骨者、コツコツと歩く
神経を抉るような激痛に全身を苛まれながらも、俺はスケルトンと化した体をぎこちなく動かして扉を開けた。
女神に力を与えられた当初よりはマシだが、やはりまだまだ骨の体を動かすのはぎこちない。
せめてこの激痛がなければ良いのだが、ともあれその辺りは無理矢理にでも慣れていくしかないだろう。
さて、そんなスケルトンな俺が開いた扉だが、その扉は石造りであり、その表面には何かの動物……人、いや、形的に見て仏教に出てくる阿修羅神か?
阿修羅神にしては妙に頭や手が多い気がするが……とにかく、阿修羅神の骨格をモチーフにしたような趣味の悪いレリーフが彫られており、扉の中央部にある頭骨の口の部分に手をかけて横に開くスライドタイプの物だった。
しかし、いくら俺の体がスケルトンとは言え、扉に骨格のレリーフとかどんだけ皮肉ってるんだよと言いたい。
これはもしかしてアレか?
あのクソジジイの……創造神とか全能神とか配下の神に敬われて調子に乗ってるあのバカの俺に対する嫌がらせの類なのか?
どんだけ俺を馬鹿にすれば気が済むのか、100年に渡って問い質したい所存である。
ともあれ……スケルトンに転生させただけじゃ飽き足らず、更に神経を抉るような激痛の呪いを与えた挙句、その後100年もの長きに渡って何も無い小部屋に放置するという、創造神イザナギの鬼畜よりも劣る下衆の所業。
腸が煮えくり返る思いとはこの事だ。……骨だけに腸が無いけど。
まぁあのムカつくクソジジイの話はさておき、骨の体を駆使して開いた扉の先は、どこかピラミッド内部を思い起こさせる石造りの通路であった。
良く見れば、正方形や長方形で削り出された石や岩が規則正しく組まれている。
天井が崩れない所をみると、互いに干渉し合い、重さを上手く逃している様だな。
そんな通路の大きさだが、高さが4m程で、横幅が6m前後はある。
意外と大きいな。ちょっとした運動が出来る程だ。
ちなみにだが、俺が100年間過ごした小部屋の大きさは六畳程……詳しく言えば、縦横奥行き共に4m程の正立方体の空間で、んで、扉の大きさは縦2mで横1mの長方形だ。
地球にあった普通の扉と同じ様な大きさだな。石造りって事以外は。
もしもこの扉が小部屋と同じ大きさだったらと想像すると、俺には開けられなかったかもしれない。
だって、レールも滑車も付いてないんだぜ?
どこかに引っかかっちまったら誰にも開けられないと思う。
そんな扉だが、言った通りに滑車の無い横スライドタイプの石造りの扉ですんごく重い為、開くのにかなりの力を使うはずなのだが、如何せん、女神さんから与えられた力が強力なのかそれ程力を込める事はなかった。
女神様、万歳!
(うーむ……。異世界のアースに送られたって言っても、これ、どう考えてもダンジョンの中だよなぁ。城って雰囲気でもねぇし。まぁ謎の遺跡の可能性もあるが。…………俺の体が骨だけに、まさかカタコンベか? シャレが効きすぎだろ、それじゃ。
……つか、普通は村とか町とかに送るだろ!? いくら悪意があったとしても、せめて魔物が蔓延る森の中くらいにしてくれよなぁ!? ……どっちにしろ進むしかねぇんだけどよ)
女神の力に感謝しながらも、謎の遺跡か、はたまたダンジョンなのか、それとも地下墓地なのか分からない場所をとりあえず俺は進んでいく。
いくら考えてみても、先ずは進んでみない事には答えは出ないし、何より情報が不足してるんだから答えなんぞ出るはずも無い。
進むより他に情報を得る道は無いのだ。
ともあれ、俺は石造りの通路を、スケルトン(骨)だけにコツコツと足音を響かせながら歩みを進める。
この石造りの通路はそれなりに明るいので、ちょっとした段差に躓く事なく歩けるのはありがたい。
ただでさえ激痛に苛まれているんだから、転んで倒れたりとかの衝撃は、出来るだけ体に与えたくないのだよ。
もしも躓いて転ぼうものなら、倒れた時の衝撃により激痛レベルが跳ね上がり、言葉に出来ない程の激痛できっとショック死してしまうこと請け合いだ。
……呪いで死ねない体だけどな!
