アリス、怪獣になった自分を妄想する
前話のあらすじ:
アリス「…………(少しだけチビったのは内緒じゃ)」
テレス「モジモジしてどうしました、アリス様?(全くアリス様と来たら……。普段は大人ぶってますが、やはりまだまだ子供ですな)」
アリス「な、何でもないのじゃ! 決してチビったとかそういう事はないから安心するのじゃ!(汗」
「おお! スカルケルベロスを喰らっただけでこれ程の力を感じるとは! それに、実際には腹に入っとらんのに腹も膨れおったわい。この調子で腹が減ったらじゃんじゃん喰らってやろうぞ!」
スカルケルベロスを魔神気にて喰らい、わしは満足感を得る。
しかも、実際に喰らった訳でもないのじゃが、不思議と腹も膨れておる。これはありがたい誤算じゃったな。
腹も膨れるとは言え、魔神気で喰らったがゆえに喰らおうと思えばまだまだいくらでもわしは喰らう事が出来る。
喰らう事が出来るのじゃが、あまりにも喰らい過ぎるとそこは女の子として恥ずかしいので自重するのじゃ。
せっかく締まった身体付きをしておるのに、ぷにぷにな身体にはなりたくないのでな。
……胸が大きくなるのであればその限りではないのじゃが。
『それは何よりですな、アリス様。して、スカルケルベロスを喰らった事でどの様な変化が?』
太るだの胸が無いだのという話はさておき、腹を擦りながらその場に腰を下ろしてくつろぐわしに、テレスも何やら満足そうな表情を浮かべながら訊いてくる。
ふむ、確かに力の上昇を感じるが、果たしてどれ程上昇しておるのか確認してみるか。
どれ──
♦♦♦♦♦
名前:アリス
性別:女
年齢:252歳
種族:魔神アバドン
状態:祝福(神)
魔神気:喰らえば喰らうだけ無限に増える
魔神気量:1←new
魔力:魔神気からの変換
マナ:Sランクの魔物と同等←new
強度:駆け出しの冒険者並←new
権能:【冥獄】【天照(封)】【兇嵐(封)】【月輪(封)】【劫焰(封)】【大地(封)】【武神(封)】【神喰】
魔法:冥焉魔法 生命魔法 黒魔法 付与魔法 聖魔法 錬金魔法 輝煌魔法(封) 颶風魔法(封) 皇水魔法(封) 闇月魔法(封) 赫焰魔法(封) 崩土魔法(封)
技能:真贋一刀流剣術 アドレア式戦闘術 雷華流水拳 盾無双 鍵開け 罠技術 隠形術 暗殺術 仙流槍術 杖術 棒術 短剣術 身体強化 武神技(封) 悪食 食奪 食強化
異能:魔神眼 三種の魔神器 魔神化←new
♦♦♦♦♦
──なるほどのぅ。
駆け出しの冒険者並、か。
「どうやらわしの強さは、人間の少女並から駆け出しの冒険者並に上がったらしいわい。あまり変わらん気もするが、ま、少女よりは強くなったのじゃから良しとするのじゃ」
『それは良うございましたな。して、他に変わった所は?』
「うむ。他には『マナ』の項目と『魔神気量』の項目が増えた事と、そして、じゃ──【魔神化】っちゅうのがわしの新たな異能として増えとったわい」
そうなのじゃ。
マナと魔神気量の項目が増えたのは確かに分かる。
分かるのじゃが──何故に〈魔神化〉っちゅうのが増えたのかが分からん。
♦♦♦♦♦
・魔神化
魔神化とは、魔神アバドンとしての本来の姿へと変貌する事である。
どの形態になるかは、その時の魔神気の残量と強度によって変化する。
♦♦♦♦♦
脳内に浮かぶステイタスの〈魔神化〉の項目に意識を集中してみれば、以上の説明が出て来おった。
もしかしたらわし、怪獣か何かなのかの?
怪獣だとすれば、口から火とか吐けたりするんじゃろうか?
…………。
……いい。
何と素晴らしい事じゃろうか!
口から破壊光線を吐き出し、人間の都を蹂躙するわし。
…………。
堪らんのじゃ!
ゾクゾクするのじゃ!
今のわしの姿から怪獣になったしちゅえーしょんをちぃとばかし想像してみるのじゃ!
