スノードロップの月姫
むかーしむかし、それはとある世界のお話。
そこでは天上界と地上界の二つが共存して暮らしていてね、
天上界の人間は、皆揃って天候を操るそれは何とも不思議な力を持っていたが人口が少なくて、
代わって地上界の人間は不思議な力はないけど人口がとても多いんだと。
天上界は不思議な力、地上界は労働力を差し出し対等であったのにその性質からか、
いつしか地上界の人間は自界に降り立った天上界の人間を御使様と呼び崇め始め、地上界の人間は自界の王よりも彼等を慕う者の方が多くなってしまったそうな。
これは不味いと自界の王、レイニードは天上界の人間を嫁に娶ることにしたんだって。
天上界の未婚女性を王城に招待した舞踏会からこのお話は始まるの。
「何と見目麗しいお姿、巷では月姫と呼ばれていると、その名に相応しい美しさだ。その慈愛に満ちた瞳で、愚かにも貴女に惹かれる哀れなこの男を映し出してはくれぬだろうか」
「まあ、そのようなこと、身に余る光栄にございます。お目汚し失礼致しますわ。私の名はプリティアと申します。お見知り置き下さればそれ以上の喜びはございません」
「おお、貴女は声まで美しいとは、これからは天上の月を想わずに眠る夜はないと約束しよう」
一目惚れしたレイニードは月姫との婚約の手続きを進めるよう臣下に言い付ける。
だがしかし、何の手違いか運命の悪戯か、プリティアには双子の姉がおり、そちらとの婚約が推し進められてしまった。
「どういう訳だ!姉は月を欠けらす影と言うではないか!その姿は冷淡を絵に描き麗しいプリティアとは真逆であろう!力だけは凄まじいゆえ無下には出来まい。知っているか?先日の暴風雨による河川の反乱はあの姉がもたらしたもの。晴天を祈ったプリティアは忌々しい姉に妨害され、一人悔恨の涙であの柔らかい頬を濡らしていたのだ」
レイニードはプリティアとの密会を重ねた。
「私のこの眼もこの心も全てを既に月に捧げている。もうしばらく耐えてほしい。必ず迎えに行く」
「きっと必ず、お待ち申し上げております」
そうしてレイニードは姉アーネストの罪状を数え告発した。
「月姫様のお陰で今年も豊作じゃあ。月姫様をお選びになったレイニード王には感謝してもしきれぬ」
「ああそうだ、そうだ。月に影なんていらねえ。ずっとまん丸の方が夜道が見えるってもんだ。天上界の人間とはいえ性悪は消えちまえばいい!」
「そうだ、そうだ!アーネストなんていたら今頃は酷い有り様になっていたに違いねえ!」
「そうだ、そうだ!最初の婚約だって、アーネストが仕組んだことだ!レイニード王が妹に惚れたからって気に入らなくてやったんだ!」
「そうだ、そうだ!あんな奴はいなくなって当然だ!」
アーネストは牢に繋がれ、レイニードとプリティアは天上界と地上界から称賛され仲睦まじく世を治めたとさ。
おしまい。