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追跡

 理美とゼフォウはクマに乗って冬美也を探す。

「クマ、冬美也の匂い追える?」

「ダイブへんなニオイもキエて、いまならオえるよ!」

 ゼフォウからしたら、熊がふごふごと何か唸ってるように見えるので、理美に聞いてみた。

「何言ってるか分かるの?」

「うん、なんか変な匂い消えてるから冬美也を追えるって、なんで最近変な香り漂ってたんだろね?」

 疑いもするが、ゼフォウは理美の話を聞く。

「変な香り……?」

「内緒なんだけど、そのせいでその子達が探せないってディダが死んでないか心配だとか、夜も探しに出てるってアリスが言ってた」

 ここでゼフォウは、理美が動物と話せると確信と共に、理美の出てくる名前はアイツらではなく、きっと保護を目的として探してくれていたのを理解し、心の中で黙っておく事にした。

『やべ⁉︎ アイツらかと思ってフィリアずっと力使ってたの黙っておこ‼︎』

 その時、トラックが走った跡が幾つも存在する場所へと出る。

 クマはすんすん鼻を引くつかせ、どこまで行ったのかを確認した。

「ヤバいね、ここからさきがわからない」

 匂いが途切れればもうお終いだ。

「乗り物かな? 鉄とかの匂いは?」

 しかしクマはある提案をする。

「んー、クルマのニオイはおえなくないけど、おなじのばっかりだからムリ……いや、あえてヘンなカンカクをリヨウしてみよう、ちょうど、そこのいるヘンなのとはまたチガウんでね」

