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集会

 月日が流れ――。


 日本のある山中に道路はあるが道幅が狭く、大きな車なんて走られたらたまったものではない所を本来なら山道歩く為にちゃんとした登山用の衣類等を着用するべきなのだが、何処かの宗教の人間だろう、黒服を着た老け込んだ白人が軽快に歩いていた。

 その山中には小さな集落があり、たまたま老夫婦が畑仕事をしていて、その白人を見て声を掛けた。

「アダム神父じゃないですか! お久しぶりです」

「今日はどのようなご用事で?」

 どうやら知り合いでもあり信者でもある老夫婦は深々と礼をした。

 これは困ったと笑うアダムは言った。

「いや、いつもの集会だよ、しかしこの辺もだいぶ廃れたなぁ」

 老夫婦もこればかりはと笑い出す。

「そうなのよ、もう何人か山降りたり亡くなったりで」

「若いもんも面倒なコミュニティや消防団に関わりたくないから全然来やしない」

 これも時代かと笑い合うしかないが、ここに来てある事に気が付いた。

「なんか、車の通行量多くないかい? 先程歩いて来たが、乱暴な運転している輩が居て危うく轢かれ掛けたよ」

 見かけない真新しいワンボックスカーや一般の車もこの集落の空き地等に置かれていた。

 その事を尋ねられた老夫婦はあの事かと思い出す。

「アダム神父、ニュースやネット見てないんですか?」

「どういうことかね?」

「この辺、毎年の様に猿の騒ぎが起きているんだけど、最近動画投稿者が悪ふざけで猿撃退とか言って山入って、悲鳴あげながら逃げてった事があって」

「なんでも塞ぎ込んでいた子供を見つけて、声を掛けようとしたら、気性の荒い動物らに襲われたって話で、そのままどういう訳か幽霊騒動になっちゃって、そのままテレビクルーまで乗り込んできてるんです。注意したり役所にちゃんと連絡入れたのかとか言っていても全然聞いてくれなくて、どうにかなりません?」

 どうやら老夫婦だけじゃなく集落全体の問題になっていた。

 アダムも一応考えたがやはり無理だと答える。

「それは無理だ、説法はねちゃんと聞き、考える事が出来る人にだけ分かるもので、そもそも話なんて聞く耳すらないなら、日本で言う馬に念仏だよ」

「ですよねー」

「そうですよねぇ」

 乾いた笑いしか起きず、本当にどうすればと嘆くしかないのだろうとアダムは感じていたが、ふと遠くからでも分かるテレビ局の取材班が何人も居て、そいつらが何か居たと騒ぎ山の中へと消える際、ゴミ等を放置して行ったのが見えた。

「流石に、説法は聞かぬだろうが説教はせねば分からん様だな」

 急にアダムの言った言葉に老夫婦には聞こえなかった。

 それどころか少々アダムから苛立ちの様なものが垣間見れる。

 アダムは苛立ちの原因を悟れる前に歩き出す。

「はい?」

「どうしたんです?」

「一度、私もその子供の幽霊とやらに興味を持ちまして、ちょっとお祓いして来ます。そうすれば少しは落ち着くでしょう」

 老夫婦はもしそうなら、少しでも落ち着けばと願いアダムに頼み、手を振った。

「お願いします」

「どうか気を付けて」

 見てはいないが、アダムも手を振りながらテレビ局の取材班達が進んだ道へと入って行った。


 集落から少しでも離れると既に獣道だけで、人が通るべき場所でない事は確かだ。

 しかし、そんな状況下でも一切気にせず、ずんずんと入っていく取材班達は、徐々に薄み悪い木々に囲われた場所まで歩いて来て、鳥の声が聞こえただけで流石に悲鳴を上げる者も出た。

「ひぃぃ‼︎ もうやめましょうよ、たかがガキ1人ですよ?」

「と言うか、死んでる可能性もあって、熊に襲われたんじゃないんすか? 下手すると今度俺らが食べられる可能性も出るんじゃないんすかね?」

 ここまで来て何も無いのでは話にならない。

 だけども、命あっての物種だ。

 けれども、それをディレクターが許さない。

「アホ言え、最近視聴率もめっきり減って、意味の分からねぇ一般動画投稿者ばかり再生数が伸びて、こっちが頭下げて金払うとか意味が無いんだよ。お前らも視聴率位考えた事があるのか⁉︎ ゆとり世代共が!」

