だったし、いっそ先の答えだって見えないかな?」
確かにと行きなり気付く理美に対してディダは言う。
「そういうのに使っちゃダメ、それに覚えてないと意味ないでしょアレ?」
一気にしおしおになる理美を見て、申し訳ないが事実でもあるので仕方がない。
「なら次の問題が出て来る勉強で丸暗記すれば良いじゃん」
今度はなるほどと顔になる理美を見て、コラコラとディダも苦笑いだ。
「ところで冬美也君は?」
「トイレだよ」
不意に、冬美也はどうやってここに来たのかとゼフォウが気になって聞いてみた。
「なんだアイツ、トイレか。そういえば冬美也ってどうやってここに?」
「拾った」
「拾った?」
「うん、理美ちゃんが熊達に頼まれて拾って来たんだ」
流石に熊の生態等の図鑑を見てからのゼフォウはクマに対しておかしいと思い始めるも口に出すのをやめた。
『マジかよ、あの熊、生態おかしくないか?』
けれども、理美が凄いと再度褒めた時だ。
「でも熊とも仲良くなれるのも凄いぜ!」
「う、ん、でも」
「何困らせてるの?」
「うぉぉ!! どうしたんだよ冬美也!?」
「何してんの?」
「おいおい! ちょ、1回来い!」
驚いて理美から離れるも、何故か殺気が収まらない冬美也にゼフォウはとりあえず冬美也を連れ出した。
遊び部屋から離れ、誰も居ない図書室で話を聞く。
「どうしたんだよ急に!」
「急って何が?」
どうやら一切の無自覚である事がゼフォウでも理解出来てしまう。
「無自覚かよ!」
「無自覚って何が?」
とりあえず冬美也にはきちんとそう言う関係ではないと伝えなくてはと思い言うも、当人はそれに対して腹を立てていたようだ。
「理美と俺が話していた時だよ」
「……なんかムカついた」
ただし無自覚な上、鈍感な為未だに分かっていない。
「それ! 一体どうしたんだよ?」
「ゼフォウこそ、どうして理美と?」
「いや、学校について話をしてただけ」
「じゃなんであんなに接近してたの?」
「その殺気はやめろ、学校が苦手だって言ってたから色々出来るのにって言ってただけだよ」
流石に理解してくれたようで冬美也は笑った。
「そうなんだそれだけだったんだ」
「うんうん」
が、次の瞬間顔が凄い形相でこちらを見て冬美也は言う。
「あんまり近づく必要なくない?」
「怖いわ!」
本当に無自覚は恐ろしいとつくづく感じるゼフォウだった。
結局、ゼフォウもどうして冬美也があそこまで理美にこだわるのか分からず、夜、皆が寝静まった頃にこっそりマルスの部屋へと遊びに行く。
「マルス居る?」
「ゼフォウ君、今日は大丈夫?」
「うん、全然大丈夫なんだけど、冬美也が妙に変になったんだけど」
「変? とりあえず中に入って」
「うん」
部屋に入ってすぐ、ベッドではなく椅子に座る。
やはりベッドにあまりいい印象が、ないのが少し分かってしまう。
他の子達は意外とベッドに座ってしまうし、勝手に寝転んで寝てしまうなんて事もある。
勿論、ゼフォウみたいに椅子に座る子もいるが、大抵年相応になった子で、そういう子は進路相談が主だ。
マルスは事前に温めていたココアを手渡す。
「はい、これココア飲めるよね?」
「飲めるよ、あのチョコのやつでしょ?」
「そうそう」
ほど良い温かさと甘い香りを堪能しつつ飲んでいるとゼフォウは、話したい内容ではなく、理美がココアに対し苦手なのを思い出す。
「甘いよねコレ、そういえば理美って、意外とこれ飲めないって言ってたの驚いたよね」
飲めなくはないらしいが、あまり好き好んで飲む事はないらしく、眠れない時などはホットミルクをよく飲むそうだ。
ただ普通の固形物のチョコとか生クリームと混ざったチョコは平気とちょっと変わっている。
「普通のチョコとかチョコの生クリームとかは平気だけど難しいのかな? でさ、冬美也君がどうしたの?」
マルスに話を戻され、そうだったと笑いながらも、その時の冬美也を思い出し、ぞっとした顔となりおどろおどろしいものを見たかのように、ゼフォウは言った。