 どうやら、今まで怖がって逃げていたのをあえて追跡に切り替え、追いかけれるかもとクマの提案を理美が教えてくれた。

「おっ、また変なと言うものを逆に利用するのね。ゼフォウとは違うから追えるって」

「変? 俺も冬美也も?」

 ゼフォウとしては何が変なのか不思議でならなかったが、理美としてもどうして変なのか分からなかった。

「さぁ、どう見ても変には見えないけどね。なんでだろう?」

 ところが、ゼフォウはこの変なのは、あの実験のせいでおかしな異能を発動出来る様になったせいではないかと考える。

『まさか、動物達が逃げてたのって、実験影響によるものだったのかよ……』

 今まで考えていなかったが、動物達に特に肉食動物や雑食動物に会えばきっと狙われると皆警戒していたのだが、不気味な位に会っていなかったのだ。

 運が良いと思っていたが、どうやら自分らは変な危険生物として見られていたのだと知り、目から正気が消えていく。

 理美はそんな事を知らずに、何処から感じるかをクマに聞いた。

「クマ、冬美也の位置大体分かる?」

「クルマはやっかいだよ、あたしらよりアシがはやいからドンドンひきはなされている!」

 必死に走るクマだが、生き物と機械、どちらが勝つかと言えば、持久力のある機械だろう。

 この時、何を思ってなのか理美はクマに指示をした。

「後、20分弱でヘリで飛んで行っちゃう! クマ、このまま左斜めで走って!」

 長年の付き合いのクマなら理美の指示が分かる。

「はっ? いや、あんたがこれいうときは、ゼッタイおきる、しんじるよ!」

 今までこうなった時の理美の言葉は絶対に当たるのだ。

 ゼフォウは一体何の話をして、左に逸れていくのか本当に訳が分からないまま振り落とされない様に必死に掴む。

 最悪な事に、あの防護服の連中がまだライフルを持って動き回っている。

 が、熊が少女と実験体を乗せ、走っているのを見ればどんな冷静な人間でも驚くものだ。

「うわぁぁ⁉︎ 熊だ!」

「というか、なんでガキ乗せて走ってんだよ⁉︎」

「よく見ろ! ガキの1人は番号15104だ! と、とにかく撃って、ガキを捕まえろ!」

 防護服の連中はライフルを構えようとした時、理美は何を思ってか今度は手を翳す。

 同時に、木や植物が動き出し、蔓がライフルを取り上げ、木の枝が防護服の連中を宙吊りにした。

「な、な、なな?」

「ぎゃぁぁ‼︎」

「ちょ、くそっ! お、応援を!」

 連中がトランシーバーを使って応援を呼ぼうとするも、クマはそのまま走り去っていく。


 その頃、ディダ達はと言えば――。


「流石に面倒だからって、持って来たけど、これにも効くんだ、長年使ってて新たな発見だな」

 ディダがどういう訳か日本刀を振り回し、冬美也を探していた。

 日本刀を振り回すと、ずっと気になる匂いが消え、ようやく匂いに釣られずに済むと小言まで言う始末だ。

 その時だ。

「見つけたぞ! 番号28003、番号20895を発見! 良い加減に大人しくしろ!」

 浅黒い少女と背の高い中学生位の少年が必死に逃げ惑っている。

 あの防護服の連中がいたのだ。

 しかも、奥には既に捕まって首を絞められている子や銃を向けられた子供数人までいた。

 それを見たディダは一瞬にして、その状態から防護服の前に立ち、殴り飛ばす。

 防護服の1人が言う。

「来た! あの男だ!」

「撃て撃て!」

 弾丸を日本刀で簡単に斬り付け、落としていく。

「僕1人ならコレ使わなくても良いんだけど、子供に当たるの嫌だし、それとこれ以上暴れない方が君らの為だよ?」

 警告をしながら相手のライフルを切り落とす。

 しかし、上から屈強な迷彩服の男が飛んでディダの前に降り立った。

「やはり、コイツは人間じゃない何か、こういうのを待っていたんだよ俺は!」

 そういうと、人間ではあり得ない両腕や顔に鱗が出現し、手に至っては鋭い爪に変化する。

 化け物の様な姿に防護服の連中はこれで勝てると盛り上がった。

「特攻部隊が来た!」

「バカめ! 散々邪魔したツケを払ってもらおうか!」

 その言葉と裏腹に、ディダは刀を鞘に仕舞う。

「おっ? 拳でやろうってか? あぁ?」

 脅しにかかるも、ディダは深いため息を吐き言った。

「はぁぁぁ……後ろ見てみようか」

「何を言って、簡単に吹き飛ばしてやる!」

 そう言って振り落とす鋭い爪がディダを襲う。

「ハウス!」

 女性の言葉と共に鱗が鋭い爪が一瞬に消えただの人だ。

 驚く屈強の男の頬にディダの拳が入り、軽く3mは吹っ飛んだ。

「こんにちは、あの時の夜以来ね。バスの」

 そこにいたのは坂本だ。

 ディダも坂本の気配を感じ、余計な力も入れず、余裕綽々に会話をした。

「そうだっけ? まぁ、坂本さんの気配や管理者の気配あったから、下手に力使わなくて済んだよ」

「いやぁ、久々に爬虫類系に愛されし者が役に立ったわ」

「ドラゴン系にも含まれてるから正直嫌だけどね、こっちは」

 防護服の連中もこの2人に負けているのに釈然とせず、こうなればと、子供を盾に使い黙らせようと、怯える1人を掴もうとした。

 が、ディダの会話をちゃんと聞いていないが為に何かの影響で失神する。

 他にも次々と失神され、気が付けば、防護服全員失神し、あの屈強な男は隙見て攻撃をと拳銃を取り出そうとした時、薄茶髪の眼鏡の男性が軽く首筋を触ると感電する感覚と共に失神を起こした。

