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暗闇の記憶《前編》

 理美がディダに連れて行かれて、その間待っていた時だ。

 他の施設の子達が話す声が聞こえてきたのは、その内容は理美が嘉村家に養子として迎えられると言う。

 「理美ちゃん、嘉村さん家の子になるって本当かな?」

「まだ決まった訳じゃないし、拒否ってたでしょうが」

「でも、夜中、食堂に電気点いているの見た人がいて、話の内容は聞き取れなかったけど、ディダ神父と理美ちゃんが話てたのを見たって」

 その内容は嘘であってほしいと願うも、マルスがやって来て、冬美也を呼びに来た。

 理美に会えた時、雰囲気が違っているのにすぐに気が付く。

「冬美也に言った家族になりたいは違うの、もっと違う意味でなり――」

 それ以上聞きたくない。

 回りの言っていた事は本当だった。

 怒りで我を忘れ、理美の顔は悲痛で歪む。

 ただ怖かったんだ。

 今のうちに否定しないと、1人になってしまうと思った。

 受け入れる勇気が無くて、怖くてこれ以上は無理だ。

 本当は分かっていた。

 あの時、理美があの家族を理解出来た辺りで、あっちに行きたいんだと分かっていたのに、背中を押してあげればもっと良い方向へ進んだのに、記憶が戻れば今の記憶が無くなってしまう可能性に怯えて、必死に掴むしか無くて、理美が離れていくのが怖くて、でも結局拒絶したのは自分からだ。

 

 そこで冬美也はある場所で目が覚める。

 薄暗い中、よく見渡せばトラックがよく運ぶコンテナの内部だ。

 しかし、手足は縛られ身動きが取れない。

 人影に気付き見上げると、防護服も着用せずに、白衣を羽織り、白髪の眼鏡の男が立っていた。

「ふむ、確かに逃げ出した1人だ。背中のコード確認は一致。これより臨時実験に移行。No.1159の耐性実験を行う」

 他にも同じような白衣の人間達がおり、その男に何かを渡す。

「だ、誰? 何するの?」

「ほう、記憶を失っているなら尚のこと好都合だ」

 そう言って、男は冬美也の首筋に太い注射器を射す。

 少しづつ注入されるのが激痛で分かる。

「痛い痛い‼︎ 止めてぇぇ‼︎ 嫌だぁ‼︎ あぁぁぁああああぁぁああぁああぁあぁぁ‼︎‼︎」

 嫌がっても、悲鳴を上げても注入が終わるまで続く。

 終わった直後、男が離れ言う。

「特殊なコンテナだからそう壊れんだろう。閉めろ」

 真っ暗なコンテナの中、歪な音が自身の体から聞こえる。

「あっああぁ嫌だぁぁぁ‼︎ ぐる……しいっ息が、出来、な、い゙、あ゙あ゙あ゙ぁ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼︎‼︎」

 苦し踠くも、手足は縛られ身動きが取れない。

「たずげ、あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙とあ゙、さっんあ゙あ゙、だれがぁ゙ぁ゙っ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼︎‼︎」

