設定:罪を犯した勇者/シアン
実際に犯した罪はないものの、芽生えた不信という名の罪は、癒えることも、消えることもないだろう。自身を信じることさえも。
暴虐の限りを尽くした魔王は足元を見なかった。ただ進むだけだった。
侵略し、奪い、支配する。力を示した地を踏み荒らし、自身の足跡を広げていくだけだった。
その力に魅せられたもの、そして彼が貪った残りカスとして目にすら入らず襤褸切れのように散るのを待つだけとなった者。足跡には秩序も、善も欠片ほどしかなかった。
魑魅魍魎、百鬼夜行の世界が広がりつつあった。
人々は魔王を恐れた。
弱き者たちは強き者を恐れた。いつか魔王が倒されることを願った。そして、これ以上強き者が現れることを願いながら、強き者が世界を支配することを恐れた。
魔王を封じる方法を考えながら、もしもそれ以上の者が現れたのなら、その力をも脅威とならないとは限らないと思った。
そして、力を誇示し続け、全てを顧みず世を踏み荒らした魔王は勇者に倒される。
願い続けていた魔王消滅は果たされた。
しかし未だ不安要素となる勇者の存在が、弱き者たちの心をつかんで離すことはなかった。
恐怖が永きに渡り蓄積し続けた、弱き者たちの心はようやく解放される。力を封印する『虚零の牢獄』が完成したことによって。
多くを守り、魔王の手から世界を救った勇者は、弱き者たちに封印される。表向きには罪を犯した者とされて。
牢獄の中は、力を奪い続ける『零力の黒石』で作られた暗闇の大空洞。無人のその中を、力を求めて徘徊する「零黒の刑務官」が、罪人を決して逃ぬよう休むことなく稼働し続けている。
もはや生きる気力を失った勇者はただ、大人しく、牢獄に閉じ込められた。
思考を放棄した勇者は無窮の時をその暗闇の中で過ごしていた。
ある時、中が騒がしく、いつもと様子が違うことに彼は気がついた。
経路や時間毎に現れる頻度など、無機の監視パターンがいつもと違うことに気が付き、脱出する気はないものの、何があるのか、ほんの少し湧き上がった好奇心が彼を動かした。
騒ぎを大きくしないようこっそりと、徘徊する監視の目から逃れて散策していると、明らかにあちこちが崩落しているのを見つけた。
その他にも、おちらこちらには劣化ではない明らかな壁や床の荒廃が現れていた。
ボロボロになった壁から外を覗いたとき、彼は崩壊が進みすぎたこの世界がもう時期消滅することを知った。
崩壊によって出来た空洞に彼はとうとう飲み込まれ、世界の消滅とともに彼もまた肉体の消滅を受け入れ、虚空に融けた。
ある時魂は、再び世界の温もりによって包まれる。
彼は新たな光を、新たな体で受け、目覚める。
俺の世界は、終わったのだ。




