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魔法少女はもういない だから怪獣たちがそこにいる  作者: ヤイテ タベル
1.怪獣蠢く終末世界
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06.白々しい朝がきた

空が白けてきたようだ。


眠気眼でぼーっと空を眺めていたら、視界の片隅が淡く明るくなっている。しばらくしたら朝日が昇ってくるだろう。ちちちと小鳥のさえずりが聞こえた。早起きの動物たちは動き出している。


なんだか心地がいい。もう少しここでのんびりしておこうかな。僕は夢うつつにそんなことを考えていた。


──いや、何か大切なことを忘れている気がする。


昨日僕は何かを約束していたはずだ。何だっけ? 魔法少女がどうだとか、救出作戦がどうだとか、作戦決行は夜中にどうだとか……。


「しまった! 寝過ごした!」

「シー、静かにして」


意識が覚醒して目をカッと見開いたら、その先には眼鏡を掛けた女性の顔があった。


「さささきさん……」

「病院の前に居るのよ、大きな声を出すと怪獣たちに気付かれるわ」


さささきさんが指差す先には僕らが目指していた病院があった。周りを見渡してみれば放置された自動車が並んでいる。どうやらここは病院の入り口前の駐車場のようだ。


「ご、ごめんなさい。……もしかして作戦って終わっちゃいました?」

「大丈夫よ、まだ始まってないわ。──()()()()()()()()

「あー、良かった。すみません。いつの間にか眠ってたみたいで……。でももうすぐ夜が明けますよ。間に合いますか?」

「ええ、大丈夫。本当の作戦は夜明けにと同時に開始するつもりだったの」

「え、そうだったんですか? 何か変更があったんですか?」

「そうね。今から説明するわ」


さささきさんは立ち上がると同時に僕の頭を優しく地面に下した。どうやら僕はさささきさんに膝枕をしてもらっていたようだ。どうりで寝心地がいいわけだ。


さささきさんは近場に置いてあったカバンからある物を取り出す。


「まずこの目覚まし時計ね。日の出と同時にベルが鳴る設定にしているわ。──今から十分後ね」

「なるほど」

「これを今から私があの病院の入り口の傍に置いてくる」

「そんな、一人で大丈夫ですか?」

「平気よ。これでも特殊な訓練を受けていたから、それなりに動けるの」

「あれ? さささきさんって秘書でしょう?」

「私そんなこと一言もいってないわ。私はユグドラシルの実行部隊員よ」

「え、そうだったんですか!」

「時間が無いの、話を続けるわ。ここから貴方達の出番だからよく聞いて頂戴」

「あ、ごめんなさい」


さささきさんは気を取り直して話を続ける。


「今から十分後にこの目覚まし時計のベルが鳴る。そうしたら怪獣たちは一斉に動き出す。その間あなた達にはこの場に残って囮になってほしいの。その間に私たちは病院へ突入するわ!」


なるほど、そういうことか! ──いや、作戦の内容を理解したというか、今の僕の状況をようやく理解できのだ。


「だから僕たち両手と両脚を縛られているんですね……」


僕の足は結束バンドで縛られていて、後ろ手にも縛られている。僕が寝そべる傍らには同じような格好でオーガさんがすやすやと寝息を立てていた。


そして今更ながら思い出した。僕らは昨晩に彼女に一服盛られたのだった。


「そういうことよ。──それとこれ」

「あっ! 返してください!」


さささきさんは、僕の大切な魔法少女のキーホルダーを手にしていた。流石に頭に来そうになったが、さささきさんはすぐに僕の胸元のポケットに戻す。


「大切にしてくれて嬉しいわ。ありがとうを伝えたくて」

「へん。そうですか……」

「じゃあ、後はよろしくね。頑張って!」


さささきさんは去り際に僕に近寄りほっぺにキスをしたけど、ちっとも嬉しくない。そしてそのまま彼女は素人とは思えない素早い身のこなしで姿を消した。


──秘書じゃなくて、本当に実行部隊の人だったんだなあ……。


なんて、呑気にしている暇はない! 僕は芋虫のように這いずってオーガさんに近づいた。


「オーガさん! オーガさん! 起きてください! やばいです、まずいですよ!」

「──んあ、何だ? なんだここ、あれ、俺いつのまに……、あれ、腕が動かねえ!」


目を覚ましたオーガさんは、両手両足を縛られて地面でもがいていた。


「僕たちあいつらに騙されたんです!」

「はあ?」


目覚めると同時にそう言われても理解が追いつかないだろう。


「睡眠薬で眠らされて、目覚ましのベルが鳴ると、──ああ! 時間がありません!」


僕の説明もずさんなものだった。


「何だか良く分からないが、あの女だな!」


理解が早くて助かります!