 急に縛られたモノが外れるも、その手は足は、全く言うことを聞かず、もう違うモノなのだ。

 自身の体は体ではない金属音が鳴り響く。

 泣きじゃくり、息も途切れ途切れになる。

 頭の激痛は増すばかりで、下手すれば死んでしまうのではと一瞬一瞬感じ取るとともに、何かを思い出していく――。



 家には昔、母方の亡き祖父が残した小さな書斎があり、そこで当時まだ6歳にもなっていなかっただろう冬美也はそこに居た。

 元々、体が弱いのもあってあまり外に出歩くことも無く、授業はと言えば、体の弱さと真逆で優秀な頭脳で今は大学に入っている。

「殆ど読み終わっちゃった……」

 ただ、友人がいない。

 大学にも同じくらいな子も、この街にも冬美也と同い年の子も居ない。

 いつもひとりぼっちだ。

 そんな時、チャイムが鳴る。

 宅配か来客が来る時はあるが、自分に会いたい人は大体ロクな奴しかいない。

 理由は簡単だ。

 母は獣医学者、父は医師、母方の祖母に至っては科学者、媚を売りたい奴は幾らでもいて、将来的には冬美也を囲いたいと狙う者もいるが為に、正直うんざりしていた。

 母、衣鶴が冬美也を呼ぶ。

「冬美也、ちょっと良い?」

「何? またいつもの客ならもう……」

 冬美也の言葉に衣鶴は笑って、玄関先に立っている衣鶴とさほど年が離れていない夫婦が立っていた。

「違う違う、近所に引越してきた、フィリップさん。ご挨拶に来たのよ」

 金髪の2歳位の幼女を抱き抱えた赤髪で肩まで伸ばした男性と長い金髪をアップした女性が立っていた。

 冬美也は気が乗らない挨拶をする。

「……こんにちは」

 横柄な態度ではないが、傍目からすればあまり良い印象ではないだろう。

 しかし、子供だからそういう子もいると分かってか、男性は気にせず、冬美也の為に再度自己紹介を始めた。

「こんにちは初めまして、向かい側に引っ越してきたレオ・フィリップでこっちが妻のエリザとこの子はエイミーで、ほらお前も挨拶しろジャン」

 レオの後ろからひょっこり顔を出したのがレオと同じ赤髪の少年、ジャンだった。

 大人ばかりと思って後ろに居たのだろう、冬美也を見て、ほぼ同い年の男の子に喜んで笑顔で自己紹介を始め、手を伸ばす。

「初めまして、俺、ジャン・フィリップですよろしく!」

 驚く冬美也だったが、戸惑いながらも自己紹介をして握手をした。

「ぼくは、冬美也・F・神崎です。よろしく……」

「うん、よろしく!」

 そこからジャンとの交流が始まった。

 学校帰りにはちょくちょく遊びに来たり、休みになると朝早くにやって来たりととにかく遊びに誘うのだ。

 あまりに(わずら)わしく思い、ついにどうして家に来るのか問いただす。

「ねぇ、どうして来るの? 他の友達は?」

「いるけど、冬美也は?」

 あの頃は友達と言う概念そのものが煩わしく、どう扱えば、いやどう付き合うか分からなかったのだ。

「……いるならそっち行きなよ。同情とかなら余計なお世話だ。物乞いならもってのほかだ」

「大丈夫大丈夫! ちゃんと飯も食ってるしおやつ持参するし」

 ジャンはとてもお調子者のような存在で、冬美也からすれば調子が狂う存在だった。

「そうじゃなくって! どうして来るの⁉︎ ぼくはそんなに物珍しい珍獣かなにか? どうせ、大人に言われて愛想振りまけとか手懐けてこいとか言われてるんだろ?」

 嫌味な奴と思われれば、もう距離も開き清々すると思っていたが、先程も言った通りお調子者のジャンはとても素直でもある。

「うん! 父さんに言われて!」

 本当に言われてそのまま実行に移すジャンを見て、流石に冬美也もつい言ってしまう。

「バカじゃね⁉︎ 普通に言うか普通に!」

「だって、お前、大人と居ても楽しそうにしてないし、回りから傲慢な性格だって言われてるじゃん?」

 図星突かれて良い気はしない。

 冬美也はこのまま距離を置きたいと申し出ればもう来ないと思い話すも、ジャンにとっては至極当然の会話でしかない。

「……なら余計なお世話だ。さっさと他の――」

「どうせ、本読んだり、図書館の行き来だけなんだし遊ぼうぜ!」

「人の話聞けよ! そっから新しいのが生まれるんだよ! 化学とか!」

「なら教えて、先生! 俺、科学苦手!」

「誰が先生だ! そして、絶対ぼくが言っていた化学とお前が言っている科学は違う!」

 おぉとジャンは凄いと言いながらも、やはり引かない所か連れ出そうとする。

「すげぇ、でも少し他のも触れないと思いつかないんじゃね?」

 結局、外へと引っ張られて、振り回される毎日となり、月日が流れ、母、衣鶴が妊娠、出産し弟が出来、出産祝いと色々持って来たり、妹エイミーを連れて、冬美也の弟を見に来たり、家族ぐるみの付き合いになった。

