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不思議な出会い

 結局、答えを出す事も出来ず、父、総一が帰ろうとしていた。

「いきなり一緒って言っても記憶も無い状態だから、悩むよなごめん」

「ううん、まだよく分からなくて……」

 ぎこちなくなってしまい申し訳なく感じる冬美也だったが、側から見れば記憶がまだ戻っていないまま急に言われたら困惑する雰囲気にしか見えないだろう。

「良いよゆっくり考えて、それと理美ちゃんの容体も安定して来ているし、明日か明後日辺りまでに熱が引いて1週間何も無ければ退院で、その後は通院して下さい」

「本当? だって体に貫通して」

 そう、貫通した傷だ。

 簡単に退院出来る程の怪我では無いのだ。

 総一も分かっての話で、本来ならまだそこまで退院、完治までの流れからしてまだまだだったが、完治を目指すにしてもずっと入院とは行かない。

 しかしながら肺や骨も、そして神経も無事な為、後は術後の状態が良好なら一度退院して激しい運動を避け、リハビリも持っていければほぼ大丈夫と判断したからだ。

「銃創だけど、神経、骨、重要な臓器など等の破損部分は見受けられないし。運が良いのか前に言ったか覚えてないだろうけど、雑だけど誰かが治したような跡もあって、本当に不思議な位だ」