 何とも言えない理由でここまで来たのかと、周りは呆れて言い返す気も起きなかった。

 とりあえず、気を取り直して、このまま進むにしても危険なのでそれとなくディレクターに相談した。

「でもこのまま何も起きなければ引き返すしかないんですよ? それに遭難したら、またエビッターやインプタでバカにされますよ?」

「そん時は、近所のガキを使って偽装すればいいんだよ」

 皆が半笑いしつつ、同時に同じ事を思っていた。

『だから、余計に謙遜されんだよこのハゲバカは!』

 そのせいで余計に一般動画投稿者に持って行かれるんだと口が裂けても言えずにいた時だ。

「お前達、一体何をしているんだ?」

 アダムが憤慨しながらやって来た。

 子供では無く、ただの老人が出てきては何の面白味も無く、怪異現象ですらない為、視聴率も取れない。

 ディレクターは顎を使ってアダムを追い払おうとした。

「取材だよ! 取材! 爺さん遭難したくなきゃとっとと帰んな」

 顎を使われた下っ端の取材班達は渋々追い払う事にした。

 アダムが怒っているのを知って、穏便に引き下がって貰うためにディレクターの様な態度を取らない様に気を遣ったが、アダムを余計に怒れせる事になった。

「すいません、取材中なんでお引き取りお願いします」

「一応取材許可もあるので、お互い穏便に……お願いします」

「なら、お前達がコレを片付けるのか?」

「へっ?」

 一体どういう意味か尋ねようとした直後、アダムの後ろの茂みから大量の粗大ゴミ、不法投棄されたゴミが勢いよく飛び出し、取材班達を襲う。

「ぎゃぁぁっぁ‼︎」

 驚いた下っ端達はディレクターを置いて先に逃げ出す。

 ディレクターと言えば、驚き過ぎて腰を抜かしてしまった。

「お、お前ら!」

 助けて貰いたいが、今までの行いにより、ほぼ自業自得で置いて行かれてしまった。

 前に立つのはアダムで、あの時捨てられていたゴミをディレクターに渡し言った。

「ゴミはゴミ箱にでしょ?」

 殺意むき出しの眼は口の悪いディレクターを黙らし、謝罪しながら逃げ出して行った。

「ひいぃぃぃ‼︎ すいませんでしたぁぁぁ‼︎」

 ディレクターと取材班達の悲鳴が聞こえなくなった辺りで静けさが戻る。

 アダムは深いため息を吐く。

「幻覚を見せるのも疲れる。全く子供よりもお前らの悪行をバラしたほうが視聴率が取れそうなのに、分かっていないな。さて、集会に遅れてしまう」

 ある種のブラックジョークだろう事を呟き、急いでその集会へと向かおうとした時、別の茂みから何かがのっそり出て来た。

 熊だ。

 ツキノワグマだろうか、それにしても2メートルはある程の大きな熊だ。

 アダムは熊の生態に熟知しているのか、決して目を逸らさず向こうから去るのを願った。

 向こうの熊は攻撃する気配が全くなく、じっとコチラを見続ける。

 これはこちらの方が下がるしかないと悟ったアダムはゆっくりと後ろへと背を向けず、目も逸らさず相手から見えなくなる様にと下がり続けた。

 熊も動かずじっとこちらを見ているだけになり、これならこのまま下がり視界から消えるだけだ。

 しかし、何かが息を殺しながら動いたのに、アダムが気付いてしまった。

 目を逸らさないよう必死に動いた所から離れる様努力するも、何かを察した熊が威嚇行動を始め、立ち上がった。

 小熊が近くに居たのか、否、その前に取材班達が襲われていただろう。

 寧ろ、その熊がこちらではなく、今動いた存在に攻撃しようとしているのではと憶測を立て、熊の行動を見て、どう行動するか観察をした。

 熊が明らかにアダムに向かって手を振り落とす。

 どうやら違っていた様だ。

 間一髪で避け、もっと考えると後ろの存在から距離を置ければとしようと思うが、妙な視線に襲われ、これは一度目にして確認した方が良さそうだ。

「ふむ、これは困った、アース」

 アダムの問い掛けに少年の様な獣耳を生やし、半獣の様な姿をしているのが出現し、笑っていた。

「はいよ、熊に襲われているのに呑気だねぇ」

 襲われながらも、上手い具合に避け続けるアダムはアースに熊について聞く。

「笑っていないで、あの熊は新たな管理者か?」

「違う、後ろが管理者」

「なら、追っ払う方が早い!」

 漸く、一々避ける事をせずに済むとばかりに構え、熊をジッと見た瞬間、アダムの姿が熊よりも大きい化け物の姿になり、声とも言えない恐ろしげな鳴き声に熊は立ち向かうも、自身よりも大きく声も聞いた事ない鳴き声、流石の熊も毛を逆立て逃げ出してしまった。