 そんなある日、父、総一が日本長期出張が決まる。

 いつもの事、いつも誰かが居ない。

 家族全員なんて稀だ。

 多分この頃から既に心が悲鳴を上げ、蓋を閉め続けていた。

 それを開けたのはジャンだ。

「長期出張? お前良いの?」

「いつもの事だよ。下手すれば皆居ないし」

「えっ? 普通1人にしなくね? 危ねぇよ、日本みたいな国ならともかく」

 確かにジャンの言う通りだ。

 本来ならベビーシッターを雇うか家政婦を雇うなら分かるが、現時点で居ない。

 前に見知らぬ人が家の前に来て怪しい動きをした瞬間、悲鳴を上げて逃げ出していたのを言おうかと思ったが、面倒なので言わずにとりあえず家事全般がいつの間にか出来ている事だけ話す。

「だって、いつの間にかご飯出来てるし、掃除も……」

 幼い頃から、どう言う訳か誰もいないのにご飯があったり、掃除してあったりと、怖さより快適になっていたのであまり気に求めていなかったが、それを話したらジャンも怖がった。

「何⁉︎ お前んちお化け屋敷⁉︎」

「さぁ? 寧ろ人間より安心する」

 正直な話、これがいつもの風景になってしまい、寧ろ他人を入れない方が快適だったりする。

 家族に媚び売る大人を何人も何十人も見て来た冬美也にとっては、下手すると家族が居ない環境が最適にすらなっていた。

 ジャンですら、冬美也の人間不信に驚くも、自分の心に嘘を付いているように見え、必死に訴えてきた。

「人間不信の塊、じゃなくて! お前、それちゃんと嫌だとか、良い子のままにしてれば面倒事を後回しにしていないか?」

「後回しって、いつもの事だし、どうせ誰も興味ないだろ? 何か素晴らしい画期的な発明とか利益が上がるシステム開発とかの頭だけで、ぼくなんか見てないよ」

 そう、大人がいつも見ているのは自分ではない、自分が生み出すであろう発明や開発、研究等であって自分ではない。

 いつもの事なのに、ジャンは冬美也を本当に見て言う。

「俺はお前を見てるぞ、いつもそう言ってずっと寂しそうにして、本当は仲間に入りたいけど、どうすれば入れるか分かっていない。頭でっかちなお前を」

「最後余計だろ?」

「たまに素直に言ってみたらどうだ? きっとあっちもいつもの事って流してるから気付かないと思うぞ?」

 その時、ふと、我に返る。

 確かにいつも後回しにして、どうせ何言っても何を話しても今は患者が大事、生命が大事、今後の人生を変える大事な局面の為に自分を押し殺し続けていた。

 自分がもし大人になったら、この後回しが尾を引いて何も出来なくなるのではないだろうか。

「……無理だよ。言った所でもう行く準備も手続きも終わってる、嫌だなんて言ったって聞く訳ないじゃん。人の命優先なんだし」

「お前の命が1番だろう?」

「そうかな? 多分あの人達はぼくに構う程暇じゃないし、平等に扱ってるんだよきっと」

「怒った事無いのか?」

 ジャンからすれば、今まで家で良い子にしていただけで本来の冬美也を見せていないのではと返って心配してしまう程だ。

 だが、言い方が悪く、冬美也は怒って追い出そうとした。

「もう! ぼくだって、言いたいよ! でも、あの人達はずっと家に居ないし! もうすぐ母さんだって、育休明けたら今まで溜め込んでいた研究書類等にずっと見て帰ってこなくなるんだ! いつもそうだ! 誰もぼくを見ようとしない! お前だって、父親に言われたから来ただけで本当は――!」

