暗闇の記憶《後編》
冬美也は気がつくと真っ暗闇の中にいた。
辺りを見回すも誰も居ない。
誰かを呼ぼうにも声が出ないままだ。
不安になり泣きそうな時、人の形が見えた。
その姿がはっきりと見え、ジャンだと分かる。
ジャンも笑って冬美也だと分かり、近付いてきた。
良かった生きてた。
ジャンが冬美也の肩を掴んだと思った瞬間、いきなり冬美也の首を絞める。
「なんで、お前だけ生きているんだ!! 父さんも俺も死んだのになんで! 殺してやる!!」
苦しい、止めて、ごめんなさい、お願い止めて……。
冬美也はジャンの手を解こうとしたが、何故か両腕が吹っ飛び冬美也の手が血みどろになり、ジャンを見ると笑いながら言った。
「この化け物、人殺し」
許して……許して……許して許して許して許して許し――。
「……!!」
目を覚ますと、外窓の無い狭い部屋に閉じ込められていた。
手足は縛られ、猿轡もそのままだ。
早く逃げないと何かされそうで怖い。
だが、虚しくも起きたのに分厚い扉の覗き穴から見られ、防護服の1人が誰かに連絡する。
「番号36052が目覚めました」
「なら、実験を開始する。ただ気を付けろ、アイツは他とは違う体の形を変えられる変形型だ、試作機を使って連れて来い」
「了解、試作機での運用を許可により始動開始」
分厚い扉が開くとカメラに今にも何か出そうなランチャーにキャタピラの付いたロボットが入って来た。
冬美也が逃げようと感情が高ぶった瞬間、体がメキメキと音を立て、金属性に変形し腕が鋭い刃物になったのだ。
『な、何……コレ!?』
本人が1番驚いている間に、ロボットのランチャー部分から針金が飛び出し冬美也に刺さったかと思えば、電流が身体中に走り、金属性の部分も元に戻って行き動けなくなった。
これはスタンガンだ。
今更気付いた頃には痛さと痺れで動けない。
「うわぁ本当に変形型かよ、あっぶな」
そう言いながら、再度手足を縛られ、担がれ何処かに連れて行かれた。
手術台の様な部屋に幾つもの機材に、明らかにここには似つかわしくない道具がズラリと並び、何本もの注射器とラベル番号が書かれた小瓶が並んでいる。
防護服が動けない冬美也を手術台に置き、ベルトに固定し始めた。
白衣の若めな男が支持しながら、1つ目のラベルの小瓶から注射器で取り出しながら指示する。
「ベルトはしっかりキツめに巻け、後、手枷と足枷も、これから第一段階の実験を行うまずはNo.0158から1時間毎に経過観察し、次はNo.0289へ移行する」
一体どういうことと話そうとするも、猿轡で話せない冬美也の腕に注射器が挿さる。
「んー! ん……んっ‼︎」
あの激痛がまた身体中に蠢き、体が再度音を立て変化するのが見えた。
化け物になっている自分を初めてこの時見え、声にならない絶叫となる。
「――――――――‼︎」
必死にもがき、抜け出そうとするが、ベルト、手枷に足枷がとても頑丈でヒビすら入らない。
冬美也が激痛に苦しむ中、辛うじて目に入る光を追うと、上の方で防弾ガラスから眺めるあの白髪の男が見え、何かを言っていた。
それに頷く若めな男はチェンソーを持ち上げ、変形した体の一部をもぎ取る作業に入る。
「――――⁉︎ ――――‼︎」
硬い金属性であっても、徐々に削り取られていくのが神経に伝わり激痛となった。
せめて麻酔だけでもと思うも、それすらも無しに続けられた。
しかも、吐血、汚物が漏れようがお構い無しにだ。
漸く激痛から解放されたと思えば、再度違う小瓶を持ち新しい注射器を使いながら言う。
「続いて、No.0289を注入します。その後部位の切断及び再生確認も含め行います」
そうして何時間もの実験が繰り返され、意識も無くも死ぬ事すら出来ずに生きているのが不思議な程だ。
あの悪夢が冬美也を襲い、目を覚まさせる。
「うあわわぁぁぁぁ‼︎ ごめんなさいごめん、ごめ……ん……!」
髪はボサボサで肩まで伸びた黒髪の少年が心配そうに冬美也を眺めていた。
「おい、大丈夫か? 大分魘されたけど?」
辺りを見渡せば、最初に居た空間よりは大分広いも衛生面として最悪だ。
蓋の無いトイレが1つだけなのに子供達が20から30人も居るのだろう。
だが、半分程の子供達はあまり動こうとせず、ずっと怯え無表情のまま縮こまっている。
