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はずれ魔法師の冒険譚 ~1~  作者: 冷刀みかん
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少年は「はずれ」の天命を受諾す

 ある晴れた夏の日、15歳の誕生日を迎えたリュートは河原の土手で微睡んでいた。

 照りつける日差しに芝生の少しひんやりとした感覚が癖になるようだった。

「やっと見つけた、迎えに行ってみたら出掛けてるっていうし、どこ行ったのかと思ったわよ。」

 顔を上げてみると、幼馴染であるアンジェが顔を覗き込んでいた。

 降ろせば腰まであるだろう、長く淡い桃色の髪をサイドに結ったサイドテールが風に流れている。

 新緑を思わせる瞳とすれ違う者がみな目で追うだろう豊かな膨らみ、幼馴染の贔屓目抜きにしても美少女と呼べるだろう。

「今起きようとしてたところ、それにまだ約束の時間には早いじゃないか」

 そういうとリュートは体を起こし、体に付いた芝を叩きながら立ち上がった。

 アンジェの方を見ると少し興奮した様子で、

「だって、今日は待ちに待った天命の授与日よ!私、昨日は興奮して眠れなかったんだから!!」

 聖都アースラでは成人となる15歳の年、7の月になると至高神より天命を授かることとなっている。

 天命とは生涯の職業のことであり、鑑定師や鍛冶師のような非戦闘職から騎士や弓師などの戦闘を生業とする職業等様々である。

 この日に向けてアンジェと共に家や学院で剣に魔法と鍛錬を積んで来ていたので、リュートとしても楽しみで無かったわけではない。

「ほら、早く行くわよ。行かないなら一人で行っちゃうからね!」

 そう言って歩き出そうとするアンジェを追ってリュートも歩き出した。

 神殿へと向かう道には同年に15歳を迎える少年少女が、どんな天命を授かりたいかを話しながら歩を進めていた。

「アンジェ!リュート!おっはよう!!」

 と、元気な声が聴こえてきた。

「あ、ビオラおはよう!」「おはようビオラ、朝から元気いいな」

「もっちろん!」

 声をかけてきたのは学院の友人であるビオラだった。

 背は低いが肩くらいで切りそろえられた青みがかった黒髪と元気な笑顔が特徴の少女だ、

「リュートは相変わらず、テンション低目だね?」

「そんなことないんだけどな・・・」

「そうそう、こう見えて結構気持ち高めだよね、普段なら私が迎えに行くまで家で寝てたりするのに、今日に限っては待ち合わせ場所まで行こうとはしてたんだもの。」

「へー、そうなんだ・・・さっすが幼馴染だね。」

 アンジェに内心を見透かされ、ビオラにはニヤニヤと顔を見られたリュートはばつが悪そうに歩きだした、女性二人を相手に口では勝てないと思ったのだろう。

 神殿への入り口はもうすぐだった・・・


 太陽が一番高く上る時間になり、神殿にはおよそ100名ほどが集まっていた。

「これより天命受諾の儀を開始する、一同整列して待つように!」

 そう大きな声を響かせるのは、大神官であるパンデイロだった。

 【天命受諾の儀】とは神殿に設置された人の頭ほどの大きさの水晶に手をかざし、至高神と繋がることでその潜在能力から天命を授かることのできる儀式である。

 儀式が開始され、ありふれた天命で落胆したり、希少なものであるが故に神殿内をざわつかせるものがいたりと一喜一憂していた。

「「ざわ・・・」」

 一際大きなどよめきが上がった、その先には学院で同じクラスになるディオンがいた。

 貴族の家の一人息子であり、取り巻きを従え何かとリュートに突っかかってくる厄介な男である。

「し、神聖騎士だと!!」「なんと素晴らしい、今まで一握りの者にしか授けられたことのない貴重な天命ではないか!」

 【神聖騎士】とは騎士系と呼ばれる中でも、数名しか確認されていない天命である。

 特殊な技能スキルと癒しの力、そして光の魔法を得意としている。

「やぁ、リュート聞いたかい?僕の天命を・・・まぁ当然といえば当然かな、君はどうだい?」

「あぁ聞こえてたよ、良かったなこれでまたチヤホヤしてもらえるぞ」

「ふ、そんな嫉妬しなくてもいいじゃないか。ねぇアンジェさん、やはり貴方にふさわしいのはこの僕だと思いませんか?」

「うっさい、ディオン私は貴方に興味はないの。それに私もリュートもこれから天命受諾なんだから集中させて。」

 横で聞いていたビオラも呆れるように、

「ディオンもアンジェに相手にされてないのによく話かけるね・・・」

 そんな話をしながらもリュート達の順番が回ってきた、リュート/アンジェ/ビオラがそれぞれ水晶に手をかざし、祈りを捧げる。

 『ビオラ、貴方の天命は影弓師です。』

 『アンジェ、貴方の天命は聖女です。』

 神殿内が愕きに包まれた、特にアンジェの天命が下りた際はディオンの時よりも大きなどよめきが起きていた。

 影弓師は弓師系の中では中級に属する天命だが、隠密性能が高く偵察等に重宝されている。

 アンジェの聖女と呼ばれる天命は・・・至高神の神殿を率いるべきものに与えられるとされている。

 そしてリュートの天命は・・・

 『リュート、貴方の天命は魔法師です。』

「「「どっ!!」」」

 神殿内が今までとは違う意味が含まれた笑いに包まれた。

 リュートの授かった【魔法師】とは、騎士系や弓師系などに代表される「○○系」と呼ばれる系譜の基本職である。

 今では様々な派生の天命が授けられているため、基本職を授かるのは極めて稀である。

「なんだリュート・・・全く笑わせてくれる、【魔法師】だって?正に君にぴったりのはずれ天命じゃないか」