 しかし、冬美也だけではない。

 実際ジャンも同じ環境下にいた。

「俺は友達だと思って、ずっとここに来てる。だって寂しいのは誰だって嫌だぜ? 俺の父さんも母さんも仕事で忙しいし、普段はエイミーと俺しかいないし、ベビーシッターの人も雇ってるけど、基本2人きりだし、変わらないよ」

 怒って追い出そうとした冬美也は流石に言いすぎたと思いすぐに謝罪する。

「ご、ごめん……そんなつもりじゃ」

「友達居るだけで、だいぶ楽になれるんだぜ? 良い友達だと尚更、なっ? たまにはお前の父ちゃん母ちゃん困らせれば少し分かってくれるよ」

「……う、うん」

 促されてやるべきでは無いと思いつつも、少しだけ言ってみようと思った。

 

 案の定、困らせ喧嘩に発展するとは思ってもみなかったけれど、喧嘩した後、父さんと母さんが話し合いをしていて、その内父さんはこの契約が終わったら暫くぼくと弟、優紀を面倒を見ると言い、少しだけ言う事は必要だと感じた。

 けれどどうしても謝れないし、どっちかと言えばぼくが謝るべきだったのに、ずっと父さんと母さんが謝罪し、こちらも謝るべきだったと今でも反省してる。

 そして、あの日がやって来る――。


 ジャンの母、エリザと冬美也の母、衣鶴はある会話をした。

「もしなんだけどさぁ、今度うちの息子と旦那がキャンプするんだけど、冬美也君をさぁ一緒にキャンプ連れて行っても良いかな?」

 衣鶴としては体の弱い冬美也をあまり温暖差のある外での宿泊は気が進まなかった。

「でも、私の息子、体弱いし下手するとせっかくの親子のキャンプを邪魔するかもしれないし」

 エリザも確かにと頷き、それでも一応衣鶴の意見をきちんと聞いて踏まえた上で、話を進めたいようで、そのまま話を進める。

「まぁ、気持ち分かるよ。でも、男同士でそう言ったのしたこと無いんだし、たまには良いんじゃない? もちろん、言い出しっぺのあいつらにきちんと責任取らせるから、後病院近い場所とか、温度差の差異が少ない所とかちゃんと調べた上で許可貰うって言うから、アイツらならやりかねんし」

