第二話 蛇撃
本作の主人公である句崎公平は夜の山道を捜索中、未確認生物である雷獣に出会い、殴り掛かろうとした瞬間異世界に飛ばされ、そのまま未知の草原を殴っていた。
彼のスペックは178cm、80kgを誇るマッチョだ。
髪の毛は天性的に先端が内側に巻いている癖があり、髪型はセンター分け。横に目が長いキリッとしたイケメンである。
家族構成は父、母、妹の4人家族で父は陸上選手、母は熊狩りのスポーツエリート家系だ。
(確かに目の前にあるのは草原だ...目で見た限りでは)
公平の脳内にはすぐにそんな考えがでてきた
だが、触感、匂いが今までいた本来の世界の草とは少し違う。
彼の視力、聴力、臭覚、触覚はどれも人並み以上に高く、彼ほど感覚器官が優れてなければ、気づけない程の機微ではあったが
全感覚器官をフル稼働させ、自身の身に起きた異変を探っていた最中、自身の背後に美瑠久が出現した。
美瑠久に体幹力はない
飛び込んだ衝撃でバランスを崩し、公平の背中目掛けて前のめりで倒れる。
公平は素早く振り向き美瑠久の肩を両手で掴み、傾いた身体を支える
「大丈夫か?!二人は無事か?!」
出現して間もない美瑠久に反射的に質問する
「おわっ!」
美瑠久の返答の言葉が発せられるまでもなく、らいの声とらいの腕を掴んだ清楽が目の前に現れた。
「俺の考えは当たりだっ!」
清楽の大きな歓喜が小さな声で草原に放たれる
まず四人は、周囲の状況を把握するより前に自分達の身体に異変がないかのチェックをした
「謎は解けたな」
誰の身体にもかすり傷一つないことを確認した後、公平が口を開く
「あの未確認動物によって圭太さんは強制テレポートさせられた。俺ら四人が同じ場所にワープしたんだから圭太さんもほぼここに飛ばされたはずだ」
そう推理した公平は、圭太捜索のため草原を歩き出そうとする
「いや、違う」
清楽は公平の推理を即座に否定した
「ここは元居た場所とは違う別世界、そしてあの獣は直接的には関係ない」
「別世界なんて言い出すなんてお前らしくないな」という顔で清楽の顔を凝視する公平
そこには構わず清楽は自分の考察を続けた
「ここが別世界だと考えた理由は三つ」
「一つ目は、そもそもあの雷獣の存在
あんな生物が今の今まで見つかってない訳がないだろ?おそらく俺たちが今いるこの世界から迷い込んできた存在だ」
「トカゲとかが突然変異した可能性はないのか?」
公平が反論を差し込む
「白屋山の未確認生物の発見報告例だと、三つ目の狐、シマウマ模様の猿、炎の鼻息を出す猪、とか別の種類もいる。そんな同時に突然変異が重なる訳なくないか?」
「お前が他人の非現実じみた発言を鵜呑みにするのか?」
公平の疑念は晴れない
「二つ目は...」
清楽は先に他の理由を述べることにした
「獣だけじゃなく異世界から来たとしか思えない人間も発見されてることだ」
「それも実際に見た訳じゃないだろ?」
「...わかった。先に三番目の理由を言うよ」
呆れた感じを醸し出して話を続ける清楽
「お前ら自分のスマホを見てみろ」
スマホを取り出し画面を見る公平とらい
「圏外...か」
公平の冷静さは乱れない
「...圏外?!」
悲鳴に近い驚き方をするらい
「待って!じゃあ俺たちどうやって帰るの?!圭太さん探すどころじゃないって!」
らいは事態の深刻さを重く見た
「んで、圏外だからどう異世界の話に繋がるんだ?ここら辺の設備が整ってないだけだろ」
公平の反論は止まらない
「あの山には電撃を放ち、人を草原へ転送させる未確認生物がいた。これが真相だ」
公平が強引に結論を出す
「ねえ..らい..これ見て」
