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ごめんなさい

 嘉村家の屋敷の正門、まさに洋館で車を停める為の屋根まで付いた大きな建物から、総一と冬美也と理美が出ようとしていた。

 晴菜も送る為に一緒に出てきたが、車の用意をと思って使用人に指示していたが、総一はそれを断っていたのだ。

 絆は再度、歩きで大丈夫か訊ねる。

「本当に大丈夫ですか?」

「えぇ、先程休ませていただきましたし、何よりもう夕方にですから、歩いて30分位で着きますので、良いよね?」

 2人に聞くと同じく歩きで良いようだ。

「うん、全然大丈夫!」

「ぼくも大丈夫です」

 外門まで歩いて行くと、麗奈と颯太も見送りにやってきた。

「今度は真っ直ぐ遊びにおいで」

「まだ俺も夏休み中だから、姉さんも暫く休むし父さんも有給たっぷり使うって言ってたし、ゆっくり慣れていけばいいさ」

 晴菜は気を付けてと言いながらも、また遊びに来てと言う意味をこめて伝えた。

「では、気を付けてお帰りくださいね、またね理美ちゃん冬美也君」

 理美は普通に手を振って帰るも、冬美也だけは何故かぎこちない。

「うん、またね」

「はい」

 本人もどう言うわけか、何故か普段通りに上手く行かないまま、2人の後を追う。

 麗奈と颯太のカミングアウトから妙に嘉村家と仲良くなっている理美を見てから、胸の中にモヤモヤが残る。

 今までにない感情に冬美也は戸惑っていた。

 それでもこれを誰に話せば良いのか分からないし、特に理美に話してはいけない気がして、父、総一に聞くべきなのかとずっと考えて歩き続きけていると、理美に急に声をかけられ、変な声が出た。

「どうしたの? まだ具合悪い?」

「ふぇぃ⁉︎ ちが、違うよ! 父さんに話したけど、ジャンって言う子が気になって……」

「ジャン?」

「う、うん、よく覚えていないから、多分昔の記憶の断片なんじゃないかと思って」

 つい、別の話に変えてしまい、本当はその話ではなく、理美が誰かと仲良くしているのを見てるとモヤモヤするなんて言える筈がない。

 そんな2人のやり取りを見ていた総一は冬美也を抱き上げ、肩車をした。

「無理するな、また頭が痛くなるから、あまり深く考えちゃダメだよ」

 冬美也は照れ臭く笑いながら言う。

「えへへありがとう、そうする」

「良いなぁー!」

 肩車を羨ましがる理美を見て、ディダにお願いしてねと軽く言ってから、少し考え総一はここの村の話を始めた。

「……2人はここの黒麟村について知ってるかい?」

「こく、りん?」

「そうか、理美ちゃんはまだここに来て1ヶ月過ぎたばかりだし、あまり村の話とか聞いてないものね」

「父さんは知っているの?」

「あぁ、民話や古典とかよく読むから知っているし、この辺の話も興味があってそれで知ったんだ」

「どんな話なの?」

「昔々のお話で――」


 この土地には大昔から神様がおり、黒き麒麟が住んでおりました。

 しかし、黒き麒麟はとても気難しく、動物やまして人間なんて住もうものなら、恐ろしい災いが起きると言われ、人間も動物も近づこうとは思いませんでした。

 処がある日、動物達がその土地に踏み入れて来たのです。

 黒き麒麟は怒ってどうして踏み入れたのかと訊ねました。

「誰だ、この土地を踏み荒らすものは! 誰1人、1匹も踏み入れようものなら、塵にしてしまおうぞ」

 動物達は答えました。

「最近、食べ物も取れず、しかも飲み水も枯れてしまい、他の土地に移り住む途中なのです。どうか通り過ぎるまででいいので、見逃していただけないのでしょうか? もし出来ないのでしたら、私だけでどうか他のもの達を見逃していただけないのでしょうか?」

