骨者とスケルトンズ
前回までのあらすじ:骨の体に四苦八苦!(°Д°)クワッ!!
俺は【剣神カイン】を初めとする十体のスケルトンを、体中の骨という骨を砕きながらも何とか倒す事に成功した。
正に、死闘だった。
粉骨砕身を物理的に表現したとも言えるだろう。
……って言うか、スケルトンズとの戦闘で知識と記憶、それに技能を得られたから良いが、それが得られなければ、正に骨折り損のくたびれもうけというやつだったな。……骨だけに。
女神さんから得た力に万歳!
スカルジョークはさておき、俺以外の奴がこの場所まで辿り着いても意味ねぇよな。
スケルトンズを倒せたとしても俺みたいに力は得られんだろうし、宝箱の類も手に入らねぇんだから、命を懸けてまでこのダンジョンを攻略する意味がねぇ。
……ま、人は人だし、俺にはヒルコを封印から解放してその力を得るって目的があるから頑張れたって所だな。
そうそう、カインを含むスケルトンズの記憶を読み解いて分かったんだが、このダンジョンは【奈落】と言って、何と──俺が探しているヒルコが封印されてるらしい。
スケルトンズの記憶の中であの伊邪那岐がヒルコって言ってたんだから間違いないだろう。
……カイン達の記憶が嘘じゃなけりゃ、だけどな。
しかし、女神さんからヒルコの封印解放を頼まれたが、まさかそのヒルコが封印された場所に俺が居るとは思わなかったぜ。
探す手間が省けたってもんだな。
…………。
……つか、ヒルコが封印されてる場所に俺を送ったのか、あのクソジジイは!?
ハッキリ言って、バカ過ぎるだろ、アイツ!
それともアレか?
これはアイツの巧妙な罠なのか?
実はヒルコに見せ掛けた偽物で、それを見付けた俺に更なる絶望を与えるっていう罠なのか!?
いや待て……!
もしかして、今までが不幸続きだったからこその幸運が俺に訪れてるって事かもしれねぇ。
いやいや、気を抜くなよ、俺!
先ず、この激痛からして既に不幸だろ!?
それに骨だし!
堅実に! コツコツと! 一歩ずつ進む事が成功の秘訣だってラノベでも書いてあっただろ!?
いかん!
ちょっとした幸運に惑わされるな、俺!
明日はきっと輝いてるさ!!
…………。
……ゴホン。俺が幸か不幸かはともあれ、カイン以外のスケルトンから得た力を以下にまとめておく。
その間に俺は少し心を落ち着かせるとしよう。
あ、倒した順番じゃないから間違えるなよ?
試験に出るからな、ここ!
重要だぞ!!
☆☆☆
・【勇者アドレア】からは剣技や体術、それに魔法などを織り交ぜた勇者流総合戦闘術を得る事が出来た。
これは中々の物だと俺は素人ながらも理解したぜ。
特筆すべきは、全ての技能が高レベルでまとまってるって所だな。
繰り出す攻撃の全てがフェイントにもなるし、必殺の攻撃にもなるって来たもんだ。
それらを完全に使いこなしていたんだから、アドレアの壮年期は正に敵無しだったんだろうな。
……この【奈落】以外では、だが。
アドレアスケルトンとの戦闘は、順番で言えばカインの次だから二番目だな。
そうだ、俺が右腕の骨を犠牲(折れただけ)にしてまで一撃で葬った奴だ。
辛勝だったと付け加えておくぜ。
・【岩壁のガンデス】から得たのは、その二つ名が示す通りの盾術などの防御術だ。
鉄壁って言葉はコイツの技術の為にあるような言葉だろうな、きっと。
凄いんだぜ、ガンデスの防御術。
なんつっても剣技はおろか、魔法まで跳ね返せるんだからハンパじゃねぇよ。
コイツがスケルトンじゃなければ、絶対俺には倒せなかっただろうな。
生きてるガンデスを殺したカインスケルトンの凄さを改めて実感したぜ。
ガンデススケルトンとの戦闘は六番目だったな。
ランドとトーレスの技能と経験を得てなかったら、俺の骨は為す術なく塵となっていただろう。
……呪いで死なんけどな。
・【賢者セルディナ】から得たのは、正に賢者の知識だ。
賢い者と書いて賢者なだけはあり、戦闘スキルからあらゆる魔法……魔法に関しては、セルディナが得た知識しか分からない部分もあったが、ともあれ、その知識量は凄まじいの一言に尽きる。
この世界……アースの地理や国、それに暦や色んな単位なんかの知識も得られたな。
まぁ、暦と国名以外の単位は地球とほぼ一緒ってのには驚いたが。
だって、一週間が七日だったり、十二ヶ月で一年だったりって所も地球と同じなんだぜ?
