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選ばれたのは悪人でした

作者: ハナハナ

(思ったことはこの感じ)


「セリフ」


『メールとかっすね』


その他わかりにくいところあればごめんなさい、登場する〇〇エモンとかは個人の想像に任せます。


人物紹介してー的なのリクエストあればします。


今わたしは想定外の事態に困惑している。


「俺さ、中学の時からずっと白羽さんの事好きだったんだ。だから付き合って欲しい」


(えっとこの方は何を言ってるんだろう?)


目の前には赤い薔薇とほほ笑むスーツ姿の男。

引き攣る顔を必死に押さえながら周りを見渡せば期待の眼差しに動画を撮る観衆と呼んでカス達。


(おっとつい思った事が出てしまった)


白羽果穂27歳は一呼吸して整理する。

今日は我が母校、八瀬学園の第56何回かの同窓会。

一応小学校から大学まである一貫校で名門とは呼ばれている。そのせいか無駄に母校愛が強い馬鹿達が何度も集まりを開いていて今日、果穂は初めてその同窓会とやらに来た。


「ここじゃ話もしにくいだろうし向こう行こう」


「は?えっちょっ触んないで!きっしょっ!」


あっやっちまった、つい言葉が悪い出ちまった。

呆然とする男とザワザワし出す観衆達。面白くなってきたとばかりにスマホを取り出す奴ら、本当どうかしてる。


使うのは2回目、デザイン性しか重視されていない無駄に小さいバッグからスマホを取り出して私も録画スタートボタンを押す。


「今動画撮ってる人今すぐ消さないと肖像権侵害で訴える。S&H法律事務所から封書が会社に送られできて欲しくなければスマホ、切って下さい」


よし敬語でちゃんと言えた。

一番目につく茶髪の男、ニヤニヤしながら撮っていた沖田に今更ながら名刺を差し出し「弁護士です一応」と言えば横の女がサッとポケットにスマホをしまった。


「えー白羽さん冗談キツ〜」


「分かりました。沖田さんお勤めは三葉商社でしたよね?」


「は?えっ冗談じゃん白羽さんてばー……」


沖田は場の空気を読むのも作るのもうまい。

だけど今はどう考えたっておちゃらけた空気にはできない。

私達が話をしている間に友人の蘭ちゃんが他の人達が消しているかどうかの確認をしていたおかげか私達を取り囲む人は殆どいない。


「白羽……」


(あっ忘れてた)


そうだった主役はコイツだった。

沖田は話が違うじゃねえかとばかりに大勢の前で愛の告白をした馬鹿、じゃない黒木を睨む。


「キモ……」


ボソッと呟いたつもりの声は静かになった会場内に思ったより響いてしまった。

呆然とする黒木と周りのおちゃらけ軍団。

キモいなんて言われた事がないであろう彼は悲壮感漂う顔をしていて果穂はその時初めて黒木は本気だったのかと分かった。


八瀬学園の王子様、と信じられない程ダサい名前で呼ばれていた黒木純也27歳。

現在は200年ちょっと続く会社を継ぐ為大手商社で修業しており、つい先月に再開したばかりだ。

流行りのセンター分けにアーモンド型の二重の目、今もしているサッカーのせいか少し日に焼けているけど引き締まった体はさぞ多くの女性を虜にして来たに違いない。


まぁだからといって果穂の中に存在する気持ちはキモい一択でそこには微塵も好意はない。


「ごめん……」


ただ本気で絶望する様子の彼を見て「可哀想」という新しい感情が果穂の中で生まれた。

可哀想、本当に可哀想だ。幼少期から養子も才能にも恵まれた彼は学校という小さな世界だけでなく会社でも主役のような扱いを受けていたんだろう。


無自覚に傲慢に、周りにチヤホヤされるがまま変わる世界に気付く事もなかった可哀想な人。


(でもさ、ごめんって何?)