 出迎えを一緒に来ていたディダもこれで一安心出来ると胸を撫で下ろす。

「なら、思いの外早く退院出来そうで良かった」

 あの時、応急処置で雑多に治した話をされ、冬美也は何とも言えない顔になるも、そういえば骨は繋ぎ合わせたような気もしたが、必死だったあまり覚えていない。

 だがそのお陰で、思いの外退院が早まりそうで冬美也は心底ホッとしたした束の間だ。

 後ろからそっと琴が囁く。

「なら、急いだ方がよろしいですね」

 琴の特訓が激化する事を指していた。

 その言葉だけでもう涙目だ。

「ひっ! はい!」

 総一は琴に言う。

「あの、ボランティアで来てる琴さん、息子怖がらせないで」

 ディダ達との口裏合わせで、琴と坂本はボランティアで来た職員として来ていると言う口実だ。

 勿論、もう1つの口実作りでもある、他施設が満員な為、短期受け入れと言う事にしてゼフォウ達を迎え入れている建前である。

 それ以上に問われれば、プライバシー保護として通せると言う判断だ。

 ただ、既にゼフォウが冬美也と一緒と言う摩訶不思議な状況下、記憶を失う前に出会っている様な口ぶりな分怪しまれている節があった。

 丁度、ゼフォウがやって来て、早く食べようと誘いに来た。

「おーい、もう夕飯食べ終わっちまうぞ?」

 他の子達よりも1番不思議な名前だった分、総一はずっと気になっていて、つい名前の理由を尋ねてしまう。

「ねぇ、ゼフォウ君って名前どうしてそんな不思議な名前なんだい?」

 勿論、興味本位であり正直失礼だったなとも総一は口に出してから後悔するも、ゼフォウは気にせず話し出す。

「えっ? 名前? 客がそれぞれ愛称で呼んでて、この名前が1番まともな客から貰ったから、そう言ってるだけだけど?」

 全員その言葉に硬直してしまう。

 まだ誰も過去について聞いていなければ、メンタルケアを含めてゆっくり行なっていく予定もあり、あまり刺激しないよう接していた為、どう反応すれば良いのか分からない。

 聞いてしまった当人である総一ですら変な声が出た。

「……ぇっ?」

 回りも実際この辺な声を出している。

 ふと思い返せば、ディダ以外あまり懐いている様に見えない。

 大人であるアダムとジルに至っては凄い敵意を抱いているが、女性陣には無く、少し心を開いている。

 その辺を踏まえて考えると碌なのを通り越した想像にたどり着く。

「ゼフォウ君、どういう意味かなそれ?」

 総一の問いに、ふと我に返った動作を見せゼフォウが話を有耶無耶にしてしまった。

「あっ……忘れて」

「いやいやいや!」

 聞いてしまった回りの大人はもう後には引けない。

 ディダはもうこればかりは自分の手では負えないと判断。

「君、ちょっと知り合いに小児心療科もいるからなんなら紹介、いや連れて来てあげるなら!」

 寧ろ総一は、密猟者は動物関係ではなく子供達を連れ去る組織の意味合いではと勘ぐり出した。

「まさか、密猟者って、そういう?」

 廊下越しの事務室に居た坂本やジルが、実際冬美也含め連れ去られそうなっているので、とてつもなく否定しづらい状況になり、寧ろ出るに出られない。

『あながち間違いじゃないから否定しづらい!』

 しかしこのままでは誰かがボロを出しそうで怖い状況で、アダムが事務室から出て来てどうしたのかと問う。

「総一さん、どうしたんですか? お前もどうした?」

「いや、なんでも、ちょっと気になる事をゼフォウ君に聞いてしまって」

 総一が答えるもゼフォウはすっとぼけた。

「俺? 言ったっけ?」

「こらこらこら、言ってたでしょう?」

 ディダを追求するも、ゼフォウはそれに対して言っていたのを掘り起こすのも如何なのかと逆に言い、冬美也と一緒に行ってしまった。

「忘れてって言ったのに掘り返すのどうかと思うけど、行こうぜ、冬美也」

「う、うん、じゃぁ父さんまたね」

「あぁ、また」

 どうしたものかと返って考え込んでしまう大人達ではあったが、結局もう本人が言わなければ分からないままで、ここはもう切り替えした方が早いと踏み、総一もディダ達に息子を頼み帰って行った。