清楽が考察を喋り出したとき、三人の下を勝手に離れて草原の探索をしに行ってた美瑠久が、入手した一つの物品を両手に抱えて帰ってきた
「らい..こういうの好きでしょ?」
美瑠久が所持していたのは少し錆びれた大きめの剣
青銅のような素材で作られていて、柄の中心部分には赤くて丸い宝石が一個埋め込まれていた
まるでゲームに登場するかのようなゴツゴツとしたデザインの剣を見て、らいは顔色を変えた
「うおっ!なんだそれ?!どこにあった?!」
「こっち...」
美瑠久は剣をらいに手渡し、少し離れた発見場所の岩陰へと案内する
「ここ」
美瑠久が指示した場所には、大破した人型の鎧が地面に落ちていた
血痕と骨の破片が付属している
「はあ?!これの持ち主は?!」
再びらいに焦りの感情が発現した
「...知らない」
美瑠久の危機管理能力は欠如している
らいはそのことを再認識した
「まずい!来てくれ!人の死体に準ずる物を見つけた!」
清楽と公平を急速に呼ぶ
二人はどうやら言い合いの真っただ中、論争の大声にかき消されてらいの声は耳に入らない
二人の下に駆け寄るために足を動かそうとした瞬間、美瑠久が意味深なことを言い出す
「生き物の匂いがする...近づいてくる...」
「なんだ?!それは?」
美瑠久は顔の可愛さ以外にもう一つ、非常に優れた部分がある。それは臭覚。公平の何倍も鼻が利く。
「嗅いだことない...多分攻撃してくる」
美瑠久は匂いのする方向へと指を差した
(蛇っ?!)
らいは草原の地面をうねうねと滑り、こちらに向かってくる影を視界の端で捉えた
その瞬間、蛇だと思っていたものはとてつもない速度で巨大化した
かなりの跳躍力で青色の巨体を浮かせ、上から美瑠久を丸呑みしようと大口をあけて美瑠久の頭に急降下してくる
らいは急いで青銅剣を片手で横に振り、巨蛇の頭を叩いた
「硬ぇ!」
蛇を切断することは叶わなかったが、吹っ飛ばすことには成功
丸田らい、スピードでは圧倒的に公平に劣るもののパワーは公平と比較しても十分強力な方だ
決して戦闘が弱い訳ではない、スピードも平均以上はある
頭から地面にどさっと着地する蛇
この蛇は威嚇も鳴き声もしない
「この蛇...地面から生えてる...?」
蛇の通ってきた道の土が若干盛り返している
美瑠久の疑問通り、なぜか蛇の尾は地面に埋まっている状態だった
「攻撃の匂い...また来る...」
美瑠久の忠告通り蛇の二度目の攻撃が繰り出された
今度はらいの頭部を目掛けて正面から首を伸ばして、噛みついてくる
らいは蛇の開口突撃に合わせ、剣を両手に持ち替え上斜め前方にサシュッと突き出した
剣は蛇の口内から上顎にグサッと突き刺さる
悲鳴一つ上がらない
蛇はその状態のまま下あごを閉じて剣をガシッと口に挟み、首を横に大きく連続でブンブンと振り回す
「うげぇ!」
剣を支えているらいの身体も、蛇の首振りに合わせ左右に大きく揺れる
が、握力と足腰にめいっぱいの力を入れて剣を手から離さずその場に踏み止まった
蛇の強振は止まらない
らいも負けじと大きな魚が掛かった釣り竿のように剣を斜め後ろに引っ張る
らいの引っ張りによって地中に留まっている蛇の残りの身体が少しづつ地面から出てきた
蛇の尾の先端に近づくにつれ、蛇の胴体はどんどん細くなる
蛇の全体が出尽くしそうな所まで来た時、何かの物体が地面に引っ掛かる感触をらいは感じた
「...!この蛇、尻尾の先に何かついてるぞ!」
踏ん張りの筋力維持があと少しでできなくなりそうな中、美瑠久に伝える
美瑠久は蛇の頭が出ている方向とは真逆の側面に向かい、すっかり細くなっている蛇の胴体を両手で掴み、畑から野菜を引き抜くような感覚で大きく地面から引き上げた