彼は何に対して謝っているんだろう。そして周りはどうして黒木君かわいそう……みたいな空気になっているんだろう、さっぱり分からない。


「ごめん黒木君……」


とりあえずオウム返しに謝ってみた。

全くごめんなんて思ってないし触れられたところはさりげなくスカートで拭きながらだが、下を向いておけば周りが勝手に白羽さん可哀想……という空気にならないかなぁと思ってチラッと見る。


「フッ……」


やっぱりそう上手くはいかないらしい。

目があった蘭ちゃんは笑いを堪えきれずに吹き出すし周りの空気は相変わらず黒木くん可哀想一択だ。

仕方ないので泣いたふりをしながら私は、皆さんに聞こえる声で言った。


「ごめん黒木君、無理」


*****


中学1年生の入学式後、小学3年生から専用塾に通い念願の制服を着た私は期待に満ち溢れていた。


(友だち出来るかな)


初頭部からあるこの学校で中学から入るのは全体の半分。すでにグループが出来つつある中、果穂に声はかけられなかったが気にする事なくまっすぐ前を向いていた。


そんな期待に溢れる学生生活の現実を知らせる声は担任の一言だった。


「はいじゃあ実行委員男子は黒木に決定!んじゃ女子は白黒で白羽にするかぁ」


ザワザワした空気の中、呼ばれた白羽果穂は前に出て来て戸惑う。

黒木と呼ばれる彼は初等部からの子なんだろう、私をみた男の子達が黒木君に「ドンマイ!」と声を掛けられる。先生がコラーとやる気のない声で叱り果穂には嘲笑が浴びせられた。


(なんで)


黒木君と呼ばれた彼は私を見て一瞬、後ろに下がったけれど何事もない様に笑顔を崩さず担任に促されるまま握手をした。


(拭いた)


握手した後、彼はわざわざハンカチを取り出して手を拭いた。何かを言ったわけではないけれど彼がした行動全ては白羽果穂を拒絶する行動だった。


「黒木君、先生に持っていくの」


「あぁ僕がやっておくから手伝わなくて良いよ」


「そんな悪いよ」


「良いよ」


黒木君は優しかった。一緒にいるところを見られたくない一心だったんだろうけど面倒な書類集め等全て1人でやってくれた。


担任が白黒コンビと勝手に呼ぶせいで私達は常にセットとして扱われる様になったし、男子からはからかいの対象になって女子達から遠巻きに悪口を言われる様になった。


(早く卒業したい)


気付けばそればかり考える様になっていた。


初等部受験は失敗して中等部には何とか合格した私にとって中学には憧れの全てが詰まっていた。


小学校に友だちと呼べる人はいなかったし落ちてからというもの両親の言う通りずっと専門塾に通っていた。浴びせられる怒声でアトピー気味の肌は常に荒れていたし寝ない様に足や腕にシャーペン芯を刺していたから血がよく出ていた。


今考えれば半ば虐待の様な仕打ちだったけれど姉も弟も初等部に合格していて出来損ないの私には家庭に居場所がなかった。


「白羽って黒木にマジじゃね?」


「うわぁ黒木どんまい!告白されたらどうすんの⁈なっお前今告白してみろって!LINEで!」


「お前がすんならする」 


「絶対に無理!」


凄く酷い虐めを受けたわけじゃない。


ただ自分がいようがいまいが関係なく繰り広げられる会話は果穂を絶望に陥れるのには充分だった。


(死のうかな)


漠然と思うぐらい彼女には居場所がなかった。 

学校でも家でも空気。そんな生活を続けている中で使うアテのないお小遣いだけが貯まっていった。


「ごめんください……」


「はいはーい!ありゃ何年生?ウチ18歳未満はお断りしてんだよねー」


「あっあの18歳です、保険証あります……」


「んーとりあえず座ろっか」


果穂は調べに調べ個人経営の見るからに怪しいタトゥースタジオに姉の保険証を持って入った。


タトゥーを両腕に施した女性が男性化すらわからない性別不詳の人は、女性だった。


震えている見るからに真面目そうな女の子を見て、何となくそのままにはしておけなくなった人は果穂と何気ないおしゃべりを楽しんだ後「デザインをゆっくり決めたいからまたおいで」と優しく言った。