 夜、結局理美が居ない代わりにゼフォウがそのままその部屋を使う形となり、しかもその間は琴も一緒と言う冬美也としてはあまり気が休まらない。

 丁度琴が入浴中もあって、ゼフォウと2人きりになっていた時、ゼフォウの方からまさかの言葉を投げかけられた。

「なぁ、冬美也は親父さんと住みたいって思わないの?」

 そう、大人嫌いの筈のゼフォウから総一に対して一緒に住まないのかと不思議がっているのだ。

 冬美也はその意外な言葉に困惑する。

「えっ? 急にどうしたの?」

 ゼフォウなりの優しさだろう。

 色んな子供達を見て帰りたがっている子も沢山、想像以上にもっと見ていたと考えれば、その言葉が嫌いにもなれば、悔しくもなる。

 それでも帰れるのなら帰って、ゆっくり家族と過ごすべきと思っての言葉だ。

「どうしたも何も、お前、母親もこっち来るんだろ? 一緒に住めば良いじゃん? なんで嫌なの?」

 実際記憶が戻っているのを伏せている為、何ともだがもっと言ってしまえば、すぐにでも帰ろうと言い出しそうで怖かった。

 でも、もっと他にも理由があった。

「いや、そういう嫌とかじゃなくって」

 理由だけ話そうとした時、プンスコと怒りながらあの黒い子犬が言う。

「そうでしゅよ! せっかくなのでしゅから御一緒に!」

 理美の見舞いに行った際ディダが総一に返した筈が、何故か居た。

 総一がここに来て再度置いて行ったに違いない。

「なんで返したのに居るの⁉︎」

 しかし、もっと疑い深い言葉を発した。

「見えなくしゅるなんてどうしゃもごじゃいましぇん!」

 二本足で立ってドヤ顔だ。

 ゼフォウがこの黒い子犬を見て驚く。

「おぉいつぞやの犬!」

 流石に名も名乗らずにずっとは失礼だと感じ、きっちり自己紹介する。

「コマでごじゃいましゅ! ところで、前に聞きましゅたが、はなしゃないので?」

 完璧にあの瞬間からずっと居たのだろう。

 返したと思ったあの瞬間から姿を消してずっと見ていたに違いない。

「……どこまで聞いてるの」

「冬美也しゃまとゼフォウしゃまがおふたりでお話ししてましゅたでしょ?」

 このままでは隠し通せなくなると焦る冬美也に対してゼフォウがコマに言う。

「やだー隠したい事、冬美也の親父さんにバラそうとかコイツ最低じゃん」

 これは煽りだ。

 分かってるのか、分からずなのか、コマがそれに乗る。

「最低じゃありましぇんよ!」

「じゃあ言うなよ絶対、冬美也から言い出すまで」

「分かってましゅよ!」

「なら約束、破んなよ」

「やくしょくは守りましゅよ!」

 結果として冬美也が言うまでという約束を取り付けたのだ。

 丁度琴が風呂から上がって、次入る様促した。

「お風呂終わったので、今度君らですよ。と言うか子犬、総一さんが置いて行ったのですか?」

 そういえば見ていたなと冬美也が思っていたら、どういう訳か普通の犬になった。

 しかも仰向けの腹出しだ。

「へっへっへっ……」

『犬になった⁉︎』

 ゼフォウがどうして普通の犬のフリをするのか正直意味が分からなかった。

 いっそそのままで居て欲しくてコマを琴に頼んでそのまま浴場へと向かう。

「このまま琴さん預かってて」

「良いですけど?」

 ゼフォウも一緒になって向かう際、琴が何か呟いた様に見えたが、気にせず浴場へと向かった。


 もう元から住んでいる翼園の子も先程、女性陣も上がった後なので、浴場では保護された男の子達しかいない。

 フィリアやアイムは女性陣が面倒を見て、他はディダ達と言う形を取ろうとしたが、やはりゼフォウが嫌がって無理強いは出来ないと判断し、今は冬美也と他の子達と入る形で丸く収まった。

 例のマイクロチップが埋め込まれており、流石に冬美也以外にも居ると分かって、診療所及び総一に怪しまれてしまっては困ると判断したアダムと坂本達は先に保護した子達と同じ病院及び口の硬い医師を頼む事にしていたが、ここで暫く預かる子供達はあえてアリスに任せる事となる。

 理由としてはまずまだ残ったマイクロチップで再度襲撃されては困るし、捜索願いで返されてもまた連れ去り、誘拐事件が発生してしまう可能性も視野に入れ、返せた後も今後暫くは警察及び機密組織によって護られるが、捜索願いも無い大人に対する不信感を持つゼフォウみたいな子も多く、心を開かせるケアもしながら今もその処置をしている状態と聞かされているのだ。

 そして何よりも日にちも経って移動も不可能な状態、それならいっそ医師では無いが知識と技術を持った人間が丁度アリスしかいなかった。

 その事を思い出しながら、湯船に浸かりながら冬美也がゼフォウに聞く。

「明日、そういえば皆もマイクロチップみたいなのあるから、アリスさんに手術して取るって言ってたけど?」

 それに関してゼフォウも保護前から知っているが、取れないと分かって以降触ってもいない。

 しかし後半から、坂本の話がどうも盗み見聞きのようだ。

「仕方ねぇだろ? コレ、なんか付いてたのは知ってたけど、潰そうとしてみた連中が大怪我で余計な手術増えたってあの坂本って女性言ってたじゃん」

「言ってたというか、盗み聞きでしょそれ? すぐに終わると思おうけど、麻酔とかどこから貰う気だろう?」

 そう、麻酔薬は手術にとって大事な薬品だが、普通の人間ではまず手に入らない。

 ゼフォウは坂本経由で手に入れてくるだろうと踏み、湯船から出た。

「あの坂本だろう? 結構色々嫌な意味で伝手多そうだし、俺もう上がるから」

「うん、ぼくはもう少し入ってる」

 そうして冬美也1人になって考える。

『ぼく……どうしたら良いんだろう? ゼフォウの言う通り家族と暮らせば良いけど、理美は? いや、理美ももう嘉村家の皆と仲良くしたいだろうし……でもまだどちらにも記憶戻った事言えない』