(そういえば、いくら女神の力で見えるようになったって言っても、なんでこんなにハッキリ見えるんだ? まさか暗視や闇視のスキルまで与えられたか? ──ああ、そういう事か。となれば、やっぱりここはダンジョンで決まりだな)
激痛に耐えながらもコツコツと歩き、俺はこの場所がダンジョンである事を確信する。
何故ならば、灯りも無くハッキリ見える通路を不思議に思って良く見てみれば、石造りの壁や床、そして天井に至るまでが仄かに光っている事に気付いたからだ。
そう、ヒカリゴケや発光塗料で光ってる訳でもないのに、だ。
そして、通路自体が仄かに光る現象と言えば、それこそがダンジョンである証だ。……と、愛読してたラノベに書いてあった。
俺が異世界を生きる上でのバイブルであるラノベに書いてあったんだから間違いないだろう。
……文句は受け付けないぞ? はいそこ、シャラップ!
(しっかし、不思議だよなぁ。なんで壁や床が光るんだ? ラノベだと、ダンジョンを流れる魔力が光るだとか、魔力を帯びた鉱石が産出されるから仄かに光るだとか説明されてたけど、実際に自分が経験してみると…………うむ、よく分からん! そのうち学者や研究者にでも聞いてみるか。……スケルトンの俺を恐れない奴がいればだけどな)
そんなダンジョンの不思議について熟考しながらも、俺は通路を更に進んでいく。
スケルトンと化した体は意外と疲れ知らずなのか、結構長い時間を俺は歩く事が出来ている。
まぁ筋肉が無いんだから、疲れの原因である乳酸が筋肉に溜まるなんてあるはずも無い。
うん、自問自答で解決したな。
激痛は感じるが、疲れない骨の体に苦笑していると、いつの間にか目の前に左右に分かれる分岐路が出現していた。
……余計な事を考えて周りを気にしなさ過ぎとは言わせない。
(うーむ。こういう場合、セオリー通りならば左に進むんだろうが、どうしたもんか。人間はこういう場合に左に行きたがる習性があるってのが正解だっけ? ま、いっか。
さて、右の通路を見ても少し進んだ先に扉が見えるし、左の通路を見てもやはり扉が見える。…………とりあえず、それぞれの扉の前までの様子を見て考えるか)
カチャカチャと首の骨を動かしながら左右の通路の先を確認し、先ずは左の通路を進み、突き当たりの扉まで行ってみる事にした。
結局セオリー通りに行動してるが、セオリーとは、先人達が自らの経験から導きだした正解への法則だと俺は思っている。
ならば、従う事に何の遠慮もいらないだろう。
(あ! ここがダンジョンだってんなら、罠があるよな!? 今更ながらまったく気にしてなかったぜ……。だが、ここまで罠にかからなかったんだから、今いる階層は罠が無いに違いない! ……罠にかかっても死なねぇんだから気にしても仕方ねぇか。さて、左の通路の扉まで辿り着いたが、こりゃまた大層なレリーフが彫られてやがるな)
罠の有る無しはさておき、左の通路の扉の前までやって来た。
俺の思考の通り、扉には大層立派なレリーフが彫られていた。
そのレリーフとは、炎を背後に纏った三つ首の四足歩行の動物の骨格である。
動物の骨格もそうだが、炎のレリーフとか芸術レベルが高過ぎると思う。かなりリアルなんだぜ、これ。
芸術レベル云々はともかく、ふと、三つ首の骨格レリーフを眺めて思う。
生きてる三つ首の化け物が実際に存在してるとして、三つも頭があったら、どの頭が体を動かすのだろうか。
……間を取って真ん中の頭が体を動かすのか?
それとも三つの頭の意識は統一されてるのだろうか?