驚き過ぎて骨になっちまった程だぜ!
…………。
とにかく、セルディナから得た知識はこの世界を旅するには必要不可欠だと言っておこう。
セルディナスケルトンとの戦闘はアドレアスケルトンの次だから、三番目だな。
コイツは意外と楽勝だった。
スケルトンなのに魔法を使えるのは卑怯だと思ったが、所詮は瘴気の力を借りた偽りの魔法……俺の戦闘術(アドレアとカインの技術)には敵わなかった様だ。
・【聖女サーラ】から得たのは、回復魔法の類だ。
……使えないけどな。
つか、今の骨の体で回復魔法なんぞ使っちまったらむしろダメなんじゃねぇか!?
一部のラノベやゲームだと、アンデッドに回復魔法は大ダメージだったと俺は記憶してるぜ?
ダメージ云々はさておき、コイツの回復魔法は普通とは違うらしい。
と言うのも、コイツの回復魔法はどうやら生命魔法と呼ばれる激レアな部類に入るとの事だ。
植物に生命魔法を掛ければ生長を促し、生命魔法の神級を生物に掛ければ、回復はおろか──何と寿命すら延ばせるらしい。
だからこそサーラは聖女と呼ばれたんだろうな。
しかし、俺の骨の体に掛けたらやっぱり即死しそうなイメージだよな。
……うむ、コイツの魔法はとりあえず死蔵だな。
どっちにしろ魔力器官の無いこの骨の体じゃ使えねぇし。
サーラからは他にも棒術や杖術を得たが、きっと使う機会は訪れないだろう。
つか、趣味に合わないし?
男ならやっぱ、剣だろ、剣!
サーラスケルトンとの戦闘は九番目で、コイツにも楽勝だった。
俺の骨の体もかなり強化されてたしな。
おっと、骨の強化云々は後ほど伝えるぜ。
今はスケルトンズから得た力の説明が先だ。
・【大魔導マルス】から得たのは、正に攻撃魔法そのものだ。
それも、全ての属性の初級から始まり、それぞれの属性の禁呪……つまり神級魔法と呼ばれる物まで完全に網羅していた。
古代魔法に分類される物まで、だ。
マルスの知識に、俺は涙を流さんばかりに喜んだ。
だって、魔法だぜ? 魔法!
しかも、ド派手な攻撃魔法!
前世の趣味で、俺がラノベを読んでいたってのは既に知ってると思うが、特に愛読してたのが異世界転生ファンタジーだ。しかも、魔法で無双する系の。
その憧れてた魔法の知識と技能を得たんだぜ?
そんなの歓喜するに決まってんだろ!
俺はあまりの喜びに、神経を抉る様な呪いの激痛を一瞬とはいえ忘れたんだぞ!?
それだけ嬉しかった!
……魔法、この骨の体じゃ使えねぇのにな。
マルススケルトンとの戦闘は八番目だ。
コイツもセルディナと同じで、瘴気を使った偽りの魔法だったから楽勝だったぜ。
ちなみにだが、九番目のサーラスケルトンとの戦闘まで、俺の体感で丸一日は空けた。
何故かって?
