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下界の支配者 沙百合   作者: ゆと
3/3

第三話 疑いと再開


 本作の主人公の一人である鈴木圭太(すずきけいた)(44)は、本人の理想とはだいぶかけ離れた生活を送っていた。39歳の時、動画投稿者になる前までは


独身で現在付き合っている彼女も居ない

子供の頃から目指していたテレビで活躍するような一線級の芸能人にもなれず、振るわない日々を送っていた


 そんな彼だがネットが普及した現代、動画クリエイターになることを決意し第二の夢を追い求めた

案外にもその夢はすぐに叶った。第一の夢を叶える為に磨いてきたトークスキル、リアクション芸が見事に功を奏した

そうなる前はアルバイトで食い繋いでいた私生活が一変、自分の存在を認知してる人が国内に最低でも150万人はいる有名人だ


 活動当初からかなり早い段階で圭太のソロ動画だけで10万人の登録者を獲得

その後、当時から流行ってる人気サバイバルゲームを、9年程前に近所の公園で数年間一緒に遊んでいた公平とらいの三人で実況する動画をアップロードし始めてからは視聴者の増加数はさらに加速していった


 40歳越えのおっさんが、若者に人気の複雑な近代ゲームを中学生から教えられながらプレイしていくというスタイルが、他のゲーム実況者との差別化点となり、多くの人たちにウケた

公園で一緒に遊んでいた小学生は他にも複数人いたが、今でも交流を続けてくれているのは公平とらいと美瑠久だけだ


 美瑠久が実写動画に顔を出すようになったのは小遣い欲しさに、出演料を取得しようと美瑠久の方から話を持ち掛けてきた

なんの面白いこともできないが、顔、仕草、性格、喋り方、頭の悪さ、中学生という若さ、...と、とにかく可愛いと人気がでたことにより、これまで華がなかったチャンネルには多大な利益となった