実に不思議である。
(三つ首の四足歩行の化け物は確か……ケルベロスだったよな? 地獄の入口の番犬の。おぉ、尻尾の骨の先が蛇の頭の骨になってるからケルベロスで間違いねぇな。まぁ、このレリーフのモデルがケルベロスだからいったいなんだって話だけどな。さて、今度は向こうの扉だ。向こうは何のレリーフが彫られてるか少しだけ楽しみになってきたぜ。彫られてるよな? おっと、一応この扉が開くかどうかの確認だけはしとくか)
三つ首……ケルベロスのレリーフが彫られた扉が開くかどうか、俺はケルベロスの骨格の口部分に手を掛け、横にスライドさせようと力を込めてみる。
スライドさせようとしたのは、俺がいた部屋がスライドタイプだった為だ。
ちなみにケルベロスの扉の大きさは、縦横3m程である。
(くお!? う、動かねぇ! まさか押戸タイプか? ぬぅううう……! ダメだ、ビクともしねぇ。まさか……上に押し上げて開けるタイプか? ふぬぬぬッ! 重くて上がらねぇが、僅かに動いた所をみると、どうやら上に開くタイプらしい。しかし俺の渾身の力で開かねぇんじゃ、どっちにしろ後回しだな。……つか、女神の力を得た俺の力で開かないとかどんだけだよって言いてぇぜ)
こちらの通路は現在のところ行き止まりと仮定する事にして、俺は分岐路へと戻り、今度は右の通路の奥へと進んだ。
頼むからこっちの扉は素直に開いてくれよと心で念じながら。
(こっちの扉のレリーフは…………うむ、俺と同じタイプの人間と思われる骨格のレリーフだな。しかも十体の骨格が彫られてやがる。もしかして、レリーフのモチーフと部屋の中身と何か関係あんのか? ……とりあえず開けてみるか)
思考の通り、右の通路の扉には十体の人型の骨格のレリーフが彫られていた。
まさかとは思うが、この扉の先には十体のスケルトンが待ち構えてるのではなかろうか。
もしもそうならば、左の通路の扉の先にはケルベロスが待ち構えていることになる。
…………。
……ケルベロスの扉、開けられなくて良かった。
部屋の中身がどうであれ、俺はとりあえず扉を開けてみた。
こっちは俺が居た部屋と同じタイプの扉で、すんなりと開ける事が出来た。
と言っても、重さは俺の居た小部屋よりも重かったが。
(よし、開いたな。……って、おい! ホントに十体のスケルトンがいやがる! だが、まだこっちに気付いてねぇな。一旦扉を閉めて対策を考えるか……)
俺はそぉっと扉を閉めた。
開けた時と同様、中に居たスケルトン達には気付かれなかったらしい。
ひとまずホッと一息吐いた。……つもりである。
(この中、結構広かったよな。しかし、なんであの骨達はあちこちバラバラで立ってたんだ?)
開けた扉の先はかなりの広さの空間であり、パッと見だが、その広さは恐らく50m四方はありそうだった。
それに天井の高さもゆうに6mはある為、今までの通路と比べてとてつもなく広いとも感じられた。
そんな空間に、十体のスケルトンが居た。
……スケルトンと思わしき人骨が立っていたと言った方が適切か。
女神の力を得てうっすら黒銀光に包まれてる俺とは違って、空間内のスケルトンは全身が灰色の骨で出来ていた。
その事から、何だかカルシウム不足で脆そうな印象を俺は感じた。
そんな印象はさておき、そんな灰色のスケルトンが50m四方の空間内のあちこちに点在している。
壁際に規則正しく並んでるならば弔われた感があるが、点在してるとなると、明らかに歩いて移動したって感じだよな。
(うーむ。結局この扉の先にしか今のところ進めねぇんだよな。ケルベロスの扉は開けられねぇし、俺が居た部屋に戻っても何も無かったし。戦うしかねぇか。……もしもホントにスケルトンならば、だけどな。扉のレリーフみたいに、ただの彫像かもしれねぇし。そう考えると、ここはもしかしたら、ダンジョンを利用した博物館や美術館かもしれねぇな。さすが異世界、やる事の発想が違うぜ! よし、もう一度扉を開けて、今度は中に入ってみるぜ)
意を決し、俺は再びスケルトンが十体居る空間の扉を開き、今度はしっかりと中へと入った。
そして、スケルトン部屋の中をぐるりと見回す俺。
どうやらスケルトンの位置はさっきと変わってはいないみたいだ。
(うーむ。まさか……魔物って訳じゃないのか、このスケルトン達は。となると、やっぱり地下墓地って事になるけど、どう見ても墓地には見えんよなぁ。この空間内に墓石とか墓標とかあれば墓地で納得なんだが、そんな物ねぇし。第一、骨が歩いたような姿で立ってるんだから、やっぱり魔物にしか見えねぇだろ。……つか、扉が勝手に閉まって、スケルトン十体とのボス戦が始まったりして。んな訳ねぇか! そもそもスケルトンなんぞファンタジー系だと最弱の部類に入る雑魚じゃねぇか。それがボスなんて、有り得ねえだろ……)
十体のスケルトンを眺めながらそんな事を考えてると、いきなり背後で大きな音が響いてきた。
音の感じからして、どうやら重たい石が何かにぶつかったような音である。
例えるなら……石造りの重たい扉が勢いよく閉まった音とか。
(え? んな、バカな!?)