なぜ時間を空けたかと言うとだな……骨の体じゃ魔法が使えない事に絶望してたからだ!
ふふん、いじけてたってのは内緒だぜ!
・【疾風のランド】から得たのは、罠の設置や解除の知識と自らの気配の消し方……それに、隠形術や短剣術などだな。
それと────隠形術と短剣術を併せた暗殺術か。
ランドはシーフを極めた……言わば、盗賊界のゴッドハンドと呼べる男だった。
裏では伝説の暗殺者って顔も持ってたがな。
コイツが鮮やかに宝箱の罠を解除する様や、衆人監視の下での暗殺劇は、まるで映画の主役にでもなった様な気分になったぜ。
ランドスケルトンとの戦闘は四番目だな。
女神さんから得た力でコイツの動きがゆっくりじゃなかったら、間違いなくコイツで俺は詰んでた。
ゆっくりなのに、コイツの姿を見失うんだぜ?
ビックリし過ぎて口から心臓が飛び出るかと思った程だ。
……骨だけに心臓は無いなんて事は言わないぞ?
……実際無いけど。
ランドの暗殺術が無ければ、ガンデススケルトンには勝てなかったと付け加えておく。
・【拳聖トーレス】から得たのは、ズバリ! 身体強化の技能だ!
……うん、まぁ、魔力器官が無ければ使えねぇんだけどな。
だがなぁ、魔法に次いで嬉しかったんだよ。
だって仕方ねぇだろ!?
身体強化だぜ!?
身体強化の超絶パワーで、巨大な魔物なんかをバッタバッタと薙ぎ倒してぇじゃねぇかよ!
分かるだろ?
男のロマンってやつだ!
はぁ……コレばっかりは分かる奴しか分からねぇよな。
まぁいい。
トーレスから得たのは、身体強化以外だとやはり体術だな。
カインの真贋一刀流の歩法や技術だけじゃ補完しきれなかった身体の動かし方を、トーレスから得た【雷華流水拳】で補えたからこそ、ガンデススケルトンとの戦闘時に俺は上手く立ち回れたんだ。
蝶の様に舞うって感じだったな。……骨なのに。
トーレススケルトンとの戦闘は五番目だぜ。
互いの骨という骨を砕く激闘だったのは言うまでもない。
しかしカインは凄ぇよな。
いくらカインが瘴気から力を得てたからって言っても、所詮はスケルトンだぜ?
それなのに、全盛期の能力で挑んで来るトーレスや他の連中を相手に勝ちきったんだからな。
剣神の二つ名は伊達じゃねぇって事だよな。
・【魔女ミリア】から得たのは、付与魔法である。
他にも薬草学や錬金術の知識も得たが、やはり特筆すべきは付与魔法だろう。
この付与魔法……俗に言う、エンチャントマジックってやつだな。
これもまたとんでもない能力だよな。
何せ、そこら辺のなまくらの剣に炎属性などを与えて擬似的魔剣に出来るんだぜ?
とんでもない能力ってのが分かるはずだ。
ミリアはその付与魔法の権威として名を馳せていて、世界各国から引く手数多の女だったらしい。
各国の王侯貴族から莫大な金額で依頼を請けてる記憶が大半だった。
貧乏な生活を送ってた前世の俺からしたら羨ましくて仕方ねぇぜ。
……借金取りにケツの毛まで抜かれた挙句、肉までむしり取られて骨になった訳じゃねぇぞ?
貧乏はともかく、コイツのエンチャントはとにかく凄まじいレベルだった。
何せ、生前のミリアが装備してた大杖は自らが施した強力な聖属性が永続的に付与されてて、その大杖だけでこの【奈落】の最下層まで辿り着いたんだからな。
ミリアの記憶の中で、強力な魔物が次々に逃げ出す様は痛快だったぜ。
ミリアスケルトンとの戦闘は七番目だったな。
ミリアも、セルディナやマルスと同様に楽勝だった。
瘴気を使った偽りの魔法でエンチャントしても、やはり効果はほとんど出ないらしい。
まぁ、女神さんから得た力の源である魔神気を纏った俺には効く訳ねぇけどな!
