相談
昼過ぎ、理美と冬美也は昨日と一緒で勉強をしていた。
今回は国語で漢字の練習だ。
それもあってか冬美也は大人しくも違っている時に一緒になって練習に付き合ってくれるようになった。
漢字の意味等も教えてあげたり、どのように使うのか教えたりとかなり静かな勉強になっていたが、そんな時にディダとアダムが戻って来た。
「ただいまー」
「今戻った」
晴菜はそれに気付き、理美に言った。
「ちょっとアダム神父達とお話ししてくるから待っててくれる?」
いきなり動き出すので何が起きたのかよく分からないまま理美は了承した。
「……? 分かった」
勿論、晴菜は冬美也にもお願いをする。
「冬美也君も理美ちゃんと一緒に待っててくれる?」
「良いですよ」
許可をもらった後、晴菜は早々に部屋を出た。
「どうしたんだろ?」
2人きりになった所で冬美也は理美に言う。
「さぁ、とりあえずさっきの漢字練習続けようね?」
「お、おぅふ」
勉強から逃げ出せないと判断し大人しく従う理美だった。
ディダとアダムは出迎えてくれたマルスに言った。
「マルス、僕これからまたちょっとまた出掛けるから」
「別に良いですけど、て言うかジルさん居ないけど?」
「ちょっと僕が拾ったのを見てもらってるから」
ディダとの長年の付き合いだろうか、直感が働きマルスは凄い形相で聞いた。
「今度何拾ったんです?」
何となく話づらいなと困るディダに対してアダムが助け舟というより本当に腰に来たのかずっと摩って休ませて欲しいと懇願する。
「マルス、それについてはおいおい話す、まずちょっと休ませてくれ」
「分かりました。後で教えてくださいね神父達」
話を絶対流させない強い意志にはディダはマルスを宥めに入っていると、アダムはそれよりも晴菜に目を向けた。
「うんうん、後でちゃんと話すから」
「それよりも、晴菜さんどうしました?」
普段和かな晴菜がとても真剣な眼差しでこちらを見ており、絆と話していたアレかと分かった。
「実は大事なお話がありまして」
マルスは既に話を聞いていたので、すぐ対処した。
「なら、応接間だと何だし、応接室で話しましょ」
応接室は事務室内にある応接間と違い、本当に大事な話となった場合にのみ使われる場所で、それなりに広く赤い絨毯が敷き詰められ、重厚感のある古い長テーブルに椅子も赤い絨毯に合わせた布が付けられていた。
皆座った所で、先に話したのはアダムだ。
「あの、大事な話とは?」
「理美ちゃんの件で、養子として迎えたいのです」
やはりこの話かと分かって、ディダは他の家族には話たのかと言った。
「迎えるにしても、ほら、友吉さんや他のお子さん達にもお話ししたんですか?」
「あの子達はもう20歳過ぎですし、話したら会ってみたいと言っていたし、夫はとりあえずどんな子か見てから判断したいと言ってました」
そう、晴菜の家族の子供は既に20歳過ぎ、大学生で年も離れている分、どんな子を迎えたいのかと会ってみたいのと晴菜の意見に賛同している感じが間見えるも、友吉はまず見ての判断で慎重だ。
マルスは理美の為にも、下手に拒否され自信を無くされても正直困る。
何よりも同情で動かれて振り回されている可能性もあるのだ。
「それだと友吉さん次第で拒否されたらどうするんです? 可哀想かもしれませんが同情だけはどうしても受け入れられない」
だが、晴菜は同情のつもりは一切なく、これは理美の為に必要な物をだと認識してのことだった。
「違います。あの子には、まず独占出来る愛情が必要だと思うんです」
「へっ? 独占出来る愛情って?」
「承認欲求や自己愛とかあるじゃないですか。まずそれが足りていない感じもあるんです。大人になるとそれが底無しの溝になるんです。今ここにいる翼園の子達は、この村総出で可愛がって大事にしてるからまだ大丈夫なんですが、理美ちゃんは外に出ようとしないし、必要とする環境をもっと整えるべきなんだと思うんです」
「それで養子に……」
「ディダ神父も分かっているから一生懸命に色々させようとしているけれど、学校が嫌いみたいで行きたがってないんじゃなんでしょうか?」