 一通り済ませた後、ディダに言う。

「全く、こちらも他の人に頼んでやって来てるんだ。少しは感謝したらどうだ? ディダ神父」

「感謝してるよ、ありがとう日向さん」

「軽いよねぇディダっていつも」

 坂本と日向は昼行燈な雰囲気のディダに日向は頭を悩ませ、坂本は苦笑いしつつ、ディダに帰るよう促そうとした時だ。

「だな、さて、子供達はこちらで保護するからディダは――」

「あの、ゼフォウと冬美也を、黒髪の男の子と銀髪の男の子を見ませんでしたか⁉︎」

 大人3人はその言葉に、驚く。

「――!」

「僕は冬美也君を探しに出て来たんだ。理美ちゃんと喧嘩しちゃって」

 ディダも探しに来ていて、しかもその理由には日向ですら呆れてしまう。

「おいおいおい、これアダム神父が知ったらカンカンだぞ?」

 坂本もどうするかと考えるも、まずその話を振った子に名を聞く。

「仕方がない、君の名前は?」

「フィリアです、こっちはザム、実は冬美也を探してて、そのごめんなさい! 敵か分からず力使って惑わせてしまって」

 この辺でディダは理美の言う動物の変なものに付いて、漸く理解出来た気がした。

「……なるほど、この香り君が作ってたんだ。どうりで君らに辿り着けなかったのか」

 流石に今ここでどういう事なのかをフィリア達に聞くには時間が惜しい。

「そのことはおいおい聞くとして、まずは冬美也君を見つけないと」

 だが、状況があまりに芳しくなかった。

「薄っらと血痕残ってて、防護服の連中が何か知ってるかと思ってたんだけど、全員失神だしどうしよう……冬美也君の気配も無くって、何か怪しいの無かった?」

「今他の奴らに連絡する待ってろ」

「こっちも琴辺りにでも連絡してみるわ」

 ディダは匂いや音で辿ろうにも、どうも何か乗り物に乗せられたのか、気配すら消えてしまい困っていた。

 坂本や日向も他の管理者に連絡を入れ、何か怪しいものは無かったかを今確認している中で、フィリアがこの中で小柄な子供を連れて来て話す。

「なら、アイムなら力になれます。アイムは認識している相手の場所を把握することができます」

「あ、あの、ゼフォウも冬美也も、動いてる、地図ありますか?」

 アイムの言葉に、日向が坂本に指示し、坂本はパットを取り出し、地図アプリを起動させこの周辺を見せる。

「なら、坂本はこの子に付いてあげて、常時連絡を、神父は……現段階の情報だけで行けるか?」

 ディダの機械音痴は誰でも知っている様だが、それなりに経験を積んだ者なのだろう、最初だけ分かれば良い様だ。

「行けるよ、それさえ分かれば、大体の予想は付けられる」

 アイムはすぐに何処なのかを教えると、意外な事が分かった。

「ここがゼフォウ、冬美也はここ、ゼフォウはここから動いてて、冬美也はもっと速くここから動いてる」

 大人3人パットを覗き、どの辺だろうかと考えていると明らかにおかしな点で繋がりを感じる。

「追いかけてる?」

 坂本はこの時点で追いかけているのが分かるも、冬美也は血痕と速く動いている事である疑問が湧いた。

「まさか? 子供が? 他に管理者に乗り物乗ってきた奴いる?」

 現時点でこんな山の中で車を走らせるなんて無理だ。

 ディダはある事を思い出し、それなら可能性があった。

「……理美ちゃんと一緒なら熊も一緒だ」

 そう、熊の時速を考えれば可能だ。

 しかし、アイムはさらにこう付け足してくる。

「どうし、て? 急に逆方向に走ってる?」

 この時点で別方向へと進んでいるのを見て、日向はこの近辺の坂や道路の道等を鑑みて、ディダに再度指示して、日向はジルとアダムに合流する事にした。

「見せて……ディダは冬美也君を追って、こっちなら琴が居る範囲に入る、彼女に任せよう。ジルとアダムは今もあの白装束の基地に乱入中だろう、自分はそっちに応援に入る」

「分かったよ、だからって許可無く殺生しないでね」

「はいはい、分かった分かった行け行け」

 そう言って、ディダを見送り、ディダも日向達が余計な事をしないか心配しながらも走って行った。