姉の保健証を奪って来た15歳の果穂は暫く悩んだ後頷いた。

親への反抗心だったのか悪いものへの漠然とした憧れか、自傷行為か分からない。果穂はやがて部活と称してほぼ毎日通うようになり両腕にタトゥーを施している女性、ナツキさんの手伝いやおしゃべりをする様になった。

ナツキさんのお父さんは有名な彫り師さんらしくナツキさんは毎日お父さんの元で頑張っている。

果穂は毎日通う代わりに店の掃除や買い物などをして、ナツキさんは御礼にと良い皮膚科とオシャレな美容院、化粧などを教えてくれた。


「白羽最近どうしたんだ?」


「え?」


「先生達の間でも話題になってんだよ。白羽が綺麗になったって、片思いでもしてんのかぁ?」


担任は横に居る黒木君を見ながらニタニタ笑う。

セクハラだし気持ち悪いなぁと思いながら果穂は愛想笑いを浮かべる。


外見が少しずつ変わった果穂に周りの態度も少しずつ変わっていった。

学年で一番人気らしい黒木君を狙う女子は多いらしく白黒コンビで有名になってしまった果穂は「八瀬学園の王子と姫」といつの間にか呼ばれ、鞄は時々水浸しだったり靴がなかったりした。


(凄い!ドラマみたい!)


果穂はたび重なる空気扱いでちょっと変わった思考を持ってしまっていた。

虐められるなんてまるで主人公みたいと嬉々として話す彼女に聞いた人は様々な感想を持った。


彫り師でナツキの父親は本気で心配し、ナツキは爆笑し、来ていた客達は笑いながらも果穂を本気で心配してくれた。


そして学校で靴がないのを発見した黒木は変わった白羽に初めてちゃんと声を掛けた。

そして予想外の答えと彼女の笑った顔に初恋という感情を覚え俺が守ってやらないと、と見当違いな思いを抱いた果穂は知らない。


高校生になった果穂をバイ菌と言う人は居なくなった。ストレートパーマを当て定期的にメンテナンスする髪は艶々で色素の薄い白い肌と細っそりとした体つきに男子達は変わったよなとヒソヒソ言い合う様になった。


「スタバの新作飲みに行ける様な友だちが欲しい?随分具体的だな」


「欲しくないですか?」


「何?友だち居ねえの?」


「嫌味ですか?」


「じゃあ飲みに行く?」


「えっ?」


白羽果穂は親に内緒で外部の国立大を受験し、見事希望の法学部に合格。家を出た。

その後、弁護士資格を取り大手法律事務所で新人弁護士として働いてる。


(マジかよ『2人で話がしたい』って何?)


少なくとも仕事上のパソコンメールに送ってくる内容じゃない。

朝イチで仕事メールを確認していた果穂はため息を吐きながら転送をクリックし……


「あぁ⁈」


「どうした⁈なんだ⁈白羽⁈」


「……共有しちゃいました」


「何⁈何を共有したんだ⁈」


課長が慌てながら共有されて来たメールを見て息を呑む。2人きりで話がしたいと書かれてあるメールは全員に転送されたところで呆れられるのは黒木だけだし別に仕事上で困る様な内容ではない。


ただ彼女が直属の上司である課長だけに転送しようとしたのは別の理由からだ。

大袈裟にはしたくないと言う彼女の願いも虚しく朝イチのミーティングで部長に呼ばれ、お昼休みには真っ黒な車が果穂を迎えに来た。


「久しぶり……」


「乗れや」


いつになく乱暴な言い方に果穂は車に乗り込んだ瞬間、全ての経緯を話し自分に非が無いことを弁護士らしく精一杯アピールする。

1時間程喋り倒しても無言な彼にちょっと涙目になりながら話し続けるが無視。どこを走っているかも分からない車に果穂はもうどうにでもなれと自分から押し倒して長いキスをする。


「ビィヤッ……んっ……」


(腰!ていうか手ぇ冷た!えっブラ待って!)