 どうやらレオとジャンが冬美也を連れて行きたがっているのだと理解出来るが、せめて止める側に回って欲しかった。

「いや、止めなよ……でも、冬美也にも夫にも話てみるわ」

「あれ? あんたの母親には許可取らないの?」

「今は缶詰状態で大学に引き篭もってるから暫く動けないし、それに家族同士の中に老人が介入し過ぎたら楽しく無いだろうって言う人だから」

 意外な言葉にエリザも驚く。

「ほう、そう言う人も居るのか、でも、無理強いはしないから気軽に断って、ジャンにもキツめに言っておくから」

 そうは言うが、結局のところ、ジャンの熱い説得のせいか冬美也の方が折れることになるのをこの時まだエリザは知らない。


 家に来て早々、ジャンは説得に入る。

「一緒にキャンプしよう!」

 冬美也も一歩も引かずに断るも、ジャンが引っ付いて中々離さない。

「やだ」

「お願いだから!」

「体が温暖差に付いてけないからやだ」

「大丈夫、家から近いし、お前を診てくれる緊急病院も近いし、なんなら温暖差が少ない時期だから一緒に行こう」

「だから、無理だってそもそもキャンプ用シェラフすら家にない家なんだぞ」

「父さんが、高級シェラフお前用に用意したから行こう」

 流石に、そこはこちらが用意する話ではと突っ込んだ。

「いやそこはこっちが用意する話だろうが!」

「地べたに敷く奴も二重にするからぁぁ」

「川に浸かったら風邪ひきそうだし」

 とにかく体の弱い冬美也にとっては楽しいより危険性勝る。

 しかし、ジャンも折れない。

「電池式のドライヤーもあるから!」

「どんだけぼくを連れて行きたいんだよお前は!」

 親子同士の輪に友人であっても他人が入って如何なものか。

 それでもジャンは冬美也と一緒に居たいのだ。

「だって、父さん久々に連休取れたし、お前とももっと遊びたいし、それに冬美也はもっと自然に触れたって良いんじゃないのかなって」

「……はぁぁ分かったよ。行くよ。父さんは、どういうのかな?」

 結局折れて行く事にした。

 父、総一は最初断固反対するも、冬美也の心の変化にも喜んではいた。

 最終的に一泊だけのキャンプという事で、了承され、行くことが出来た。

 だが、これが最大の過ちになるなんて誰も気付かない。

 いや、アイツらはずっとこの時を待っていたのだ。


 そうしてその日がやって来た。


 近場のキャンプ場に着き、初めてのテントを張ったり、川遊びもした。

 もちろん、ずぶ濡れになって結局すぐに乾かし服も着替える羽目となる。

 夜、外での料理も初めてだらけで心が踊る。

 ジャンがトイレに行っている間の事だ。

 レオは食事を渡しながら冬美也に聞く。

「どう? 楽しい?」

 凄く楽しいが本当だが、捻くれた性格な為、素直には言えず、少しだけと答える冬美也にレオは困った笑いをした。

「……少しだけ、楽しい」

「んー、厳しいなぁ、自分らもジャンやエイミーを放ったらかしにしてる身だから、同じような子がいるの知って、心配してたけど、ジャンと上手く行ってて良かったよ」

 最初は嫌で追い払うつもりが、今ではなんだかんだで連むようになった。

 冬美也が軽い嫌味で言っても、レオは分かってたのだろう否定出来ない。

「うるさいけどね」

「そこは否定出来ないなぁ」

 ふと、そういえば追い払うので冬美也が思い出す。

「ところで、なんでぼくと仲良くさせるの? 確かにこの街には年齢近い子は居ないけど、少し歩けば結構居るはずだよ」

 本来なら学校の友達も街から出れば幾らでも居るのに、家に近いからと言って、こちらに来るのは如何なものかとずっと思っていた。

「ジャンのやつ喋ったな?」

 やはり確信犯だと眉を顰める。

「言ったら話した」

「なるほど、理解した」

 そして流石に自分を誘うのは如何なものかと注意してやろうと話すと意外な事にジャンの提案だったのだ。

「どうして、ぼくを誘うのか分からない、今日のキャンプだって流石に……」

「これはジャンが冬美也君を誘いたいって言い出したんだ。いつも家か図書館だけで、誘わないと色々な場所を知ろうとしないって、元々自分が転勤族だからいつも1人にしまいがちだし、エイミーが生まれても状況的にもあまり変わらないままだった。でも、ここに引っ越してからジャンはいつも君の話ばかりしている。今度、遊びに来て欲しいし、これからもジャンの友達で居て欲しい」