その言葉通りで、学校の言葉だけで嫌な顔ばかりできっと嫌な思い出があるようで、夏休みに入る時にでも他の子達ともう少し打ち解けて貰わないとと思っていたが、既にグループ出来ている分入りづらいのか中々輪に行こうとしないのだ。
ディダは軽く嫌な汗が流れ、晴菜の勘の鋭さに唖然となった。
『うっ……鋭い』
マルスはディダの顔を見て、気付かされないようにして欲しいと言いたげに睨むも、今運良く理美が拾って来た冬美也に非常に助けられていたのを口にした。
「元々勉強が苦手だったのが拍車かけていると思うんですよ。ただ運が良いのか、冬美也君来てから少し変わって来たんですよ」
丁度、お茶を持って入ってきたアリスが話に入った。
「そうですね、昨日の冬美也君は空っぽみたいな雰囲気あったけど、なんか急にしっかりし始めて」
「今はほら、もっと仲良くしてもらいたいし、これからも――」
ここは暫く様子見して行こうと言おうとした時だ。
「そこなんですけども、ここでのお小遣いって年齢で分けてますけど月々幾らですか?」
どういう事だろうと思いながらも現在の小遣いを考えながらマルスは伝えた。
「えっ? 今聞きます? 理美ちゃん位なら精々300円位かな? 加奈子ちゃんクラスになると大体1500円で……」
「国際切手や手紙にスマホは幾らだと思いますか?」
晴菜の言いたい事を汲むとここでの制限によっては、ほぼ疎遠になって会う事も必然と無くなるのが目に見えていた。
その為、ディダがつい小声で悪態を吐く。
「凄い痛いとこ突くなぁ」
すかさずマルスはディダを黙らせ、話をした。
「しっ! 高校生に上がる子達には部活事情によっては持たせたり、バイトで買ってもらってるから、加奈子ちゃん達はまだ持ってません。一応貸すシステムで慣れさせてはいます。勿論パソコンに関しても」
「後、国際切手だと大体200円だったと思いますけど?」
「ちょっ! アリス」
アリスは余計な話として言ったように見えるが、実際問題そこではない。
「早く養子縁組結びたいの分かりますよ。家裁に手続きして通るに何週間も下手すれば通らないって言う事もありますし、施設管理の私達との同意もいるでしょうからまずは大人同士って理屈も分かりますけど、まずは懐かせてからじゃないと、納得出来ませんよ、こっちも」
その話が全て物語っており、アダムも理解した上で立ち上がりながら言った。
「まぁ、全てはあの子次第ですから」
「明日、麗奈さんと颯太君来るんでしょ? あの子らは大丈夫だろうけど、友吉さん結構キツい事言いそうだし、話も流れるのも問題だし、会って暫く様子見って事で」
まだ納得していない晴菜にディダは話す。
「晴菜さんは誰彼構わず迎える人じゃないのを知ってます。だからこそ、まずは焦らないで」
「ですね、すいません。ただ、あの子は意外と人見知りで左利きな分、右利き用ハサミなんか、かなり独特な持ち方してたり、本当なら多分親や友人が居れば、もっと直せたと思うんです」
理美を良く観察してるようで、感心した。
「自分達が親代わりとして頑張ってますが、親であっても完璧には熟せませんよ」
そう言ってディダも扉を開けて出ると学校から帰って来た子供達がディダを見て言った。
「理美、すぐ里親に出すの?」
「出さないよ。確定した訳じゃないし、それからその話はあまり口に出さない事! はい、手を洗ってうがいしたら勉強やオヤツの時間だよ」
すぐに追い払ったが、既に遅し。
あっという間に噂が広まった。
この後勉強会の続きをしたが、何となくぎこちなさを理美なりに感じ取ると同時に回りの目線がいつもと違う気がした。
晴菜が何を話していたのか、理美は聞いた。
「ねぇ、ディダ達が戻って来た時何の話をしていたの? 他の子達も何か普段と違うんだけど?」
「あぁ、実は私の家族が明日久しぶりに帰ってくるから、一緒に来たいと言ってたのを話しただけよ?」
嘘は言ってはいないが、本当の事も話していない。
ずっと見ていた冬美也は何となく察して話す。
「晴菜さんはそういえばどうして良くここに来るんですか? 勉強見てくれるのは助かってるって大人の皆言ってるけど、何か目的があるんですか?」