 どうやら、動物達は食べる物も飲み水も無くなり、別の場所へと移動している最中でした。

 そういえば最近、人間達の戦が日に日に酷くなり、理由も動物達とほぼ同じで、争いが絶えずにいた。

 動物達をよく見れば、大層美味そうな丸々としたものは誰もおらず、痩せこけ、獰猛な動物ですら病気を患っているのもおり、このままでは他の土地にも迷惑を掛けてしまう。

 代表で話してくれた動物もここから抜ける頃には死ぬのは分かりきっていた。

「……理解した」

「では、どうか他の――」

「お前のひとつの命では足らん」

 その一言で動物達はどうすれば良いのかと悩み、恐る中、黒き麒麟は続け様に話を続けた。

「別に全員の命が必要とかは言わん、ただ、そうだな、ここに住まう事を条件付きで許そう」

「条件?」

「そうだ、この土地は草木が生い茂り少々の事なら大丈夫だが、土地を枯らす事は絶対に許さん良いな?」

 黒き麒麟のその言葉に動物達は皆深々と頭を下げ、礼を述べ続けました。

 こうして動物達は土地を枯らす事なく大事に大事に大切に扱い、病気の動物も今ではすっかり治り、黒き麒麟のお陰と言い、皆慎ましく生活を続けておりました。

 ところがです。

 ある日の事、今度は人間達が黒き麒麟の土地に足を踏み入れたのです。

 流石に動物や資源の多い土地でもあった為、戦の為に根絶やしにする気かと怒って人間達を一網打尽にしようとしたのですが、どうやら人間達はこの土地を荒らしに来た訳ではありませんでした。

「申し訳ございません。神様、どうかここを通らせて下さい」

 代表の老人が黒き麒麟に頭を下げたのです。

 他の人間達も勿論頭を下げ、決して上げようなどと烏滸がましい事なんてしませんでした。

「何故、ここを通る? 他に道があるだろう?」

「先の戦で、村が襲われ、無事だった者達だけで何とか生きながらえましたが、下手な場所を通れば敵にバレてしまい、ここしか通る道がございません。神様の住まう土地をどうかどうか通らせて下さい。ここに住まう動物達にも決して手を出しません。万が一命が欲しいと申すのでしたら、この生き残ってしまった老耄で我慢出来ませんでしょうか?」

 今度は戦に追われた人間達が命かながら逃げ出し、生きれる土地を目指して歩き続けていた。

 他の道は戦や他の集落等で下手に通れば、命を脅かされてしまう。

 子供達も何人も居るのに、この代表者が自身の命を代償にしようとする。

 回りには若い男は居ない。

 どうやら殆どの男達は戦の出稼ぎに行って帰って来ない或いは、戦に巻き込まれ死んでしまったのだろう。

 そして、今口減らしをするなら子供達ではなく、代表者自身。

 あまりに滑稽として見えたのだろう黒き麒麟は高々と笑った。

 その声に近くに居た動物達さえも驚き恐怖すら覚えます。

 きっと怒って根絶やしにするに違いないと人間達は怯えておりました。

 ですが、それとは逆に黒き麒麟は言いました。

「面白い、まさか口減らしとして今まで勝手に置いていた子供達は数え切れない程あったが、子供ではなくお前がなるのか!」

「は、はい、この土地から抜けた後に人手がいるのは分かっておりますが、老耄よりも今後のこともあります故、力のない私目がなるべきです」

「成る程、そこまで考えての事か、その面白さに免じてここに住まう事を許そう」

「はぇ⁉︎ で、ですが万が一敵を連れていたらどうするつもりですか⁉︎」

 あまりに驚いて、もし敵と手を組んでいたらどうする気だったのかと訊ねてしまいますが、黒き麒麟からすれば、笑い話です。

「その前に話を聞かずに駆逐するだけだが? ただ住まう条件がある」

「わ、私の命で宜しければ……!」

「いらんいらん、ここに住まう動物達は私の言いつけを聞いている。土地を枯らすな、動物達を傷付けてはいけない、お主はこれから村を作る手伝いをしなさい」

 その言葉に皆、一同顔をあげると黒き麒麟は美しい人間で立っておりました。

 すぐに皆無礼を働いたと思って、再度頭を深々と下げてしまう程、本当に美しかったのでしょう。

 そうして、人間達は村を作り、黒き麒麟はたまにひょっこりその村の様子や動物達の様子を見てくれるようになり、人間達も動物達も皆黒き麒麟の言う事をしっかり聞き、土地を枯らさず、奪い奪われる事もせず、質素ではありますが決して皆、腹を空かせる事は無くなりましたとさ、おしまい――。