 そう言われてしまうと、ちょっと気が狂う。

 少し頬を染めながらもやはり捻くれたことしか言えない冬美也だったが、十分にレオには伝わった。

「考えておく」

「ありがとう」

 丁度、トイレから戻って来たジャンが聞く。

「何の話してんの?」

「お前が、しょっちゅう家に遊びに来て迷惑な話をしてた」

「酷い!」

 そんな会話ではないのにと吹いて笑ってしまうレオだった。


 夜、ジャンと冬美也が眠っているとレオが暗闇に何かを感じ取り、拳銃を取り出す。

 スマホに誰かにメールを送るも、どう言う訳か圏外だ。

「ちっ……さっきまで圏内だっただろうに」

 こう見えてテント内だ、多少の動きでジャンも冬美也も起きてしまった。

「どうしたの……父さん?」

「んっ? 何があったの?」

 流石に寝ている暇もなく、レオは2人に言う。

「ちょっと、状況が変わった。今すぐ出よう」

 冬美也には温暖差で風邪を引かぬよう、服を更に着込ませ、テントを出た。

 とても静かな夜、奥にも何組もテントを張っていて、一部はまだ起きている。

 でもおかしい、電気ランプは煌々に点き皆眠っているのだ。

 レオは拳銃を構えたまま、様子を伺う。

「先程まで起きていたのに何故?」

 子供達は後ろで辺りを見渡すも、不気味な位静かさに怯える。

「父さん? なんでずっと拳銃持ってるの?」

「なんとなく、嫌な気配を感じる」

 そう言って、子供達を物陰に隠し、自分だけ様子を見に行くと、眠っているキャンパーの1人の首筋を触れて気が付く。

 とても冷たく、もう脈すら動いていない。

「……死んでる? どうやって?」

 すぐさま戻って、物陰に隠したジャンと冬美也に言った。

「テントはそのまま、後で取りに戻れば良い、車に戻るぞ」

「おじさん、何があったの? なんかさっきから声が消えてるっていうか……」

 冬美也の言う通り、こんな気温が差異もあまり無い状態なら若者や大人のキャンパー達は幾らか遊んでいてもおかしくはない。

 でも、電気ランプは付いているが、全てが静かなのだ。

 レオは不安にしたくはないが、大声で話す訳にもいかず、経験しているのか直感で不味いのだけ理解できていた。

「分からない、ただこのまま居ても不味い気がする。とにかく一旦人里に降りて警察に言おう」

 冬美也もジャンも不安だったが、大人で父のレオを頼るしかない。


 頭を下げながら歩くようレオに言われながら、大人しく指示に従うも、冬美也はふとどんな仕事をしていたのかと気になっていた。

 転勤族とは言っていたが、こんな直感と経験を活かす転勤族とはどんな職業だと。

 駐車場まで来た辺りで、誰かが倒れている。

 眠っているように見えない。

 再度スマホを確認するレオだったが、やはり圏外に頭を抱えた時だ。

「思ったより状況が芳しくない、連絡……クソッどっかに電波妨害されている」

「おじさんってさ、警察と言うかどっかの軍にいたの?」

 レオは驚き、冬美也を見た。

「そうだね、とりあえず無事に人里に降りてからにしよう」

 そう言って、冬美也の頭を撫で、自身の車を見つけ、またハンドサインでここで留まるよう指示して、中腰のまま走り車まで辿り着く。

 扉に手を掛けようとした時だ。

 白い防護服を着た連中がレオを目撃、あっちはライフルを持っていた。

 瞬時に拳銃で防護服の1人の頭を狙い撃う。

 完璧に弾は頭を貫通し、防護服の1人は死亡。

 他にも何人かいたが、レオはその死体を盾にし、何人かと銃撃戦をする。

 レオは落ちたライフルを拾って、何人か殺める中で、子供達が無事かと必死にバレないように戦う。

 だが、冬美也とジャンはこの酷い光景に血の気が引き、父、レオは無事なのかとジャンが不安になってしまうほどだ。

 しかもよりにもよって、冬美也が咳き込み出した。

「ゲホゲホ……ゲホッ……なんで、こんな時に……!」

 温度差もそうだろうが、この異様な光景と慣れない環境で緊張がピークに達してしまい体調が上手くコントロール出来なくなっていた。

 その咳き込み、気付かない筈も無く、他にも白い防護服達に見つかり、ジャンが咄嗟に冬美也を連れて走り出す。

「早く! 逃げなきゃ!」

「ジャン! こっちだ!」

 レオは奪ったライフルでジャンと冬美也を襲う防護服の人間を撃ち殺す。

 車に乗せようとするも、既に銃声で何人も現れ、ジャンと冬美也を抱えようとしたレオの足を狙い撃つ。

 レオはジャンと冬美也ばかり気にしていた為、足を撃たれてしまう。