 結局答えが見つからないまま、冬美也も湯船から上がった。


 深夜、何時だろうか――。

 冬美也は無意識に目を覚まし、ゼフォウも琴もまだ眠ったままだ。

「誰かに……起こされたような……?」

 そう言って、冬美也はこっそり出て行く。

 直後、ゼフォウも冬美也が起きたのに気付き起き上がり、こっそりついて行った。

 銀色の狼のような狐のような姿の獣が現れ、琴を起こす。

「琴、チビ達がどっか行く」

 琴はその獣の頭を鷲掴みにして起き上がる。

「……えぇ小狐丸……夜中までミーティングしてたのに……寝てて欲しいんだけど……」

 万が一もある為、その後を追った。

 

 丁度事務室で仕事中のディダ達はいつ終わるか分からない状況へと陥っていた。

「おーわーらーなーいー」

 手伝いに入っていたジルですら、もうお手上げ状態だ。

 実際のところ、本来の仕事の他にあの一件のせいで別件の仕事をしている。

「まさか、これもこっち持ちってどういうことなの? 坂本さん?」

「違う! まさか、絆っちからの案をそのまま採用したら、本案件の書類等と現在の子供の状況含め、送れって言われたのよ! 無理すぎるわ!」

 こればかりは1人でする案件ではない。

 結局、ジルとアダム、マルスにアリスも手伝いに入る。

 けれどもディダは別件もあり、そっちに集中しなくてはいけなかった。

「ごめんね、僕だけ別件の片付けで」

 ディダがやっているのは紙に記入する書類だ。

 だからこそ、マルスは言う。

「いや、ディダ神父はパソコン触ると危ないからそっちでお願いします」

 真夜中、パソコンフル活用で小まめに保存しているが、下手にディダの機械音痴が起きたらどうなるか、そんなもの皆大発狂決まっている。

 ディダも自身の体質を熟知している為、何も言えなかった。

 その時だ。

 一瞬あってはいけない気配を察知し、ディダは警戒態勢を取る。

「――⁉ 何か、来る?」

 同時に管理者達のアースが出現し、何が来たかを伝えた。

 アヌビスが誰なのかを伝えると、ジルは他にもいるのかと驚く。

「番人が来る」

「番人? あのスキンヘッドだけじゃないのか?」

 アダムは何人か既に会っているからこそ、分かると同時に真実が戻って来ない事で迎えに来たのだと察した。

「他にも数人いる。きっと迎えに来たのだろう」

 何かを察したマルスがどういう訳か机の下に隠れてしまう。

 それに気が付いたアリスは聞く。

「どうしたのよ急に?」

「い、いや、その、なんか俺会った事ありそうなんだよねぇ」

 軽くトラウマでも植え付けられたのかと思うような仕草に、何も知らない坂本が自分でも最も怖い一度だけ会った事がある番人の特徴を言うと余計に怯えてしまった。

「へぇ、金髪眼鏡男性の方?」

「ひっ!」

 その様子を見ていたアダムは深いため息をつきながら、指示をする。

「お前らはここで待っていなさい。私とジルだけ案内してくるから、引き続き仕事をしておいてくれ」

 ジルだけ連れて、玄関先に行くといつの間にか中に人がいた。