「――って言う話なんだけど、どう?」

 総一は一通り話し終えると、理美の第一声はこれだった。

「黒き麒麟は男性女性?」

 やっぱりと思いながら総一は話す。

「そっちか、さぁ? ぼくも会ってみたいと思っていても、なかなかねぇ。でも、ここの噂これだけじゃなくて、招かれぬもの、ここに来れずって言われていて、悪さをしようとする人はここには来れないって話」

「へぇ、でももし土地を訪れるって分かっていたら、来させないよう出来たんじゃないの?」

 冬美也の言う通り、民話と招かれぬもの、ここに来れずに矛盾があった。

 最初から招くような事をしなければ、こうはならない筈だ。

「きっと、分かっていたんだよ。理由を聞きたかったから顔を出した。そうぼくは思うよ。きっと、寂しかったのかもしれない」

 その話を聞き、理美はなんとなく理解出来、急に寂しく感じるも、この辺の一帯はまだ把握も出来なければ、あまり外にも出ていなかったものの、神様なら神社の一つありそうなのに見たことがないし話すら聞こえないのに気付く。

「寂しい……でも、黒き麒麟を祀っている神社とか聞かないよ? それにディダ達は別の宗教だよね? もうお話だけしか伝わっていないの?」

 総一はその話を知っていたらしく、ご利益付きで教えてくれた。

「そうそう、昔はあったんだけど、神社が麓の場所に移動していて、確か豊作と縁結びに悪縁から護ってくれる神様として祀られてるよ」

 冬美也ももし移しても昔からあったのだから無人でも置いて有りそうな気がした。

「村になら小さくてもありそうだけど?」

「実は一度ダム建設の話があって、一応その件でまずは神社を移してもらってかなり気を遣ってたんだろうけど、結局黒き麒麟を怒らせたとかで頓挫したらしいけど、それでもこの土地を枯らさずに今もこうして不作知らずの村のままだ」

 どうやら一度この村はダム建設の話があり、その影響でまずは黒き麒麟を祀る神社の移転したまま戻っていないようだ。

 だが、結局怒らせ頓挫してしまうものの、こうして村は無事な上、土地は枯れずに未だに不作知らずだ。

 理美はそれを知って、こう言った。

「それだけ愛されてるんだね、ここは神様に!」

「本当にね」

 冬美也も同意し、総一も笑いつつ、他のご利益を思い出し話す。

「他にもね、悪縁じゃなければ、良縁が切れても復縁してくれる神様としても有名で、行方不明になった縁の切れ方をしても、その神社にお願いすると数ヶ月後には吉報として教えてくれるなんて話もあったりと、出会いや復縁が強いらしいから、きっと冬美也に出会えたのも神様のお陰、かもね」

 その話で理美は笑顔になって、冬美也を見た。

「どうしたの? 急に笑って?」

「ううん、なんでもないよぉ、でももしそうなら嬉しいなって思って」

 再度に見せる顔がとても神秘的に見て、なんて言えば良いのかこの頃の冬美也には分からず、凄く戸惑い顔が赤くなっている事すら気付かない。

 冬美也を肩車していた総一は、動悸等が伝わって来るので、なんとなく分かっていたのか、笑い出す。

「青春だねぇ」

「父さん、なんなの⁉︎ 分かったなら教えてよ!」

「いいや、こればかりはちゃんと自分で見つけないとなぁ」

「えぇぇ!」

 決して意地悪している訳では無いが、やはり納得がいかないまま、翼園に着いてしまった。


 玄関口で、総一が冬美也と理美に言う。

「冬美也と理美ちゃんはどうする? ぼくはこれから少し神父達にお話したい事があったからコレから事務室に行くんだけど?」

「一応、顔見せないと、晴菜さん家にお世話になった訳だし」

「あっちでも電話してくれたらしいから大丈夫だと思うけど、帰って来たんだし顔みせないとね」

 話し声が聞こえたのだろう、アリスが出てきた。

「あんた達、心配してたのよ! 全く、急に絆さんが電話して事情話聞いたから良かったけど、出掛ける時にはスマホ持たせた方が良いかなぁ……でもなぁ下手にディダが留守番の時に渡してもなぁ」

