冬美也の家族
お昼過ぎ、冬美也はディダにお願いするが駄目だった。
「ディダお願い、明日ぼくも行く」
「ダメ、流石に熱も下がって面会は許可されたけど、連れて行くにしたって君はまだ体のコントロール上手く出来ていないでしょう」
理美の見舞いに行きたいという冬美也の気持ちもよく分かる。
しかし、同時に力のコントロールがまだ上手く行っていないのも事実で、あの時はまだ人も居ない状態だったからまだしも、日中は田舎であっても診療所は人も多い。
下手に驚いてどんな風に身体のどこかが、金属に変形してしまうか分からないのだ。
琴が居れば良いからと言って油断は出来ないまま行くのは保留で、冬美也の為ではあるが、心苦しいのも事実だった。
「でも……」
「来週には戻れるし、その時にね」
その時、誰かの声が玄関先に聞こえて来た。
「ごめんくださーい!」
代わりにアリスが出て来て見ると、そこにいるのは衣鶴と優紀だ。
まだそれを知らないアリスはどうしてここに親子が来たのか分からない。
見かけた事のない女性が立っているので、子供を預かって欲しいのかと思ってしまう。
「すいません、現在子供は預かって」
「違いますよ、私は衣鶴・F・神崎で次男の優紀です。長男の冬美也がここで預かって貰っているって聞いていたので会いに来たんです」
一瞬でアリスは固まり、総一にあまり似ていなかったので母親似だろうと勝手に想像していたが、こっちにも似ていない。
が、小さな子連れで一緒に連れて来る話もあった。
その為、どっちかと言うよりもっと上、冬美也は祖父母に似たのかと思いつつ、一応形式上にはなるが免許証かパスポートを見せて貰えたらと考え言ってみる。
「えっ? ちょっとご本人か確認したいんですが、ほらこんなご時世なんですいません」
「ですよねぇ……っとあったあったコレでどうかしら」
衣鶴はパスポートを見せた。
その中も確認すると、やはり間違いなく本人だ。
ただ本当に似ていないのに驚くアリスになかなか事務室に戻って来ないアリスを見兼ねてアダムとマルスまで出て来た。
「どうしたお客様だろう? 一応応接間に通してやったら――」
「初めまして! 私、衣鶴・F・神崎、冬美也の母です!」
やはりアダムもマルスも固まってしまう。
何の騒ぎだろうかと子供達の面倒を見ていたディダもやって来て皆に聞こうとした時、後ろからついて来ていた冬美也に衣鶴が、いきなり靴を履いたまま走り出す。
「冬美也! やっぱり冬美也だ! 冬美君!」
いきなり抱きしめられ、動揺してしまう冬美也は動けず力を使ってしまったのか不安に駆られるが、その辺は琴が近くにいた為無事の様だ。
だが嬉しい反面、このまま連れて行かれるのではと言うよく分からない恐怖で記憶が無いままだと言う事にしてしまった。
「あっ……あの……だ、誰、です、か?」
最初は相当ショックが強く驚いてしまう衣鶴だったがすぐに切り替え、冬美也を撫でながらゆっくり話し出す。
「……そうっかぁだよねぇ……総一君が前もって教えてくれてなかったらショックがデカかったよぉ……。優紀、優君、おいでお兄ちゃんだよ」
「おにいちゃん?」
優紀もよく分からず、中に入ろうとしたがすぐにディダが止めた。
「ダメだよ靴脱いで」
「くつ?」
そうか、あまり靴を脱ぐ文化はあまり無いアメリカな分無理からぬ事だろうと同時に流石に文化が分かる大人の衣鶴は慌て出す。
「あ゙っ! 脱ぐの忘れた!」
更に驚く冬美也だったが、どうやら力の制御自体上手く行っているようで、いつの間にか琴は違う場所に動いてしまって居なかった。
ずっと深夜まで作業して漸く目処が付いて一眠りしている坂本の部屋に琴がやって来て、何かの準備を始める。