☆☆☆
「良くぞここまで辿り着いたと褒めてやるのじゃ、勇者よ。じゃが、人間の勇者如きがこの魔神アバドンであるわしに果たして本当に勝てるかのぅ?」
闇に沈みゆく世界にて、その中心となる死の都に在る魔神の神殿の闇の玉座に座りながら、数多の犠牲の上でここまで辿り着いた四人の人間にわしは問い掛けた。
漆黒の禍々しきローブに身を包み、血の様な真っ赤なワインが入った人間の頭骨で作った杯を右手に持ったわしは、左手で気だるげに頬杖をしつつも四人の人間達を睥睨する。
うむ、正に闇の魔神に相応しき堂々たるわしの姿よ。
「うるさい! 今すぐ人間の世界への侵攻を止めろ、アバドン! 今すぐ闇の軍勢を退かせるならば、俺たちもここで引き返そう。だが! もしもこっちの提案を断るならば──俺たちの命に代えてもお前を討つ!!」
「そうよ、魔神アバドン! 勇者リドルとこの私、聖女ベシャルが命を懸けてお前の野望を止めてみせるわ!」
四人の人間達の先頭に立つ二人の若い男女がわしに向かってそう吠えおる。
勇者は力強く握った右拳を顔の前に構えるポーズを取り、聖女は左手に持った聖なる長杖の先端をビシッとわしに向けながら。
「その方らは威勢が良いが、後ろの二人は尻込みしておるぞ? ん? 怖いのであろう、このわしが? ンク、ンク、ンク……ふぅ。人間の血で造ったワインの何と芳醇な事よ。この美味なるワインの為ならば、わしは世界を破壊し尽くす事も厭わん。────ともあれ、おぬし達の言い分は理解しておる。──じゃが、わしは退くつもりはないのじゃ──」
わしは右手のワインを飲み干し玉座から立ち上がると、頭骨の杯を勇者の足元へと投げ付ける。
勇者の足元で粉々に砕け散る頭骨の杯。
それを見届けた直後、わしは勇者達に向けて力強く宣言する。
「──わしを止めたくばわしを殺すがいい! じゃが、闇の魔神であるこのわしに勝てるとは思わん事じゃ!!」
右手人差し指をビシッと勇者に向けるわし。
うむ、決まった!
勇者達よりも数段高い位置にある玉座の前でわしは指差ししたまま胸を張り、顎を少しだけ上向きにする姿……【The・人を見下したポーズ】を更に追加する。
もちろん、口元には冷たい笑みを浮かべながら、じゃ。
「やはり俺たちの話を聞かないか……。止むを得ん! 覚悟しろ、闇の魔神アバドン! 行くぞ、みんな! 世界に平和を取り戻すんだ!!」
「ええ、リドル! 先ずは私の魔法で弱体化させるわ! ──『世界に満ちる精霊よ、我が声に耳を傾けよ。汝は光。汝は安らぎ。汝は癒し。今こそ世界を光で満たす時。その力を以て、闇の魔神たるアバドンを捉えよ! 〈ホーリーサークル〉!!』────今よ! バドライはリドルと共に前衛! マーハンは攻撃魔法で援護! 怪我の回復は私に任せて!!」
「「「おう!!!」」」
闇の玉座にてカッコ良いポーズを決めるわしに向けて、勇者達によるわしへの総攻撃が始まった。
聖女の弱体化結界から始まり、次いで戦士のバトルアックスによる大上段斬り。
いくら弱体化したとは言えわしは闇の魔神アバドン、戦士の隙だらけの攻撃は難無く避けるのじゃ。
しかし、戦士の攻撃を避けたわしに迫るは老賢者による無数の〈雷の矢〉。
それをあっさりと喰らってしまったわしは、続く勇者の聖剣による斬撃で左腕を肩から切り落とされてしまったのじゃ。
「今だ、バドライ! 大回転斬りだ!」
「おう! はぁあああ──ッ! 喰らえ、〈大回転斬り〉!!」
「キャアッ──ッ!!」
「ぐわぁああああッ!!」
更に追撃の手を止めない勇者は戦士に指示を出し、それによってわしはあえなく腰の辺りを両断されてしまう。
しかし、わしもただやられてばかりいる訳ではなかったのじゃ。
腰を両断されたのと同時、残っておった右手から放った〈闇の炎〉にて老賢者を仕留め、なおかつ聖女にも瀕死のダメージを与える事に成功しておったのじゃ。
ちなみに、悲鳴は聖女と老賢者のものじゃぞ?