 ディダを見送った後、日向は坂本と子供達を翼園まで行く様促す。

「ここに居るとアレだし、坂本、一度翼園付近まで降りて子供の保護も含めて、行ってくれ」

「分かったわ、ほら、おいで君達、翼園に行けばご飯もあるし安全だから」

「はい、行こう皆」

 フィリアは何となく分かった、日向がこの後何をするかを、ただ、ちゃんと子供として扱ってくれる上、きっと悪い人ではないと思い、そのまま坂本に付いて行った。

 直後、屈強な男が先に目を覚まし、動こうとする。

「うぅ……ぐぁ⁉︎」

 日向は誰も居なくなったのを理解した上で、男の頭を踏みつけ言った。

「さて、その前にどうせ生きたままだと喋らんだろうから、一度死ぬか? 死体の方が話してくれるだろう」

 どちらが非道か分からない。

 しかし子供が受けた傷はもっと深いのを考えれば、まだ優しい方だろう。

「ひっ……やっ――!」

 この後どうなったかは分からない。


 ひたすらクマは休まず走る。

 ただ、やはり生き物、徐々に疲れが出始めた。

「頑張ってクマ、あともう少し!」

 理美はずっと向こうを見る。

「なんか、イヤなヨカンがする」

 クマの言葉に理美がじっとその嫌な予感を感じ取り、すぐに指示をした。

「右!」

「あいよ!」

 避けた直後に何かが地面を抉って爆発し地面が吹っ飛ぶ。

 ミサイルなのか、本当に何が起きているのか普通なら恐怖だ。

 理美は恐怖せず、次に来るものを次々良い当て、全てをクマが避けていく。

「今度は左の右! 次は右上!」

 どんどん進む中、バズーカを持っている迷彩服がいるのにクマが気付く。

「リミ、ブキもったヤツがミギほうこうに、もっとサキにいる!」

「武器持っている奴が居る? なら――」

 理美は近くにいる植物に頼もうと考えた時、ゼフォウが自分にやらせて欲しいと頼む。

「俺にやらせて、俺に指示して」

「降ろせないよ?」

「降りなくても大丈夫だから! 熊の様に指示して」

「分かった」

 最初どういう事かさっぱりだったが、徐々に近付いているのか、更に飛んでくる。

「もうチカくにいるよ!」

 理美は数を数え、ゼフォウに指示。

「3……2……1、今右撃って!」

「お、おう!」

 その直後にバズーカを爆発させ、持っていた迷彩服の男は爆風で吹っ飛び気を失う。

 クマが過ぎて、迷彩服の男達と防護服の連中が連絡を入れる。

「先程から熊に乗った未確認の子供と番号15104に突破されました……? おい、返事をしろ!」

 ずっとノイズのまま、何一つ返答がない。

 その間にどういう訳か他の迷彩服の男達に防護服の連中が次々と息が出来ずバタバタと倒れ込む。

「な、なんかさ、寒気が……!」

「き、気持ちが、わ、る……」

 1人だけ、言葉を発した。

「た、祟りだ! 土地神が怒ったぁぁぁ‼︎」

 発狂して走り出すも倒れ込む。

 この辺り一体が不穏な空気が漂う。

 1人の女性が走ってここを過ぎて行く際、スマホを取り出し誰かに連絡する。

「すいません、この辺り一帯にも居たみたいなんですが、死んでますね。どうします?」

「放っておけ、君は早く熊を見つけるんだ、土地神を怒らせたんだろう」

「分かりました、私達は大丈夫なんでしょうか?」

「許可は取ってるし序でに殺めてヨシと言われてる」

「では、切りますね」

『困ったなぁ、こうなるとこっちにも悪影響出るんですよねぇ』

 そう思いながらスマホを切り、熊を追う。


 追われている事なんて気付いていない理美だったが、クマから言われる。

「なんか、あたしらオわれてない?」

「それよりも、冬美也を見つけなきゃ! そんなのは後!」

 クマは理美の声にタジタジになるも、これ以上行くと道路に出てしまうと分かり、理美に言う。

「わ、わかったよ……ここドオロのウエにでるんじゃ?」

「まだ、間に合う」

 クマの言葉に耳が入らない位、理美がずっと先を見ている気がした。

 途中、クマが足を止めてしまう。

 よく見ればここは崖で、真下には道路があった。