変な声を出してしまったのに尚も無言なこの男は口の端を上げ運転してるハゲた後頭部に向かって「いつもんとこ戻れ」と言う。

いつの間にか形成逆転し、押し倒された果穂の舌を堪能しながら慣れた手つきで外されたブラを引き抜いて窓を開け、放り投げた。


(ヒィ!私のブラ今ポイ捨てしたよね⁈私のブラ!安くないのに!)


「なぁ果穂、俺お前が仕事好きって言うからさせてあげてるんよ。誰が色気振り撒いてこいつった?」


(あっ死んだ)


大学時代に酔って男子に介抱されているのを発見された時は3日間寝室から出してもらえない監禁耐久コースだった。

開けた窓から海の香りがして来て彼の本気度が伝わって来た果穂は沈められなくてよかったなぁと思う反面でどうしてこうなってしまったのか考える。


(スタバの新作はやっぱナツキさんと飲みにいくべきだった)


相変わらずちょっと見当違いなことを考える果穂は太腿にまで来た手を拒もうとはしなかった。


*****


「あぁそれで回しといてくれ。おっうちの姫さん起きたから切るわ」


ブチッと容赦無く電話を切った男は姫さんを手招きし膝の上に乗せる。


「ダディ!」


「起きましたか姫さん。長いお昼寝やったなぁ」


「ダディの電話も長かった!」


ダディと呼ぶお姫様は文字通り彼のお姫様で今は5歳の可愛い盛り。事情があって籍は入れてないけれど両親の愛情を一身に受け取って周りからも良い子ですよと褒められる。


「ねーダディ私ね、ライ君の誕生日パーティーに招待されたんだ。行ってもいい?」


「らい君?誰やそれ」


「ライ君はライ君!」


「この前ラブレター貰ってたんは駿くんやろ?全くミオは誰かさんに似て浮気症やなぁ」


(はい⁈私ですか⁈アンタだろ!)


旦那様、龍牙の目線に晒された果穂は顔はニコニコしつつも表情には怒りがある。

あの日連れて行かれたのはミオが待つマンションではなくホテルだった。

1週間昼も夜も起きては抱かれを繰り返し、愛してるよなぁと脅迫めいた事を耳に囁かれあんなこともこんなこともしてしまった。


(子どもができてませんように)


危険日に1週間監禁され抱かれ続けた果穂は半ば諦め半分だが願う。

三日三晩監禁された大学時代、生理が来ないなと思って検査をすれば陽性だった夏。

付き合おうと言われてなかった果穂は堕ろされると思って彼が払っていたマンションを出て行き彼が大学に乗り込んでくるという大失態を犯している。


ファミレスでドラ〇〇ンの一番高いハンバーグをもぐもぐたべるミオは身内贔屓かもしれないが本当に可愛く産んだことに後悔はしていない。


あれほどお昼寝したのに夜ご飯ではしゃいだからかあっという間に寝静まったミオを「後は自分が見ときますから」と言う刺青入りの人に促され龍牙と一緒にリビングに降りる。


「んっ……ッ……ちょっと待って。明日までの仕事あるの」


「また仕事か」


「お互い様でしょ」


「変わらんなぁ果穂」


一回だけやと言って硬いソレを押し付けてくる彼に勝てた試しがない。結局キスされてその気になってしまっている果穂の身体は龍牙にしっかり教育されてしまっている、1回だけね?約束だよ?言いながら結局目を開ければ朝だった。