ダメージを負ったとは言え、人間如きの攻撃でわしは悲鳴などあげんわい。
「ベシャル!? マーハン! くそ……ッ! だが、アバドンはバドライが仕留めた! これで世界は平和になったんだ!!」
老賢者が死に、聖女も重体な事に涙ながらに悔しがる勇者。
しかしそれもつかの間、わしを仕留めたと思うておる勇者は二人の犠牲を忘れないとばかりに平和を宣言しおった。
くくく。
わしはまだ死んでおらんと言うに、勇者の何と健気な事か。
堪らんのぅ、今すぐ喰らってしまいたいわい。
じゃが!
「勇者よ。わしを仕留めたと思うておる様じゃが、ほれ、わしはまだこの通りピンピンしておるぞ?」
「──ッ!? 何ッ!!」
左腕を肩から失い、腰より下も失っておったわしじゃが、膨大な魔神気にものを言わせ、それによってわしは宙に浮かび上がった。
「そして、わしをこの様な姿にまでしてくれおったおぬしらの功績を認め、褒美として、今こそわし本来の姿を現すとしよう。見よ! これがわしの正体じゃ!! ────ヌヌヌゥオオオオッ!!!」
「「──ッ!!」」
正体を現し始めたわしの体は失った左腕も両断された腰も元通りとなり、そして次第に巨大化し始める。
巨大化すると共に、絶世の美貌を誇った顔は口が裂けて鋭い牙が剥き出しとなり、頭には禍々しく捻れた角が四本生えてくる。
腕は肩の辺りから更に二本生えて四本となり、背中に六対の皮膜の羽が生え揃うと、皮膚の代わりに全身を漆黒の鱗が覆った。
闇の魔神アバドンの顕現である。
勇者達よりも小さかったわしの大きさは勇者達を遥かに超え、正体を現した今では5mを超える巨体となっておる。
胸?
それをわしに言わせる気か……
元より無かった……くッ!
……胸は筋肉の鎧へと変わっておる。
これで満足か!?
満足なのか!?
そんなわしの葛藤をよそに、わしの正体に怯んでおった勇者達はいつの間にか攻撃を始めておった。
勇者の〈ジャスティスブレイド〉を右肩で受け止め、戦士の〈大回転斬り〉を先程と同じく腰で受け止めるわし。
この闇の神殿に辿り着いた人間だけに、その威力は間違いなく世界最強クラスじゃろう。
じゃが──
『この姿になったわしに人間の攻撃は効かんわい! 〈インフェルノフレイム〉!』
「「グワァアアアアア……アアア……アア…………ァ…………」」
──第一右腕から放った〈地獄の炎〉によって、賢者の死体を含む勇者達全員があっさり消し炭となり、こうしてわしの邪魔をする者が居なくなった世界は呆気なくわしの物となるのじゃった。
~完~
☆☆☆
──うむ、最高にカッコ良いのぅ、わし!
正に闇の魔神に相応しき所業じゃ!
じゃが、〈魔神化〉についての妄想をしていたとは言え、果たしてわしの想像通りの姿になるのじゃろうか?
しかし試そうにも、どうやら魔神気の量が圧倒的に足りん様じゃ。
恐らくじゃが、最低でも魔神気を100くらい使いそうじゃわい。
……所で、魔神気の単位は何と言うのかのぅ?
魔神じゃから『MAJIN』の頭文字を取ってMかのぅ?
100M。
…………。
うむ、何か締まらんのじゃ。と言うか、これでは距離の単位と被っておる。
となれば、じゃ。Ωならばどうじゃろうか。
100Ω。
……微妙じゃな。しかも、これも電気抵抗の単位と被っておったわい。
とすると、魔とはデーモンじゃから、そこから取ってDかのぅ。
100D。
ううむ、何かが足りん。
100DP。
うむ、これじゃ!
これならしっくり来おるわい!
デーモンのDとポイントのP。合わせてDPじゃ!