「……もう、何してんのよ、まだ昼じゃない」
「少し離れて様子見に切り替えようかと思いまして、漸くあの子もコントロール出来て来ているので、遠くからでもこっちで制御出来ますので少しづつ離れた状態で自信に繋げて行けば後はもう大丈夫でしょうし、あの子結構器用な方なので万が一出ても対処する力を身に付けて貰えればと思いますので」
先程から準備してたのは坂本の部屋で共同する為に荷物を下ろしていたのだろうし、もうすぐ退院な分、早い段階で見切りも付ける為と感じたが、どうやら日中だけこっちに移るだけのようだ。
「成る程って事は今日から私と一緒?」
「いえ、歯軋り凄そうなので帰るまであの部屋に居ます」
「歯軋りしないわよ!」
坂本は半ば強引に起きて突っ込んでしまうが、琴からすれば本当にと疑う目をしている為、事実かも知れないし、違うかも知れない真相は闇の中。
――琴と坂本がそんな話をしている間に応接間で衣鶴はここに来た事情を全て話してくれた。
今回はアダムとディダが対応し、優紀に関しては流石に長話になるだろうと、近くでマルスが相手をする事となった。
「まずは息子の保護をありがとうございます」
深々と頭を下げられて、少し驚くもすぐに保護したと言うよりも理美が拾って来たが正しく、その後は総一のお願いでずっと面倒を見て来ただけだ。
「いやいや、したのは理美だから我々はただなぁ」
「そうですよ、僕らは面倒を見ていただけですし、それに総一さんにも許可貰ってたから」
衣鶴からすれば助けてくれたのも面倒を見てくれたのも事実であり、本来なら急いで行きたいのも本心だった。
だが、こう見えて獣医学者であり、そのまま放置しても良かったのものの教授達に総一にも止められたが、纏まった休みを取る為に前倒しで研究書類をでかし、さぁ総一に連絡をという時に色々重なっただけだと言う。
「実は急に来た形になったみたいな感覚だと思いますが、連絡来た辺りから色々準備して前倒しで研究書類作って、漸く纏まった休みも貰えたから行くぞ! って時に丁度DNA鑑定でハッキリと冬美也だと分かったのもあり、休み取った話を次いでに話した感じになりまして」
理解は出来たが、もっと早い段階でお知らせしてくれれば落ち着いて対処出来たのにと軽くアダムに言われ、衣鶴は苦笑いで済ましてしまう。
「そういうのはもっと早く話し合って下さい」
「あはは、すいません」
「これからは総一さんの所で泊まるんですよね?」
「ですです」
ディダの質問に衣鶴は答えるも連れて行くものではなく、まだ記憶が無いのだろうと言う事と下手に印象が悪くなるのも嫌だった。
「冬美也君は?」
「息子の意見を尊重して暫くはお願いします」
「分かりました」
話が纏まった感じもし、少し翼園でどの様な過ごし方をしているか教えようとした時、衣鶴がある事を思い出し話し出す。
「そういえば、一度総一君の働いている診療所に行って、たまたま優紀が患者の部屋に行っちゃって、そこにその理美ちゃんが居て」
アダムは呆然、ディダは突飛過ぎて突っ込む、近くに居たマルスでさえ、遊ぶ手を止めてしまう。
「いや突飛過ぎだよ話が」
「と言うか、先に会いに行ってるし!」
偶然と言えばそうなのだが、今言う話では無い。
冬美也とゼフォウ達は遊び部屋でアリスの目の届く場所で遊んでいる時だ。
「冬美也、ここで遊んでいるんです?」
衣鶴の声が聞こえて来て、そこからディダとマルスの声が立て続けに聞こえて来た。
「理美ちゃんと遊んでいる時は、冬美也君に合わせていつも図書室だったんですけど、今はゼフォウ君達と一緒に遊び部屋に居るんですよ」