「理美と話してたら凄いおっかない顔しててさ、普段あんな奴じゃなかったのに何があったんだ?」
その話を聞いた直後、彼らが来る前にもあった。
麗奈に理美が好きなのかと言われた時に冬美也は宇宙へと思考が飛んで行った話だ。
マルスはそれを聞いて、実際笑ってしまったが、その後冬美也を見舞いに連れて行った2回目で事件が起きたとディダから聞かされ、今度は頭を抱えてしまった。
ここまで自覚がないのも怖いものだと思って言う。
「無自覚は恐ろしいよねぇ。きっと好きになったとか? 前にそれが原因で色々あったんだよねぇ、結局場を設けたら後からカオスになって結局告白出来なかったっぽいんだよね理美ちゃん」
流石に頑張って告白しようとした理美には同情する。
ゼフォウは告白を知らない。
今まで経験すらない言葉だ。
「告白何それ?」
マルスは告白について話す。
「好きな人ともう1歩先に進む為の大事な1つが告白、好きと伝えてすんなり受け入れてもらえる事もあるけど、断られる事もあるから結構勇気がいるんだよねぇ。その先が付き合うって意味で更にその先には結婚もあるんだ」
好きだと伝えるのを告白と言うのかと納得したゼフォウはマルスもしたのか気になった。
「マルスはしたの?」
この瞬間、数分いや10分は軽く掛かって、マルスは重い口を開く。
「…………ディダばかりかもっていて、全てを蔑ろにした結果の末路がコレだよゼフォウ君」
前、アリスに聞いた。
マルスはいつもディダばかりかもっていたものだから、婚期逃した上に今や介護要員だと言う事を――。
「介護要員お疲れ様です」
「うん……ありがとう」
あまり嬉しくない悲しみが伝わる中、普段はそうでもなかった冬美也があんな態度で怒る必要性なんてないのにとゼフォウは不服を述べる。
「でも今まで気付いていなかったくせに、今更気に食わないからってあの態度はないよな!」
お疲れと言おうとしたが、その時にマルスは気付いてしまう。
「ん? そうでもないかも?」
無自覚ならそのまま普通に接して終わっているはずなのだ。
それなのに無自覚に怒ると言う事は冬美也がちゃんと意識始めたのではないか。
まだ状況を掴めていないゼフォウはもう置いてけぼりだ。
「はっ?」
「初めて嫉妬したのか、なら良い成長と見て捉えるべきか、いや、ヤキモチならぬ嫉妬だから加減覚えさせないとダメかも?」
「おーい、話が見えてこないぞ」
一応返事はくれるが、またすぐに置いて行く。
「冬美也君、ようやく自覚持ち始めたって事だよ。そうなると、部屋は分かるべきだよなぁ。でも、魘されても困るし――」
「で、僕の元へ……ね?」
マルスをそのまま放ったらかしにして、ゼフォウはディダにありのまま説明をした。
「だって、相談つーか、愚痴つーか、話したい事山ほどあったのに、置いて行かれた!」
「なるほどね、んーもう遅いし部屋に1度戻るかい?」
もう深夜の1時だ。
「寝たいけど、なんか気になって寝付きが最近悪くて」
そういえば理美が入院中の時は来る事はなく、戻って来て早々に吐いたと聞かされている。
きっと慣れてきては来たが、体調が付いて来れなくなっている可能性もあった。
それに冬美也とは仲良く一緒に居たが、理美が戻って来てからはザム達とも遊ぶもいつの間にか1人になっている事が多く、心配して常に誰かがそばにいる状態だ。
ディダとしてはこう夜中歩き回るのは危険だと判断し、今からでもザム達が使っている部屋に入れようとしたが、なんとディダと寝ると言い出した。
「ならザム君ところに行くかい? まだベッドがあった筈だから」
「イヤいいよ、ここで寝る」
「えっ⁉︎ 良いけど、アリスは?」
「そっちはそっちで今見回り中でしょ?」
現在、アリスは見回り中であり、ディダの部屋に向かい中、一度見られて怒られている。
「でも、どうして僕の所に? もし嫌な気持ちを思い――」
ゼフォウは大人の特に男性が苦手と言うより恐怖対象だ。
だからこそ、あまり一緒に居てトラウマを蘇らせるような真似をしたくなかったが、当の本人はそんなそこまで気にも止めてなく部屋へと入って来る。