「やだ、そうじゃないわよ。普段から良くここ来るし!」
理美も加奈子からほぼ時間帯が良ければ、ここに来るとは聞いていたが、最近は暇がなくとも絶対に午後の時間帯には毎日顔を覗かせ、すぐに自分の元へ来ているのが不自然でたまらなかった。
「でも、ディダ達言ってたよ。普段はなんか電話でお仕事してたり、お客さんがたまにこっちに来る時あるからその間全然こっちに来ないって、それに夏は時間が空いたお客さんがほぼ引っ切り無しに来るから1ヶ月会わない時あるって」
こればかりは普段の日常ではない行動に目が行くので、怪しまれていたようだ。
晴菜は息を呑み理由を口にした。
「それは」
「それは?」
「流石に絆ちゃんにめちゃくちゃお叱り受けてからもうほぼ断ってるのよね」
本気で怒られたようで、実際軽く思い出せば使用人達もその引っ切り無しに来るお得意先のお客さんの為に必死に回す為、屍が山積みになっていく為、流石に絆が雷を落とし、それ以来基本は外で会う位であまり家に招かなくなった。
その言葉を聞いて、2人は目を合わせて晴菜に言った。
「絆さんが事実上のトップだよね?」
「というか、今日は見かけてないよね?」
いつも一緒にいる絆が居ないので不審がる2人に晴菜は言い返す。
「絆ちゃんにだって、用事くらいあるわよ!」
そうして勉強会も終わり、晴菜は帰って行った。
夕ご飯もお風呂も早々に終わらせ、皆それぞれ部屋へと戻る。
いつもの時間に冬美也は今日も治療室で1人になった。
今回はディダが居ない。
用事があって、何か眞子から手荷物を持たされ、すぐさま行った感じだ。
マルスが今日代わりを務めるも、冬美也は大丈夫と断った。
「今日は1人で寝てみます」
「えっ? まだ心配だし、何かあると――」
「大丈夫です。頑張って寝てみます」
「そ、そうかい? なら、まだ事務室にいるから眠れないなら声掛けてね」
「はい、分かりました。マルスさんおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
冬美也は少しでも慣れようと眠りに入ろうとした。
が、そう簡単に眠れず、何時間過ぎたのだろうか。
「ね……眠れない」
昨日は色々あって眠ってしまったのに、今日は眠れない。
仕方がないので、事務室に行こうと出た時だ。
廊下は真っ暗、事務室は電気が付いている。
別方向を見たら、窓からの月明かりで理美が1人で何処かへと歩いているのが見えた。
何となく何処に行くのか気になり、こっそり着いて行くことにした。
階段を登り、何処かへと行くのを見逃さないようにしたが、夜目の効く理美には到底敵う筈もなく、すぐに見失ってしまった。
戻ろうにも、あの薄暗い階段や真っ暗な廊下を歩きたいと思わない。
幽霊は平気だが、下手に誰かと会ったら悲鳴をあげそうだ。
そう考えると、少々後悔が混じってきた。
ふと、何処かの板が外れているのに気付き、そこを覗くと、驚きだ。
隠し通路に幾つか階段があり、階段の先にガラス窓で、どうやらここから屋根に行けそうだ。
冬美也はその一つに窓が開けられているのに気付き、登って行く。
階段というが、実際急勾配でほぼ梯子に等しい。
登り切ったと冬美也が思った時だ。
「ホゥ……プルふふぅ」
いきなり大きな梟が顔を覗かせ、冬美也を驚かせた。
「うあぁぁ‼︎」
驚きと共に手を滑らせ落ちそうになった時、誰かが冬美也の背中を支えた。
「冬美也君! だいじょうぶ⁉︎」
マルスが支えてくれた。
その声に理美も窓から覗き込み、状況が上手く飲み込めないが、大変なのはすぐに分かり手を伸ばす。
「冬美也⁉︎ どうしてここに? とにかくほら、手を伸ばして!」
理美の手を取り、冬美也はなんとか屋根に到着出来た。
マルスは事情を聞いてから、少しだけと自分が居る間のみ、ここにいて良いと了承した。
「少しだけだからね、心配だから俺もここにいるから」
「はーい」
「ごめんなさい」
理美は早々に梟に連れて行かれ、話し込んでいるように、夜行性の動物達と共にいた。
冬美也は良く分からない状況に頭を捻るとマルスが行くように促す。
「気になるなら行っておいで、足元に気をつけて」
