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町民との出逢い

「街は素敵なところだね、とても賑やかで皆んな生き生きしてる」


見た事のない街並みや人々の表情、耳にした事のない言葉遣いや何の音か分からない騒音が物珍しくてとても愉快だ。


まだ万有通りの5分の1も回れてないだろうというのに私とネロは慣れない人混みの中で歩き続けてクタクタになった。


休憩もしたいが通りから少しも離れなくないので、結局最近流行っているらしいテラス席のあるカフェに寄ることにした。




混雑する時間帯から外れているからか待つ事なくすんなりと入店できた。


「わあ、これは凄いね」


入るなりずらりと並ぶ彩り豊かなケーキに迎えられその数に圧倒されてしまった。


ショーケースの奥には店員がおり、その場で注文と会計をした後好きな席につくシステムのようだ。


一番人気だという好きなケーキ1つと紅茶のセットを頼む事にしたものの何を基準にどのケーキを選べばいいか分からない。



「ネロはもう決めた?」


「まだです。3つまでは候補を絞ったんですけど…どれも美味しそうで悩んでしまいます」


「その内の1つは僕が選ぶよ。もう1つも別で注文すればいいさ」



「お兄さん達ここいらじゃあ見ない顔だねえ、他所からデートで来たのかい?」


私達の向かい側で注文を待っている恰幅のいい女性が話しかけてきた。


「これだけ多くの人が行き交っているのによく分かりましたね、僕達は親父達の行商に付いてきてこの街には初めて来ましたが予想以上に繁盛していて驚きましたよ」


「そらお兄さんみたいなイケメン見てたら忘れないよ!そうだろ、そうだろ。ここら辺は治安も良いからね、夜中だって開けてるところもあるくらいさね。時間があるならゆっくりしてきな」


小声で、サービスだよ、お茶目にウインクを飛ばしてクッキーを付けてくれた。


「ああ、そうそう。余計かも知れないけど、ここから南の方にあるプラン地区へ行くつもりがあるなら気を付けなね。あそこは良くない話を聞くからね、昔はここにも負けないくらい良い所だったんだけどね」


「分かりました、気を付けるようにします。色々とありがとうございます、助かりました」


軽く会釈をし空いているテラス席に腰を掛ける。




テーブルは小さめで向かい合って座るとお互いの膝が触れた。


「アーサー様とこうしてお食事出来るなんて夢のようです。何かバチが当たらないでしょうか」


普段は貴族令嬢とその侍女が食卓を囲む事はない。



失念していた。


何年も一緒に過ごして血の繋がった家族以上に仲が良いにも関わらず、一度の食事すら共にした事もなかったとは。



「これからは一緒に摂ろうか」


「よろしいのですか?今日はとっても幸せな日です」



こうして時間外れのティータイムが始まった。






美味しいケーキと紅茶に舌鼓を打ち私達は通りの散策を再開した。



すると、少し歩いたところで近くの路地裏から言い争うような声が聞こえた。

通りから一本外れただけでそこは薄暗く日当たりが悪いように思う。


足を止めて訝しむように声の主を目で探すと姿は見えないがまた声が届いた。 


「止めて!止めてください!」


「何言ってやがる、こういうのが好きなんだろ?この阿婆擦れが!」



襲われている女性がいる!

急いで声の方へ走るとそこには暴漢らしき男が1人、右手は女性の手首を掴み壁に押し当て、左手は胸元部分が少し大きく開いた衣類に伸ばし恥辱を味わせんとしていた。


「イヤー!誰かー!」


「そこのお前!何をしている!手を離せ!」



咄嗟に二人の間に割り込み男を突き飛ばした。


昼間から酒の臭いを漂わせた男は大袈裟にヨロついて地面に尻餅をついた。


「な、なんなんだテメェ!引っ込んでろ!そ、その女から誘ってきたんだぜ」 


「そんな訳ないじゃない!助けて!!」


女性は私に飛び付いて震えながら涙を流している。

私は護身用に提げていた短剣を抜き男の顔面に切先を向けた。



「二度とこんなマネするな」


ヒェッとマヌケな声を上げた男はすぐさま切先から逃れるように立ち上がりフラつきの残る足取りで走り去った。






「大丈夫か?」


「はい…」


「どうしてこんな事が起きたか、聞いてもいい?」


「はい…。お芝居を観に行こうと思ってて、いつもここ通ってるから、今日も通ってたらいきなり後ろから右手の手首をガッシリ掴まれて引っ張られて痛くて、そのままずっと離してくれなくて大声出したんです。あっ!私ミアって言います!ミアって呼んでください。助けてくれてありがとうございました!」



襲われたショックからかまだ頭がごちゃごちゃになってしまっているようだ。


聞くところ、ミアはここからさほど遠くない飯屋で給仕の仕事をしているらしい。




親はおらず飯屋の店主が親代わりでとても優しいのだと、あまり知性は感じられないが一生懸命に伝えようとする姿からは好感が持てる。


特に店主の話になってからは先ほどまでの泣き顔から打って変わって笑顔になっている。


その奔放さにはどこか既視感があった。


「あっ!私、お芝居観に行くんです。一緒に行きませんか?3枚ありますよ!友達が来れなくなっちゃったんで。スゴイ今人気のお芝居ですよ。助けてくれたお礼です」


ホラッとポケットからチケットを取り出した。


演目は「スノードロップの月姫」ミア曰く王都内の女性は皆観たことがあるとの事。


「今日はまだ万有通りも全然見ていませんし、観劇はまた今度に致しませんか?」


今まで黙っていたネロが何か言い淀んだ顔をしている。

何か思うところがあるのだろう。


「そうだね、別にお礼はいいから楽しんでおいで」


「そんなあ!私、お芝居好きでよく観に行くんですけど、だから空席作りたくないんですよ!役者さんもスゴイ頑張ってるのに席ポッカリ空いてたらガッカリじゃないですか。万有通りはいつでもやってますけどお芝居は次やってないかもしれないですよ。それに今日出逢えたのは運命のお導きですよ!行きましょう」





半ば強引に押し切られ、我々3人は観劇の会場へと足を運んだ。


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