 熊が視界から消え、逃げる足音も聞こえなくなったところで、改めて後ろを見た。

 息を殺してジッとしていた存在が逃げ出そうとしたのが茂みの揺れで分かり、急いで覗いた。

 7歳か8歳位の子供だ、しかも見た目は酷く草臥れた服も至る所が穴が空き、靴も履いていない。

 よく見れば女の子だ。

 声をあまり発する事なく、威嚇し睨みつけていた。

 アダムは優しく声を掛けた。

「大丈夫だよ、君は何処の子だい?」

 しかし、女の子は怯え逃げ出してしまった。

 声を掛けようとしたが、足元に何か落ちているのに気付き、拾った時にはもう姿すら見えなくなっていた。

 このまま追いかけていいものかと悩んでしまった。

 下手すれば自分自身が遭難する恐れがあったからだ。

 それに対してのアースは笑っていた。

「思い切り逃げられてやんの、どうするんだよ、アダム下手すればこっちが遭難するぜ?」

 言い方に頭に来るもグッと堪えアダムがあの女の子かと尋ねた。

「アース、あの子供が管理者か?」

「間違いないよ、それにアース自体がこっちに来るよう呼んでいる」

 アースの指す方角に長い金髪の女性が立っていた。

 大人の女性そのもだ。

 どんなアースでも姿形だけでは何処まで天然の賢者の石が大きなんて分からない。

 だが、他のアースを見てきたアダム達なら一目で見た事のない程の大きさだと理解出来た。

「凄い、ここまで大きな天然の賢者の石は初めて見た」

「よっぽど気に入った奴が居なかったか、地中にずっと居たかだぞこれ」

 アース同士でもここまで体格差を付けられるのは初めてらしく、悪態に等しい事を言ってはいるが、驚きの方が一段と大きかった。

 とにかくあの女の子を保護しなくては行けなかった。

「済まない、あの子のアースなら何処に行ったか分かるかい?」

 アダムの問いに、女性のアースはすっと指を差した。

 その指差す方向に女の子が居るようだ。

 すぐに信用してはくれないのか、一切話す様子が無い女性のアースにアダムは礼を述べ、探しに行った。

「ありがとう、探してみるよ」


 入れば入るほど入り組んだ獣道、どんどん険しくなっていく坂、木々も生い茂り、光も入らない場所すらあった。

 アダムは女の子を探し続けるも、裸足な為か足音すら聞こえない。

 野生の動物達がジッとこちらを見ているのが少々気にはなるが、攻撃するわけでも無く何か様子を伺っていた。

 万が一、熊の様に襲って来たらと内心緊張している。

 同じ手で追い払い過ぎれば、生態系が崩れかねないからだ。

 だから、並べく刺激しないよう気をつけて歩き続けた。

 もう人が入る様な場所ですらない危ない所まで来てしまったが、どうやら女の子は一度ここで休憩を取った後らしき痕跡があり、少しづつだが追いついて来たようだ。

 

 それから1時間は過ぎただろうか――。

 

 女性のアースのお陰である場所まで辿り着いた。

 そこは洞窟だ。

 中に入ると、道はそこまで酷くもなく、緩やかな斜面をひたすら降りて行った。

 流石にスマホを使って光を照らさねば行けない暗さだったが、途中明かりが見え、出口かと思い急ぎ足になるが、出てみて驚いた。

 上が崩れた後、光に照らされ、空洞隣中央は小さな池になっており、その奥にあの女の子が立っていた。

 女の子もまさか追いかけてくるとは思っておらず、驚き逃げ出す。

「ここは子供には危険だ! こっちにおいで」

 アダムが声を掛けるも振り向く事無く、もっと奥へと入って行ってしまった。

 本来なら人間が入って良いものでは無いが、ここまで来てしまったのだ、アダムは腹を括る。

 奥はやはり闇だ。

 しかし光を当てればそこまで奥深くはない。

 スマホの光で辺りを照らしていると、必死に隠れ怯え震える女の子の姿があった。

 触れようと思ったが、この子にはもっと最適な方法で保護するべきと考え、あの時拾った物から出ていた紙に目をやり、もしやと思いある事をした。

「こらっ! 理美! こんな所で何しているの!」

 その声に理美は驚き振り向くと母、真理が立っていた。

 今の今まで声をあまり出していなかったのだろう、声が掠れ中々出てこない。

 必死に声を出し続け、漸く何とか言葉が出てきた。

「お……おか……お母さん?」

「ほら、帰るよ?」

 真理が手を伸ばすと理美は飛び込んで来た。

「お母さん! ごめんなさいごめんなさい! 本当はイジメられてて、でも言ったらお母さんに迷惑掛けちゃうって思って」

「うん」

 理美は泣きじゃくりながらずっとずっと言いたかった事を話す。

「だけど、私のせいでイジメてた子が怪我させちゃって、でも本当はあっちから攻撃して来て、酷い事言って来て、お父さんの事で嘘ばっかり言って怒って、突き飛ばしちゃって、ごめんなさい、謝りに行くから一緒に、一緒に行ってくれる?」