「他の子達も最初は馴染むか心配だったんですけど、意外と馴染んでくれたから良かったですよ、本当に……」
近付いて来る足音に自然と扉の方へ目が向いていた。
扉が開いた瞬間、優紀の方が先に突っ込んで来たのは驚きだ。
「にいたん!」
「ぶへっ!」
3歳児位の体力は全開そのもの加減なんて無い。
冬美也は身構えていなかった為に見事潰れてしまう。
「おい、冬美也大丈夫か?」
ゼフォウも驚いてしまうが、手を貸す。
「あ、ありがとう」
起き上がるが、優紀の未だに力は全開でゼフォウも実際2人分の重さはかなり重い。
1年も過ぎ、大きくなった弟には驚きと虚しさが強くなる。
あの頃はまだ小さく、丁度イヤイヤしていた気もした。
なのにもう一回りも大きい。
「この子が……ぼくの弟」
冬美也は改めて、優紀を抱きしめるのを見て、衣鶴は近付きゆっくり話す。
「そうよ、冬美也、この子はあなたの弟、優紀、覚えてないでしょうけど、まぁこっちはもっと小さくて覚えてない筈だけど、ちゃんと話してたから誰がお兄ちゃんかしっかり分かってくれて良かったわ」
優紀も嬉しいのか笑っていた。
一緒に遊んでいたゼフォウはそっと別の場所へと移動し、部屋から出ようとした時、ディダが言う。
「ごめんね、遊んでたのにこっちに来ちゃって」
「別に、俺、家族居ないし、よくわかんねぇから家族って」
ゼフォウの顔が不貞腐れているのは見て取れる。
家族の形は、十人十色そのものだ。
冬美也みたいに忙しくともなんだかんだで、ちゃんと見てくれる家族もいれば、何らかの理由で一緒にいられない家族もいる。
ゼフォウの場合はどうなのかは分からないが、1人で必死に生きている状態で今ここにいるのは分かっていた。
ディダは目線をゼフォウに合わせて屈んで言う。
「うん、これから学んで行こう、君も少しづつここに慣れる為にね」
「……ふん」
やはり不貞腐れているので素直な感情が出てこない。
もう笑うしかなかった。
結局、そのまま夕方まで衣鶴と優紀は居て、優紀はもう疲れて眠ってしまい、さてどうしたものかと思っていたら、総一から連絡が入り迎えに来てくれる事になり、しかもわざわざ車を借りてまでやって来てのだ。
「本当にすいません」
総一今日の何度目かの謝罪に、もう疲れて切っている。
それでもディダは寛容的だ。
せっかく息子が見つかったのだからこうなるのも自然な事とディダは捉えていた。
「良いの良いの、誰だってこうなるし」
が、マルスからすると色々あったのだろう、少々いやかなり御立腹な表情で言う。
「ディダ神父、誰だってって言うけどあなたも入るんで」
「えっなんで⁉︎」
当人あまり覚えていないようで、更に怒りが増していくのが見え、ディダも焦り出す。
そんな状態を放置して衣鶴は冬美也にある事を誘う。
「そうだ、冬美也、理美ちゃんのお見舞い一緒に行こっか?」
まさかの衣鶴からの申し出に冬美也が驚きもするが、ディダからは力のせいで許可が出ていない。
「良いの?」
「あ……あぁ……」
後ろを見ると、琴が行って来いと合図を送っているのが見て取れた。
ディダはもう諦めて冬美也に見舞いの許可を出す。
「良いそうです」
「誰に言ってるの?」
琴と坂本は今回隠れている為、衣鶴は気付いていません。
次の日――。
流石に暇を持て余した理美は壁に足を乗せたまま、よく分からない姿勢で寝っ転がっている。
「暇……だぁ……」
「オレ様に言うな、怪我人は大人しくしてなきゃダメだろう?」
「そうよ、理美、それにその姿勢じゃ頭に血が昇らない?」
不意にアースとメリュウがそれぞれ言うが、コレでお互い見えないというカオスな事になっているのではと思って、聞いてみるとちゃんとお互い認識しているのが見えた。