「そうです。僕たち囮にされたんです。あと十分したら怪獣が動き出します。その前に早く逃げないと!」


オーガさんは縛られていながらも強引に立ち上がろうとする。だが流石に倒れ込む。


「あー、クソッ、なんだ、縛られているのか?」

「結束バンドみたいです!」


オーガさんも僕と同様に結束バンドで縛られている。恐らくプロの手際だろう。そうやすやすと抜け出せるような縛り方をしていなかった。


「刃物持ってるか!?」

「分からないです。取られたかも……」


自分のポケットを探ろうにも手を動かせる状態では無かった。それにそんなもの持たせてくれている訳がないだろう。


「ぐぬおおおおっ……」

「だ、大丈夫ですか!」


オーガさんは力技で結束バンドを引き千切ろうとしていた。結束バンドが腕に食い込み血が滲んでいる。


「だめだ、力が出ねえ……」


薬がまだ体に残っているのか、オーガさんでも引き千切ることが出来なかった。


「そうだ、オーガさん、僕の方に足を向けてください!」

「え、どうするんだ?」

「歯で噛み切ります!」

「名案だ、頼む!」


オーガさんは僕に向けて足を差し出す。僕はそれに文字通り食い付いた。


「ウガガガガガガ!」


前歯で結束バンドをぎりぎりと噛り付いて、オーガさんもそれに合わせて引き千切ろうと力を入れる。──するとプチンとうまい具合に結束バンドが切れた。


「よっしゃ、切れた! 手も頼む、コエンマくんを担ぐから」


今度は寝転がり背を向けた。手元の結束バンドに先ほどと同じく噛り付く。


「ガウガガガガガ!」


同様にして手元の結束バンドを噛み切ると、オーガさんは瞬時に立ち上がり僕を軽々と担ぎ上げた。


「よし、逃げるぞ!」

「あ、待ってください。病院前に目覚まし時計があるはずです。ベルを止めておきましょう!」

「──ったく! 面倒な真似をしてくれるな、あの女!」


オーガさんは僕を地面に置いて「じっとしてろよ」と忠告してから病院入り口へ駆けだした。


その間も僕は一人で拘束を解こうとしていたが、その間もなく、早くも目覚まし時計は見つかったか、すぐにオーガさんは戻ってくる。


ただ、首をかしげて目覚まし時計をいじくり倒していた。


「も、持ってきたんですか?」

「……止め方が分からん」

「裏にスイッチないですか?」

「それが良く分かんないだよ」

「電池抜いちゃいましょう」

「そうだな……」


目覚まし時計の裏蓋を外して電池を抜き出そうとした。


──ジリッ!


一瞬だけだがベルが鳴った。


「び、びっくりした……」

「気づかれたか?」


恐る恐る病院を伺ってみたが、怪獣たちが動き出す様子は無かった。


「大丈夫みたいだな……」


ひと息ついて、オーガさんは胸元から折り畳みのナイフを取り出した。


「あれ、ナイフあったんですか?」

「ポケットに入ってた。あいつらもチェックが甘いな」


僕の手足の結束バンドをすんなりナイフで切り落とす。当然だけど前歯でぎりぎりやるより早かった。なんて余計なことを考えている暇はない。一刻も早くこの場から逃げないと。


「よし、逃げ────」


──ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!


そうこうしていると、至る所からけたたましいベル音が響いた。


「目覚ましは止めたはずだぞ!」

「他にも隠してあったんだ!」


僕らは慌てて駆け出そうとするが、けたたましい目覚ましの音を遮るように、今度は、ドスン、ドスン、と地響きを感じた。血の気が引いて身体が上手いこと動かない。


遠くからみたら熊や猪くらいの大きさに見えるけど、近くでみたらこんなにも大きいんだな。


病院から黒くて丸いスライムみたいな大きな物体が飛び出している。それも一体や二体ではない。視界いっぱいにそれが蠢いている。


お日様の光が射し込んで奴らの全貌を露わになる。


黒くて丸いスライムみたいな大きな物体からにょきにょき目玉が出て来た。ふっくらした分厚い唇の間には整った前歯が並んでいる。陽射しを浴びて背伸びをするように蜘蛛みたいな手足がにょきにょき生えた。


「──あ、やばい」


ここで僕はあの三人組の作戦内容をようやく理解した。


僕らが逃げ出すのも織り込み済み。逃げ出せばそれを怪獣が追うのも当然だ。怪獣たちを病院からとにかく引き離すのが奴らの狙いだったようだ。


「走るぞ!」

「ギャアアアッ!」


僕らはヤツらの思惑どおり作戦を開始した。


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