もう半分も殆ど正気を保てず、暴れる子も居た。
その中で黒髪の少年はじっと冬美也を見ていた。
冬美也は息を整え、誰なのか聞く。
「……だ、誰?」
「んっ? 俺はゼフォウ。お前新人だろ? 名前は?」
「ぼくは冬美也、ここはどこ? か、体が……あれ? どこも取られてない? あえ?」
明らかに金属性になった鋭い指や足を切断したのが見えていたのに、何処も取れてなければ切断部も無い。
戸惑いを未だ隠せない冬美也に対してゼフォウは何度か見ている風景なのだろう、あまり気にせずここの環境にすら慣れてしまっている雰囲気があった。
「さぁ、俺売られたから分かんねぇや、どっかのヤバい研究所だって他の奴らが言ってた」
「売られ……? ぼくはただ……友達と一緒にキャンプ行ったらどういう訳か真っ白防護服集団に囲まれて――」
ゼフォウに出会ったばかりの彼に全て話をした。
「はぁ? なんで人買って、こんなわけ分からない実験体にされてるのに、外で実験して成功したお前だけ攫って、他の被害者に銃撃するって酷くね?」
流石にゼフォウも同情してしまう。
だが、冬美也もゼフォウに同情する。
「……でも君は売られたって言ってたけど?」
「そっ、元々どっかのスラム街で住んでて、慈善団体を装った男に騙されて、売り飛ばされて気が付いたらここに来てた」
ゼフォウは騙されたと言った辺りで、相当怨んでいるのが伝わる程、殺意を感じた。
きっと先程の様な実験とはまた違う苦しみを味わって来たのだろう。
なんて言えば良いか分からず、ただ一言だけしか言えない。
「酷い……」
「その間にも色々あったけど、ぶっちゃけここと然程変わらねぇな。でさぁ、お前はこれからどうするの?」
それでもこれからを生きようとする図太さには驚いた。
冬美也は帰れたら帰りたい。
しかし、この体は感情を高ぶらせるだけで金属性になり思い通りにはならない上、ありとあらゆる方向へひん曲がり激痛をもたらす。
それに大切な友人とその友人の父親が死に、そんな状況で自分だけ生きていたとなると他の遺族からすれば、どれだけの悲しみを与えるか分からないのだ。
「これからって? ここから出たいけど、なんか真っ白な大人達に機械も彷徨いてるのにどうやって? それにこの体感情がちょっとでも高ぶると金属性になる……もう何処にも行けない、帰れない、それに友達ももういない」
冬美也の塞ぎようとは違い、ゼフォウは決して挫けずに絶対に出るという気持ちで諦めない心で笑って見せた。
「俺は絶対外に出てやるんだ。まず出ないと何がしたいとか、復讐も自由も出来やしねぇ! だからまずは勉強と言うヤツを皆に教えてもらっているんだ。冬美也はどんな事を覚えてるんだ? 出来る範囲で良い教えてくれ!」
こんな状況でも生きようとするのは、言葉にある騙した男やその間に色々も含まれている者の復讐がそうさせているのだ。
今の状況で復讐を止めろと綺麗事が言えない。
もし可能ならジャンやレオにキャンプで楽しんでいた人達の分も含め仇を取るべきだろうが、今の自分には出来ないし、正直な話、もう生きたいとも思っていないなんて冬美也には言えなかった。
早く辛い現実から逃げたい消えたい、もう疲れていたんだ。
でも、初めて出会ったゼフォウは凄い。
目標を持ち、計画を立てる為にも勉強する意欲もある。
「君は凄いね、ゼフォウ。教えてあげれるけど、ついて来れるかな?」
「おうよ! フィリアに何度言われてもへこたれねぇし」
「フィリア?」
「うん、無事ここに戻ってくれれば会えるさ」
そう言った直後に、防護服の2人組が重厚な扉を開け誰かを放り入れた。
肌が浅黒い黒髪の少女が倒れ込むもすぐに立ち上がる。
「……もうちょっと優しく出来ないの……全く」
ゼフォウが少女に近付き言った。
「よう、フィリア元気?」
「んな訳ないでしょ。と言うか、その銀髪の子誰?」
不機嫌気味にフィリアは言うものの、新しい子がまた来たのかと呆れ顔になっている。
「冬美也って言うんだと、なんかキャンプしてたら防護服連中に襲われて、ここに来たってさ」
「へぇ、あんたも不憫ねぇ。こっちは誘拐されたと思ったら、売り飛ばされてここに来たし、金銭不足したのかしらね?」
こんな環境だ。
皆の心はかなり荒んでいる。
冬美也は別に同情されたくは無いが、こちらもただ自分だけ襲われてここに居れば良かった。