しかし、わしだけで単位を決めてもステイタスには表示されんのであれば意味が無いのぅ。
一応じゃが、試しにステイタスを見てみるか。
♦♦♦♦♦
名前:アリス
性別:女
年齢:252歳
種族:魔神アバドン
状態:祝福(神)
魔神気:喰らえば喰らうだけ無限に増える
魔神気量:1DP←new
魔力:魔神気からの変換
マナ:Sランクの魔物と同等
強度:駆け出しの冒険者並
権能:【冥獄】【天照(封)】【兇嵐(封)】【月輪(封)】【劫焰(封)】【大地(封)】【武神(封)】【神喰】
魔法:冥焉魔法 生命魔法 黒魔法 付与魔法 聖魔法 錬金魔法 輝煌魔法(封) 颶風魔法(封) 皇水魔法(封) 闇月魔法(封) 赫焰魔法(封) 崩土魔法(封)
技能:真贋一刀流剣術 アドレア式戦闘術 雷華流水拳 盾無双 鍵開け 罠技術 隠形術 暗殺術 仙流槍術 杖術 棒術 短剣術 身体強化 武神技(封) 悪食 食奪 食強化
異能:魔神眼 三種の魔神器 魔神化
♦♦♦♦♦
──ッ!!
「喜べ、テレスや! わしの考えたDPという単位が何故かステイタスに表示されたのじゃ!!」
まさか、たった今考えたばかりの魔神気の単位がステイタスに表れるとは思わなんだ。
あまりの嬉しさに、気付けばわしはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねておったわい。
『何やら私には分かりませんが、それは良うございましたな、アリス様。所で、そろそろ先へと進みませんか? アリス様が実際に魔物を喰らって力に変える事が分かったのですから、途中で待ち構える魔物共を喰らいながらこのまま最奥まで進み、そしてこの【奈落】の主である【ケイオス】をも喰らってしまいましょう』
わしが飛び跳ねて喜んでる最中、テレスは乾燥してひび割れた顔に不敵な笑みを浮かべながら言う。
──ケイオス、じゃと?
テレスが主だと言うのじゃから、恐らくそのケイオスとやらがこの【奈落】に封印されておる堕ちた神なのであろう。
うむ、〈阿迦奢勾玉〉から齎されるわしの知識でもそう認識しておる。
ダンジョンとは確か、エデンで起きた神々の争いに負けた神がわしらが居るこのアースへと堕とされ、そして封印された場所に出来た迷宮の事じゃったな。
更に言うとじゃ、ダンジョンとは魔王が誕生する為の苗床という事が分かっておる。
何故に百年に一度なのか理由は知らんが、このアースのどこかのダンジョンにて魔王は必ず誕生するらしいわい。
そして魔王が誕生するプロセスじゃが、ダンジョンを踏破した者の中で封印された神に認められし者が新たな魔王となるそうじゃ。
何故に神が魔王を誕生させるかと言うとじゃな、これは〈阿迦奢勾玉〉からの知識によるものじゃが、【七大魔王の力を集めた者だけが強大な神の封印を解き、そして世界を思い通りにする事が出来る】という伝説に由来するものらしいのじゃ。
そして七大魔王にはそれぞれ七大罪の名が付けられており、【強欲】【嫉妬】【色欲】【怠惰】【暴食】【憤怒】【傲慢】が挙げられておる。
今挙げた七大罪の魔王以外にも魔王はダンジョンの数だけ存在するらしいのじゃが、とにかく七大罪の魔王が強大な神の封印を解く最有力候補とされておるらしいわい。
七大罪の魔王はともかく、魔王とは言え生まれたばかりでは大した力も無い為、いつもあっさりと勇者に討伐されて終わるらしいのじゃが、勇者から逃れて長い年月を生きた魔王は強大な力を持つまでに到るそうじゃ。
今まではそんな魔王はいなかったそうじゃが、もしも強大な力を持つに到った魔王が現れたのならば、その魔王はやがて七大魔王を狙い、ゆくゆくはその力をも得てしまうかもしれん。
そうなると、その魔王が誕生したダンジョンに封印されておった堕ちた神もかつての力を取り戻すじゃろうし、更には異次元に封印された強大な神の封印を解き放つかもしれん。
つまり、エデンの覇権を賭けた神々の戦争の幕開けじゃ。
まぁ、もしもそんな魔王が誕生するとしても、七大罪の魔王を全て倒して力を吸収するのに最低でも七百年以上はかかる上に、先ずは勇者をどうにかやり過ごさねばならん。
勇者とは、天上の神が施した堕ちた神の希望の芽を潰す為の対策であり、しかも勇者は魔王に必ず勝てる様になっておる様じゃ。
あっさりと勇者によって魔王が討たれるというのは、どうやらそういう事らしいわい。
ちなみにじゃが、堕とされた神の魔力があまりにも強過ぎるがゆえにダンジョンの壁や床、それに天井が仄かに光るらしいぞ?