「うん行こう」

「そしたら、ちゃんと覚えていてくれる」

「うんもう大丈夫よ、帰ろ理美」

 真理の言葉にホッとし、理美はその後もずっと泣き続けた。

「うわあぁぁぁ――……」


 泣き疲れた理美はいつの間にか眠ってしまった。

「おやすみ、お嬢さん」

 抱き抱えていたのは真理では無く、アダムだった。

 一部始終見ていたアダムのアースが疑問を口にした。

「これ、気が付いたら怒られねぇ?」

「仕方がないだろう。こうでもしないと暴れられるのが目に見えていた。それに、新たな管理者だ。このまま集会に行って、知るに愛されし者に一度見てもらおう。もしかしたら何か分かるかもしれない」

「だと良いけど」

 話しながらいつの間にか外へと出て来た所に、理美のアースが立って深々と礼をした。

「ありがとう、理美を助けてくれて」

 どうやらアースにもどうすれば良いか分からず仕舞いで、助けを求めていたようだ。

 アダムは言った。

「いや、何、そんな事は無い。頭を上げて、同じ管理者同士だ助け合いもしなくては。すまんが病院は後回しで良いかい? 一度知るに愛されし者に見せたいし、丁度管理者同士の集会がある一緒に行こう」

 本来なら保護した後、病院やら警察に連絡等もあるだろう。

 アダムとしては1番やってあげなければいけないと分かっていた。

 しかし、子供である理美からどのようになったかを説明は不可能だ。

 そこで、丁度行われる集会に連れて行き、一度見てもらいこっちで説明しようと考えた。

 だが、理美のアースは気が乗らない様で塞ぎ込んでしまった。

「……それは、この子の過去を知ると言う事ですか?」

「そうなるな、だが、安心してくれ決してこの子を侮辱したり蔑んだり、酷い目には遭わせんよ。何にせよ説明はどの世界も必要だ。まだ子供には荷が重いだろう。味方は1人でも多い方が良いだろうアース」