「……友達も友達のお父さんも他のキャンパー達もその意味の分からない薬品なのか何なのか打たれて、死んだよぼく以外……」
流石にこれはまずい事をしたと感じたフィリアが謝ろうとした時、ゼフォウがどう言うノリで話に割って入ってきたのだ。
「ごめ――」
「そうだそうだ! フィリアは良心って心が無いの……グフッ‼︎」
が、急に鼻を押さえ込み辺りを転がり涙まで流して苦しそうにしている。
フィリアは怒ってゼフォウに言う。
「もう一度言ってみろ、今度は鼻がひん曲がるだけじゃなく暫く動けなくするわよ」
「ヒィ‼︎ 何したの⁉︎」
半泣きな冬美也だったが、とにかくどうしたのかフィリアに聞くと、皆にあの注射を打たれて以降、生存者にはそれぞれ何かしら能力を手に入れたのが分かった。
「あなたも持ってないの? 意味の分からないの打たれて、皆それぞれ力を持ってるの。それがあって研究材料として生かされてるってわけ」
「ぼ、ぼくは、体が金属みたいになるけど、コントロールが効かないからあまり近づかない方が良いかも……」
距離を置くように一歩離れるが、フィリアはなるほどと納得した上で、自身の身に付けた能力を教えてくれるが、ゼフォウはまたも子供っぽい事を言い出して怒らせる。
「あたしのは香りを操る事が出来るの。こうやって、酷い香り嗅ぐと脳がおかしくなるらしいみたいだから、あまり怒らせないでね」
「新人イジメだぁ!」
「もう一回しましょうか?」
再度、手を掲げるも、ゼフォウは気にせず自身の能力について話す。
「ちなみに俺、爆発するんだよ、一切どうやってコントロール出来るか分からねぇのよ」
「コイツが1番迷惑なタイプだから、感情さえ落ち着いてれば大丈夫でしょ?」
フィリアもゼフォウもあまりこの状況に反した態度に怖くも感じ、冬美也は平気なのかと尋ねると意外な答えが返ってきた。
「う、うん、君は平気なの? 研究の材料にされて?」
「誰も、そうは思わないし、絶対に許さない。でも、最初は君と一緒、怖かったわよ。コイツが来るまでは」
やはり他の子達の様に塞ぎ込んだまま動かないでただひたすらの地獄に耐える日々だったのが、ゼフォウと言う異端に振り回され、返って平常心が戻って来た様だ。
「……なるほど、理解した。確かに場の空気がおかしいアイツだけ」
「でしょ? いつ終わるか分からない地獄を笑って飛ばせるのはアイツだけ、前から、後から何人も何十人も来ては二度と戻って来れない子達も沢山いた。それでもアイツはその子達の仇を討つ為にも生きる事を選択するの。だから死ねないのあたし達は」
その言葉に驚き、その通りだとも納得した。
ここに無理矢理入れられた子供達はずっと助けを待っていたのにこうして終わってしまった命を受け継ぎ、背負う覚悟が、ゼフォウにはある。
そして少しずつ回りをもそうさせる力もあった。
自分とは違う、皆を引っ張れる力だ。
「だから、勉強をしたいんだ。もしかしたら何か出来るかもしれないだろ?」
「……はぁ、分かった教えてあげるよ。ぼくが覚えている限りの知識でね」
そうして、実験の合間にゼフォウの勉強に付き合う事にした。
ただ、それでも悪夢はずっと続く。
冬美也の実験はいつも、耐久性や他の小瓶に入ったナンバー入りの薬品の様な物をいつも打つ毎日、かなり精神的にも参っており、これ以上はもう持たない。
このまま壊れてしまおうかと思うも、必死に話しかけてくるゼフォウに必死に対応するだけで今ややっとだ。
皆それぞれどんな実験を受けているのなんて知りたくもないし、自分も言いたくもない。
眠れば悪夢、起きれば実験、友とも呼べる子もいずれは――。
今回、連れて来られた場所は広い手術室みたいな所で、暴れれば機械がスタンガンを撃ってくる上、最近の防護服の連中も逃げたら拳銃でいつでも撃てる様に構えっぱなしだ。
「これより、No.1157の実験を行う」
またベルトと手枷足枷を付けられ縛られる。
注入され、再度激痛が襲う。
もう何度目だろうか、この激痛に耐えるのも、このまま眠ってしまいたいと願った時だ。
「番号36052をこのまま機能テストに移る。そのまま拘束状態で連れて行く」
そう言って、疲労困憊と負傷の影響で動けない冬美也を拘束したまま何処かへと運ばれて行った。