 ディダの機械音痴は信用出来て、信用出来ないので、本気で悩む。

 理美も最近、理解出来るようになって分かる。

 本当にありえない程、ディダの機械音痴は酷く、ただボタン一つで動く洗濯機をどういう訳かエラーを何度も起こし、下手すれば壊れる寸前もあった。

「あぁ……ディダって面白いくらい壊しかけるよね」

「そうそう、今はパソコンをかろうじて扱えるようになっているけど、絶対1人に出来ないし、マルスを置いておかないと、ブルー通り越してレッドを何度起こした事か」

 流石に総一も引く。

「何それ超怖い」

「それよりも、すいません、本当はディダ達が迎えに行くか晴菜さん所から車出すって話だったのに、わざわざ連れて来てくれて、ありがとうございます」

「いえいえ、慌てて来ちゃったんで、それに歩きやすい夕方になったのもあるので……それとちょっとお話したい事があって、ディダ神父達は今どこに?」

「もうすぐ帰って来ますから待っててもらって良いですか? 後、連絡入れてみます」

「最近、出掛ける事多いですが、何かあったんですか?」

「ほら、害獣が出て来てるからって、見回り」

「ディダ神父はともかく、他は大丈夫なんですか?」

 何故か、ディダだけは心配されない。

 アリスもディダを心配せずに他に対しては信用し、ずっと立ったままさせている子供2人に早く中へと促す。

「大丈夫よ、慣れてるし、あんた達はほら、中入ってもうすぐ夕食の時間なんだから」

「はーい」

「父さん、ぼく行くね」

 理美と冬美也が奥へと進んで行くのを見送った後に、

「総一さんはどうします? 待ちます?」

「はい。もしでしたら、応接室の方でお願いできますか?」

「良いですけど?」

 一体どういう意味かさっぱりだったが、何かあったのか位で、アリスは気にしなかった。


 食堂に入ると、眞子が理美に話し掛けた。

「ただいまー」

「おっ、丁度良いところに、今まだ友吉さん居るからって伝えておくよ」

 その言葉に理美の胸奥がギュッと苦しくなった。

「う、うん……分かった」

 暗くなる理美に対して笑って、眞子は言う。

「大丈夫だよ、友吉さんもそれ位の言葉じゃ動じないし、もっと凄い事言われてるから! 主に麗奈と颯太に」

 翼園巻き込んで一体何をしたんだろうか、この家族は。

「……どこに居るの、友吉さん?」

「さぁ、主に車椅子で行き来するけど、一応歩けるから、でも歩き過ぎると足の神経や骨が痛くなるらしいから、あまり動く事を避けてるんだ。そういえば、マルス辺りが車椅子を2階に運んでいた。きっとまだ2階に居るはずだ」

