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上手く物資補充できるといいけど。

 倒した魔族の数が二十を越えて疲労も溜まってきた頃、アレクの声が聞こえてきた。


『入り口に人間が来たようだ』

「おっ! でかした! って言ってもこっちからは聞こえないか」

「ウィンちゃん、もう行く?」

「そだね。そんなに長くは居てくれないだろうし、帰っちゃう前に会わなきゃ」


 そうして、ボクたちは入り口の、少し手前に《テレポート》で移動した。

 外の明るさに目を慣らすためと、いきなり現れて驚かさないようにするためである。


 さて、どう声をかけたものか。

 一応、ボクたちが奥に住み着いてることは隠す方向で話しかけようと思っていた。

 けど、問題がある。照明だ。

 照明が複数欲しいと言ったらきっと怪しまれる。洞窟内で冒険者が光源を欲するなら、せいぜい1つか2つだろう。

 とはいえ、照明として使える魔法具なんてどこにでもあるものではないし、ドラグティカの移動に任せて探していたらいつ入手できるのかわかったものではない。それまでずっと薄暗い洞窟暮らしでは流石に気が滅入ってしまう。正直、商人を頼ってでも手に入れたいところなのだけれど……。

 かといって、素直に「ここに住んでます」なんて言ったら勇者の邪魔をしているのがボクたちだってそのうち確実にばれるわけで。商人にばれるとここでの物資の補充も出来なくなるし、ボクらの情報もかなりの速度で広まって、ここでも地上でも危険度はだいぶ上がってしまうはず。

 あまりやりたくはないけど、いっそばらしてしまって、脅して口止めしつつ、欲しい物資を持ってきてもらう――

 いやだめだ、倫理的にもやりたくないし、そもそも命を握ったところで正義感の強い人間だったら国や勇者、冒険者ギルド等とにかくどこかに、あるいは端からボクたちの情報を流すだろう。リスクに見合っていない。

 結局はボクたちが勇者の邪魔をしていることは隠さなければ……


 ――いや、違う。そうじゃない。

 ここに住んでいることと光剣を護ることは一緒にしなくてもいいんだ。

 ここに住んでいるのは言っていい。

 光剣を護っていることまで言う必要は、ない。

 あくまで入り口付近で修行しに来ただけ、奥で勇者の邪魔をしているのは別の人、あるいは知らない魔族の二人組、知らぬ存ぜぬという体で通せばいいのか。

 入り口付近の拠点に照明がいくつか欲しい、と。それだけ。うん、いける! はず!


「スフレ、ボクたちがアレクを守っていることは秘密にしよう。ボクたちは入り口付近に修行に来た。それでいい?」

「うん、ウィンちゃんに合わせるから大丈夫だよ」

「おっけ。じゃあ行こう」


 一瞬、商人に魔力行使阻害の魔法をかけようかと悩んだけど、相手がそれに気付いてこちらへ不信感を抱いたときに対応が面倒なので止めておいた。

 こんなところで話しかけられたら魔族の可能性を考えてもおかしくないし、テレポートで逃げようとすることも考えられるけど、逃げられたら止む無しと割り切って諦めることにした。


「やぁやぁ、こんにちは」

「ひゃ~~~っ」

「待って待って、落ち着いて、話をしよう!」


 案の定、今にも《テレポート》で消えてしまいそうなほどに驚いている彼女を落ち着かせようと試みる。

 そう、相手は女の子だった。

 赤みがかった茶色の髪を頭の後ろでくくった女の子。

 ボクたちと見た目はそう変わらないから、年齢はボクたちより少し若い年頃だろう。

 地味ながらも仕立てのいい上着からは冒険者や賊の類ではないことが窺い知れる。であれば商人である可能性は高い。

 が、小さな鞄を背負っているだけで他に荷物らしきものはない。

 ここには商売をする相手がいないから石を拾って入れられるものがあれば良い、ということだろうか。

 光剣を目指す勇者や冒険者もいるが、準備くらいしてくるだろうし、ポーション等の消耗品もそこまで売れないだろう。

 出入りするドラゴンのほうが遭遇率は高いだろうし、確かに身軽なほうが良さそうだ。

 それにしても、護衛の一人でも付けたほうが良いんじゃないの?

 見たところ戦闘が出来るようには見えない。

 逃げることはすぐ出来ても、瞬時に危険に気付けなければ逃げる前に死んでしまうかもしれない。周囲への警戒も兼ねて一人は雇うべきだろう。

 なんにしても、まずは話して情報を得たほうが早いかな。


「ねぇ、あなたは石を拾いに来た商人で、あってる?」

「……はいぃ」


 怯えすぎでしょ!