「行っていいの?」
「気になるんでしょ?」
「は、はい」
促された冬美也は気を付けながら理美の元へと恐る恐る向かった。
漸く行けたと思った時、動物達が威嚇する様な目をしてこちらを見た。
それに気付きた理美は冬美也に聞く。
「冬美也、眠れないの?」
「う、うん、ちょっと、理美は?」
「私も、エアコンとかあるから平気だけど、寒過ぎて」
理美は理美でエアコンが効き過ぎて眠れないようでここに来たみたいだ。
ただ、冬美也は近づきたいけど動物達の鋭い目に怯え、理美の隣に行けない。
「そう、そうなんだ? その、動物達なんだけど?」
「んっ? あー、うんちょっと待ってて、冬美也が近づけないからちょっと離れて」
動物達に何か話かけるも、動物達も冬美也に敵意という訳ではないが、なんらかの理由で怖がっているように話す。
「コイツ、ヘン! キケンだ!」
「どうして、ココにおいておくの?」
「おいださないの⁉︎」
「こわくないの? こわいよ!」
かなり喚く動物達を理美は逆に威嚇して黙らせながら道を開けさせた。
「私が連れて来たんだから良いでしょ! ほらほら、道あけて、ビビらせないで!」
動物達も渋々道や冬美也に威嚇行為を止め、少し距離をあける。
冬美也は未だに動物達の威嚇する目がずっとこちらを見ているのが怖かった。
それでも理美がせっかく開けてくれたので頑張って隣に座った。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
ただ、どんな会話をしたいかなんて一切考えていなかったので、無言が続いてしまう。
意を決して理美にある事を聞いた。
「あ、あのさ、理美はどうするか決めてるの? ゆ、夢とか?」
「んー無いよ。とりあえず、中学まで行って、高校行くかは別にして独り暮らしするの。仕事出来る場所があればそれで良いや、あっでもあまり話す所とか臨機応変を科すような場所は嫌だな」
ここで初めて理美が今後の事を既に考えていて、誰にも関わりたくないのが伝わる。
「1人が良いの?」
「うん、私人付き合い下手くそだから、並べく1人に成りたい」
冬美也からすればどうしてそんなと言いたくなるも、せめて家族とか欲しいと思ってくれてればとついそう考え口にしたが、先に理美が答えた。
「家族とか考え――」
「それって前の家族忘れて過ごすのは無理だよ。それに前に言ったけど、またそういうのが起きたら、正直もう居られなくなる」
トラウマとなった出来事にこれ以上は踏み込めない。
冬美也は自分の事友達と思ってくれていないのかなと少し残念な気持ちになった。
多分友達になってもずっと居られないのを誰よりも知っているのは理美だ。
怒ってしまえば良いと考えるが、それをすれば理美はきっと自分から離れてしまう。
「な、ならさ旅するのも良いんじゃない?」
「旅?」
ずっと止まる事なく自分のペースでやれる事を考えるとやはり世界を見て回るのが1番と感じ、冬美也なりに話す。
「そう、色々な国を巡ったり、そしたら付かず離れずで人付き合い苦手な理美ならそれが良いと思うけど、トラブルとかの対策も必要だから、いっぱい勉強しないと英語だけじゃないよ。国って他の外国語覚えておかないと何か起きた時対処できないし」
最後に満面の笑みで冬美也は理美を見た。
「お、おぅ……」
結局勉強しなくては行けないよと遠回りに言われた気がした。
山の中、より深い森の大きな岩の上にゼフォウが座って星空を見ていた。
フィリアはゼフォウを見つけ言った。
「ゼフォウ。暫く使っていた廃屋にあった食料も残り少ないから、明日の朝、移動しようって話になったんだけど、ゼフォウは外初めてだったわね」
「別に初めてじゃないけど、平和って一度も感じた事もねぇから、よくわかんねぇんだよな」
そう言いながら岩から降りてきた。
フィリアはとても不安そうだ。
「冬美也……どこまで行ったのか、アイツらから逃げ切ってれば良いけど」
皆それぞれ逃げてしまい、今無事なのかも分からない。
ゼフォウは自分達を捕まえる連中の他にも気を付けなければ行けなかった。
「もしくはこの温度差でやられてなければ良いけどな」