 外が真っ暗な状態、事務室から零れる光ですら良く見えないが、真っ暗な中に人の形はあり、1歩その形が進むと漸く零れる光が人を映し出す。

「アダム・リムワトソン、私が来たのは分かっていますね?」

 黒い服装を纏い、長い金髪を水晶の様な球で下の髪を束ね、丸い眼鏡を掛けており、その目は金色の鋭い眼光が見える。

「デリート、分かっている。案内しよう、ジル一緒に行くぞ」

 アダムに促されるも、ジルは本気で行きたいと思わないし、殺意剥き出しのデリートと言う男が怖いと感じたからだ。

『えっ⁉︎ まじで、怖い奴と一緒に行くの⁉︎ 無理!』

 心で思っても、口では上辺だけ言った。

「わ、分かった」

 デリートはいつ外に出たのか、扉も開けずにもう外にいた。

「どうやって出たん?」

 急過ぎて頭が追いつかないジルに対し、アダムは言う。

「ジル、デリートは意味すら消す者、それに開けてしまえば、子供が起きてしまう事もあるだろう? まぁ、起きてしまった子達もいるが……もう寝なさい」

 アダムの言葉にジルが振り向けば、冬美也とその後ろにゼフォウがいた。

 冬美也もゼフォウもデリートを見てから冷や汗が出て、恐怖すらした。

 それでもどうしてこの絶妙なタイミングで起きたのか、冬美也は不思議でならない。

 こっそり行こうかと思ってしまう程だ。

 が、琴がやって来た。

「あなた達、こんな夜更けに起きないの、さあ寝ましょう」

「はーい、ほら、行こうぜ」

 ゼフォウに促され、向かおうと思った時、冬美也はあるものに目が奪われる。

 すぐに言えば良いが、これは言っていいものでは無いと判断し、そのまま部屋へと戻って行った。

 あの時の影響でか、興奮してしばらくは眠れなかったが、いつの間にか冬美也とゼフォウが再度寝入ったのを確認後、小狐丸が言う。

「この銀髪、自分を見ていた」

「小狐丸を?」

「うん、特殊な瞳でも無いのに」

「そうねぇ……確かに不思議ね。でも下手に問い質せばいいってものでもないし、とりあえず様子見しましょう」

 琴としては確かに冬美也に直接聞いてしまえば済む話だ。

 しかし、これを本当にやってしまうと下手すれば今後話や相談に乗れなくなる可能性もある。

 一期一会で済むだけならまだいい。

 ただ今後も、会う可能性も視野に入れて、考えて話を進めていくべきと考えた。

 そもそも秘密をしようとして、反っておかしくなった事が毎度あるのだ。

 慎重に進めなければいけない。


 アダムとジルはデリートを連れて、例の物置小屋へと辿り着いた。

 着いた頃には、朝日が顔を出すか出さないかの境目だ。

 例の物置小屋へとアダムがデリートを通す。

 ジルはそれとなく外の見張りをする。

 薄暗い中、アダムは覆われているビニールシートを取った。

 真実の遺体を見て、デリートは本人かどうか最初疑うも、徐々にはっきりとあの薔薇のタトゥーが日とともに空いた穴から光が零れ、本人であると分かると涙を見せぬがとても悲しそうな悔しくもある顔になる。