 田舎の道路と言うべきか、運送業者が通る位の道路で、あまり走っている様には見えない。

 しかし、今日の道路は些かおかしいのだ。

 運送業者のトラックが妙に多く、対向車も一台も無い。

 しかも普通の車は一切走っていないのもおかしい一つだ。

 理美が必死に目を追いながらクマに言った。

「このままトラックを追いかけて! 指示するまでずっと!」

 クマはトラックの動きに沿って走り出す。

「あいよ、なにかわかったんだね!」

「なぁ、どうしたんだよ?」

 何の話をしているのか、ゼフォウにはさっぱりで理美に聞くと意外な事が分かった。

「この中のどれかに冬美也が居る!」

「ただ、どれもヘンなモノがただよっていてわからん、リミあんただけがたよりだよ!」

 そのうちの一台にあの例の白髪の男が乗っていた。

「ふむ、このツキノワグマ、子供を乗せている……しかも後ろに番号15104も……戦闘準備を爆発に備えろ、万が一もあるトラックのスピードも上げて振り切れ」

 流石にどうやって熊を服従させ乗せて居るのか分からず、このままではせっかく冬美也だけでも取り戻せたのに、ここで強奪さてはたまらない。

 ここで迎え撃つのも良いが、ゼフォウの爆発を甘く見たらエライ目に遭うのも分かっていた。

 止まらずそのまま走り続ければ例え速いと言われる熊でも機械には負ける。

 幾つものトラックの隙間からマシンガンを構え、撃ち出した。

 クマ的にはもう限界で逃げ出したいのだが、まだ理美からの指示が無い。

「り、リミ! もうゲンカイだよ!」

 もう疲れと弾丸と音で逃げ出したかったが、ここでまた酷い指示が飛ぶ。

「ここで落ちて!」

「へぁ⁉︎ も、もうどうにでもなれ‼︎ おんどりゃあぁぁぁ‼︎」

 全ての生き物に愛されし者の特権と言うべきか、何と言うべきか、もうこれは一種のハラスメントに成りかねない。

「うあわぁぁぁぁ‼︎」

 いきなり落ちるクマの毛に必死にしがみ付くゼフォウは、少々浮いていた。

 落ちた所に丁度トラックのコンテナに落ち、凹みはしたが、特殊なコンテナなのだろう、かなり硬く、クマの爪が何とか食い込んだ。

 トラックとコンテナの間から迷彩服の男がマシンガンを手に持って、構える。

「まさか、こんな熊すら操れ……なんだこのガキ⁉︎ 番号15104と一緒になって、クソが、落ちやがれ!!」

 引き金を引いた直後、もう1人黒髪の短いパンツスーツ女性が一緒にコンテナの上に降りて、何かを振り回したかと思えば、それを止めた。

 よく見れば、薙刀だ。

「こちらで冬美也・F・神崎様が居るので間違ってはいないでしょうか?」

「……えっ? あ、はい、誰?」

 急に現れた女性に驚いていると、にっこり微笑んだ。

「よかったです、少々落ちますのでしっかり掴んでいてください」

 クマも理美もゼフォウも何を言っているのだろうと頭を傾げるとすぐに理由が分かった。

「はっ? きゃぁぁぁ‼︎」

構えていたマシンガンが千切りになって迷彩服の男が唖然としている合間に、今度はトラック自体が蛇行始め、振り落とさてしまう。

 無論、振り落とされそうになっているのは理美達もだ。

「無理無理無理無理‼︎」

「死ぬぅぅ‼︎」

「リミよりもっとひどいヤツがいたぁぁ!」

 蛇行したトラックがガードレールにぶつかり、トラック自体はガードレールに引っ掛かり無事だったが、その代わりにコンテナが落ちる。

 コンテナが落ちると言う事は勿論、理美達も落ちた。

 理美とゼフォウとクマが叫ぶ中、何かが飛んで来る。

 大きな大きな白い生き物が大きな翼を広げ、コンテナと理美達を拾い上げ、飛んで行く。

 マシンガンを構えた迷彩服の男達も呆気に取られるもすぐに撃ち出したが、どれもこれも当たるどころかその白い生き物を弾丸が避けて行った。

 白い生き物は何処かへと飛んで行くのを見ているしかなかった。

 しかし白髪の男は全員に連絡する。

「10分後、止めているヘリに乗る。ついでNo.1160の試作実験を臨時で行う」

 全員その言葉に顔が歪んでしまった。

 