「ディオン様、そんなことを言っては可哀想ですよ。きっと至高神が彼にはこれがふさわしいとお与えになったのですから」

 取り巻きと笑いあいながらディオンが突っかかってきた。この男は他にすることが無いのだろうか・・

「別に俺がこれからやろうとしていることに変わりはないから、どんな天命になろうと関係無い。」

「もういいでしょ、リュートさっさと帰ろう?」

「そうだな・・・ビオラも途中まで行くか?」

「うん、そうするよ」

 そう言って、神殿を後にしようとするリュート達だったが・・・

「お、お待ちください!アンジェ殿は残っていただきたく・・・」

「お断りよ、神殿に仕える身でありながら、人の天命で笑うような人たちと話すことはありません。」

 そう言って、アンジェはリュートの手を引き神殿を後にした。


「はははは!そうかリュートは【魔法師】か!」

 その夜、リュートの家でアンジェ一家と夕食を共にした際に父であるウードはそう言って笑った。

「もう!小父さままで笑わなくてもいいでしょ!」

「ふふ、リュートが冒険者志望なのはアンジェちゃんも知っているでしょう?だから天命は関係ないのよ・・・ちょっと大変になるかもだけどね?」

 リュートの母、ローネはアンジェを落ち着かせるようにそう言った。

「それに、うちの子よりもアンジェちゃんの方が大変じゃないかしら?【聖女】なんて周りの眼も変わってしまうわよ」

「それこそ関係ありません、どんな天命が下ろうと私は私です。過去の【聖女】がどうだったのかは知りませんが、私は神殿に仕える気などないです。」

「それで・・リュート君はどうするんだい。明日から早速、家を出て冒険者として旅にでも出るのかい?」

 アンジェの父で筋骨隆々な【重騎士】であるカウベルが問いかける、

「いえ、今まで鍛えてきたとはいえ魔法知識についてはまだ不足しているので、残りの在学期間で一通り学び直します。」

 天命受諾後、殆どの者が学院に籍を置きながらも通うことなくいくつかの道に分かれて進むことになる、1つは騎士団や神殿等国の機関に入る、もう一つは一般の機関に携わる、そして最後がギルドに登録を行い冒険者となること。

 冒険者とはギルドに集まる依頼を受け、その成功報酬から国/ギルド/自身に分配を行うことで収入とする仕事である。

「そうか、まぁ残りの在学期間も3カ月程度だからな・・・焦らずに準備を行うのはいいことだな。」

 見た目とは裏腹に思慮深い言葉をくれる、この幼馴染の父親のことをリュートは尊敬していた。

 天命の事、今後の事、色々な話をして夜は更けて行った・・・


 そして3か月後・・・聖都アースラ、冒険者ギルドにリュートの姿はあった。

「はい、登録完了致しました。これから冒険者として頑張ってください♪」

 いくつかの説明が有った後、身分証となり・・・そして身に着けた技能スキルが表示される板状の認識票を渡された。

 認識票は10段階となっており、登録したての色は白・・・依頼達成やギルド、国への貢献度で灰色→黒→黄→緑と続き、その最高位は金となっている。

 自宅に戻り、明日の旅立ちに向け準備を行うリュートの元へアンジェがやってきた。

「ついにリュートも旅に出るのね・・・儀式の日から1ヶ月でビオラが、そして今度はリュートが・・・なんだか私だけ置いて行かれた気分だわ。」

「アンジェは結局神殿に世話になるんだっけか?」

「私の天命の力の使い方を知るのに一番近い方法を取っただけ!【聖女】として神殿に身を捧げるなんてまっぴらよ・・・だから私が冒険者としてリュートに追いつくまで待っててよね。」

 少し顔を赤くしながらアンジェはそう言った。

「了解、まぁ神殿には父さんもいるし・・・そこまで心配はしてないよ」

「それを言いに来ただけ・・・それじゃぁね!偶には帰って来てよね。」

 恥ずかしかったのか、それだけ言ってアンジェは飛び出して行った。


 その夜、家族で夕食を取っていた時だった。

「明日、旅立つリュートにプレゼントだ、私からはこれを」

 【聖騎士】であるウードからは先端に新緑のような深い緑色をした宝石が付いた杖を

「そして私からはこれを渡すわね・・」

 【服飾師】であるローネからは黒と蒼を基調とした魔法衣とローブを手渡された。

「外の世界に出てからは私たちが助けることもできなくなってくる、これが少しでも助けになることを 祈っているよ。」

「体に気を付けて、あまり危ないことはしないようにね?」

「父さんも母さんもありがとう、自分にできることを精一杯やって行こうと思うよ。」

 リュートは二人の気遣いに感謝し、明日の準備を終えた。


 出発の朝、天気は天命を受諾した日のように快晴だった。

 聖都の正門前にはアンジェ、そしてリュート/アンジェの両親が揃っていた。

「まずはどうするつもりなんだ?」

「聖都から一番近い町を拠点にして、まずは色々な依頼を受けてみようと思う。」

「そうだな、先は長いんだ・・・まずは焦らずに1歩ずつ行くといい。」

 と、ウード。

「貴方の家はここにあるのだから、疲れたらいつでも帰ってきなさい。」

 と、ローネ。

「次に会う時、リュートがどれだけ成長しアンジェに相応しい男になっているか楽しみにしてるぞ。」

 と、カウベル。

「父さまの言うことは無視していいから・・・それよりもリュート、私もすぐに追いつくから先に行って待ってなさい!びっくりさせてやるんだから。」

「あぁ、俺もお前に負けないくらい鍛えて待ってるぞ。」

 最後にアンジェと握手を交わし、聖都を後にした。

 今、「はずれ」と言われた天命を手にしたリュートの冒険が始める。

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