今は夏であっても夜明けは温度差がある。
寝ている間に熱を持っていかれ、体調を崩す可能せもあった。
「冬美也の居る場所へ向かっている筈って、アイムが言ってたけど、他の子達の気配が消えたって言ってたからアイツらもこの近くに居るはずよ、私達は冬美也を見つける為にも逃げないと」
仲間のお陰か、防護服の連中から捕まらずに済んでいた。
「アイムは認識している相手なら把握出来るの便利だな」
「大体だって言っていても、頑張ればもっと分かるようになるかもよ?」
「冬美也、無事でいてくれよな……」
ゼフォウは冬美也を心配しながら星空を見てすぐに皆の元へと戻った。
次の日の朝、冬美也は治療室で目を覚ますと隣に理美が眠っていた。
「……⁉︎」
回らない頭を無理に回し、ある事を思い出す。
結局1人が嫌で、寝るまでマルスにいてもらったのは覚えているが、寝た後記憶が無い。
理美も目を覚まし、冬美也に挨拶する。
「あっ、おはよう冬美也」
「おはようじゃないよ、何してるの?」
「1人が嫌だって言ってたから、来た」
昨日マルスに話していた事を聞いていた理美がわざわざ来てくれたようだ。
「理美は女の子だよね?」
冬美也の言葉に理美は何故そんな事を言うのか分からないでいた。
「そうだよ? お兄ちゃんと2人で寝てたり、お風呂入ったりとかあったし、普通じゃないの?」
とにかくどうして分かれているのか問が
「なんで、ここ混同してないか分かる?」
「んっ? ……さぁ」
いきなりディダの声が聞こえてきた。
「問題が起きると行けないから最初から分けてるんだよ」
ディダが起きたか確認しにやって来た時、理美の声がしたので、不思議がっていた。
「問題って?」
「兄弟いるとたまに分かっていない子いるんだよねぇ。これは保健体育と道徳の話が必要だね」
昔の弊害と呼ぶべきかはたまた昔ならではと呼ぶべきか。
どちらにせよ、兄弟が居るとそこまで気にならないタイプのようだ。
一応、理美にはきちんとその理由を説明しました。
朝食後、理美は謝罪した。
「ごめんね、嫌だったんだ。これからはちゃんと自分のベッドで寝るから安心して」
最初恥ずかしがっていたが、1人で寝たくない冬美也は、このままだと本当にずっと1人になるのではと不安になってしまい、つい言ってしまった。
「大丈夫だよ! 最初は恥ずかしかっただけで、また一緒に寝てく……れる?」
「良いの? 嫌がらない?」
「うん、全然!」
「そっか良かった」
理美はホッとしたのか、笑顔になった。
冬美也も1人にならずにホッともしたが、よくよく考えるとあまり良い選択とは言えず、どうすれば良いのかと返って自問自答が始まってしまった。
余計な考え方を数式で例えだし、必死に答えを見つけ出そうとしていると、理美が昨日の夜の事を話し出した。
「ねぇ、冬美也」
「ふぇ⁉︎ な、何どうしたの?」
「昨日はごめんね、来たばかりだし、記憶戻っていないのに、不安にさせるような話ばかりして」
「そうかな? だって、理美は色々我慢して表現の出し方知らないだけだし、ただぼくの事忘れて生きるのかなって? そりゃ子供同士だからその内忘れてしまうのは至極当然だろうけどさ、ぼくとしては一緒に遊んで笑って勉強して暮らして欲しいんだ。離れて暮らすかも知れなくても連絡取り合って、会える時には必ず会って笑ってお喋りしたい」
「冬美也の正直な気持ちなんだよね、ありがとう」
理美が笑顔を見せる度に冬美也はどう言うわけか緊張してしまい、変な事を話し出す。
「う、昨日言いそびれてたの言いたかったから言っただけでその、でも旅の話も本当で――」
その状況を止めたのはジルだった。
「子供のうちに何言ってるんだぁ」
理美と冬美也はジルに挨拶した。
「あっジルだ。おはよう」
「おはようございます」
ジルも挨拶を返しながら、冬美也を見て言った。
「おはー、と言うか、大分冬美也も表情豊かなったじゃん」
確かに初日に比べれば本当に色々な表情を見せてくれる。
きっとあの時だろうと理美は言った。
「隠し通路に穴開けちゃって落ちた時、総一さんに会ってからじゃない?」
「そうかな? あまり思い出したくないけど、注射器だったような……」