今度は広く、ただただ広い部屋に誰かが居た。
別部屋の小さな子供だろうか、あまり表情が無い。
「これより、試作No.1159の実験を開始します」
自分に射つのかと思っていたがその小さな子供に打ったのだ。
子供は悲鳴をあげる声は非常に耳を壊すのではと思われる程の音波を出す。
冬美也は拘束されたまま、放置され他の防護服がすぐさま出て行く。
そんな中で、1人の防護服が誰かを連れ投げ入れ立ち去った。
「ぜ……フォウ……?」
血塗れのゼフォウがいたのだ。
「うわっうっせ‼︎ ここ何処だよ⁉︎」
煩い中入れられ驚くゼフォウだったが、小さな子供があげているのが分かるものの、だんだんおかしくなっているのに気付く。
子供の目から大量の血が溢れ、吐血もし続け、体が肥大化、頭も別の何かへと変化をする。
もう子供は人ではない化け物になっていた。
「これより、異能機能実験に移行及び、No.1159失敗体の耐久テストを行います」
そのアナウンスと共に冬美也の拘束は解け、ぐったりとした体が落ちて行く。
ずっとあの悲鳴で気付いていなかったのか、崩れ落ちる音に漸くゼフォウが気が付いた。
「冬美也⁉︎」
「どう……して……ここに?」
最初誤魔化そうとしたが、どうせバレるのならと正直にゼフォウは話す。
「わから、いや、ムカつく野郎を爆発でぶっ放したらクリーンヒットして、この有様といいますか……」
どうやら何らかの行動に腹を立て、やり返すつもりで使った能力が命中した。
「ころ、したの?」
「あぁ、怖いなら良い、俺1人でコイツを屠る。お前は寝とけ」
ゼフォウは冬美也の言いたい言葉を否定せず全て飲み込んだ上で、化け物となった子供に立ち向かう。
「……まっ……で」
体が自由に動かない。
冬美也はゼフォウを見るだけで精一杯だった。
上の白衣の連中は、まるで見世物を見る目をしている。
自分の実験に何故ゼフォウがいるのか分からない。
いや、これは自分が動かなければゼフォウが死ぬ可能性が高いのだ。
ゼフォウはただの囮であり当て馬に等しい状態で、このままでは下手すると殺されてしまう。
実際見ていると分かる。
化け物に方は暴走はしているが、動いているのを追って腕が触手となりゼフォウを襲う。
ゼフォウは距離感がまだ上手くなく、その近くが爆発するが化け物に当たっていない。
それでもゼフォウは触手から逃げなんとか状態を保っていた。
白髪の男は冬美也の行動が見たいのにゼフォウが思いの外立ち回るのである仕掛けの指示をする。
「番号15104、当て馬なのによく動く、アレを用意しろ」
指示を受けた若い白衣の男が、アナウンスを流す。
「はい、これより、番号15104にNo.1157投与を開始します」
その言葉にどう言う事だと言わんばかりの一言で返した。
「はっ?」
こんな動き回る状況にどうやって打つ気なのかと避けながらゼフォウは思っていたが、どうやらこれは弾丸による投与研究を兼ねていた様だ。
壁から幾つも銃口が出現、機械操作と同時にある事を更にアナウンスが流れる。
「投与は機械操作のAIに任せます」
その言葉に一斉に弾丸が飛ぶ。
ゼフォウが必死に爆発で飛ばすも1つが擦った直後、それだけでも投与されたのか、動きが鈍くなり、今度は足に直撃した。
「がぁぁ‼︎ ふざけ、やがって‼︎」
動けないまま、ゼフォウは暴走する能力に争い、必死に立ち向かうも、触手に吹き飛ばされてしまう。
あの化け物にもNo.1157の弾丸が幾つも当たって、更に進化をするかのように、巨大化し、ゼフォウを呑み込もうとした。
先の影響でゼフォウは完全に意識を失っている。
このままでは死を意味した。
冬美也は必死に動こうとするも、体が震え動けない。
嫌だ。
防護ガラス越しの他の白衣の連中は慌てる様子が無い。
嫌だ。
別の分厚い扉の向こうに小さなガラスから見える防護服の連中に至っては、賭け事をしている。
嫌だ。
どんどん眠気が近付いているのが冬美也でも分かった。
嫌だ嫌だ嫌だ。
白髪の男は見限ったかのように何かを言っている。
その命令にアナウンスが流れた。
「番号36052の回収を行なってください」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――。
また友を失うのなんて、絶対に嫌だ!