・【騎士王ライオネル】から得たのは礼儀作法や宮廷などでの社交術、それと槍術と馬術だ。
生まれは辺境伯家の三男だって事だから、その能力も納得だ。
まぁ礼儀や生まれなどは置いとくとして、ライオネルは二つ名に騎士王と付いてるだけに、槍の腕前はカインの剣神に対しての槍神レベルな上、馬上槍の腕前はさすがの一言だな。
コイツを馬に乗せて戦場に連れてったら、絶対誰にも勝てない事だけは分かった。
人馬一体の神髄、ここにあり! って、俺はライオネルの記憶を読み解いてる時に心で叫んでた程だ。
とにかく凄かった。
ライオネルスケルトンとの戦闘は最後の十番目だ。
馬のスケルトン……スケルトンホースが居なくてホントに良かったと、コイツの記憶を読み解いて思ったぜ。
いくら俺の骨が強化されても、いくら俺が魔神気を纏ってても、コイツを馬に乗せたら負けないまでも、倒すのに相当苦労した事は確かだな。
☆☆☆
以上が、俺が十体のスケルトンズから得た力の全てだ。
俺が異世界転生したら欲しかった能力の大半を網羅してたのは今になって気付いた。
骨の体って事で、魔法系が使えない事が悔やまれる。
……その内なんとかして使える様になりたいものだ。
(そう言えば、スケルトンズの記憶の中で、全員が必ずリッチのアリストテレスに遭遇してたよな。あのミイラが選別でもしてたのか? それと……カイン以外のスケルトンズも、カインスケルトンとの戦闘前に必ずあの少女とクソジジイのくだりの場面に遭遇してるのも変だよな。…………うむ、やはり今考えても分からん。スケルトンズから得た知識でこのダンジョンが【奈落】だって事は分かったが、とにかくこの最下層と思われる通路の探索を進めて、ヒルコと思われる少女を見つけるしか答えは出ないだろうな)
思考も程々に、俺はスケルトンズの居た空間の扉をスライドさせて開く。
もちろん、俺が入って来たのとは別の扉だ。
入口同様、こちらの扉にもスケルトンズのレリーフが彫られている。
そのレリーフだが、何も持っていなかった入口側とは違い、こちら側のスケルトンズはそれぞれが得意とする得物を装備した姿で彫られていた。
何か理由でもあるのだろうか。
(ま、とにかく先に進んでみるしかねぇだろ)
おっと、そうだった。俺の骨が強化されたってのと、魔神気の説明を忘れてたな。
骨の強化ってのは、女神さんから得た力の一つだと思うが、スケルトンズを倒す度にスケルトンズが灰色の粒子になったのを俺が吸収したんだが、そのおかげで俺の骨が強化されたんだよ。
つまり、レベルアップしたって感じだな。
カインスケルトンとの戦闘時にはあっさり砕けてた俺の骨だが、最後のライオネルスケルトンとの戦闘では砕ける所か、ヒビの一つも入らなかった。
それに、骨が強化された影響なのか、纏った黒銀光の下の骨の色が真っ白から灰色に変わっていた。
白よりも灰色の方が強い骨だって事に抵抗があるが、とにかく強くなったんだから良しとする。
次に俺が骨の体を動かす源となっている黒銀光の事だが、何やら【魔神気】と言うものらしい。
カインの記憶から引用するが、どうやらこれは少女の瘴気と似た様なものだとか。
と言うのも、カインの記憶を得てから少女の瘴気を意識したら、頭の中にその答えが浮かんで来た。
つまり、急に理解出来たって事だ。
これは恐らく、女神さんの権能に関する事だからこそ理解が進んだんだろうな。
経験を積んだからこそ理解出来たとも言えるかな?