 清楽の編集によって得た人気も少なからずある

清楽の優秀さはマネージャー、スタッフの役割を学業と両立させながら完璧に近い形で熟したことだ

企画発案や企画の下準備、案件の交渉など裏方のタスクをほぼ一人で短い時間の内に終わらせる


 優秀な裏方に支えながら大成を成した5人組の動画活動グループのリーダーだ

そんな彼は近所で一躍有名となった超常山(白屋山)の探検中に4万人が見てる生配信中に映像に映し出されている状態で消失し、異世界へと飛ばされていた


 「なに?!...ここは...?」


辺りを見回すと、広大な草原が視界を埋め尽くしていた


 「えっ!なにこれ?!ドッキリ?!?」 


詳しい状況なんて理解できない


 「しゅへーりう!うぃい?」


呆然と立ち尽くしていると、いきなり背後から声を掛けられた

言語は不明だ。今まで聞いたこともない

吃驚しながら声の方向へと振り返る

そこには人間がいた

だが兵士のような鎧を身に纏い、腰には剣を携帯している


 「I am Japan. What country is this?」


世界の公用語である英語で会話を試みる


 「........??」


相手の兵士には伝わっていない様子


 スマホの音声認識通訳機能を使おうと、スマホを取り出したときにここが圏外地域であることに気が付く

となるとこの兵士と言葉を交わす手段がない

だが、幾ら言葉が通じないとはいえ人間が住んでいる。

この事実が圭太を安堵させた


 「この国の人間ではないのですね」


再び兵士が発した言葉が圭太の耳に入った時、はっきりと言葉の意味が読み解けた


 「え?日本語喋れたんですか?!」


驚く圭太


 「にほん?...は知らないですね」


 「じゃあなんで...?」


 「魔法を知らないということはあなたも異界からの来訪者ですね」


「魔法」「異界」ゲームや漫画でしか聞いたことがない単語が、見るからに真面目そうな国の従事者らしき人物の口から出てきて戸惑う


 「今あなたが使ったのは、翻訳魔術(トランスランゲージ)です」


非現実的な単語の再登場にもっと付いていけなくなる


 「...ん?無意識下で魔法を使ったんですかっ?!」


突如なにかに引っ掛かった兵士の声色が変化する


 「いや...魔法ぉ?なんて..使い方が...」


「魔力を消費した感覚がないのですね!!」


いきなり兵士からガシッと腕を掴まれる圭太


 「え?ちょっと!!」


強引に兵士から腕を引っ張られて移動を余儀なくされる


 「あなたにはこの世界で最強になれる素質があるんです!あなたは無知な状態で最適解の魔術を発動した!本能に刻まれていたんです!魔法が!!」


 「はい!?なんて???」


小走りで引っ張られながら聞き返すが話は見えてこない


 圭太は20分程草原を移動し、ひとつの国に連れてこられていた

     一週間前に起きた出来事である



************



 清楽達四人は運良く圭太が連行された国の方向へと移動していた

蛇猿が襲撃してきた方向とは真逆に歩き出していたことが思わぬ幸運を引き寄せた


 「あの鎧の死体ってさっきの猿に食われたのか?」


公平が疑問を提示する


 「その可能性は高いだろうが、他にも人を食う魔獣はいるだろうな」


清楽が返答を出す


 「他にも?」


らいが新たな疑問を問い掛ける


 「あの猿しかこの辺に人間の天敵がいないなら、専属特攻装備で身を固める。もっと刃渡りが長い武器で地中の猿を串刺しにしなきゃ単独じゃ勝ち目がない」


清楽は推測を全員に共有する


 「今は平気...草の匂いしかしない...」


魔獣の探知は美瑠久の鼻頼りだ

だが美瑠久の反応速度はかなり遅い。それを理解している三人は各自での警戒を怠らない。


 道中、美瑠久が「あっ」と声を出した

即座に三人が臨戦態勢に入る

美瑠久が指を差した方向には、草原の草を掻き分けながらこちらから逃げる一匹の小さなリスがいた


 「なんだリスか」


公平が安堵の声を漏らした


 「少しは学べ、見た目はリスでも雷撃や火炎を放ってくる可能性を無視するな」


 「あ~そうだったな」


清楽の声で再び態勢を構えるが、見た目がリスと判明してからは格段と危機意識が薄くなっている

最高戦力である公平が警戒を解いたことで、逆に清楽とらいの緊張度が高まった


 リスは何もすることなく前方の彼方へと逃走していった


 「もう...匂い消えた」


美瑠久の報告で安心を得るらい

既に油断しきっていた公平

リスが大量の群れを引き連れて攻撃してくる可能性を考える清楽


 「美瑠久、あのリスの匂いは覚えた?」


 「うん」


 「他にリスの匂いはする?」


 「...しない」


 「あのリスが群れで行動したような匂いもない?」


 「.....うん...多分...」


 「ok、わかった」


清楽は用心深く確認した


 (ならリスが逃げて行った方向はそれなりに安全か...)


そう考え出した時、今度は公平の「おい!」が入った


 「あれ見ろ、城壁じゃね?」


公平の発言通り遠くの景色に城壁が見えた

壁の高さは6mほどであり、半円を描くように建てられていた半円の直線部分は約2.6kmで小さめな町であった

扇形となっている円上の中心部分にかなり大きい門がある

その門に急ぎ目で向かう一行


 門の両端には二人の番兵と思わしき兵士が、中心には一人の男が待機していた

それがはっきり見えるほど門に接近した際、清楽が大声で呼びかける


 「すみませーん、この世界に転移してきたものです」


異世界転移者の存在が把握されている前提での接触を試みる


 「セフノツェア?(リスをみたか?)


中心の男が異言語で問いただす


 その男の服装は両脇の兵士とは違い、鎧ではなくスーツに近い衣装を綺麗に着こなしていた

髪が肩の下まで伸びている長髪で、高身長。公平より10cm程高い

服の質感から明らかに高級品感が溢れており、身分がかなり上の者だと容易に推察できる


 「やっぱ日本語が通じるわけないか...」


開いた両手を見せ敵意がないことを示しながら門前までとことこ歩いてきた四人の落胆する声


 (この言語...圭太の母国語と同じか?)