「父さん!」

 それでも、叫べば怯えてしまうのは明白なのと尋常じゃない精神で叫ばずに呼ぶ。

「大丈夫だ! 早く!」

 だが、負傷した大人では取り囲まれれば太刀打ち出来ない。

 1人がトランシーバーで誰かと会話をする。

「何人も殺されましたが、コイツどうしますか?」

「構わん、実験を実行」

「殺さねければ殴っても?」

「殴り過ぎるな解剖されたら複数犯だとすぐバレる」

 そう言った直後に、レオが後ろから殴り飛ばされ、ジャンと冬美也は押し付けられた。

「温情として、まずは1番ヤバいやつから、次は子供だ」

 別の防護服の1人が金属製のケースから注射器を取り出す。

「子供に手を出すな! お前ら、まさか――!」

 余計な事を言いそうだと判断され、今度はライフルのバッグプレート部分で殴り話せなくした。

「これ以上話すなと言いたいが、どうせすぐ話せない」

 動けなくなったレオの首筋に注射器が刺さる。

 何かが注入され、レオが身体中に何かが蠢くのを感じ、叫びのたうち回る間に、ジャンがずっと父を呼ぶ。

「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙ぁ゙があ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼︎」

「父さん! 父さん、しっかりして! 父さん!」

 その間に、例の注射器が2本取り出される。

「次だ」

「や゙め゙ろ゙ぉぉぉぉ‼︎」

 レオが必死に叫ぶも、容赦なく自身の息子と冬美也の首筋に注射器が挿さり、注入された。

「痛い痛い‼︎ 離して‼︎ やめてぇぇ‼︎」

「父さん‼︎ 冬美也‼︎ やめろろぉ‼︎  あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙‼︎」

 身体中に蠢く何かが体を作り変えるような感じ、酷く体が熱く、とても耐えられる程ではない激痛に何度も体が壊死し再生する。

 何度も何度も気を失うも、必死にジャンを呼ぼうとしたが、声が潰れ、ジャンもレオも反応が無くなっていくのが分かってしまった。

 自分もいずれ動かなくなる、そう思って冬美也は死を受け入れる。

 しかし、冬美也は激痛が引いていくのが分かり、死ぬ事すら許されないのだと悟った。

 

 防護服の連中は何処かへ行ってしまったようだ。

 冬美也は必死に、2人に寄り添うも冷たくなっていた。

「ジャ……ン……ジャ……うぞ……だろ?」

 あれだけ酷い叫び悲痛な顔つきだったのに、眠ったような安らかな顔に、涙する。

 ジャンを必死に運び、レオの元に置いてあげるも、レオもまた冷たく死んでいた。

 冬美也がレオのスマホがまだ画面に光が点ってるのに気付き、スマホを見ると、誰かに送る予定のメールが残っている。

『至急、応援求む……奴らがこんな場所で実験を行なっている可能性あり……?』

 たまたま運良く1つだけだが圏内になったのに気付き、冬美也が助けを求めるモノと信じ、助けての文章を追加しメールを送った。

 送信が完了した直後だ。

「おい、コイツ動いているぞ!」

 見回りに戻って来た防護服の1人にバレてしまい、冬美也は逃げ出すも、先程の影響で上手く走れない。

 あっという間に取り押さえられるも、必死に踠くと防護服の腕が吹っ飛んだ。

「あぇ? えっ?」

「うぎゃぁぁぁ‼︎」

 その叫び声に再度防護服の連中が集まると、1人だけ白衣の白髪の男が立っていた。

「驚いた、適合者1名だけなのは頂けないが、あの女の孫が生き残り、覚醒もしている。麻酔を撃て、そいつは適当に処置しておけ」

 直後、背後からで獣用の麻酔銃を撃たれてしまう。

 それでも逃げようとするも、どんどん麻酔が効き、よろけてしまい、複数の防護服に取り囲まれ縛られてしまう。

 無論死なれては困るので、猿轡もされ運ばれているのがジャン達を見る最後の記憶だ。

「偽装の準備を、適当に撃ち込んでおけ、それと人がすぐ入って来ない為にも暴走した人間により銃撃と放火で山火事にしておけば暫く入って来れないだろう」

 そう言った白髪の男の指示の元、銃声がより響き渡り実行され、放火もされた事により、レスキュー隊が入るまで数日は掛かり、その後は偽装され銃乱射事件として調査される事となる。

 

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