(魔神気……女神さんから力を得た当初よりも光が強くなってるし、骨を覆う範囲も広くなってる。俺の力が上がってる証拠だな)
そんな事を考えながらも俺は通路を進み、次の扉の前まで辿り着いた。
一本道の通路だったのはありがたい。
とは言え、複雑な迷路になってても困るんだから、一本道のままでおねしゃす! と、誰かに頼んでおく。
信じるものは救われるって言うしな。
そう言えば、骨の体を苛む激痛が心做しか和らいだ気がする。
……きっと考え事をしてたからだな。そうに違いない。
(だからって、いつも考え事ばっかしてたら危険だよな。……さて、次の扉のレリーフは、と……!? 何だこれ!? モザイクか!? いや、よく見ると、すっっっげぇちっさい骨が描かれてやがる! しかも……人型スケルトンか? マジかよ……扉のレリーフの感じだと、この中で千体以上のスケルトンとの戦闘が待ってるのかよ……。いくらカイン達の技術を得ても、数の暴力には勝てねぇだろ……)
次の扉のレリーフには、それはそれは小さなスケルトンの姿が数多に描かれていた。
一体の大きさは、だいたい5mm程だ。
よくぞこんなにも細かなレリーフを彫ったものだと感心する。
しかも、一体一体の姿勢が違う。驚くべき精巧さのレリーフだ。
正に芸術の域に達すると言っても過言ではないだろう。
(お、コイツの姿勢はまさかの土下座! しかも、きっちりとおでこを地につけた最上級の土下座だぜ。うむ、100点!)
…………。
(……ふぅ。現実逃避してても埒があかねぇ。仕方ねぇか……男は度胸って言うし、ケルベロスの扉が開かなかったんだから、この先に進むしか他に道はねぇ。────しゃあッ! やってやるぜ!!)
俺はスケルトン軍団……いや、骨の軍隊の扉を片手で横にスライドさせて勢い良く開けた。
あまりの勢いに、スカルレギオンのレリーフから何体かのスケルトンの彫像が崩れる。
この場所が遺跡やそれに準ずる建造物の発掘現場ならば大問題だが、ダンジョンだから無問題だ。そのうち直るだろうし。
そんな細けぇ事よりも、今はスカルレギオンとの戦闘に集中するぜ!
若干壊れた扉から勇ましく中へと入り、俺は魔神気が爛々と輝く眼窩で辺りを睥睨する。
カイン達最強のスケルトンズを倒したんだから、睥睨するくらい許されるはずだ。
ともあれ、俺はスカルレギオンの広間の中を見回す。
すると、スカルレギオンの広間の中には百体程のスケルトンがゆっくりと歩いていた。
レリーフを見て、中には千体のスケルトンが居ると予想したが、実際には百体程だったので少しだけホッとしたのは公然の秘密だ。
(うお! カイン達と違ってコイツらは動いてんのかよ……! つう事は、やっぱり俺対スカルレギオンって事だよな。しかしコイツら、俺が部屋に入っても全くこっちに興味を示さねぇ。もしかして……このまま戦闘せずに素通り出来たりして)
それぞれが夢遊病者の様にフラフラと歩き、しかし決して互いにはぶつからずにすれ違うスケルトン達。
俺の事は眼中にも無いって感じだ。
ならばと思い、俺は300m四方はありそうなスカルレギオンの広間の中央をスケルトン達に触れない様に歩いていく。
しっかりとスケルトン達の動きを観察し、ぶつからない様にタイミングを合わせながら。
(──ッ!? くっ! やっぱ無理かッ!!)
しかし、俺が広間の中央を完全に過ぎた辺りで状況は一変。
どこに向かうとも知れない動きをしていたスカルレギオンは一斉にその歩みを止め、そして全てのスケルトンがギギギと音がしそうな感じで首を動かし俺を見つめた。
それと同時に閉まる、俺が入って来た扉。
カイン達スケルトンズと同様、スカルレギオンもボス相当の様だった。
(やっぱり閉まるのか、あの扉も……。しかも、コイツらもカイン達と同じで瘴気を利用するのかよ!? つか、武器が無いのに武器を持ってるかの様に動くのって何だか切ねぇなぁ……。────ッと、そんな感傷に浸ってる場合じゃねぇな! 先手必勝──うりゃッ!!)