そしてその強過ぎる魔力は時に次元の壁を超えるらしく、中には迷宮の中に自然界を取り込んだダンジョンもあるのじゃとか。
わしはこの【奈落】しかダンジョンは知らぬゆえ、いずれは他のダンジョンにも訪れてみたいものじゃな。
──と、話が逸れたわい。
ケイオスの事じゃったな。
先ずは未だ出しっぱなしにしておった〈災禍血霧鎌〉と〈虚無鏡〉をしまうとするか。
わしは右腕を〈災禍血霧鎌〉にて深く切り裂く。
不思議と血も噴き出ずにぱっくりと口を開ける右腕。
すると、〈災禍血霧鎌〉と〈虚無鏡〉はわしの思念を汲み取り漆黒の骨と血へと戻ると、右腕に出来た傷へと吸い込まれていく。
全ての血と骨が右腕の中へと吸い込まれた所で、わしの右腕の傷は瞬く間に復元したのじゃ。
うむ、一瞬で傷が復元するとはさすがは魔神アバドンたるわしの身体よ。
これなら余程の事がない限りは死ぬ事もないじゃろう。
さて。
「先に進むのは良いのじゃが、テレスよ。そのケイオスとか言う奴の前にはどれだけの魔物がおるのじゃ? その数と魔物の強さによってはいくらこのわしとてケイオスっちゅう神を喰らうには力不足じゃぞ?」
『そうですな。私が調べた所、この先は全て一本道となってまして、このスカルケルベロスの間の様な広間が十個程あります。そしてスカルケルベロスの次は【スカルゴブリンキング】が待ち受けており、その次は──』
ううむ、わしから尋ねておいてなんじゃが、テレスの話は長くて堪らんわい。
もそっと要点だけを上手く纏める事は出来んものじゃろうか。
ともあれテレスの話によると、この先にある十の広間にはそれぞれ強力な魔物が待ち受けておるとの事じゃ。
出て来る魔物は【スカルゴブリンキング】に始まり、【スカルオークキング】【スカルトロルキング】【スカルオーガキング】【スカルアークデーモン】【スカルワイバーン】【スカルグランドドラゴン】【スカルグリフォン】【スカルエンシェントドラゴン】【スカルエンシェントジャイアント】の順らしいわい。
こうして順に種族名を挙げてみると、どいつもこいつも頭にスカルという文字が付きおる。
つまり、この【奈落】っちゅうダンジョンはアンデッド系ダンジョンっちゅう事じゃな。
……ケイオスっちゅう神は余程アンデッドが好きなんじゃろうか?
しかも骨ばかりとは、趣味が悪いわい。
それに、ここが一番大事な所じゃから声を大にして言うが、これでは生き物を喰らう中で一番美味いはずの肉が喰えんではないか!
骨ばかり喰らうのは嫌じゃ!
わしは肉が喰いたいのじゃ!
ま、まぁ、わしも生まれたばかりとは言え252歳のよい大人じゃ、わがままは言うまい。
……と、そろそろテレスの話も終わりそうじゃな。
『──でして、最後は原初の巨人がアンデッド化した事によってより強くなったスカルエンシェントジャイアントが待ち構えております。そうして、その全てを超えた先に目的のケイオスが封印されているのです。ちなみに、何故私がそこまでの事を知ってるかと申しますと、気配を消す結界魔法を自らにかけまして、それでこっそりと調べたのです。戦えばスカルグリフォンまでならば勝てそうですが、リッチであるとは言えさすがの私も連戦に次ぐ連戦の末、スカルエンシェントドラゴンやスカルエンシェントジャイアントを相手にアリス様を勝たせる事は難しいでしょう。この先は魔力も回復しませんし、言うなればケイオス以外の魔物は魔王アバドンが誕生した際の糧として配置されているので、魔王アバドン以上の存在でなければ抜けられない様に出来ているのです。という訳で、アリス様をサポート出来るのはあと二広間が限界です。あとはアリス様お一人で突破して下さい』
「うむ、分かったのじゃ! ……って、何じゃと!? あと二広間っちゅう事は、スカルゴブリンキングとスカルオークキングまでしかサポートを期待出来んっちゅう事か!?」
『その通りでございます、アリス様。なので、スカルオークキングをアリス様が喰らった時点で私は魔神の間……おっと、今はアリス様の闇の神殿でしたな。闇の神殿にて私はアリス様の帰りをお待ちしております』
何という事じゃ。
最後までテレスのサポート頼りで行こうと思うておったのに、まさかまさかのわし一人での突貫とは。
いくら喰らえば喰らうだけ魔神気が増えて強くなるとは言え、さすがにそれは無理があろうと言うものじゃないか、テレスよ?