*****


「……黒木さん」


「ごめん上司の名前使った」


そうでもしないと会えないからと言いながら悲壮感にくれる男に呆れを通り越して眩暈がする。

いや万が一の仕事の話かもしれないと思い直して一応聞いてみるが「話がしたかったんだ」と熱い眼差しを受け気持ち悪い以外の感情が出てこない。


「すみません私子どもいます」


「え?でも名字が」


「結婚はしていません。でも認知は受けていて」


「白羽!」


「ちょっ触んないで!ていうか人の話は最後まで聞けよカス!ママに習わなかったの⁈ねぇ本気できもいんだけど何その眼差し俺が救ってやる的な無駄にキショ……」


あっやらかしたと思ったが全て言い切るには相手が絶句している今しかない。


「あのさ何夢見てるかしんないけど貴方はもう八瀬学園の王子様じゃないオッサン!アラサー!そもそも私は貴方を王子だと思ったことはないし薔薇とか公開告白とか本気で痛い。後、会社同士で付き合いがあったからランチも行っただけなのに何?あの時助けれなくてごめんなとか綺麗になったなとか上司がどんな目であなたの事見てたか分かる?もっのすごい無関心、つかぇねぇなコイツってみんなから思われてんの分からない?ねぇ聞いてる?王子様?」


まだまだ言い足りないけど口をパクパクしている王子様を見て流石に可哀想だなと思い直した。


(そうだこの人は可哀想な子なんだ)


生まれついてから主役として歩んできた人生。人好きのする容姿に恵まれた体格にそこそこ上位を取れる頭脳、皆が憧れる人生をそのまま歩いてきた男。


――僕が白羽なら自殺する。だって良い未来が見えないじゃん?


「黒木君ありがとう」


「え?」


「今後接触してきた場合は警察に相談して接近禁止令出して貰うから宜しくお願いします」


ペコっと頭を下げてミーティングルームを出る。言いたい事を言えたからか頭はスッキリしていて休んでいた分の仕事も捗りそうだ。


(今週末はミオが行きたがっていたキッザ〇アにでも行こうかな)


龍牙にメールして溜まりに溜まった書類を片付ける為気合を入れ直した。


*****


「やっぱいいなコレ。俺のモンって感じする」


「はは……(若気の至りって凄い……)」


龍牙は果穂の秘部に顔を埋めながら愛おしそうに撫でる。龍牙の希望でツルツルのソコには“龍牙”と小さく彫られてあり、龍牙の太ももには“果穂”の文字がある。


――お前が欲しい果穂。死にたいってんなら俺と一緒に地獄に堕ちてくれねぇ?


タトゥースタジオによく出入りする常連客はその筋の人も多かった。常連として出入りする人は年配の方が多く、いろんな若い人を連れてきて龍牙がそのうちの1人だった。


――八瀬に通ってんのか、エリートなんだな。


――脱毛ってそんなかかんの?おろしてくるわ。


――可愛い、お前は可愛いよ果穂。


「果穂……」


「ストップ。いや本当に待って」


不満そうに顔を上げる龍牙は果穂の言葉を聞いて目を見開いた後、笑いかける。


「次もお前似だと良いな」


あっ仕事は育休使えよ、話通しておくから。待てやっぱ先に連絡しとこうと夜中1時を過ぎてると言うのに電話をかける常識がなくて高卒の前科持ち。


18歳のお祝いに自分の名前のタトゥー彫らせるどうしようもない人だし浮気すんなら死ねとか言っちゃうヤバい奴だけどミオを産んだ後、ありがとうと泣きじゃくる龍牙を見て果穂は地獄に堕ちてもいいと思った。


(簡単には堕ちてやらないけど)