「真実……どうして……!」

 その後、どうしたのかジルには分からない。

 いや、どうなったかは分からないのだ。

 結局、デリートは真実をどうしたのか言わずに帰ってしまった。

 アダムに聞くとただ一言こう言った。

「消した」

 それだけだった。


 漸く理美は熱から解放され、目を覚まし動けるようになっていたが、どうも何かがおかしいのだ。

 あまりにも静かなのだ。

 入院しているのは手術後、二日目で何とか意識が維持出来る状態で総一本人から簡単にだが教えてもらっていた。

 そこからあまり覚えていない。

 いや、一度だけ冬美也とディダになんとか伝えたいと思って言ったが、ほとんど記憶が曖昧だ。

 だけど言えるのは1つ、なんだかんだでうるさい。

 診療所の生活音もさることながら、人のざわめきと夜に聞こえてくる機械音、特に心電図音等が静かに響いていた。

 だが、いつの間に取ったのか、機械や点滴もされていない。

 不思議と思って、廊下に出ると明るいが誰1人いないのだ。

 恐怖が勝るかと思っていたが、不思議と好奇心が勝っていた。

 普段見られない場所も見られるのではと言う意味もあり、まずはナースセンターを覗こうかと思った時だ。

 絶対入ってはいけない、動物がナースセンターのカウンターに鎮座していた。

「えっ? わんこ?」

 中型犬位の大きな犬が理美に気付き、カウンターから降りて付いて来いとばかりに顔を見る。

 どういうことか、まだ夢でも見ているのか、この犬の言葉が分からない。

 戸惑っている間に犬が先に行ってしまう。

 「ま、待って!」

 慌てて理美は犬の後を追った。


 ここは待合スペースだ。

 犬はあるスーツを着た男性の前に座り込んだ。

「ナイル様、ここにいたのですか! 心配しましたよ!」

 男性はナイルと呼ぶ犬に忠誠を誓っているのかと言う位、凄く下手(したて)で、首を垂れる程だ。

 一言で言ってしまえば危険な人物。

 理美はそっと気配を消して逃げようとしたが、本当にいつの間にいたのか、真後ろに立っていきなり話しかけてきた。

「おや! あなたはナイル様がお連れになった人ですね‼ 初めましてコンシェルジュと申します!」

「ぎゃぁぁぁぁっぁぁぁぁぁああぁぁ‼」

 興奮状態で逃げ出そうにも、腰が抜けて動けなくなり、待合スペースにある長椅子まで運んでもらい座らせてもらった。

「いやぁ、久々にナイル様が魂を感じ取り、いつもならこの(わたくし)にまかせるのに自分自ら行くと言ったは非常に驚きました! ナイル様はとても素晴らしく、番人の中で魂を――」

 急に話し出し、理美は怖くてたまらない。

『怖い! なんで何も話していないのにずっとこの人話しっぱなしなの? 途中でナイルって子の自慢話し始めて怖いんだけど!』

 このまま話が続くのかと思った時、ナイルが怒っているのか唸っている。

「しまった! ナイル様の偉大さを語って、大事な使命を忘れていました!」

「は、はぁ」

「先ほども言いましたが、ナイル様は魂を管理する番人です。神で例えれば冥府の王ハデス等ですね、同等で或いは上位の存在、全ての魂を管理します」

 何の話を再度しているのかと呆然としている中、ナイルがそっと顔を理美の膝に乗せた。

 よく見ると額に宝石が付いている。

 理美はその額を触れていいか尋ねた。

「綺麗な宝石だね。撫でても良い?」

 ナイルはどうぞと頭を上げるので、撫でる様に触ってあげた。

 触ると急に額の宝石が光り輝き、何かが出て来て驚く最中、コンシェルジュは言う。

「ナイル様の額の宝石には億、兆、それ以上の魂が眠っており、その中には欠けた魂が水晶のごとく宝石として眠っているのです。あなたの欠けた魂がここに眠っています」

 飛び出した宝石は理美の手に落ち着きことんと手のひらに転がる。

「綺麗……」

 理美は宝石を光に当てると何かが眠っている。

 龍の様な姿だ。

 コンシェルジュは言った。

「水晶である宝石として出てくるのは大体がドラゴン、龍です。彼らも理性、知性を持ち合わせていますので、気を付けて」

「えっ? どういう事?」

 尋ねた時、理美は目を覚ます。


 目を覚ました場所は、自身が入院している診療所の個室だ。

「……はっ! 夢⁉︎」

 だと思って、起き上がろうとした時、手に違和感を感じ持ち上げると、先程夢で貰ったあの水晶だ。

「夢だけど夢じゃなかった?」

 そう言って、改めて上半身を起こそうとしたが、上に重いものが乗っているのに気が付く。

「おい、オレ様に気付かないってどういう了見だ?」

 少年っぽい声に恐る恐る頭だけ上げると、トカゲの様なでもまた違う緑色の鱗にドラゴンの羽翼、鹿の様な角に更に頭から尻尾の先まで伸びる白に近い毛、そして1番は猫のような瞳と恐竜の様な口だ。

 ワンテンポズレて、理美は本気で驚いた。

「うわぁぁぁ‼︎ 誰⁉︎」

 その勢いで理美はベッドから落ちる。

 物凄い音に驚き誰かが扉を開けた。

「何の音? 理美ちゃん、大丈夫?」

「ディダ? お、おはよう」

「うん、おはよう何してるの?」

 ディダが見舞いにやって来たのだ。

 掛け布団からモゾモゾ動くモノに気付き、ディダそれを取ると先程の生き物が顔を出す。

「おっ? 純粋なドラゴンは初めてだぜ」

 ディダに対してそう言う生き物に、ディダも珍しがる。

「おや? こっちも久方ぶりかな? いや居たか、でも珍しいね理美ちゃんの?」

 改めて生き物は自身の名を伝えた。

「おうよ! オレ様は、メリュウだよろしく!」

 

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