「はい、でもどうか、この子を拒絶しないで下さい」

 理美のアースはどうも何か他に隠しているように見えるも、約束を守らねばいけない。

「分かった、決して拒絶はしない約束しよう」

 そうしてアダムは眠っている理美を抱えたまま集会へと向かった。


 先程の場所よりも更に道も無く険しい坂を登り続けて行く、もう夕方だろうか、辺りが暗くなり始めた。

 暗い所を無闇に歩けば危険という所で、坂を登りきったようで、緩やかな道のりになり何処からか賑やかな声が聞こえて来た。

「ふう、大分遅れてしまったが何とか着いたようだ」

 疲れはしたが、無事に着けたことに安堵した。

 大きな巨樹の前に人達だけで無く、動物達もそれなりに集まっていた。

 1人の色素が抜けた様な真っ白な男性がアダムに気付いた。

「よう、爺さん、とうとうボケて遭難したのかと思ったぜ」

 ほぼ悪態な為、シカトしてそのまま歩いて行った。

「すまない、遅れてしまった」

 他の仲間達に謝罪して回った。

「おい! シカトかよ!」

「ほぼほぼジルが悪いわよ」

 ずっと見ていた長い黒髪の女性に言われ、ブチギレた。

「あ゙っ?」

 他の動物達がアダムに近づき鼻を引くつかせていた。

 しかもよくみれば肉食草食関係無くくっついて離れなくなってしまう。

 黒髪の女性がアダムに近付きながら言った。

「珍しい、アダムに懐くなんて」

 深いため息を吐きながら、説明をした。

「違うよ坂本、どうやらこの子に近付いてくっ付いているだけだ」

  そこで漸く眠っている理美に坂本が気が付いた。

「何処にいたのその子?」

「ちょっと訳ありでな、この子は新たな管理者だ」

 ジルも覗きに来て驚いた。

「はっ⁉︎ この子供が⁉︎」

「子供って他にもいるじゃない?」

 しかしジルは違って冷静に突っ込んだ。

「いやいやいや! 動物だって2歳から3歳の成長しきった連中だし、人間だって子供と言っても10代後半が大半だろうが? こいつはそれ以下だぞ?」

 確かに他を見渡せば、殆どが成人ばかりで理美だけは幼い子供だ。

 坂本も理解はしたが、そこはアースだ。

 選ぶ側は幾つかどうか待っていたら死ぬのもあり得るのだから、一度決めたら今しかないのだ。

 そうやって選ばれたのがたまたま小さな子供だっただけのことと割り切っていた。

「確かにそうだけど、だからってアースが選んだから仕方がないでしょうに」

 アダムもそれに関して分かっており、坂本に依頼した。

「それに先も言ったが、この子は訳ありだ。一度知るに愛されし者に見てもらわんと、その後すまんが坂本、この子に付いて調べてもらって良いか?」

「良いわよ、子供の捜索依頼を調べるんでしょ?」

「そうだ、その間に病院とかに連れて保護して貰わんと」

「OK、その辺もね」

 着々と話が纏まっていった所で、急に巨樹の葉が光だし、皆が静まり返る。

 巨樹から群青色の髪の10代後半位の女性が現れ、話出す。

「集まってくださりありがとう皆さん、さあ、集会を始める前に、この子が新たな管理者ですか? アダム」

「そうだ、先程の道中に山の奥深くに居たのを保護したのだ」

 答えた内容に周りは流石に驚いて騒つき始めた。

 アダムは咳払いして周りを黙らせた。

「分かりました。では見てみましょう」

 巨樹のアースが巨樹に触れると枝がゆっくりと降りていき、理美を包みこみ上に持って行く。

 流石に眠っていた理美は何かに気付き目を覚ます。

 親と出会ったと思っていたが、全く知らない場所におり、一体何が起きているのか分からず、怯えるも枝に包まれ降りれない程の高い場所へと上がっているのが分かり声が出なかった。