大きな音に嫌な予感を覚え後ろを振り向くと、俺が開けた扉は完全に閉まっていた。
まるで、ゲームにおけるダンジョンのボス戦前の仕掛けみたいだ。
しかしスケルトン十体がボス相当とか、まさかまさかの展開である。
となれば、十体のスケルトンは次々に動き出し、そして俺に襲い掛かってくるはずだ。
如何に俺が神々に復讐を考えていても、今はまだ骨の体を動かす事で精一杯。
頑張って戦ったとしても、スケルトン一体に辛うじて勝てるかどうかが恐らく俺の今の実力だろう。
だいたい、俺の骨の体は絶えず激痛が走っている。
それなのに強制戦闘とか……ショック死確定の案件である。
(だが、やるしかねぇ! スケルトンの十体や二十体如きに勝てない様じゃ、どう足掻いたってあのクソジジイ共に勝てるわきゃねぇ! いいぜ、やってやるぜ!)
扉から再び視線をスケルトン達へと戻し、俺は骨の体で戦闘態勢を取る。
とは言え、俺は生まれてこの方喧嘩をした事なんぞ無いし、ましてや格闘技などというものは経験した事が無い。
だが、それでもテレビで何度かは観た事はある。
そう、ボクシングとか、格闘技のイベントとか。
そんな訳で、簡単に出来る構えとして、ボクシングのファイティングポーズを取る俺。
あとはスケルトン達に素人ボクシングが通じる事を祈るばかりである。
(左手を若干前に出してるこの構えだが、こういうのをオーソドックススタイルって言ったっけ。……と、とにかく、後は女神さんから与えられた力を信じてやるだけだ! さぁ、来い! …………あれ?)
とにもかくにも、俺は戦闘を開始するべくスケルトン十体を鋭い視線で見据えた。
しかし、俺の覚悟をよそに、スケルトン達はピクリとも動き出していなかった。
激痛によるショック死の恐怖を乗り越えた俺の意気込みを返せと言いたい。
(いや、ここは動き出す場面だろ!? 俺だけ覚悟を決めて構えを取ったのが馬鹿みてぇじゃねぇか! つか、俺が攻撃したら動き出すのか? こんな感じで……ガツン、って感じで……──ッ!! やっぱ、半端なく痛てぇ! 神経を抉るだけじゃなく、骨が砕け散ったような痺れる痛みも追加されやがった……! ────なッ!? くそっ! やっぱり攻撃を感知したら動き出すタイプかよ!)