不幸を煮詰めたような環境で育った母は強い。

休学していた大学に復学し彼が捕まった時に何とかなるよう死ぬ気で勉強し弁護士資格を取った。


龍牙も死ぬ気で登りつめたのか、いつの間にかオンボロアパートに2人暮らしだったのはセキュリティ付きの高級マンションに3人暮らし。


想像以上に娘を可愛がっていて私でも目を見開くような値段のするインターナショナルスクールに「俺等みたいな思いさせたくない」とアッサリ入れた。


「良い?王子様と結婚しようなんて思わない事。この人となら地獄に堕ちてもいいと思えるような人と結婚しなさい」


「あぁそう黒木って名前。適当にぱぱっと関係もっちまえば後はこっちのもんだろ、いいとこの坊ちゃんだから搾れるだけ搾り取れ」


「パパそういうのはアッチでやってくれないかな」


「おっおう……」


親指を廊下に向けて笑顔で言うと龍牙は手に持った紙と一緒に大人しく出ていき、パパ弱ーい!と大声でミオをそんな事ないっすよ!と必死に若い男がフォローする。そんな様子を微笑ましく見ながら果穂はパソコンを開く。


(黒木君に誘われて行った同窓会はトラブルを除けばそこそこの収穫だった)


名門と呼ばれる学園に揃うのは社会的地位がそこそこある人達が多くて彼等は外部からの警戒心は強いものの仲間意識はとても強く、弁護士の資格を持っている美人な果穂はたくさんの名刺と個人情報を頼まずとも渡された。


(どうせ地獄に堕ちるのに遠慮なんてしても仕方ないしね)


龍牙に出会った時、果穂は18歳。

受験のストレス学校や家族での孤独を散々言ってしまい無駄に悪い方向に頭が良い龍牙は「そろそろ良いよな?」と果穂に聞いた。

果穂は聖人君主でもなければ女神でもない。龍牙の問いかけに察した果穂が待ってと止めたのは誰かを助けるわけではなく龍牙がヘマしてムショに入るのが嫌なだけ。


「はーい、じゃあ行くよー!」


「あっぷろーど!」


半年後、同窓会での公開告白からのキモい発言の動画は誰かの手によってアップロードされ1000万回再生となった。後ろ姿で顔も巧妙に隠されていた果穂にはほとんど被害はなかったが正面を向いた高画質の黒木はバッチリ写っており会社に問い合わせが殺到し表舞台には立てなくなった。


鼻歌混じりにパソコンをカタカタ仕事をする果穂を見ながら龍牙は若い衆に囁く。


「女だけは敵に回すんじゃねぇぞ」


「そうっすね……」


「あっ龍牙ちょっと来てくれない?臨時収入が入ったからミオに服買ってあげたいんだよね。どっちが可愛いかな?赤ちゃんとお揃いがいいなぁ」


「3人お揃いが良いんじゃねえか?俺が買うよ」


そう?と後ろを向いた果穂に顔に龍牙が覆いかぶさり若い衆は慌ててミオの子供部屋に避難する。


「果穂、俺地獄に堕ちるかも」


「うん?」


「……俺で良かった?」


「龍牙が良かったの」


果穂は大きくなったお腹を撫でながらねーと笑いかけ龍牙にキスを返す。半年後、龍牙は腕に3人目の名前を彫りにタトゥースタジオをミオを連れて訪れた。


着いてきたミオを見て固まった男の子はナツキさんの甥っ子の克樹。ミオの為に女の子の憧れである王子様になるか憧れの彫り師になるか悩む克樹と、彫り師のおじいちゃんが初恋のミオとのドタバタ恋愛劇が始まるのはまた別の日に。































ちょろっとしか出てこないスキンヘッド&タトゥーのナツキさんですが実は組の偉ーい人のイロ(恋人)だったりします。


龍牙が出世した理由は本人の才覚もありますが一番はナツキさんが可愛がる果穂だからです。

つまり果穂のおかげ!やったね!


蘭ちゃんは大学で出来た友だちです。面白そうなんで着いてきちゃった!てへ!的な頭は緩いがボクシング部所属のカッコいい子です。

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[一言] うん、『結婚するなら一緒に地獄に堕ちても良い人』至言です、なんでピカレスクは痛いトコに沁みるかな、今年最高の話ですよ
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