「ありがとう、ちょっと探してみるね」

 理美はそう言って、すぐに友吉を探しに行くことにするも、正直許してもらえる気もしない。

 でも、あの時も謝る気も無く、そのまま忘れ去られ結局謝罪もなく終わってしまった。

 だから、許されなくても良いからちゃんと謝罪しなくてはと、震える体を抑え、一歩進もうとした時、冬美也が言った。

「理美、ぼくも付いて行くよ。怖いんでしょ? 側に居てあげるけど、謝る時は1人で、ね?」

「うん、ありがとう」

 ほんの少し震えが止まった気がした。

「んじゃ、話が終わったらすぐにおいでね」

「はい、分かりました」

「いってきます」

 ご飯の前に、謝罪をしようと思い、2人は食堂を出た。


 2階に来て、一体何処にいるのかと思う。

 自分達が使っている部屋に、もうすぐ受験を控える晶と加奈子に1つずつ用意する予定の部屋位で、殆ど空き部屋だ。

 その中の1つに友吉が居るが、1つずつ見て行くには効率が悪過ぎる。

 二手で分かれるかと思った時、アースが立っていた。

 アースは言う。

「理美、こっちに居るわ」

「ありがとう」

 こっそり言って、すぐに向かっていった。

 後を追う冬美也はアースを見るも、アースがこれは内緒と人差し指を口に近づける。

 冬美也はこくりと頷き、理美を追う。

 ある部屋の前に理美は立ち尽くす。

 部屋の中に夕暮れに黄昏る友吉の姿があった。

 理美はどうするか、悩んでいると冬美也がそっと背中を押してくれた。

「理美、謝罪は怖いモノだよ。時間が経てば経つほど良くないって言われている。でも、真摯に謝ったら許されなくても理解はしてくれるよ」

 何度も同じ言葉なのに今聞く言葉は安心してしまう。

「うん、ありがとう行ってくる」

 理美は友吉の居る部屋に入っていく。

 そっと入ってしまった為、気付いていない。

 近付いて、それとなく理美は友吉に何をしているのか訊ねてみた。

「友吉さん……何しているの?」

 その声に気付き、友吉は振り返り理美だと気付いた。

 怒られるのではと、理美は必死に平静を保とうとするも、自身の服を必死に掴み、無意識に伸ばしてしまっている。

 だが、友吉は怒るどころか、今何を考えていたかを答えてくれた。

「会社の事、会社の為に働いている者達、そして家族を考えていた。ちゃんと会社は自分無しに動いているか、働いている者達はちゃんと仕事をし、休めているか、そして、家族が健やかに暮らしているかを」

 あまりに穏やかな表情に理美はボロボロと涙が溢れ出て、声があまり出て来ない。

 それでも、必死に言葉を発した。

「……ごめんなさい! 1人で生きて行かなきゃいけないとずっとずっと考えていて、新しい家族に入るには前の家族を忘れなきゃいけないと思っていたから、でも言っちゃいけない事を言って本当にごめんなさい……!」

 理美が頭を下げ、謝罪したのを見て、友吉は言った。

「そうか、ずっとそう思って生きていたんだね、君は」

「……うん」

 怒るどころか、友吉からも謝罪が出て理美は驚いてしまう。

「こちらこそ無理に聞き出そうとしてすまなかった。それと家族の件は君の気持ちがはっきりするまで待つとしよう。君が来る前に晴菜からは聞いている。うちの家族は血の繋がらない家族。颯太の時はいきなりだったから受けいられないまま入って、麗奈の時は言う時期を誰かに先越されて、だが色々あったが今ではちゃんと家族だ」

「聞いた、でも、もっと色んな子がいるよ? だからその子達じゃなくてどうして私?」

 理美の問いに友吉は晴菜が以前からずっと話していた理由も理解出来、今だからこそ必要な言葉を選んだ。

「君は先程言っていただろう? その言葉で漸く理解出来た。きっとこのままではいけない。1人で生きようとするとその内、家族を忘れただ生きる事に精一杯な人生になってしまう。だからこそ、家族の支えが必要だ。もしまだ迷っているなら、先も言ったが待っているよ、君の答えを……さぁ、後ろに居る冬美也君も困っているだろう、御飯時だから行っておいで」

 確かに様々な子供達を見て、引き取りたいと願ったのか、今なら分かる。

 急いでしまう理由も、きっと心はある程度開いているが許していない状態のままだと、前の家族の事を忘れ、ただひたすら生きるだけの日々へとなってしまう。

 だからこそ、妻晴菜はそれを危惧していたのだ。

「ありがとう、行ってきます」

 少し気が楽になったのか理美は手を軽く振って廊下に出ていった。

 ただ、冬美也の様子が少し変なのも友吉は気が付いていた。

「冬美也君は、少々勘違いしているなあれは」

 理美と冬美也が出て行って十数分後、ディダとマルスが戻ってくるのが窓からでも見え、そろそろ帰ろうかと思って、車椅子を動かすと総一がやって来た。

 総一はすぐに嘉村家の家で息子、冬美也の面倒を見てもらった事を言う。

「友吉さん、すいません急に、息子の面倒を」

 スマホでも連絡を貰っていた為、友吉はすぐに理解した。

「いやいや、晴菜達が面倒をみてくれたようで、お陰であの子とも少し距離が縮まった気がするよ。ただ」

「ただ?」

 ついでとばかりに、先程の冬美也についても報告すると、総一も理美がどんな風に言った意図かを冬美也は多分まだ理解出来ていない。

「冬美也君はちょっと勘違いしてないか?」

「あー……多分分かってない節がありますねぇ。その内分かるようになるとは思いますが、でも、記憶を取り戻した際、記憶が無かった時も覚えていればなんですが……」

 まるで記憶が戻っても嬉しくなさそうな声で、落ち込む総一に友吉は聞く。

「何を言いたいんだね?」

「今、他の人達も来ましたので、そこでお話します」

 丁度その頃には、マルスとディダが2階へとやって来て、そのまま友吉も応接室へと向かった。

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