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卒業生答辞 「先生ぼくは」

作者: サメ吉次郎

先生僕は、手のかからない生徒だったでしょう

毎日電話しなくても学校に来るし

授業は至って真面目にうける

成績は赤点こそ取ったけど

ちゃんと補習を受けて合格した

学業も、友達も、家庭環境も、

普通だ。

心配ない。


手のかかる生徒は本当に

出席日数、成績、体調、人間関係、家庭の事情、

全てを気にかけ、手をかけ、目を配り

卒業まで導かねばならない。


そう、きっと

朝起きられないのは

夜安心して寝られる環境に無いのかもしれない

登校できないのは

アルバイトしないと生活が立ち行かないのかもしれない

勉強に身が入らないのは

生きる術として即効性が無いと諦めているからかもしれない

学生である安寧と

甘えられない現実の狭間で

無力感にうずくまっているのかもしれない。


そんな君が卒業する今日

「よく頑張った、卒業おめでとう。」

涙にぬれ感慨深く肩をたたかれるのは当然だろう。

そう、きっと僕より困難を乗り越え、

努力の末にもぎ取った卒業証書。

「ありがとう」「うん」「よかった」「はい」


人波に押し流されながら横眼で追った光景。

ああ、先生。

僕も今日卒業です。

もうこの学校とも、先生ともサヨナラです。

先生はきっと僕の事など思い出すことは無いでしょうね。

さようなら。

お世話になりました。なったかな?いや、なったんだろう少しは。

ああなんだか

暖かな風が ぬるく変わったみたいだ


先生が好きだったわけじゃない。

教科の数学も得意でもないし。

僕にとっても記憶に残らないはずの先生だった。

その涙を見るまでは。

担任でも何でもない、嘱託の数学教師。それだけの存在。

祝われたいわけでも、涙されたいわけでもないけれど


今はそう、数学よりも 

この痛みに似た寂しさのワケを訊きたい



真面目なんてクソなんだな。


真面目なんて何の意味もない。



もっとはっちゃけて、ぶん回して、引っ掻き回して、泥だらけになって、汗まみれになって、恥辱にまみれて、転げまわって、絶叫して、悶絶して、鬱になって、ハイになって、馬鹿笑いするような、青春を過ごせばよかった。


かっこつけて、斜に構え、平穏を手放さず、無難を選び、多勢に回り、言葉を呑み込み、傷つくのを恐れ、面倒を避け、平凡を愛した。



僕は全く普通の生徒。

記憶に残らないその他大勢。


よかったね。先生。

その他がちゃんと大勢居て。

だから心を砕けたでしょう?

だから手間暇かけられたでしょう?

傷ついた君に

助けの必要な君に

ちゃんと差し伸べる手が届いたんだね



僕は卒業証書を握りしめる

君と同じ

僕も今日卒業する


きっとこれからも思い続ける

真面目なんてばからしい

真面目なんてクソなんだ


けれど僕は

きっとこのままクソ真面目に生きていく

このままずっと進んでいく

小さな幸福をきちんと拾い、心に溜めて

これからも真面目に生きていく

そんな大勢が必要だから

そんな大勢でできてるから

そんな大勢が大好きだから

それが誰かの為になるかはわかんないけど

けど、

それでいい。

それが僕が選んだ生きるって事だから。



 卒業おめでとう


 おめでとう先生


 おめでとう君


 おめでとう


 おめでとう


 おめでとう





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