「もうちぃとだけ着いて来てはくれまいか? のぅ、テレスや……?」
上目遣いでテレスを見やるわし。
更に小首を傾げてみるのじゃ。
どうかの?
やはりダメかのぅ?
『……仕方ありませんね。ですが! そうなりますと私のサポートは次のスカルゴブリンキングまでとなりますな。何故かと言えば、そこから先は私自身に気配遮断の結界魔法を掛ける為です。どうしますか? それでも構わないと言うならば、私はアリス様と共にケイオスの所まで行きましょう。決めるのはアリス様です、ご決断を』
「それで構わんから着いてきて欲しいのじゃ、テレスや。…………一人は寂しいのじゃぁ……」
『分かりました、お供しましょう。何より私はアリス様が第一の臣下にして不死の王リッチ。たかがスカル系の魔物に恐れ慄くなどリッチの名に恥じる行為……! という事で、スカルゴブリンキング以降はアリス様お一人での戦闘を頑張って下さい』
「おお、そうか! それで構わぬ! 最後までよろしくの、テレスや!」
何とかテレスの説得に成功したわしはスカルケルベロスの間の奥にある扉に向かい、機嫌良く手を触れながら『開け』と呟き開ける。
うむ、やはり言葉だけで開く扉は楽じゃ。
全ての扉がこうであれば良いのにとつくづく思うわい。
ちなみにじゃが、スカルケルベロスの間の入口の扉はスカルケルベロスとの戦闘中は確と閉じておった。
一つ一つの広間における魔物との戦闘は、入った者が逃げられない様に扉が閉まる様に出来ておるみたいじゃな。
どうやらこれは、ダンジョンの維持や成長に関わる事らしいわい。
もしも扉が閉まらずに開きっぱなしならば、侵入者はいつでも逃げる事が可能となり、そうなるとダンジョンが成長する為に必要なエネルギー、つまり侵入者の命を奪う事が出来なくなってしまうのじゃ。
それを避ける為に扉が閉まる様にしたのじゃろうな、ダンジョンに封印されておる堕ちた神は。
いくら堕ちた神とは言え、いくら強力過ぎる魔力を持ってるとは言え、それだけでダンジョンを成長させたり維持するのはきっと至難の業なのじゃろう。
それを考えれば、広間の扉が閉まる事にも納得じゃな。
ちなみにこれも〈阿迦奢勾玉〉からの知識じゃぞ?