 その頃、白い生き物が安全な場所へと降り立ったと共に姿が変わる。

「ちょっと、琴さん! 子供達や動物も乗っているのに、あれは無いんじゃないの!」

 琴は笑いながらスマホを白い生き物に見せるがどう見ても、そんな風には書いていない。

「ちゃんと日向さんからloinで許可もらってますよ」

「めちゃくちゃ、子供を怖がらせるな危険に晒すなって書いてあるじゃない!」

 聞き覚えのある声に理美は驚き声を出す。

「えっ⁉︎ ディダ⁉︎ ディダだったの⁉︎」

 白い生き物はディダだった。

 それを見て驚くゼフォウは腰を抜かしてしまう。

「なんなのあんたら? 本当に人間?」

 確かに驚くし、ディダが人間ではない疑惑も浮上した為、どう話せばとディダ本人が考えていると琴が色々話し出す。

「この方は、ドラゴンなんで本来ならあの姿なんですけど、普段はこう人の姿で生活してるんですよ」

「ちょっと普通に話すの止めて! 琴さん!」

 しかもよく見れば、クマがもう隠れて怯えている。

 コイツら人間じゃないと言う、強く警戒する目だ。

 勿論、琴もだし、ゼフォウです。

 そんな事どうでも良く、理美は冬美也に会いたいが為に、必死に開けようとしていた。

「この扉……開かない!」

 よく見ればパスワード式の頑丈な扉だ。

 挙句に凹んでいる部分も幾つもあり、パスワードで解いても開く事はないだろう。

 琴は理美に近付き、扉の状態と自己紹介を始め、最初は警戒する理美だったが、本当に開けれるならとお願いした。

「へしゃげちゃいましたかね? ちょっとすいません離れて、私は金属系に愛されし者、中沢琴です。あなたが嘉村理美様ですね。坂本から聞いています。新たな管理者だと」

「あっ……はい、嘉村理美です。全ての生き物に愛されし者です。あ、あの扉を開けてくれますか?」

「大丈夫、私なら開けれますし」

 そう言って、琴は手を翳すとガタガタと扉が動き出し、パスワード無視での開錠が始まり、ゆっくりと扉が開いた。

 開いて琴とディダが冬美也の姿に顔を歪ます。

 それもそうだろう、あの状態で人としての機能がまだある方が奇跡な程、半分が人間の形すら無い無作為の金属性でコンテナが覆われていたのだ。

 流石にこの状態では子供達には見せられず、琴がまず直せるか試そうと近づいた時、理美が真っ先に入っていった。

「やめ……今ちょっと……!」

 冬美也も意識があるのか気が付き、虚ながらこちらを見る。

 理美はすぐに冬美也のまだ残っている手を握って、謝罪と共に泣きながらも笑って言った。

「冬美也、ごめんね、もう大丈夫だよ。一緒に帰ろう!」

 ゆっくりと涙をボロボロと流す冬美也だったが、この体ではもう戻ろうにも戻せないと声も先程のせいであまり出ないし、きっと喉の方も金属になっているのかもしれない、このまま手を離して上げた方が良いと思っていた時、琴がやって来て冬美也に言った。