そしてスカルレギオンは、正に軍隊の呼び名に相応しい動きを見せ始める。
それぞれが規則正しく移動し始め、隊列を組んでいくスケルトン達。
臨戦態勢なのか、全てのスケルトンが移動しながらも腰から剣を抜く動作をしていた。
だから俺は、スカルレギオンの隊列が整う前に先に攻撃を仕掛けた。
いくら剣が無いとは言え、隊列が整った敵に正面から攻撃を仕掛けるなんてバカのする事だ。
更に言えば、隊列が整う前なら個人の能力がものを言うからな。
カイン達から得た力、舐めんじゃねぇぜ!
気合いを込めて、一番近くのスケルトンへとトーレス仕込みの拳打を打ち込む俺。
同時に激痛レベルが跳ね上がるが、それを気にする間もなく一撃の元に一体目のスケルトンの頭骨を破壊した。
一体目のスケルトンを破壊した直後、俺は拳打を放った右腕を見る。
俺の右腕にはヒビ一つ入っていなかった。
(よしッ! 骨に異常はなしだ! なら、このまま戦闘を続行するぜ! 常に動いて、一対一を心掛ければ軍隊だって個人と変わりはねぇ。それを俺が証明してやるぜ!!)
軍隊などは理路整然と組織立って攻撃するから脅威なのであって、隊列を崩されれば意外と脆いって事を俺はラノベを読んで知っている。
ならば気を付ける事は一つだ。俺の思考の通り、複数のスケルトンに囲まれなければいい。
俺は剣神カインの歩法、拳聖トーレスの拳打、疾風のランドの隠形術を軸に、勇者アドレアの総合戦闘術として昇華した体術で次々とスケルトン達を屠っていった。
(激痛はともかく、疲れないのがこの体の良いとこだよな。──せりゃッ! よし、トーレスの手刀にカインの剣技はしっくりくるぜ! つか、今何体目のスケルトンを倒したんだ? だいぶ少なくなってきたが、だいたい半分くらいか? まぁいっか。倒した傍からスケルトン達が粒子になって俺に吸収されるから、戦ううちにどんどん戦闘が楽になってきたし。まるでゲームのボーナスステージをやってる感覚になってきたぜ。──おりゃッ!!)
それから体感時間にして5時間程か。
俺はスカルレギオンの広間に居た百体程のスケルトン達を倒し、そしてその全てを骨の体に吸収した。
心做しか、骨の色が灰色から更に黒ずんだ気がする。
(このままスケルトンを吸収し続けると、もしかして俺は真っ黒になるのか? ……うむ、意外とカッコいいかもしれん……! 『漆黒の闇を纏いし我が体を傷付ける事は何人たりとて出来はせん!』…………良き。ちょぴっとだけ想像したが、かなりカッコいいぞ俺! そうとなれば、もっとスケルトンを倒して吸収してやるぜ。どうせなら、このスカルレギオンの広間の中でスケルトンが無限湧きすりゃ良いのに……)
──などと、よせばいいのに余計な事を考える俺。
いくら骨の体が吸収によって強化されたと言っても、まさか本当にスケルトンの無限湧きがおきるとは夢にも思わなかった。
(……って、マジかよ!? 床……いや、土の地面なのかここ。──ッ!? そんな事はどうでもいいが、土の中からスケルトンどもが這い出してきやがった! しかも、さっきと同じくらい居ねぇか!? つか、吸収吸収♪ やってやるぜ!!)