生まれたばかりのわしにそんな知識がある訳ないじゃろう。
『ふむ、扉に彫られた額に一本角の大きな人型。以前と変わらず、スカルゴブリンキングで間違いなさそうですな』
スカルケルベロスの間から仄かに光る通路を進み、およそ半日程歩いてスカルゴブリンキングの間の扉の前に辿り着いたわしら。
うむ、考え事をしておると時間の経過があっという間じゃの。
それに、スカルケルベロスで満足した腹も落ち着いた様じゃ。
これならばスカルゴブリンキングを喰らっても太る事はあるまい。安心じゃの。
「額に一本角はゴブリンの特徴じゃったかの、テレスや?」
わしに〈阿迦奢勾玉〉によって齎される知識にもゴブリンの特徴は額の一本角とあるが、念の為にテレスにも聞いておくのじゃ。
生まれたばかりのわしとは違い、テレスは二千年以上は生きておる。
……まぁ最上級アンデッドたるリッチが生きてるかどうかは知らんがの。
ともあれ、正に生き字引たるテレスに訊けば大概の事は分かるはずじゃ。
このアースにおいて、テレスの知らん事は殆どあるまいて。
『そうですな。ゴブリンの種族は【小鬼種】となってますので、額の小さな一本角は正に小鬼種の特徴と言えましょう』
ゴブリンの特徴についてのわしの確認に頷くテレス。
うむ、やはりテレスに訊けば間違いないのじゃ。
じゃが結局の所、ゴブリンの特徴をテレスに確認したとて、ゴブリンだろうがスカルゴブリンキングだろうが、わしの喰らう糧になる以外に道はあるまい。
となれば、さっさとこの扉を開けて中に進むとするのじゃ。
「なるほどの。まぁそれは良いわい。……『開け』! ────ッ!? 何と! スカルゴブリンキングとやらは何故か跪いておるぞ!?」
スカルゴブリンキングの間の扉を開けて中に入ってみれば、何と、スカルゴブリンキングと思われる額に短い一本角の生えた2mを超えた体躯のスケルトンはこちら側に向けて跪いておった。
広間の中央にて片膝を地に着き頭を垂れるスカルゴブリンキング。
その姿はまるで、王に仕える騎士のごとくであったのじゃ。
『これは……? ──ッ!! アリス様! もしかするとですが、この先ケイオスがいる所までの戦闘は回避出来るやもしれませんぞ!』
「何じゃと!? しかし、何故にテレスはそう思うのじゃ? ただ単に跪いておるだけやもしれんぞ、この骨ゴブリンは。わしの納得する理由があるなら聞くが、はよう言わんと扉が閉まって強制戦闘が始まるぞ?」
わしの後に続いてスカルゴブリンキングの間に入ったテレスの言葉に、わしは驚く。
ケイオスとやらがおる所までにある広間は、言うなればケイオスを守る為の砦の様なもの。
ケイオス側からしてみれば、そこに踏み入るわしらとの戦闘は不可避なはずじゃ。
じゃが、もしかするとテレスの言う事も本当の事かもしれん。
現にスカルケルベロスの間に入った時の事を思い返してみるとじゃ、スカルケルベロスめはテレスの魔法を受けるまでじっと伏せておった。
……まるで、わしに喰われるのを待つがごとくに、じゃ。
その事を踏まえ、わしはスカルゴブリンキングを凝視する。
それも、少しずつスカルゴブリンキングへと近付きながら、じゃ。
「ううむ、わしが近付いても微動だにせんとは……! テレスの言の信憑性が増すというものじゃな」
『やはり、ですな。先程と……と申しましてもアリス様がスカルケルベロスを喰らった後の頃なので既に数時間前ですが、その時に私が説明した事の中に『ケイオス以外の魔物は魔王アバドンが誕生した際の糧として配置されている』とあったのをアリス様は覚えてますか? つまりはそういう事なのでしょう。スカルケルベロスを含め、この先に待ち受ける魔物は全てアリス様への供物──それらをアリス様は喰らって力を得よ、という事でしょう』
わしの後に着いてスカルゴブリンキングへと近付いていたテレスが先程のわしの質問に答える。
わしが先にスカルゴブリンキングに近付いたとは言え、主君であるわしの後ろにおるとは言語道断。
もしもスカルゴブリンキングがいきなり襲い掛かって来たならばどうするつもりじゃ!?
びっくりして泣くぞ、わし!?