長髪の男は言語解析魔術の使い手である

日本語の情報は既に圭太から得ていて解析済みだった


 「らい、スマホのペイントで絵を描いて俺達が異世界から来た人間であることを伝えよう」


らいの画力を信用している清楽から指示が入る

 「その必要はない」


長髪の男が清楽の指示を引き留めた

急に異世界の住人が日本語を喋り出したことに驚愕する四人


 「え?!..あなたも転移者?!」


 「いや違う。その様子だと魔法の存在も知らないな」


長髪の男は異世界転移者の存在を把握しているようだった

ならば圭太の生存率もかなり上昇する

一行のテンションが良い方向に変わった


 「早速質問がある、どうやってこの国を見つけた?」


 「僕たちはここから8時の方向に出現したんです。そこから30分歩いてきてこの国に偶然たどり着きました」


 (偶然...か)


 「私の名前は宮根清楽、この世界に迷い込んだ一人の男と元の世界に帰る方法を探しています」


 「俺はクエル、こう見えてもこの国の上位役職だ。小さくて貧弱な国であるこのプルケル国に次元を超える技術はない。すまないな」


 「()()()()、という男の情報に心当たりはないですか?どんな些細なことでも構いません」


 (圭太の名前を出すか...)


圭太の名前が出た途端に、クエルから警戒の匂いが発せられた

それに気づいた美瑠久は、分かりやすい仕草で身構える

公平はその美瑠久の小さな変化で状況を把握する


 「...本人を知っている」


 「ほんとですか!?」


さらなるテンションぶち上げ発言


 「...かなり迷うが...」


 「迷う??」


 「いちよ拘束だ」


 「?!?!?!」


クエルの合図と共に、両端の兵士、さらには門の後ろに身を潜めていた6人の兵士が清楽ら四人に急接近し突如取り押さえる


 「なっ、何するんですか!?」


らいの焦燥の声が響き渡る

公平は抵抗しようと思えばクエル含めた9人をまとめてノックアウトできる

だが、それをしなかったのは清楽が無抵抗であったからだ

自分ですら感づいた不意打ち拘束を「清楽が予測できてないなんてありえない」と判断したのだ


 案の定、清楽も気づいていた

清楽が気づけたのは、日本語を話すことができるクエルの最初の返答が異言語であったからだ

「俺らがほんとに異世界者かどうか試されている」という結論に至った

そしてこの城壁に囲まれている建造物の密集地帯を"町"ではなく"国"とクエルは言った


 つまり今まで歩いていた草原はプルケル国ではなく、この城壁内の敷地だけがプルケル国だということ

隣国との国境線が設定されていないのだ

そうなると、城壁や兵士も野生動物から国民を守るためでなく他国と争う為に配置されているのが本命の役割だと予想できる


 隣国と争ってるのならば、異世界転移者を装って工作員を敵国の内部に侵入させる手段は至極当然の発想だ

それをケアしての拘束だろう

もし"拘束"ではなく"殺害"なら美瑠久が殺意の匂いを嗅ぎ取って今以上にあたふたする。それに気付いた公平が兵士を返り討ちにするという算段であった

他人任せの対抗ではあるが、清楽が仲間の力量を見誤ることはないに等しい


 「魔法は知らない、それは本当のようだ。...なら逆になぜケガリスは反応した...余計に不可解だ...」


クエルが独り言を呟く

ケガリスとは、美瑠久が道中発見したリスのことだ。この世界で動物を殺した者を独自の魔術で探知し、その生物から逃走する性質を持つ


 「俺達はほんとに何も知りません!!信じてください!ただ迷い込んだだけなんです!!!」


らいの命乞いに近い悲鳴がクエルの鼓膜を刺激する


 「なら答えろ、お前らはこの世界に来てから何を殺した。そしてお前ら転移者の出現地点には本来見張り役の兵士がいる、そいつの同伴がないのはなぜだ」


 「...その兵士の死体らしき物は既に転がっていました...。俺達が殺したのはシマウマ模様の猿です...」


兵士によって地面にグッと抑えられた状態で、見下ろしながら尋問してくるクエルに嘘偽りのない返答を出す清楽


 (嘘を言っているようには聞こえないな...だが..)