いきなり、電気が落ちる。
電気は非常灯に切り替わり、辺りは赤黒い状態になった。
この状態のまま、冬美也はなんとか立ち上がり、ゼフォウの元へと走ると言うより、ヨロケながら歩く。
その様子を白髪の男が気付き、何かを言っているのが、赤黒い灯りでも分かり、冬美也はそいつを睨みつけた。
突然、白衣の人間達は騒動を起こし慌てふためいているのが分かったと共に、気を失っているゼフォウを担ぐ際、あの化け物は悲鳴をあげ、反対方向の壁に何度も何度もぶつかり、何が起こっているのか分からず、扉は先ほどの電気が落ちたせいで半開きだったお陰で、ゼフォウを連れて逃げ出せた。
廊下でも防護服の連中もパニックになり、体勢を整える為、皆走り回っている。
誰もいない廊下を冬美也は必死にゼフォウを担いで歩く。
ゼフォウが目を覚ます。
「うぅ……」
「起きた、良かった」
冬美也はすぐに気付き、ゼフォウを下ろすとどう言うわけか殴られた。
「こん……の馬鹿野郎‼︎」
「な、何するんだよ!」
ゼフォウは冬美也の胸ぐらを掴みながら、問いただす。
「お前、なんで俺を放っておかなかった! それに、この状況、電気が落ちてるんなら、お前1人で逃げ出せただろう‼︎」
彼なりの怒りだ。
きっと、彼にはそういう共に逃げる選択をしてくれる友がいなかったのだろう。
それに、彼の態度からして、自分の死を悟っていたに違いない。
だからちゃんと答えないといけなかった。
「……友達だから」
「えっ? 友達?」
涙を流しながら、冬美也はゼフォウに自分の懺悔と共に話す。
「ぼく、ジャンにちゃんと友達として接してあげれなくって、いつも素っ気なかったり、雑な扱いしたり、ちゃんと素直に友達って言ってあげれなくって、あの時だってジャンはぼくやおじさんを心配しながら苦しんで死んじゃった……だから、もう失いたく無いんだ。ぼくだけ生き残りたくない。一緒に出ようゼフォウ」
ゼフォウはあぁもうと軽く言って、手を伸ばす。
「悪かったよ。ごめん、一緒に逃げよう」
「うん……!」
その直後、後ろから激痛が走り冬美也は意識が朦朧となる。
あの白髪の男が何かを持って、冬美也に撃ち込んだと共に防護服達がぞろぞろと現れ、ゼフォウが力を使おうにも先の影響で出せず、簡単に取り押さえてしまった。
「番号15104は元の収容室に入れておけ、番号36052は別の新たな実験へ、連れて来い」
冬美也は縛られ、何処かへと連れて行かれる中、必死に自分を呼ぶゼフォウを最後に意識を失った――。
その後記憶は全く思い出せず、次に思い出したのは、古くも明るい部屋、女の子が居た。
女の子が笑って自分に聞く。
「私、理美、嘉村理美って言うの、あなたはなんて名前?」
激痛で気を失っていた冬美也は目を覚ます。
真っ暗なコンテナ内、体は殆ど金属化し、元に戻る気配もない。
「ごめ……ごめん……ちゃんと……あやまれな……ごめんね……理美……」
そのままもう一度眠ってしまおう。
もう二度とあえないのだから――。
急に扉が開く、あぁ着いたのかと頭をあげるとそこに居たのは理美だった。
「冬美也、ごめんね、もう大丈夫だよ。一緒に帰ろう!」