……ともあれテレスの言う様に、どうやらスカルゴブリンキングを含め、この先で待ち構えておる魔物どもはわしの糧となる為に待ち受けておる可能性が高い事が分かったのじゃ。
ならば喰らう事に否やは無い。
わしの性別は女じゃが、据え膳食わぬは男の恥という言葉もあるくらいじゃし、喰って力を得よと言うのならばわしは喰らうだけじゃ。
「うむ、どうやらテレスの言う通りの様じゃ。ならば喰らうとするかの。……と、その前に、スカルケルベロスにて試せなかった〈災禍血霧鎌〉の検証をするかの。結局、スカルケルベロス戦では顕現させるだけしかせなんだし。──出よ、〈災禍血霧鎌〉よ!」
わしの言葉と共に顕現する〈災禍血霧鎌〉。
右腕より噴出した血液と漆黒の骨により形成された魔神の鎌が瞬時にわしの右手の中に収まる。
うむ、二回目ともなれば顕現する際の神経を抉る激痛も気にはならんの。
わしは魔神の鎌の感触を確かめる様に、その場でくるりと宙を一閃してみせた。
『そう言われてみれば、確かに鎌の検証はしませんでしたな。鏡の検証は結果として見事にこなしてましたが。ともあれ、私は後ろに下がってましょう。万が一アリス様の手元が狂い、それで私の身体で検証されたら嫌ですので』
「……着いて来てくれと懇願したのはわしじゃが、ちょいちょい小言を言う様になったのぅ、テレスや。まぁええわい。────スカルゴブリンキングよ、そなたのその姿、わしは忘れはせん。そしてわしの糧となり、わしの中にて世界の併呑を見ておるが良い! ──はぁあああッ!!」
テレスが後ろに下がるのを確認したわしは、〈災禍血霧鎌〉を両手で持つなりスカルゴブリンキングへ向けてくるりと一閃する。
わしの糧になる為に跪いておるスカルゴブリンキングの身体を、正中線に沿ってわしは難なく両断したのじゃ。
スカルゴブリンキングを両断した後、その場で残心するわし。
うむ、手に微塵も衝撃を感じず両断する〈災禍血霧鎌〉の何という切れ味よ。
正に魔神アバドンたるわしに相応しき武器と言えよう。
わしの魔神の鎌にて両断されたスカルゴブリンキングは跪いた姿勢のまま黒銀色に光る粒子となり、〈災禍血霧鎌〉の巨大な刃へと吸い込まれていく。
これでは魔神気でスカルゴブリンキングを喰えないではないかと思うておると、どうやらそれはわしの杞憂であったらしい。
魔神の鎌の長柄を持つわしの手へと伝わり、やがて魔神の鎌が吸い込んだスカルゴブリンキングの力がわしの身体に流れ込んで来おったわい。
「うむ、どうやらわしは〈災禍血霧鎌〉でも喰らえるみたいじゃな。確と腹も膨れおったし、力の上昇も感じるわい。少しの食休みをしたら直ぐに次へと向かうとするのじゃ」
『それは良うございましたな、アリス様。しかしこれで確定しましたな────この先で待ち構える魔物は全てアリス様への供物であると。スカルケルベロスが攻撃してきたのは、間違いなく私が結界魔法による攻撃をしたからなのでしょうな。ともあれ、これでケイオスの所まで安心してお供出来るという事です』
「気負っておった分戦闘が無いのは拍子抜けじゃが、それよりもこうしてテレスと話しながら進めるというのはわしとしても心強い。この先も頼むぞ、テレスや」
『ええ、お任せ下さいアリス様。それではそろそろ出発しましょうか』
「ぬ!? ま、まだ食休みを始めたばっかじゃぞ!? もう行くと申すのか!?」
『ええ。次のスカルオークキングの間まで三時間から四時間程かかると考えると、アリス様のお腹の具合いも落ち着く事でしょう。なれば、むしろ歩いた方が身体の為には良いかと私は愚考しますな』
「ぬう……! わ、分かったのじゃ! ならば行くとするのじゃ。テレスよ、ついてまいれ!」
『ほっほっほ、さすがアリス様ですな。喜んでお供致しましょう』
テレスに促されるままわしは立ち上がると、〈災禍血霧鎌〉を右腕から身体へとしまう。
顕現させた時と同様、やはり二回目となると痛みにも慣れるし、その速度も増しておる。
この先で待ち受けておる魔物の内何体かを魔神の鎌にて喰らえば、それこそ瞬時に顕現させる事も可能となろう。
くっくっく。
その頃には間違いなく〈魔神化〉する事も出来るじゃろうし、スカルエンシェントジャイアントまで喰らい終わった時が楽しみじゃわい。
『何やらソワソワしてますが、用を足すならば隅の方でお願いしますよ、アリス様』
「違うわッ! ……じゃが、念の為に花摘みに行ってくるとするのじゃ。覗くでないぞ、テレスや?」
『…………もちろんですな』
「何じゃ、今の間は!?」
『……いえ、お気になさらずに』
……少し締まらんが、ともあれわしが用を足し終えた後、テレスと二人で次なるスカルオークキングの間へと向かうのじゃった。
そうそう、これだけは確と言うておくが…………拭いたからの?
女の子として当然じゃ!
お読み下さり、ありがとうございます!(´▽`)