 「魔法も知らないお前らがニョロ猿を殺せたのか?」


最も不可解な部分をつつくクエル


 「逆に魔法がなきゃ殺せないんすか?あんたらは?」


公平が挑発めいた発言をした

その直後、自身を地面に押さえつけていた二人の兵士を自分の筋力と背中で容易く押しのけながら立ち上がる

抵抗と見なした二人の兵士は即座に剣を抜くが、そこから一振りも動かす間もなく公平のノールック手刀で刃の根本に近い部分を同時に折られる

 

 「これが"答え"っすよ」


公平の威圧がクエルに向く


 「すげーな、魔法がなくともこんな強いとは...」


どうやら純粋に感心したみたい

その感心で残りの兵士たちも拘束を緩め、三人共立ち上がることができた。が、四人の両腕は背中の後ろで結ばれる形で兵士に掴まれ完全に自由になることは許されない


 「確かにこれなら猿は殺せる、ケガリスが反応しても不自然ではない...だが、逆に兵士も殺せちまうな」


まだ疑いは晴れていない様子


 「見張りの死体を見てこい」


クエルが公平の拘束をしていた兵士二人に指示をだす


 「あ、猿殺すために兜と剣借りたんで荒らしてはいます」


思い出したらいが注意を挟む


 「リスをみたか?」


 「.....?はい、見ました」


急になんの脈絡もない質問が飛んできた


 「やはり俺の最初の言葉は通じてないな。今初めて聞いたという反応だ」


 「???」


 「そして自ら圭太の名前を口に出してるのも怪しくないポイント...」


クエルは考え事をするときに呟く癖がある


 「あっ!圭太のことをどれ程知っているんですか?!」


クエルの一言で本来の要件を思い出した一行


 「ん?あいつは...」


と言いかけたとき清楽達の左方面から兵士の大群がゆっくり押し寄せてくるのが見えた


 「ちょっと待って!あれやばくないですか?!敵?!」


 「いや、自軍だ」


慌てる四人を静止させるクエル


 数分後、兵士軍団の先頭がクエルの前に到着した


 「クエル将軍、リンカン王国との戦争に勝利しました!」


兵士の一人がクエルに戦績を報告する


 「よくやってくれた。圭太はどこだ?」


 「後続の軍団に混ざっています!」


思いがけない情報に混乱する四人


 「は!?圭太さんが兵士!?」


着々と城壁付近に帰還してくる兵士たち


 「相変わらず流石です!圭太さんのおかげでもう三勝目ですよ!」


 「いやいや~デルタル君も良い動きしてたよ~」


 「いえいえ~」


集団が近づいてくるにつれ、軍団の中心部分から兵士におだてられて調子に乗った圭太の声が徐々に聞こえてきた


 「圭太さん!?ほんとにいんの!?!?」


公平とらいの大声が響き渡る


 「え!?」


聞き馴染みのある声を談笑中に聞き取った圭太は迅速に集団の先頭に駆け寄る

前にいる兵士達を掻き分け集団から姿を現す圭太


 「らい!?美瑠久ちゃん!?みんな!!!!」


 クエルの真横にいる4人の友達を発見し、歓喜2、驚愕8の感情が圭太の脳を支配した


 「圭太、こいつらの事を知っているんだな?」


クエルが最終確認を行う


 「知ってるよ!大切な友達だもん!」


圭太が即答する


 「クエル将軍、見張りの死体は細かい肉片になっていました。魔法を扱えない者がそのような状態にするのは困難です」


そのタイミングで調査に出ていた二人の兵士が戻ってきた


 「ああ、これで潔白だな。入国を喜んで歓迎するよ」


クエルの言葉で清楽達の拘束が完全解除となった

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