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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歯医者さんでの涙の攻防戦(患者失格の元ネタ)

作者: 雨 杜和


 あの日、数日前から、親知らずの歯が痛かったんです。

 で、私、その痛みを無視したわけで……


 最初はね。気のせいって、たぶん、心の病? てね。


 それで乗り越えようかと、乗り越えられない山はないって強い決意で持って念じた。頑張った。


 歯の痛みって、ほら、疲労で出るってことあるじゃない。歯茎のなかにうみがたまるとかね、体って持ち主に呼応するってか、しすぎだろってとこあるから。


 根性で歯医者から遠ざかろうとして、がんばった。


 がんばった自分をほめてあげようって誰かが言ったから、

 だから、褒めてみた。死ぬほど褒めた。


 もう声を限りに褒めちぎった。

 しかし、夜中に激痛でとび起き、ダメだという敗北宣言したわけであって


 で、朝一番で歯医者へ行くことになったんであります。


 子どもの頃からお世話になっていた老医師、一緒に年齢を重ねてきた。いや、重ねたくはなかったけど。


「う〜〜ん、こんな状態まで、ずいぶんと放置しましたね」

「ええ、まあ、虫歯じゃないと思って」


 曖昧な言葉で、抵抗はしてみた。


「虫歯です!抜くしかないですね」


 やけにきっぱりと宣言するんです、歯医者のおじいちゃん。

 もうちょっとね、言い方って、あるんじゃないですか。

 その猶予を残した言い方って。


「いえ、まだ、大丈夫そうな」

「この親知らず、斜めに生えてますしね。何度も治療して、上の部分、ほとんどありません。そいえば、前回も前々回も抜きましょうって言いませんでしたか?」

「いえ。聞いておりません、初めてです(ウソ)」

「そうでしたかな」


 おじいちゃん歯医者さん、白髪の紳士です。


 酷いことはしないって信じてたんです。でも私、人を見る目ないから。

 最近もそれで失敗しているから。


「では、次回に」


 覚悟してきてくださいとは言わんかった。

 しかし、心の声は聞こえた。


 その運命の日。

 行きましたよ、歯医者。そりゃ、もう絶望的な気分で、


 治療イスに座ったんであって、心の準備がね、まだだった。


「痛かったら左手を上げてくださいね」


 て、麻酔を右奥の歯茎にブスっと、いきなり狙い違わず刺したんです。


 その瞬間、左手!


 おじいちゃん、ギブギブ、左手あげてっから。


 無視されたぁ〜〜〜!


「じゃあ、しばらく待ってください」


 この老紳士、声だけは優しい、けど、容赦ねえって。

 左手あげたろうが!


 それに、治療イスの横にあるトレイには、信じらない器具が置いてある。


 目を疑いました。


 小型のバールみたいなもんや、

 頑丈そうで太い先端を持ったペンチとか

 それ、拷問道具でみたことある。


 アニメ「進撃の巨人」でリバイさまとハンジさまが拷問道具で使ったやつ。まさか実話とは思わなかった。


 ないないない〜〜〜!


 そういう器具は文明化で人につかっちゃアカンやつであって、

 進撃の巨人の世界感でしか語れないものだから。

 心臓捧げる兵士の世界で頼む、間違っても三次元にくんな!


 だから、これから行う処置に関係はないって、


 少し麻酔でジンジンしはじめた頬を感じながら考えた。


 ここに及んで、人の運命について深く考察したんであります。


 マキャベリいわく


『運命は我々の行動の半分を支配し、残りの半分を我々自身にゆだねている』


 ボブマーレーいわく


『誰もが自分の運命を決定する権利を持っている』


     ・


     ・


     ・




 アメたぬきいわく


『歯医者の治療イスでは、運命は決まっている』


「どうですか、ジンジンしてきましたか?」って、また歯医者、麻酔注射を持ったんであります。


 え? まだ打つんかい?


 で、打たれたんですが、今度はさらに深くぶす〜〜と。


 い、痛い!