「2人共見えてるお互い?」
「小さな緑色のドラゴンが居るわね」
「金髪のねえちゃんがいるな」
やはりちゃんと見えており、言っている通りだ。
理美的にはアースよりどうしてメリュウも見えているのか知りたくなり聞くと、アースの方が答えてくれた。
「アースはともかく、なんでメリュウは見えてるの?」
「きっとあれね、魂との繋がりのせいね」
「魂の繋がり?」
「アースは皆魂と繋がるの、多分、昨日の欠けた魂の話を聞いて、元々1つの魂の片割れがメリュウなら見えて当然だと考えられるわ」
「成る程」
「あっ、誰か来るから流石に戻るわ、オレ様」
「私も消えておくわ、変な方向に目をやっていると怖がる人も居るから」
「うえぇい」
どうせ総一の回診かディダだろうと高くくっての態度だろう、アースは何も言わずにそのまま消える。
『多分姿勢戻さないわね』
直後、理美は後悔した。
「理美!」
思い切り冬美也で驚き、元の姿勢に戻ろうとしてベッドから落ちました。
「冬美也! ふぎゃ!」
来週には戻れるので、その時にと思っていたのにまさかの再会でどう反応すれば良いのか、どう言えば良いのか分からず、慌てたままだ。
後から入ってくる衣鶴は面白い子だなと思って見ている。
心配だから一緒に付いて来たディダはこの状況を見てつい言葉が出た。
「理美ちゃん、退院してからって思ってたから油断、してたねぇ」
「女の子も大概こんなんで気にせずに」
衣鶴の言葉に確かにそうなんだけどと言いたい事が山程あるが、全てを飲み込み、理美に言った。
「理美ちゃん、僕ら少し席外すから2人で仲良くしててね」
「ちょっと待って! 心の――‼︎」
無情にも大人は去る。
辺りを見渡すが本当に2人きりだ。
緊張し、なんて話せば良いのか分からない。
急に冬美也が謝罪した。
「理美、ごめん、理美なり必死に悩んで色々考えてくれた場だったのに、ぼくが怖がって逃げ出したせいで、あの時謝ったけど、理美熱で魘されてたから多分覚えてないと思って……だからぼくから謝らせて本当にごめんなさい」
冬美也は深々と頭を下げた。
きっとここに来るまで相当悩んでいたに違いない。
それに、冬美也の言葉からして一度来てくれていた。
やはりあの時薄らぼんやり現実なのか夢なのかあやふやな記憶は夢では無い。
一気に恥ずかしくもなるが、謝罪しながらも1番気掛かりな事があった。
「ううん、私が悪いの、冬美也の気持ち考えてなかったからこんな事になったから、ごめんなさい。それと、体大丈夫? 痛い所とか無い? 戻らなかったところとかは?」
そう冬美也の心もだが体が1番心配だった。
あの時の変形した姿は今でも目に焼き付いている。
それ以上にずっと心配でちゃんと元に戻れているのか分からないまま過ごしていた。
自分が引き起こした様なものだ。
もっと早くいや、もっと慎重になるべきだった。
ただそれ以上に冬美也も理美が心配だったのだ。
「ううん、ぼくは平気だよ。ずっと琴さんって人が面倒見てくれたから……でも理美は怪我した、ぼくのせいだ。許され――」
下手すれば一生傷跡が残る。
だが理美はあまり気にもしていない所か、冬美也が無事なら良いとまで言い出した。
「大丈夫だよ、総一さん治してくれたから、跡残るかは分からないけどさ、冬美也が無事だったからそれで良いや」
しかもかなりあっけらかんとしており、本人は傷よりも冬美也を怒らせてしまった事を深く後悔していただけであり、そもそもこの傷は守ろうとしただけで、別段冬美也から行為的に付けられたわけでは無いので気にしてすらいなかったのだ。