 巨樹は揺れ、まるで動揺していた。

 アースが代わりに話す。

「なんて言う事⁉︎ この子はこの姿で20年以上もずっと人里に降りずに過ごし、家族どころか知っている者全てに忘れ去られてしまった」

「一体どうして⁉︎」

「分からない、もっと探れば分かるかもしれないけれど……」

 ジルも流石に20年以上そのままの姿ではないだろうと疑って、声を出す。

「再生とかしたんじゃ? だってそうじゃなきゃ――」

「それも無い、初めてのケースでなんとも……」

 周りが一斉に動揺の声が上がり、理美の不安がピークに達した。

 とうとう理美は泣き出してしまった。

「うわぁぁん! ここ何処⁉︎ お母さん! 何処⁉︎」

 親を探す理美を見て、暴れる前に慌てて巨樹が理美をゆっくり降ろす。

 降ろされた理美は周りを見てはっきりとここには親も居なければ、知り合いも居ない状態。

 あれは夢だったんだと理解し絶望した。

 全員の目は好奇な目にしか見えない。

 怯え泣きながら、必死に自身の体を隠そうとする姿は他の人間からも同情もすればどうせっすれば良いか分からずただ立ち尽くす。

 動物達が心配してゆっくりやって来て、理美に寄り添い、理美に抱きつかせた。

 大人ですら、忘れ去られたらどれだけ精神を来すのか計り知れない。

 それが子供ならよっぽどだ。

 しかも落ち着いて話せても、20年以上もその姿のまま過ごしていた理美がちゃんと成長するかも分からない。

 どう話せば良いのか分からない状態で、アダムが近付いた。

 アダムを見ていただろう理美はアダムに恐怖し固まってしまった。

 追いかけて来たのだから、怖い人物として恐れられているのは分かっていたがこのままでは一生理解出来ないまま過ごす事になる。

 それだけは何としても阻止しなくてはいけない。

 ゆっくり近付き、しゃがんである物を取り出した。

「これは君のだろう、理美」

 怯えていた理美は自分が落とした熊のぬいぐるみとバースデーカードであるのに気が付いた。

「ひぃ……これ、お母さん、から」

「そう、君の名前は理美であっているかい?」

 ゆっくりと頷いた。

「落としたのを拾ったんだ。返すから少しお話をしよう、出来るかい?」

「うん……」

 信用は得られたかは分からないが、同じ動物の管理者達が理美を促し、アダムへ行くよう促して貰い、ゆっくり近付いて来た。

「理美、まずはアースを出せるかい?」

「アース?」

「そう、アースに出て来て欲しいって願えば出てくれるんだ。こんな風にね」

 アダムは自身のアースを出現させた。

 獣の耳を生やした少年が出てきた。

「わす、忘れ去られちゃうとか、ない?」

 どうやら理美はアースに選ばれた日によりにもよって忘れ去られてしまったと知った。

 アースを疑っていたからこそ、アースが理美と話す行為も無く、たまたま同じ管理者でもあるアダムを見つけ、何ふり構わずアースが自分の意思で出現したのだと理解した。

「無い無い、それは無い。それだったら、みーんなお互いを忘れて騒いじゃってるよ。良いからやってみろよ」

 アダムのアースは理美にやるよう促すとある事を言った。

「……アース怒ってる絶対」

「逆だ逆、怒ってるどころかずーっと心配してて、俺らに助けを求めてたんだぜ? なぁアダム」

「そうだよ、君を誰よりも心配してたのはアース本人だ。会って話してごらん」

 促され、理美は会いたいと願った。

 徐々に理美のアースが出現した。

「り、理美……理美、良かった! 漸く話せる」

 出現出来た事により、漸く話せると喜んでいた。

 しかし理美は酷く落ち込み震えた。

 最初に出た言葉は謝罪だ。

「ごめ、ごめん、なさい……」

 目を合わす事も無く、ただ必死に声を出すのが精一杯だった。

 アースはゆっくりしゃがみ理美の顔を見た。

「大丈夫、大丈夫だから、怖かったものね、皆に忘れ去られ、逃げるしか無かったものね。私もどうしてこうなったのか分からない。でも、ごめんなさい私があの時あの子に怪我をさせなければこうはならなかった」