冬美也も実際あまり覚えておらず、しかし表情を出したのはアレからと思っていたが、後から来たアリスとディダに言われた。
「パニックは誰でもなるから、違うって」
「理美ちゃんだって、パニック起こした時大変だったんだけど、あの時は総一さんと絆さんに助けてもらったし、どちらかと言えば誕生日会してからだよね」
「そうだっけ?」
本人は覚えていない様だが、きっかけにはなっただろう。
ディダは冬美也を見て、総一が今日も来てくれると話した。
「あっ、そうだ。冬美也君、今日もお父さん午後から休みもらったから来てくれるって」
「よく休み来れますね?」
「労働基準法による、有休消化してるらしいよ。冬美也君も居るから、外務省勤務の人に事情話したけど、今は連絡待ち」
もっと早い段階で見にきて確認とか諸々やるだろうが、山での事はやはり今は話せない。
それにそれどころじゃなくなって、冬美也もまた関係あると判断されている。
だが記憶が無いのもあり、今はとりあえず様子見だ。
ジルは朝食を取りながらスマホを弄り、loinを見てからディダに話す。
「そういえば、あの件でちゃんと到着、そのまま保護してるって、早い内に健康状態確認後、母国に帰れるってよ。捜索願い出てない子も、長期で見てくれる国も見つかったからそこに移送だそうで、それとそこの調査は、そのままあっち持ちになった」
主語が無い会話、ディダにしか分からない。
「そうありがとう」
流石に内容が分からない理美は聞く。
「なんの話?」
「大人の話」
「ぶーぶー!」
ジルの素っ気ない態度に理美がブーイングするも、子供だから痛くも痒くも無く踏ん反り返った。
冬美也は普段と変わらない雰囲気とは違うものをひしひしと感じ取る。
他の子達が何か察して理美を見ているので、冬美也が代わりに振り向けば、すぐさま顔を背けるのだ。
「……?」
あまりその雰囲気は良くなかった。
理美は気にしないのか、気にしない様にしているのか、ずっとジルとディダに話しかけている。
そういえば、イジメの話を聞いてから理美は同い年の子と話すのが難しいのかと感じた。
実際、自分にも話し掛けるのも理美に話し掛けるのも上の子か大人だけだ。
理解ある上の子がいるから、ここの空気は良いのだろう。
ふと理美はある事を思い出し冬美也に話し掛ける。
「ねぇ、冬美也」
「んっ? どうしたの?」
「晴菜さん、子供連れて来るって言ってたけど、どんな子達なんだろうね?」
「そうだね、メイドさんや運転手とかいるから結構お金持ちだろうなって思うけど……?」
ディダが晴菜の子達について言った。
「晴菜さんのお子さん達はもう大人だよ。下の息子でも海外の大学入ってるから来るのも大変で、多分待ち合わせして電車なんだよ。車使っても良いけど、社会勉強にはならないからって基本はちゃんと自分達で実家に帰る為に計画立てて来てるからね」
1人は大人でもう1人は二十歳過ぎた大学生なのかと、冬美也は思っていると理美が不思議に思いながら、こう言った。
「ふぅん、毎年ここに来るの?」
「そうだな? 毎年では無いけど、たまに遊びに来てるよ」
考えながら話してくれるが、どうもあまり余計な事を話さないよう気を付けている様に見えた。
「ねぇ、ディダ何か隠してない? 他の子達もそうだし、加奈子姉も晶兄も何か必死に隠してる感じだし、部屋に居てもなんかぎこちなくて嫌だ」
やはり昨日、盗み聞きされてしまったせいで理美が嫌がっているのに気付くのが遅れてしまった。
子供は敏感だ。
このままだと理美はまた心を閉じるのではと思い、どうしたものかと考えた。
ジルはその微妙な空気を察したのか分からないが案を出す。
「なら、暫く冬美也と一緒の部屋で良いんじゃね?」
固まる冬美也と困惑するディダと状況を全く理解出来ていない理美は何も返さず、無言となった。
すぐにその空気を壊してくれたのはアダムでジルにチョップを喰らわした。
「こらぁぁ‼︎ 勝手に決めるな!」
「言ってみただけじゃん! それに、冬美也を1人にしたく無いからって、大人がうじゃうじゃいても居心地悪いぜ? 理美も今部屋居づらいなら、今仲のいい相手と居た方が良いだろ?」