 奥、痛い!


 しかし、ここで左手はまずいって思ったわけで、あんまり左手使いすぎっと、後で困るかもって、コメ粒大の理性が、これから、なにが待ち構えているかわからんからって、とりあえず我慢した。


 これは、おじいちゃん歯医者に対しての前もってのプレゼンであって

 簡単には左手あげないぞって意思表示であって、


 あげたら本気のギブだからって、おじいちゃんに、しっかり頭に叩き込んでもらうためにも、ここは我慢だって、健気に涙目で訴えてみた。


 で、おじいちゃん歯医者。


 ブスっとやってから、数分で、また来よった。


「じゃあ、痛かったら左手上げてくださいね」と、おじいちゃん

「痛いときは左手あげたら、大丈夫ですよね」と、私


 先ほどの教訓から、私、確認を入れた。


 指差し確認って重要だから。JRで車掌さんがプラットホームでしてるから。おじいちゃん、ちょっと笑顔を作った。


「あの」

「なんでしょうか」と、おじいちゃん歯医者。

「一応、私の左手、こっちですから」


 そこも確認しといた。


 おじいちゃん歯医者との相互理解、しといた。


 そして、はじまった〜〜


 痛い、え? 


 痛いよ


 麻酔効いてる?



 しかし、それはほんの序盤であって。

 おじいちゃん、ペンチ、持ったー!!


 まさか、それ使う?


 使ったぁ〜〜〜!!!


 ギシギシって、奥歯、鳴ってる、鳴ってるって。


 左手、左手!


 上げてる。おもいっきり上げてる!


 見えんのかい!!


 ギブギブギブ、ギブアップ!!


 で、私


「う〜〜」って、声にならん声で、涙目で必死に訴えた。



 左手って。

 左手、見ろって!


 おい! 目、ついとんのかって!!


 でもって、おじいちゃん歯医者。


 口ん中しか、見てねえ!


 おい! 左手の意味、気休めか!!!


 おい! 歯医者、心があったら、口ん中だけ見とらんで左手みろって、泣きながら訴えた。


「もうちょこっとですから、いや、骨が硬い。神経がじょうぶです」


 だだだ、だ、誰が、そんな感想欲しいって言ったぁ!


 激痛、さらにまして、悶絶!


 こんな痛みに耐えるなんて、そんな人間じゃないって、全身で訴えた。

 左手だけじゃなく、右手で意思表示もしてみた。

 両足上げた! バタバタしてみた。


 歯医者、まったく動じず。


 もう、勝負だった。


 いかなる激痛かって、私!


 いや、まだ耐えられる、あんたなら耐えられるって、おじいちゃん医師!



 さまざまな攻防の結果、


「ほら、やっと抜けました。こんなに立派な神経でした」


 そんなとこで勝利宣言すな。


「ご覧になりますか」

「ヒイヒイ、ハアハア、ヒイヒイ・・・」


 神経ってやつ、5ミリくらいの真っ赤なボールみたいな、突起もあって、ちょっとピクピクしてた・・・、ように見えた。


 まるで、エイリアンの卵だ、なんてな感想、欲しいか?


 ジジイ!!


 おまえ!! 嫌がらせか!


 大量出血で、もうフラフラでも悪態はつくぞ、心んなかだけどな。


 で、いつものようにグーグル病院のgoogle先生に検索しましたよ。



 親知らずを抜くといいことがあるかって。

 小顔になるんだそうで、


 でもって、鏡の前の私。


 頬が腫れて、小顔どころか大顔になってる!


 顔、デカくなってる!!


・・・・・・・・・・・・

『患者失格「太宰治さま、ご免なさい」』の元ネタであります。

 身体を張って、書きました!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054914808856/episodes/1177354054914808919



現在、コメディ作品、


「超天然っ子が『婚活』詐欺に出会ったけど、嫁に出したい我が家の事情。」

https://ncode.syosetu.com/n2060gz/

を連載中です。


お読みくださると、とても嬉しいです。

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