 その話に理美はアースを見た。

 怒ってはいない悲しく、心配していた目だ。

 初めて怒っていない安堵感と自分のやらかした事が原因でありアースのせいでは無い罪悪感で涙がまた溢れ出た。

「違うよ、私が怒って突き飛ばさなければ良かったんだよ……」

 アースは理美を抱きしめ合った。

 蟠りが解け、少しだけ理美の顔付きが穏やかになっていた。

 だが、この後20年以上の月日をどう説明すれば良いのだろうか、この様子だと管理者に付いても多分アースが話しているとは到底思えなかった。

 しかし、どちらにせよ、理美は現実を見る羽目になる。

 アダムは理美が混乱するのではと考えるも受け入れさせるべきと考え言った。

「理美、これから話す事をよく聞くんだ」

「……はい」

「君はこの姿のまま、20年以上、山の中で暮らしていたんだ」

「えっ?」

 やはり動揺した。

 アダムはそれでも話を続けた。

「そう怯えないで、私達もどうしてなったかは分からない。でも、君をこのままにしておけない、君のご両親やもし兄弟が居れば、こちらで探す。勿論、君の意見を尊重しよう」

 ここまでしてくれるアダムになんて答えれば良いか分からない理美には先程の話も踏まえ、こう答えた。

「ううん、良い。忘れられちゃってるから、それにもしその話が本当なら誰とも会いたくないし、会えない」

 たかだか数年程度ならきっと会いたいと言っただろ。

 けれども忘れ去られ、20年以上の月日が流れている以上、子供であってもこれだけは分かる。

 会っても自分自身が苦しいだけだ。

「そうか……」

 アダムは理美の断りは理解したが、坂本に目配せを送った。

 どうやら一応調べてどうするかをもっと成長してからか精神が落ち着くまで再度意見を聞くつもりでいた。

 坂本もその辺理解出来、軽く手を上げ了解とした。

 巨樹はゆっくり枝を下ろし、理美の頭を触り、何かを感じ取って巨樹のアースが話す。

「まだ気持ちが落ち着かないでしょうが、あなたのアースに付いてお話があります」

 またよくない話なのかと緊張してしまうが、ここでは言う事を聞かないといけないと身構えた。

「はい、何?」

 自身のアースに大丈夫と促されるまま、巨樹のアースが話す。

「これはまた珍しい愛されし者ですね」

「……?」

「全ての生物に愛されし者です。きっとそのお陰で今までやって来れてたのでしょうね」

「どういうこと? アースと一緒になったら動物と話せるんじゃないの?」

 理美はアースと一緒になって忘れ去られたのは誤解であると理解した上で、動物と話せる様になるものだと思い込んでしまったようだ。

 アダムのアースが言った。

「ないない! 話せる奴なんて特定の生物とかじゃないと話せないのが大半! 全部と話せるなんてすげぇなぁ!」

 無論アダムもだ。

「成る程、だからあの時君を守る為、あの熊は私を襲ったのか、今なら納得出来る。君に危害をくえわえるかどうか見定めもその為か」

 今まで起こった事を振り返れば振り返る程、理美の全ての生物に愛されし者なら、無意識に守ろうと動物達が動いていたのだ。

 あの馬鹿げた噂も本当だった。

 理美は熊について謝罪し、守ってくれていた熊を殺してしまうのかと心配になった。

「クマの事はごめんなさい、殺しちゃうの?」

「大丈夫だよ、怪我もしてないし、人さえ襲わなければ無事だ」

 あの熊はとても賢いので、脅かす事はしないし、ちゃんと見定めきちんと出来る。

 たまたま運が悪いのか定かでは無いが、あの時は理美がそこに居たのからこそ、守る為襲うしか無かったのだ。

 そうと分かるとアダムも少し申し訳なさが生まれるも、自分で良かったとも思えた。

「うん」

「おいで、まだ混乱もあるだろうが、まずは色々管理者について話そう」

 アダムに差し出された手を理美は握り締めた。

 巨樹のアースは管理者とはどういうものかを伝えた。

「管理者とは世界を守る者と言いましょうか。今のあなたには少々難しい言葉になりますが、循環と言うのは絶対止めてはいけません。人や動物、植物もまたその循環の一つです。世界はその循環に準じており、それを止める事や欠ける事が許されない。ですが、まがい物は我々アースを生み出した残りカスと言うべきでしょう。それが人や動物にとって有害です。その為我々で処分しなくてはいけません」

 内容は既によく分からずの理美だったが、まがい物に関して興味を持った。

「……それはどういうのやっぱりアースのように見えないの?」

「いえ、あれは真逆で赤々と血のような石をしているのでとても分かりやすいです。なんでも叶えてくれる石のようで、精神を蝕みやがて体も食われてしまう恐ろしい物です」

 何故、アースと真逆で残りカスとして言うのか分からないでいた。

「どうして、アースのようにならなかったの?」

「アースは歴史や時間、感情、願い、その他諸々の負や正が混沌となり、ゆっくりと濾過されていきアースが生まれます。ですがやはりそれでも全てがアースにならない。残念ですが、これはどうにもならないのです」