あまり気にすらしていなかった理美に対し、ずっと気に掛けていたのが抜けてしまい、涙が溢れ出た。
「ごめん、ごめん理美、でも、ぼくがあの時、逃げなければ……本当にごめんね!」
「大丈夫だよ、あの時言った言葉のせいで冬美也を傷つけちゃったから、こっちのせいだから冬美也は何も悪くないよ」
「ううん、最後まで聞けばああはならなかったんだ……それで、そのあの時の理美が本当に言いたかった、伝えたかった本当の意味を教えて欲しいんだ」
家族になりたい本当の意味を今ここで話す。
凄く緊張し始める理美だったが、深呼吸をしゆっくりと口を開く。
「あの、そのね、別の家族になりたいって……」
「別の家族って?」
ここで気付く。
衣鶴の言葉の鈍感の意味に――。
子供の理美は鈍感の意味を知らないが、たった今鈍感を理解してしまう。
真っ赤になってどう答えれば良いのか分からない。
声が裏返りながらも必死に出す。
「そ、それは!」
「それは?」
「す」
「うん」
「す、す――」
が、その瞬間冬美也、ぶっ飛びました。
「こんの鈍感がぁ! コレくらい答え分からないのかこんのチビが!」
よりにもよって水晶に戻っていた筈のメリュウが姿を現し、冬美也を吹き飛ばしたのだ。
「ふ、冬美也‼︎ なんで飛ばすの!」
「男のくせにそれすら理解出来ないのになんでコイツなんだよ?」
「良いから戻って! 冬美也ごめんなさい!」
起き上がる冬美也だったが、完璧に怒らせてしまった。
殺意むき出しに、これはもう脈が消えたそう理美は悟ってしまう。
「大丈夫だよ、理美、さっきのクソトカゲ何処? 皮を引っぺがしてやる……!」
手が鋭利な刃物となって、メリュウを狩ろうとしている。
しかしメリュウは怖がるどころか、対抗しようとした。
「かかって来いや、返り討ちにしたらぁよ!」
「待って! やめて! 落ち、落ちついて!」
理美は止めようにも止まらない2人を宥めよにも2人は喧嘩をおっ始めたのだ。
流石に騒ぎが起きれば大人達も戻って来てしまう。
「どうしたの理美ちゃん?」
「冬美也、まさか喧嘩?」
開いた瞬間、メリュウは逃亡、冬美也は慌てて手を戻すがボロボロになっている。
こんな姿を見たら完璧に理美しかいないし、メリュウとやったと言っても、そもそも欠けた魂がやったのなら、やはり理美が責任を負うしかない。
「いやぁぁぁごめんなさい‼︎」
ディダが入って早々驚いてしまう光景に理美に尋ねるが泣きっぱなしで話が見えない。
「理美ちゃん? と言うか何があったの⁉︎」
「うぇぇぇびぇぇ!」
「理美は悪くないよ! あんにゃろ何処に……!」
殺意高き冬美也がある一点を見ている。
この瞬間、ディダは悟った。
『先にメリュウ君回収し忘れたばかりに……‼︎』
そう今回はあの菱形の宝石を身につけれる様にする為、道具を持って来たのに、つい先に冬美也と会わせてしまったのが運の尽きだ。
衣鶴と総一が何の騒動だと駆けつけ、よく分からない惨事に怪訝な顔となる。
「何、どうしたの? えっ?」
「冬美也? 理美ちゃん? まさか?」
「違う! 理美は悪くない!」
「じゃなんで? お前がボロボロなんだ?」
「それは……!」
これは言って良いのかと思ったが、アースがダメっと理美に見えない位置で必死にあーピルしているのが見え、どうすれば良いんだと言いたくなった所で、今度は何処から出てきた白い子犬が言い出した。
「わたくちでしゅ! わたくちの不手際でしゅ!」
総一は近付いて泣く子犬に対して、状況から判断する。
『いや、絶対ちがうでしょ!』
その時だ。
いきなり衣鶴は子犬を持って総一に言った。
「犬入れちゃダメでしょ総一君」
