蓮の花姫
翼くんは、お父さんお母さん、お兄ちゃんと、ハイキングに行き迷子になりました。そこで蓮の花姫と出会ったことで、どんな思いを抱き、どんな夢が広がるのでしょうか。
翼くんはお父さんお母さん、お兄ちゃんとハイキングに来ています。
翼くんは虫が大好きです、カブトムシやクワガタを探していてドンドン森の奥に入って行って、いつの間にか三人とはぐれてしまいいました。「あれ~みんなどこ?」泣きたい気持ちをぐっとこらえて「お父さ~ん、お母さ~ん、お兄ちゃ~ん」と呼びます。
でも聞こえるのはヒューっと吹き抜ける風の音や、鳥のチュンチュンという鳴き声やキツツキがコツコツと木をつつく音ばかりです。
歩き疲れた翼くんの目の前に湖が見えてきました「あ~キレイ、ちょっと一休みしよう」と木の根っこに座りました。今僕は迷子になっているんだよねと思ったものの、なぜか湖のキラキラに引き込まれるように穏やかな気持ちになってきました。(お母さんきっと僕を見つけてくれるよね)と思いながら温かいお母さんの胸を思い浮かべていました。
すぅ~っと涙が一筋流れ落ちました。そのままなんとなく見ていた湖の真ん中がキラキラと金色に光輝いてきました。えっえ~と息をのみます。ふゎ~ッと緑の葉っぱにピンクの花が浮き上がってきて、花の真ん中には花飾りのような王冠をつけた女の子がいました。とっても可愛いけど、ちょっと淋しそうな顔をしているなと翼くんは思いました。
でも女の子って言ったけど僕よりちょっとお姉さんのような気もする、女の人の歳って分からないよねって翼くん大人びたことを考えています。
「こんにちは、私は蓮の花の国の王女です。あなたは誰ですか?」
「あっはい、僕は天羽翼です」
「あまはつばさくん? ステキなお名前ね」
「ありがとう、とっても気に入っているよ」「王女さま、ピンクのドレスがとってもお似合いです」少し大人のまねをして言ってみました。
「ありがとう」王女さまはちょっと恥ずかしそうに「よかったら(れんちゃん)って呼んでくれない?」
「れんちゃんね、分かったよ。では、れんちゃんに聞きたいけど今日はどうして僕のところへ出て来てくれたの? 蓮の花の国ってどこにあるの」
「質問に答える前に、そこまで上がっていいかな? 翼くんの近くに行きたいのだけど」
「どうぞどうぞ」と答えると、れんちゃんはスゥ~ッとまるで空を泳ぐように翼くんの隣まで来ました。
もう一つの木の根っこの上を手の平でササっと拭いて「こちらへどうぞ」とご案内です。
「ありがとう、意外と座り心地はいいのね」と可愛いお顔で翼くんを見つめます。
翼くん照れてしまいます。
「まずね、蓮の花の国はこの湖の下にあるのね。お城があってお父様お母さま、お姉さまがいるの。とってもきれいなお城で街の人たちもとっても幸せに暮らしているわ」
「へぇ~そうなんだ、この下にそんな国があるのか~なんてステキなことだろう」
「他にも(睡蓮の国)という国があって、そこの王子様とお付き合いをしていたの。でもその王子様はいつの間にか(牡丹の国)の王女様が好きになったって言うから私は泣く泣く諦めたの。でもずっとふさぎ込んでいたら、心配したお父様がいい景色を見ておいでってこちらに来られるようにしてくれたの。きっと良い子にも出会えるからって。翼くんのことなのね。お話し相手になってくれてありがとう」
「そうだったんだ、僕はまだ子供だからたいした力になれないけど森の中は案内できるよ。一緒に歩こうね」
翼くんは自分が迷子になっていることはちょっと置いといて、れんちゃんを元気にしたい気持ちでいっぱいになりました。
「水の中も気持ちいいけど森の中も素敵だね、緑が心に沁みる」と言いながられんちゃんは歩きます。翼君は「ほらドングリだよ。椎の実だよ」なんてれんちゃんに教えてあげます。「あっカブトムシ、大っきい、こっちの木にはクワガタもいる」ってちょっとれんちゃんのことを忘れて興奮しています。
そんな翼くんを見てれんちゃんニコニコです。「はぁ~もう前のことは忘れて次のステップへ進めそうな気がする。いつまでも落ち込んでいたらもったいないね」
「そうだよ、よかった」
「じゃあ、私帰るわ、お父様とお母さまが心配していると思うから。ありがとう翼くん、また来るね」と言ったかと思うとれんちゃんはスゥ~ッと飛びあがり泳ぐように湖の方へ帰っていきました。
遠くから「翼~」というお兄ちゃんの声が聞こえてきました。「お兄ちゃ~ん、お父さ~んお母さ~ん」翼くんは一気に涙があふれてきました。
蓮の花姫は自分の国へ帰ったのですが、その後翼くんはどんな大人になっていくのか。
子供のころの出会いと感じることは、きっとその後の人生に作用するのでしょう。