その蛇の後端には、なんとシマウマ模様の猿が引っ付いていたのだ
蛇そのものだと思っていた物の正体は猿の尻尾であった
「ウギャキ!」
猿は尻尾を掴まれ、美瑠久の顔と同じ高さで宙に浮いている状態から、身体を捻り両手の爪で美瑠久の顔を切り裂く
「いっっ...!」
怯んだ衝撃で猿を手放し、地面に尻もちをつく美瑠久
美瑠久の両の頬に刻まれた4対ある線状の切り傷から血が流れだす
地面に足がついた猿は頸動脈を切り裂こうと座り込んでいる美瑠久に向かって勢い良く飛び掛かる
「美瑠久っ!!」
美瑠久の生命が脅かされたことによってらいの筋力ギアがもう一段階上がる
飛び掛かった猿がガッ!っと空中で張られる
前に進もうとしても後ろからの力で引っ張られ思うように前進できない
「ウギギ!」
囮の蛇とは違い威嚇の声を出す猿
猿は前進することは一旦諦め、地面を物色し近くに落ちていた握りこぶしくらいの大きさの石を拾い上げる
猿はクルッと後ろに身体を傾け、拾った石をらいの頭部目掛けてかなりの力で投げつける
「なっ!」
らいは慌てて剣から片手を離し飛来してきた石から頭をガードする
片手でしか掴んでない剣はすぐに蛇の力に引っ張られ、猿に前進する余裕を許してしまう
「やべぇ!」
づるづると美瑠久の方向に引きずられるらいの両足
美瑠久が自死を覚悟したとき、らいの身体が背後から力強く二本の腕でホールドされた
「すまねぇ!遅れた!」
二本の腕は公平のものであった
途端に猿がかなりの速度で美瑠久から引き離される
公平の怪力が加わったことにより迎えた綱引き対決の結果であった
猿はまだ勝つことを諦めない
(また石を投げつけるか...いや、今のあいつは腕が4本ある...石を投げても3本になるだけだ...2本腕のあいつに勝てないんだから意味がない!)
そう考えた猿は別の勝利方法を模索した
考えが浮かんだ猿は自分の尻尾である蛇を巨大化時と同等の速度で収縮させた
その収縮によって猿本体はらいの下へと超速で接近する
「らい!体勢が崩れるぞ!」
らいも公平もまだ両腕が塞がっており、猿が前方に引っ張ることを辞めた反動で自分達の引く力で後ろに倒れそうになって怯んでしまい、防御する術がなくなってしまった
猿は目標をらいの頸動脈に設定し、蛇の収縮による移動の最中で引っ掻き攻撃の体勢を整える
二人はまだ体勢を崩したままだ
猿が収縮が完了させ腕を後ろに振りかぶり、らいの首を切り裂こうとしたその時、公平の更に後ろから駆け寄ってきた清楽が猿の死角から頭部に打撃を与えた
清楽の打撃が繰り出された右手は、美瑠久が直前で見つけた鉄製の破損した鎧の頭を守る部分にあたる兜で覆われていた
殴られた頭の箇所からブシュッと血が勢い良く吹き出しその場で倒れる猿
清楽はしま模様猿の死亡を確認し、兜から右手を引き抜く
「美瑠久!らい!怪我はないか?」
美瑠久の下に駆け寄る清楽
「俺は左手に石が当たっただけだ...」
らいが自分の負傷報告をする
「美瑠久は結構やばい」
美瑠久の方を心配してくれと暗に伝える
「顔に計8本の切り傷か...かなり痛いだろうが死にはしない」
清楽が美瑠久の顔を診る
「足は平気か?」
「...うん...」
清楽の肩を借りて立ち上がる美瑠久
「なんだったんだよ...その猿...」
疲れ切った声でらいが言う
「清楽、お前の言った通りだったな。すまない...」
公平が清楽の主張を認め、素直に謝る
「ああ...ひとまず野生動物に気を付けて歩き回ろう」
「宛があるのか?」
「少なくとも人間と文明はある、言語の壁さえどうにかできれば...」