ディダも今、この惨事を無視して子犬の行くのはなかなかない。
「えっ? そこ?」
「犬では……」
総一も普通の犬ではないと言いたかったが、聞く身持たず。
「ダメよ! 犬アレルギーの患者さんや犬から病気貰ってしまったら犬も患者さんも可哀想でしょ!」
ディダもただの子犬では無いのを必死に言う。
「今、この子言葉で話してたの聞いた衣鶴さん?」
「どっちにしてもダメです!」
「びぇぇえぇごめんなさい!」
「理美ちゃんが拾って来たの?」
「違うそうじゃない‼︎」
「ぼくの使役です‼︎」
もうごちゃごちゃで、カオスなままになり、元凶は静かに棚な中に隠れ、暫く収まりそうもなかった。
廊下には琴のアース、小狐丸がおり、何してるんだと呆れてしまう程、廊下からでも声は響く。
外で待機中の琴からすら騒ぎが分かる程だ。
「平和だなぁ……」
そう呟きながら、ジュースを飲みながらのんびり待っていた。
ジルと言えば、日向もも家に戻ると言って既に帰っており、自分も子供らを無事帰したらそろそろ本腰を入れようかと考えながら風呂掃除をしていた時だ。
スマホが鳴る。
誰だろうか、アダムは事務作業の手伝い中だし、他の管理者だとしてもloinでは無く、直の電話はあまりしない。
相手の名を見て驚いた。
「やっべ! 上司じゃん……しまった結局仕事ほったらかしてたのバレたか?」
そう、ジルの仕事の上司からだ。
恐る恐る、電話に出た。
「はい、もしもし」
声は女性だ。
「お前がサボって、別案件に首突っ込んだらしいな」
「すんません、野暮用済ませてから連続殺人の容疑者の1人の内情を調べるつもりが――」
一応上司にも連絡をしていたが、行方不明者を見つけた話だけして、そのまま放ったらかしになっていたのを話しながら思い出すジルに対し、その後の話をしてくれた。
「行方不明者の子供らを発見し、ゴタゴタに巻き込まれて手配してたのはこっちからもよーく聞かされているぞ? しかも最初は冬美也だったそうじゃないか? 衣鶴から話が出て、そこから何故かわらわらと出て来て、上からも騒ぎになっているんだが? 流石に国際案件だ、表には出さない程度に話を進めるに従って、お前は一度戻って来てもらう」
どうやら、衣鶴経由でも話が入っていた様だ。
冬美也については、ジルが保護の当日に連絡している。
ちなみにそこから一切連絡なんてしていなければ、管理者繋がりで全て斎藤にぶん投げている為、すっかり忘れていた。
「はい……でも冬美也は?」
家族が来ている冬美也も全員連れて帰るのかと思っていたが、それに関しては家族が連れ帰るのだからと意外と寛容だ。
しかし逆に直々に行けない家族もいるのも事実。
「あの子はもう親が迎えに行っているんだ良いだろう。しかしフィリアと他の数名はアメリカ国籍だ、FBIが日本で捜査してたのバレると厄介だから、お前FBIは名乗るなよ」
「おす!」
「頃合いみて再度、今度は大使館か外務省辺りから電話するかもしれないから、予定に合わせる様に」
もう話は終わり、だけれどもジルは少し心配していた。
「了解……あ、あの」
勿論、上司も分かっての事だ。
「安心しろ、巻き込んだのはこちらだ。あの子はただの被害者だ、今は家族が迎えに行ってるんだ。療養させてやれ」
「……」
「後は任せるぞ」
「はい、了解」
電話を切った直後にジルは項垂れた。
一方、アメリカ――。
先程ジルと話していた女性は、深いため息を吐き、自分の首に掛けているロケットを取り出し眺めながら言う。
「良かった……だが、やっぱり……キツイわ……」
写真はジャンとレオとエイミー、そしてエリザ本人が写っていた。