再び出現したスケルトン達……スカルレギオンだったが、初めの百体で骨を強化した俺の敵ではなかった。
楽勝とまではいかんが、カイン達から得た体術が馴染んだ事が結果として表れたのだろう。
その証拠に、一体目から百体目までを倒すのに掛かった時間はおよそ5時間程。
最初の百体を倒すのに掛かった時間がおよそ10時間程だと考えれば、俺の骨の体がかなり強化されていた事が分かるだろう。
二百体のスカルレギオンを倒した事による骨の強化に伴い、骨の色もだいぶ黒に近くなっていた。
(うむ。骨の色もかなり黒に近くなってきたな。それに、ここのスケルトンを倒すのも楽勝になってきたし。さすがにもう出ねえだろうな。さて、向こうの扉を開けて次に向かう……って──ッ!? マジか……!)
スカルレギオンの無限湧き。
それに気付いたのは、百体ずつ土から這い出してくるスカルレギオンとの戦闘を五回繰り返した後の事だった。
(しかも、ただの無限湧きじゃねぇ! 二回目以降、俺の体が吸収で強化されてるにも拘わらず、戦闘開始から百体目までを倒すまでの所要時間が大して変わらねぇ! コイツら……俺に合わせて強くなってるって言うのかよ!?)
そう、スカルレギオンは回を重ねる毎に強化されていたのだ。
しかも、俺がカイン達最強のスケルトンズから得た力……戦闘術を学習し、その妙技まで使い始める始末。
これには骨の強化に喜んでいた俺もさすがに驚いた。
まさかトーレスから得た〈雷華流水拳〉の拳打を、同じ〈雷華流水拳〉の技でいなされるとは思わなかった。
(クソ! 体勢が崩される……! 頭、頭を守らねぇと! 俺もスケルトン達と同じなら、頭を破壊されたら死んじまう!)
拳打をいなされ体勢を崩した俺に、トドメとばかりに肘と膝を使っての挟撃を俺の頭骨へと繰り出すスケルトン。
俺の眼前には膝が迫り、後頭部にはきっと肘が迫っている事だろう。
(これまでか……──ッ!? 隙あり! ──だりゃあああッ!!)
スケルトンの攻撃で死を意識した俺だったが、スケルトンの肘と膝は俺の頭骨に当たった瞬間、何と砕けていた。
その結果に声にならない悲鳴をあげているのか、スケルトンは剥き出しの歯をカチカチカチと激しく打ち鳴らす。
その隙を逃さず、俺はすぐさま体勢を整え反撃する。
繰り出したのはアッパーカットだ。
倒れかけた体から蹲踞の体勢を取り、そこから勢い良く立ち上がると同時に、スケルトンの顎を打ち抜くアッパーカットを俺は決めた。
(あ、危なかった……! 攻撃こそ最大の防御とばかりにそればっかしてたが、さすがに今の状況だと無理だ。となれば、こっからは岩壁のガンデスの防御術も加えて戦うしかねぇ!)
顎から頭骨を砕いて倒したスケルトンの粒子を吸収しながら、俺は今までの戦闘術……アドレア流総合戦闘術の基礎として使っていた、剣神カイン、拳聖トーレス、疾風のランドの技術の他に、岩壁のガンデスの防御術を加えた新しい構えを取る。
その構えとは、右足を後ろに下げて半身となり、左腕を肩の高さで水平に上げると同時に直立させて左手の甲を前へと向ける構えだ。
右腕は腰の位置に置き、指を伸ばして手刀の形を取る。
言うなれば、盾を構えた重戦士風な構えだ。
(頭骨を破壊されなかったからって、これからも無事とは限らねぇ。ならば、左腕を犠牲にガンデスの防御術を使用すれば、最悪命は助かる。……呪いで死ねないって女神さんに言われても、もしかしたら死ぬかもしんねぇからな。万全を期すぜ!)
「カチカチカチッ!! (どっからでも掛かって来やがれ!!)」
改めて気合いを入れた俺は、激しく歯を打ち鳴らしてスカルレギオンを挑発する。
気分は劣勢の英雄だ。
しかし、本来なら大声をあげての場面である。
……スカルレギオンを前にして、声帯が欲しいと心の隅で泣く俺であった。
お読み下さりありがとうございます!