大人しか知らない状況で、皆見回りなんてしたら冬美也も居心地悪いだろうし、他の子と一緒に出来ない。
だが、運が良いとも言える。
今理美にだけ、冬美也は心をしっかり開いてくれているのだ。
ここで引き離さずに一緒に居れば、お互い楽だろうし、まだ子供ということで良いのではジルは考えた。
「確かにそうだが、ここでは男女別に規則として成り立っているんだ。ここで壊したり特別枠を設けたりするのは――」
アダムはそうしてあげるのが良いと思っていても、ここの規則を破っていけないと口にしていた時、お茶を持ってきた眞子が意外な言葉を返す。
「昔、兄弟を引き離すのは良く無いって、マルスとディダが思って一緒にしてたの知ってるよ? その兄弟は姉と弟だったけど、なんら問題も起きずに親戚に引き取られて、今も社会人として仕事してるって聞くし、第二成長期前だし、総一さんとよく話し合って決めな」
ディダは血の繋がった姉弟も第二成長期前だった事もあり、預かり先の親戚が環境を整えるまでとの約束もあり、今回は許した。
しかし今回は違って、お互い許しあえるも血の繋がった兄弟や親戚とかではないのだ。
「いや、その子ら血の繋がった姉弟だったからね?」
「前例あるが、血の繋がった兄弟限定だろ?」
「まっ、冬美也の親父さんと話してからで良いじゃねえか」
結局、ジルが話を終わらせた。
仕事中、ディダはずっと昨日の事を思い出し考えていた。
あの出来事のせいで、理美は普段慣れて来た部屋が急に居心地悪くなったのなら、逃げたくなるものだ。
ディダは昨日の夜帰って来てからマルスから理美と冬美也の話を聞いた。
気を許してるが、まだ心を許していないのは理解出来た。
「旅は良いけど、騙し合いやいざこざもあるからなぁ……」
昔を思い出したのか、ディダは小言を言った。
良い思い出もあれば苦く苦しい思い出も沢山あるディダとしては、あまり勧めたくない気持ちだ。
それに、養子縁組の話としてもまだ理美には心の準備が必要で、何年掛かるか分からない。
1人が楽なのは本当だが、衣食住を全て賄うにも他の人がいなければ成り立たないのだ。
「まぁ、付き合いを継続するのって根気がいるし、気楽に連絡取れる時代にはなったけど、やっぱり金がなぁ……」
ディダは晴菜の言っていた言葉にも深い理由を理解していた。
大事な友人を金に回されるのは凄く嫌なのは分かる。
しかし、特別に許可はしない。
回りだってそれをしたい子達もいるのに、特別扱いしたらもっと居づらくなる。
「さて、どうしたものか」
そう言いながら、ディダは背伸びをして再度仕事に向かう。
村で唯一存在する無人駅、黒麟駅。
昼前、晴菜はその無人駅前でずっと立っていた。
ローカル線な為か、電車は二車両だけがここの駅に止まり、数分後出発した直後に、女性と男性が出て来た。
女性は腰まで伸ばした黒髪、男性は金髪で眼鏡を掛けていた。
「麗奈、颯太、2人ともお帰りなさい」
「お母さん! ただいま!」
「母さん、ただいま」
どうやらこの2人が晴菜の子供の様だ。
2人は前から聞いていた話をした。
「ねぇお母さん。電話で聞いたけど、本当に欲しい子居るの?」
「そうそう、大丈夫? 来たての子って貰いづらいって聞くよ?」
晴菜は言った。
「まだ本人には内緒、でないと嫌われちゃうから、というか下手したら他の子達聞いたかも……?」
途中、話してたらどうしようと言う不安に駆られた。
「杜撰だ」
麗奈は不安等しておらず、とにかく会いたいようだ。
「それより、その理美ちゃんに会いたいな!」
「まっ、とりあえず俺も久々に神父達会いたいし行こう母さん」
不安がっても仕方がないと踏ん切りをつけ、颯太と麗奈は車の方へと向かった。
少々不安だった晴菜も、いつものように接する事に徹底しようと考えた。
「それもそうね、いつものように接していけば良いわよね」
内心焦っている自分がいるのは、きっとあの子が何処かへ行くんじゃないかという不安からだ。
それを拭い去りたい、ここが家で家族だと認識させたいし、愛情を感じて欲しい。
だからこそ、気長に待てないのだ。