「大丈夫だよ、俺そこまで弱くないし」
「えぇ、良いけど」
ディダの部屋もマルスと変わらず簡素だが、よく見れば棚には古びた本が幾つもあった。
一応神父らしい物も飾っている位で、見る物もが無い。
椅子に座らせようとしたが、ゼフォウはベッドに座る。
改めて先ほど聞かされた話を復唱した。
「愚痴を言ってたら、マルスが置いて行ったのね」
「そう、冬美也が意識うんたらかんたらって」
もうその辺で理解出来た。
ディダはあの時、理美が苦手だと言いつつも褒めたり、得意なのを知っていたりとゼフォウの洞察力には感服したが、返って冬美也の逆鱗触れてしまったとも言える。
パニック起こしたり怒ったりなどもありはしたが、前に理美の見舞い騒動で、あそこまで殺気立った姿は今までには無かった。
「あー、メリュウ君に殴られてからと、ゼフォウ君がやたら理美ちゃんの癖とか特徴とかしっかり見ていて悔しくなっちゃったんだね」
先に理美とずっと居たのに、自分より知っているのが悔しくて仕方がなかったんだろう。
「メリュウはよく分からないけど、それ位で酷い目に遭うとは思わなかったんだ」
前から見ていた身として、よく考えるとやはりコレに突き当たる。
「きっと取られたくなかったかもね、それであの騒動起こした位だし」
無意識に取られたくない、一緒に居て欲しいと願っての行動だったにせよ、確かに目には余る。
「前はあんな感じじゃなかったはずなのに……」
『物凄く分かる……』
過去をあまり聞く気は無いが、ゼフォウの言う通りこんな子じゃなかった。
「ゼフォウ君は理美ちゃんの事よく見てるけど、他の子達もよく見てるの?」
「んっ? 一応だな、でも最近は理美を自然と目に入って来るから見てる感じだけど?」
「なるほどなるほど、それでよく見てたのか、フィリアちゃんとかは?」
「アイツはいつもしっかりしないとと気を張ってるお姉さんぶってるけど、言わば戦友みたいな? よく色々教えてくれたし、感謝してるよ」
大事な仲間として彼女は見ているようだ。
続いて、ザムについて聞いてみた。
「ザム君は?」
「たまにしか会っては無かったけど、自分らよりも背が高いのにあの息詰まる環境のせいで猫背になったし、おどおど感が抜けていない。前に他の子達を守ろうとしてこっぴどくやられた生傷もあったし、絶対アイツら許さねぇし」
最近はおどおどさも消えてはいるが、撫でようとしたり褒めようとするといつも身構えてしまうのはその為だろう、彼もまた心の傷を負っている。
ここでアイムについて聞いてみようとした時だ。
「アイムちゃんは?」
「……えっあいつ男だろ?」
「いや、女の子だったと思ったけど?」
まず性別についての食い違いが発生した。
お風呂の時は、性別の考慮もして確かにアリス達と入っていた筈だ。
筈なんだけど、不安になって来た。
そこにアリスが見回りでディダの部屋に突撃訪問。
「あんたら! いい加減に寝な! もう2時なるわ!」
流石にもうこれで切り上げるしかなくなった。
部屋を暗くするべきか、寝てからするべきかとディダが悩んでいると、いつの間にかゼフォウが寝入っていた。
サングラスをケースに仕舞い、机の棚に入れる。
「自然と目に入るって、好きってことなんだよ」
そう言って、ディダは電気を消し眠りについた。
日本とは違う国――。
夜の7時台、ビル群に電気が灯り、上から見ればさぞかし綺麗だろう。
そんなビルの一室、肌は色白、黒髪は長いがウェーブ掛かり、束ねた背の高い男がビルの窓を眺めている。
丁度誰かが書類を持ってやって来た。
「社長、例の件、漸く情報が入りました」
赤毛と黒が混じった先ほどの男性よりも若くまだ20台そこそこだ。
書類を手に取り、一通り目を通すと男性は目を疑うもすぐに表情を戻し言った。
「……漸く見つけた、行くぞ」
「はっ!」
書類はテーブルに置くも、勢いがあった為かその上で散乱し、その中にゼフォウの写真が紛れていた。