色々考えた挙句、コツンと一番手前に居たスケルトンの一体を殴ったら、それが攻撃のトリガーとなったのか、そのスケルトンは動き出した。
全身の骨をコツコツと鳴らしながら、カクカクした動きで右腕を動かしている。
その動きからして、どうやら腰にある何かを引き抜こうとしている様だ。
恐らくだが、生前は剣士か戦士だったのだろう。
スケルトンは腰に帯びた長剣を抜き放って、中段の位置で剣を持つ正眼の構えを取った。
そう、正眼の構えだけを。
(自分が死んだって事は分からねぇのか? 剣も何も装備してねぇのに、動きは生前をなぞってやがるから滑稽に見える。つか、動き出したのがコイツだけで良かったぜ。十体一斉に襲い掛かって来られたんじゃ、間違いなく全ての骨が砕かれてショック死してたぜ……)
ともあれ、剣を持たずに正眼の構えを取るスケルトンは、俺に向かって両腕を同じ様に動かし始める。
その動きから、袈裟斬り、幹竹割り、逆袈裟、胴薙ぎなどの連続斬りを放っているのであろう。
どうやら、生前に会得した剣技によって俺を殺そうとしてるらしい。
ゆっくり振られるスケルトンの両腕を、次々と躱していく俺。
右足を半歩引き袈裟斬りの動きを避けると、半身となって幹竹割りの動きを躱す。
更に左足を半歩引き、最後、大きく後ろへと下がった。
かなりの時間歩いたおかげなのか、骨の体を動かす際のぎこちなさはいつの間にか消えていた。
絶え間なく体を苛む激痛にも慣れてきているし、存外、魔物との戦闘も普通にこなせそうだった。
(お、俺……実は戦闘の天才だったのかも! じゃなきゃ、あんなに華麗に回避出来る訳ねぇもんな! おっと! だが、躱してるだけじゃいつまで経っても倒せねぇ。躱した後に俺も攻撃しねぇと、な!!)
スケルトンの攻撃の中で最も隙の大きい突きの動きに合わせ、俺はその背後へと回る。
そして、突きで伸び切ったスケルトンの脊椎に向けて、即座に全力でヤクザキックを放った。
この体になって初めて全力を出してみたが、案の定、ショック死する程の強烈な激痛が足の骨から全身の骨へと駆け抜けていった。
生身ならば、俺は失禁していたかもしれない。そこだけは骨の体で良かったと言えるかもな。
(くぅ〜ッ! 泣きそう……つか、俺の足の骨が砕けてやがる! だが、その甲斐あったぜ! スケルトンを脊椎から真っ二つにへし折ってやったぞ。……しかし、どうやったら倒せるんだ? 上下に離れたってのに、まだカチャカチャと動いてやがる。────ラノベだと胸骨の中……心臓の辺りに魔石があって、それを破壊するか抜き取れば倒せるってなってたけど、どう見たってコイツの胸にそんな物は無い。……頭骨を砕けば倒せるか? まったく、スケルトン一体を倒すのにも骨が折れるぜ!)
もちろん、骨が折れるのは物理的に、である。
とは言え、俺の予想通り、スケルトンの頭骨を砕いたら倒す事が出来た。
その代わりと言っちゃなんだが、俺の両腕の骨が見事に砕け散ったがな。
……激痛で意識を失わなかった自分を褒めてやりたい。
(砕け散った両腕や足の骨って治るのか? 治るにしても、どんだけ掛かる? まさか……治らずにこのままなんて事はねぇよな? ……ん? ──お!? ────おおッ!!)
砕けた自らの骨の体の心配をしていると、倒したスケルトンが仄かに光る灰色の粒子となり、そして俺の骨の体へと吸収された。
その瞬間、俺の骨の体も仄かに光り、砕けた両腕や足の骨が治り始めた。
少しして骨は治ったが、神経を抉る激痛はやはりそのままだ。……が、骨が砕けた痛みは消えている。
これで何とか次のスケルトンとの戦闘にも支障が無くなっただろう。
とりあえずは一安心と言ったところか。
(倒した後のスケルトンを吸収して骨を回復とか……これも女神さんに与えられた力のおかげか? とにかく治ったのはありがてぇけどな。──ッ!? これは……!)
スケルトンが粒子となって俺の体に吸収された効果は、砕けた骨を回復させるだけじゃなかった。
何と、俺が倒したスケルトンの生前の記憶が俺の頭へと流れ込んで来たのである。
このスケルトンがどれだけ生きたのかは分からんが、人一人分の記憶である。
その膨大な量の情報に、俺は激しい眩暈を起こしていた──
お読み下さりありがとうございます!