 その説明に納得したかはまた別だろうが、理美は山の中で自然と言うのを今まで見てきていたので、残酷な位の自然の厳しさと一緒なのだと、なんとなく察した。

「うん」

「そしてもう一つがイビト、この者達、生物達により生命の危機、文化の危機に直面します。真っ先に退治しなくてはいけなし、或いは守るべきとも考えられる者」

 ここに来て矛盾な事を言われ、理美は頭を捻った。

「なんで退治するのに守るの?」

「流石にまだ貴女には早いので、おいおい話ます。気にはなるでしょうが、全て飲み込むには既に両手から溢れているようですね」

 確かにもうどう言うものかを再度聞き直さなければいけない程、頭の中がいっぱいでほぼほぼ良く分かっていなかった。

 それでも、最初の時より随分と落ち着き、アダムに抱き抱えられても暴れる事は無かった。

 だいぶ落ち着いた所で、アダムはここで自己紹介を始めた。

「理美、私はアダム•リムワトソンと言う名前だ。アースの名前はオースと呼んでやってくれ。そして幻覚に愛されし者だ」

 続けざまに巨樹のアースも自己紹介をした。

「私や動物達の管理者はアースにあまり名前を付けませんが、この木には御神木と皆にそう言われています。御神木は知るに愛されし者です」

「アダム、御神木?」

「そうだよ。また忘れたら何度も教えてあげるから、安心しなさい」

 理美はこくりと頷き、自身も自己紹介を始めた。

「……嘉村、嘉村理美(かむらりみ)です。アースは……」

 色々あって、アースに名前なんて考える暇すら無かったんだろう、今から考え出したので、アダムは言った。

「今はまだゆっくり考えなさい」

「うん、分かった」

「自己紹介全員やっても、あまり覚えられないだろうから、また会えた時でも――」

 そう言いかけた時だ。

 ジルが勝手に自己紹介を始めた。

「いいや、俺も自己紹介するぜ! ジル•アブリウスだ。こっちがアヌビス、死体に愛されし者だ!」

 全員ドン引きさせ、理美にとっては怖い人と認定してしまい、泣きそうになった。

「ひっ!!」

 せっかく落ち着きを取り戻したのにとアダムが怒ってしまった。

「この大馬鹿者が!! 怯えてしまったでは無いか!」

 御神木のアースがアダムを宥めつつ、集会を始めた。

「まぁまぁ、それでは改めて、集会を始めましょう――」


 小難しい話やらおかしな話やらで色々と盛り上がる中、理美はアダムの懐で相当疲れていたのだろう再度眠ってしまった。

 それを見ていた坂本が言った。

「よっぽど疲れてたのねぇ」

「20年以上もその姿のままってのもありえねぇけど、山の中ってこの近くだけじゃないだろ?」

 ジルもこの辺に現れたのは最近なのをネットなどで知って、ずっと同じ山ならもっと前から噂になっているだろうと勘付いていた。

 だからこそ、御神木のアースが話す。

「そうです、ずっと歩きながら人里を警戒し、山から山へ森から森へと、寝るのも動物達とでしたから、ゆっくりは眠れなかったのでしょう」

 理美の裸足もこれで理解出来た。

 きっと擦り切れ、穴が空き、履けなくなり脱げてしまったのか或いは捨てるしかなかったのか、そこは定かではないが、裸足は切り傷や青痣もあった。

 ジルがアダムにある事を聞く。

「再生の話とかもまだだし、どうする気だ? 俺達管理者は皆、死という概念が無くなって、老いて眠りについても不死鳥の如く、数年後には最初にアースと出会った姿に戻る、ガキのこいつに頭が追いつくとは到底思えないぜ?」

 管理者となった以上死と言うものがない、老いて死ぬのではなく不死鳥の如く最初の姿へと戻る。

 子供の理美にはただでさえ様々な状況下に置かれていて、理解が追いついていない以上苦しめる可能性があった。

「今の状態ではそこはまだ言えないし、精神的にも肉体的にも大人になるまでは話せないな、そうだろう?」

 いつの間にか理美のアースが出現していて、理美を撫でながら、アースなりにもっと大きくなり精神的にも大丈夫になって自ら話すか、管理者同士に任せたかったようだ。

 ただ、理美と一緒になった経緯を御神木のアースが話ていないので、それについて自ら話した。

「そうね、私も決めた時は精神的に大人になってからか、同じアース、管理者達と話せれば、自然とその話が出るし理解も早く済む……でもあの時、いじめを受けていて、自分の父を侮辱した相手に突き飛ばし、たまたま私の上に来て、私が拒否をした事で相手は傷付き、その後、怪我した場所を探しに来たのあの子が」

「成る程、きっかけがそれだったのか」

 アダムもなんとも言えない顔になるが、アースと一緒になる時は本当にアースの気まぐれと運の強さに左右される為、理美とアースのきっかけがまさかイジメに対して反撃してしまった事に驚くも納得するしかなかった。

「えぇ、でも元々あの子って決めてたし、せめてそんな状況ではなく出会いたかった。理美を慰めるのと反省を促すつもりで一緒になったのに、何故あんな事に……」

「元々?」

「そう元々、でも子供の時に一緒になるつもりはなくて、運が良ければ成りたいと思っていたんだけど、それで先の話になるわ。この子はどこか安全で人が住んでいる場所なんてあるかしら、せめて少しづつ人に心を開ける場所が欲しいの」

 アースにとって理美は大切なパートナーである以上、せめて心が休め、開ける場所を願っていた。

 丁度アダムは集会後に、寄る場所があり、そこで安心出来るならそのまま預かって貰う予定で考えており、何より信頼している相手が居るようだ。

「大丈夫だ。この後アイツらがやっている園に行くから、暫くそこで居て安心出来るならそのまま預かって貰おうと考えている」

「そこまで、ありがとうございます。ところでアイツらとは?」

 ジルはそのアイツらを知っていて、話に入って言った。

「あぁ、ちょっと変わり者だけどしっかり見てくれるから、安心しろ」

「……?」

 少し不安になるが、アダムの知り合いなら安心出来るかもしれない。

 理美のアースはそう思うことにした時、坂本が話しかけてきた。

「そうだ。とりあえず、アースさん。落ち着き次第になるけど、この子の戸籍も管理者経由で作りたいから、分かる事全部教えて」

 どうやら、理美の現状では忘れ去られただけで無く、そのままの姿で20年以上いた為、戸籍が万が一残っていたとしても使えない状態だ。

 そこで、改めて作るにしても、出来うる限り必要な情報が欲しかった。

「は、はい、では――」

 理美のアースはとにかく知っている限り話、御神木のアースからも情報を貰う事で、大体の把握が出来た。


 ――そして朝になり、各々自分達の住む場所へと帰って行った。

 理美は帰る場所が無い為、アダムが連れて行く。

 強張った顔の理美に優しくアダムは言った。

「大丈夫、私も暫くは居るし、君が落ち着ける場所が見つかるまで一緒に居よう」

 その言葉に嘘偽りもない。

 理美はぎこちなく笑顔になって言った。

「……ありがとう」

 御神木のアースはアダムに理美をお願いし、御神木自身の枝がゆっくり揺れ、手を振っているように見えた。

「理美の事よろしくお願いしますねアダム」

「あぁ、分かっている。また集会で会おう」

「またね、御神木さんと御神木のアース」

 理美も手を振って、アダムと共に御神木の元から去った。

 御神木は理美達が居なくなるまで、ゆっくりと枝を振り続けていた。

 

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