「動かないで、理美様はそのまま冬美也様の手を握ってあげてください。試しに出来るかやってみます。できなければ神父にとりあえず運んでもらいますので」

「……?」

 何を言っているのか分からないまま、体も動かすが出来ないまま、大人しくするしかない。

 しっかり掴んだ手はとても温かく、理美を見る。

 怖くないのかと尋ねたいが、やはり喉は使い物にならない。

「……ぁ、ぉ、え……ん……ぇ」

 かろうじて声が出るようになって来た。

「良かった、少々時間が掛かりますが、元に戻せそうです」

 ゆっくりだが、金属が小さく体に戻って行く。

「冬美也、大丈夫だよ。治ったら帰って一緒にまた遊ぼ」

 理美は笑って話す。

 冬美也は再度声を出すもやはり中々出て来ない。

「ご……め゙……ん゙……ね゙……」

 絞り出せた謝罪に理美は頭を振る。

 それはあなたのせいでは無いと言う意味だ。

 理美はあの時ちゃんと言えなかった話をしたいとも言い、聞いてほしいと願う言葉に涙する。

「それから、あの話ちゃんと話すから聞いてくれる?」

「うん……ご、めんね……」

 琴は冬美也の体が殆ど元に戻ったのを確認した。

「後大丈夫です。立てますか?」

 冬美也は立ちあがろうにも、よろけてしまう。

 その為、理美が冬美也の手助けをした。

 既に服もズタボロで殆ど着れた物でも無い。

 ディダが自身の上着を脱ぎ着せてあげた。

「ほら、これ着て」

「私のでも良かったのに」

「もし血や泥付いてたら落とすの大変でしょう? こっちは替えも多いから」

 ゆっくり外に出て、光に当たると相当酷い状態だったのだろう、痣の部分が多く、よく見ると血も固まってはいるがかなりの切り傷だ。

 連れて行く際に酷い暴行を受けた可能性もあり、ディダの顔が酷く歪む。

 琴はディダに言う。

「こうなっては仕方がありません。いつも思っていますよ。とりあえず命あっての物種、生きていたから良いじゃありませんか? 四肢体も無事、後で喧嘩してどっかの小さな崖に落ちた事にして回りの説得しましょう」

 こういうのはもう慣れているのか、もう余計な事を考えないように、切り替えも必要だと伝えたかった。

 ディダは逆に琴に問う。

「価値観としてはそうだけど、琴さんは相手許せる?」

「全然許しませんよ、絶対」

「なら良かった、とりあえず君の言う通りにするよ」

 そのお陰で切り替える事が出来た。

 ゼフォウが冬美也を見て、良かったと近付く。

「冬美也! 良かった」

 当の本人である冬美也はどう話せば良いのだろう。

 下手に回りに記憶が戻ったのを知れば、喜ぶが父、総一になんて話せば良いか分からなかった。

「冬美也、ゼフォウだよ、覚えていない?」

「……」

 とりあえず、このまま帰ってからゆっくりゼフォウに話をすれば良いかと思い、理美を見て微笑むだけにした。

 大人2人も辺りを警戒しながら帰ろうと促そうとした時、理美だけは違う方を見る。

 脳内から見える映像は、冬美也に弾丸が当たり、もがき苦しむ姿に、再度あの金属性に化け、琴が治そうとする中でヘリを使って無理矢理連れ去ろうとし、ディダも応戦するも最終的に連れ去られるものだった。

 それだけはダメだ。

 理美は、冬美也を突き飛ばした。

 何処かから飛んで来た弾丸は理美の左肩に命中し貫く。

 ディダも驚き、駆け寄ろうとする。

 琴は何処から飛んだと空を見渡す。

 冬美也はどうして飛ばされたか見て理解した。

 理美が普通の弾丸じゃない、あの弾丸に当たってしまったのだ。

「あ……あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ゙ぁ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼︎」

 激痛に襲われ、理美が倒れ込む。

 同時に植物がワラワラと理美を取り囲んで行く。

「り、理美!」

 冬美也はすぐ近くだった為、理美の肩に触れ、穴を塞ぎたいのと、あの薬品を取り出したい気持ちで手が金属になってしまうが、そんなのお構い無しに必死になって塞ごうとした。

 ゼフォウはその弾丸に見覚えがあり、顔が引き攣る。

「な、なんで? 何処から⁉︎」

 そんな悠長な事も言えないほどに植物がぐんぐん取り囲みながら成長していく。

 ディダは危険と判断しゼフォウを抱えて一旦離れる。

「分からない、とにかく一旦君は離れて、僕がなんとかするから!」

 抱えられたゼフォウはすぐにあの弾丸が一度撃たれた時のだと分かっていた為、ディダに伝えた。

「ダメだって! あの弾は触れたら……俺らみたいになっちまうよ!」

「なら、余計に君は当たってはダメだ、琴さん!」

 琴も先程急成長してしまった植物をあえて盾にして、スマホで誰かに送りながら、ディダに言う。

「今、収集かけてます。坂本のしばき隊も来てるんでこっちに来てもらいます! 運が良いのか悪いのか、植物が守っている事ですね……どうやって剥ぎます?」

「んなの、絆に頼むっきゃないでしょ! ここの土地の主だし!」

 そうこうしている内に沢山の植物が大きな木となってしまった。

 もっと遠い見えない所に既にあの白髪の男がヘリに乗っている。

 その開いた扉には相当性能の良いライフルだろうか、それを構えたまま微動だにしない人間がいた。

「ふむ、邪魔をされたか……まあいい、無くなるまで撃ち続けろ」

 この一言で再度撃ち込まれる。

 大きな銃声と共に――。

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