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魔法少女はもういない だから怪獣たちがそこにいる  作者: ヤイテ タベル
0.およそ四年前
1/8

00.四人の魔法少女

それは僕がまだ中学生をしていた頃にさかのぼる。


小円間(こえんま)くん。今日の放課後時間ある?」

「大丈夫だよ。──でも、どうしたの? 急に」


通勤や通学の人が混みあう駅前で、春風(はるかぜ)さんが急にかしこまった様子で僕に尋ねてきた。


「ううん、別に。ちょっと話したいことがあって……」

「それなら今でも時間はあるよ。──なんだい?」

「今はちょっと……、その、大事な話だか──」


春風さんは言い切る前に言葉を止めた。


急に何事だろうかと思えば、春風さんは険しい顔つきで空を見上げる。僕も彼女の視線の先を追ってみた。


「な、なんだ、あれ!」

「──え! 見えてるの?」


僕は目を疑った。そこには高層ビル程の背丈もある巨大な化け物がいたのだ。


──化け物だああ!

──きゃあああ、助けてえ!


音も無く突如として現れた巨大な怪物に辺りは騒然とする。手にしていたカバンなどを放り出し、蜘蛛の子を散らすように人々は逃げ惑う。


「は、春風さん!」

「小円間くん!」


人の波に呑まれて、僕らは離れ離れとなった。


巨大な化け物は地上で這いずり回る人間などには目もくれず、悠然と歩みを進める。一歩、一歩、踏み出す度に大地を揺るがし、それに足を取られた人間たちは為す術も無く踏みつぶされる。


阿鼻叫喚の地獄絵図、テレビや映画の出来事が現実に起こったのだ。


──た、助けてくれえ……。

──痛いよ、苦しいよお。


絶望に打ちひしがれ、次はわが身と身体を縮こまらせる、そんな時だった。


巨大な怪物は急に侵攻を止める。怪物の周囲には四つの光が飛び交い行く手を遮っていた。


「あ、あれは?」


目を凝らして見れば、それは光り輝く四人の少女たち。


それぞれ奇抜で個性的だけどガーリーな衣装に身を包み、剣や銃器などの武装で怪物の身体に損傷を与えている。


堪らず巨大な怪物はその大きさに似つかわしくない金切り声を上げた。


反撃とばかりに巨大な怪物は少女たちに目掛け怪光線を口から放出する。だがそれを華麗に避ける彼女達。


──いけえ! やれー!

──がんばれ、頑張って!!


彼女達が何者か、それは誰も分からない筈なのだが、地上に這いつくばる人間たちは一様に彼女達を応援していた。


声援を一身に受け宙を舞う四つの光が一つになった。

天には視界いっぱいを覆うほどの光り輝く幾何学模様が浮かび上がる。

まばゆい光が世界を包みこみ、耳を貫くような衝撃音が響き渡る。


気がつけば巨大な怪獣は消滅して、四つの光のみが宙を舞っていた。


──ありがとう!

──助かった!


人々は宙に浮かぶ彼女達を見上げて感謝の言葉を捧げる。彼女達も何も告げることなくその場を後にした。


「あ、春風さん! 大丈夫!?」


瓦礫を掻き分けて人込みを割いていたら、はぐれた春風さんと再会した。春風さんは額に汗をにじませ、肩で息をしていた。


「──ええ、だ、大丈夫。小円間くんは?」

「僕は平気だよ。春風さんの方がなんかすごい疲れているけど」

「え? ちょっと、これは……、小円間くんを探すのに走り回って」

「そうか、ありがとう。それにしてもさっきの見た? 何だったんだろう。あの化け物と女の子たちは?」

「え? 魔法少女も見えてたの?」

「……まほ──? 何だって?」

「いや、別に……」


ともかく彼女たちのお蔭で僕は大切な友人を失わずに済んだのだ。


それからというもの、あの〈異次元怪獣〉と呼ばれる化け物は度々現れるようになった。だが僕ら人類にはそれほど恐れは無かった。


何てたって僕ら人類には彼女達がいる。四人の「魔法少女」が怪獣どもをやっつけてくれるのだ。


「魔法少女マジカルまほか」

「魔法少女ステゴロせつな」

「魔法少女ミリタリみんと」

「魔法少女ドクトルしばこ」


彼女たち魔法少女は一躍時の人となった。テレビ出演にユーツーブチャンネルの開設。歌手デビューに、アニメ化と、様々な媒体でも人気を博した。


僕も彼女たちの熱狂的なファンの一人だった。彼女達の活躍に一喜一憂して、僕の全てを彼女達に捧げていた。


──人気絶頂のその最中、彼女達は忽然と姿を消した。


彼女達が姿を消したことに世間は困惑した。ただそれは国民的アイドルグループが急に解散した程度にしか捉えていなく、人類はそれほど深刻に考えていなかった。


だが、忘れてはいけない。彼女達は日夜、あの〈異次元怪獣〉と戦っていたのだ。


それから数年経った。世界は既に〈異次元怪獣〉に支配され、人類は衰退の一途を辿っている。


何も告げず姿を消した彼女たちの責任は計り知れない。

残された人類は彼女達を〈闇堕ち魔法少女〉と罵る。


魔法少女はもういない。


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