 こっちは歳の近い女二人だよ?

 ……いや、魔族だったら姿かたちはあてにならないから仕方ないか。まずは警戒を解かなきゃ。


「えっと、ボクは冒険者のウィント。こっちはスフレ」

「こんにちはっ」

「……こんにちは」

「ボクたちは、ここに修行に来たんだけど、商人さんに相談したいことがあるんだ。聞いてもらってもいいかい?」

「! 何かご入用ですかっ!? 聞かせてください! お役に立てると思います!」


 きゅうにげんき!


 ……さっきまでの慄きはどこへ行ったのか。

 命よりお金、というタイプだろうか?

 それともあれかな。熱中するとある程度の怖気は忘れられる感じ?

 仕事熱心で、恐々とするより仕事を優先させる真面目な性格なのかもしれない。


「立ち話もなんだし、中で話したいんだけど、いいかい? ここは風も強いし、ドラゴンも通るから落ち着いて話せないだろうと思うし」

「えっ、中ですか!? ドラグティカの!? ドラゴンや魔物がいるんですよね……。……あのー、街とかではだめですか? 商会のほうにお越しいただければ、お茶もお出しできますし、ゆっくりお話しできると思うんですけど」


 正論だ。

 普通に考えればダンジョンの中で話そうなんて馬鹿な奴はいない。商人ともなれば、入る事すらしたくないだろう。わかる。

 だがそれは困る。

 昨日倒した勇者たちの動きがわからない。

 もしかしたらボクたちのことが広まってるかも。見た目やスキルで怪しまれる可能性がある。

 それに、街に行っている間にアレクのもとへ勇者が来ても気付けない。

 話している間にアレクが負けていたら――

 本末転倒だ。アレクを守るための準備なのだから。

 なんとか言いくるめなければならない。


「確かに街のほうが安全かもしれないけど、ボクたちはそこまで《天外魔法》に長けてはいないんだ。ドラグティカは動いてる。行きは良くても、帰ってこられない可能性があるんだ」

「大丈夫ですよ! 帰りはお送りしますので! 私、《天外魔法》にだけは自信があるんです! 移動先の石があれば、どんなに遠くても《テレポート》で飛べますから! なんでしたらお見せしましょうか?」


 そう言って袖を少し引き上げ、腕輪を現す。

 嵌め込まれている紫色の石に魔力を注ぐとその者のスキルの熟練度合を視覚化させる魔法具、“表出の腕輪”だ。

 商人の子が腕輪の石に魔力を注ぎ、腕輪から魔法陣のようなものが浮かび上がる。

 外側には13個の小さな円があり、内側には《奈落魔法》や《拳》といったスキル名が記されている。

 見ると、《天外魔法》の円だけが白に染まっている。本当に《天外魔法》“だけ”が得意なようだ。

 熟練度合は色で判るようになっている。スキルの熟練度が上がるに伴って、寒色から暖色に向かって、その色を変化させていく。が、最終的に白くなる。白になれば、今出回ってるそのスキルの技や魔法で使えないものはないと言われるほどの熟練者ということだ。

 この子は《天外魔法》に関しては一流ということだ。


「わぁ~……すごいね、ウィンちゃん! どこにでも行けるって!」

「そうだね……」


 どこへでも飛べるというのは恐らく本当なのだろう。

 確かにこれならボクたちの送迎は可能なはず。

 だけど、それでは困るのだ。結局街へ行くことになってしまう。


「でも、行き来だけが問題じゃないんだ。秘かに修行して強くなって、知り合いの冒険者たちを驚かせたいんだよ。それまではあまり顔を合わせたくないんだ。そんなに都合よく居合わせるとは思わないけど、念のため、ね」


 もちろん嘘だ。ボクたちに知り合いなんかいない。いつも二人でやってきたし、それで良かったからだ。


「そうですか……わかりました。中で話しましょう」

「つまらない理由で付き合わせてしまってすまないね。ボクたちの拠点は安全だと思うけど、もし魔物やドラゴンが来ても君のことだけは絶対に守るし、すぐに《テレポート》で離脱してもらって構わない」

「ありがとうございます。頼りにしてますねっ!」


 キラキラして見えるこの笑顔を前にしていると若干の後ろめたさはあるけど、本当のことを言うわけにはいかないのだ。すまない。

 そうして心の中で謝りつつ、ボクたち三人は光剣の眠る最奥の地点へ《テレポート》で移動した。

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