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まだがまんできる。

 薄暗いドラグティカの中を入口へ戻るように進む。

 そこら中に光る石のようなものがぽつぽつ点在しているので、全く見えないことはないけどやはり暗い。

 照明として使える魔法具が欲しい。ダンジョン感がなくなる気はするが、アレクを守ると決めた以上、光剣ラスリゾーディアを渡すこともなくなるということなので、完全にボクたちの住みやすいようにしてしまってもいい気がした。食料なども含め、必要な物資の調達の機会がいつ訪れるかはわからないのだけれど。

 そうしてこれからのことをぼんやり考えて進んでいると、魔族を発見する。


 魔族は、魔物と違ってある程度知能があり、言葉を発することもできる。それも強さに応じて程度の差があり、より強いものほど人間に近く、理性的なものがいたりもするらしい。が、基本的には話は通じず襲い掛かってくるので、出会った時点でほとんど戦闘は避けられない。

 なぜこんな、光剣の眠る場所に魔物や魔族が湧くのか。

 そんな疑問が浮かんで少し考えてみたのだけど、勇者が光剣を手にするのを阻むためにここにいるのではないかと思った。

 光剣を壊せるのならとっくに壊していると思うし、ボクたちが光剣の眠る空洞に居ても近づいては来なかった。恐らく、光剣に近づくことすら魔物や魔族にとっては忌避されるべきことなのだろう。だから、壊せないのならばせめて勇者の手には渡らせない、ということなのかもしれない。魔族に直接聞いたわけではないから憶測でしかないけど。


 そして、光剣の眠る空洞の直近に湧く魔族たちは、すぐ後ろに光剣があることもあってかなり強そうに見える。

 見えるというのは、初めて来たときはスルーして戦わなかったから、強さがよくわからないのだ。

 ボクとスフレは二人旅をしているし範囲攻撃も得意ではないので、相手が多勢であったり、深力を稼げなさそうな弱い魔物等はスルー出来るようにそういった技や魔法を習得している。

 なので、初めて来たときはここがどうなっているのか、何があるのかを一通り見てからすぐに帰る予定だったので、魔物や魔族は適当にスルーして光剣の元へと向かったのだ。

 というわけで、ボクたちがここの魔族と戦うのはこれが初めて。

 遠目にはドラグティカの外でも見たことがない魔族に見える。油断はできない。

 ボクは小声でスフレと戦闘の段取りについて確認する。


「まずはボクが鈍化の魔法をかける。こっちに気付いたら、近接攻撃が当たらない程度の距離で様子見をしてくれるかい? 沢山戦うことになるだろうから、はじめのうちに遠距離攻撃や魔法の有無を把握しておきたい」

「うん、わかった!」


 倒し方については特に何も言わない。

 ボクたちの装備は、魔族の前ではほとんど防御力がないと言っていい。

 ボクが隙を作り、スフレが威力の高い技を叩き込んでの短期決戦がいつものパターンなのだった。


 少し近づく。

 薄暗いからよくわからないけれど、浮いているように見える。

 形は人に近いように見えるけど、腹から下がない。

 魔物は獣に近い形をとっているから、恐らくあれは魔族で間違いないだろう。

 淡い光を所々反射して、金属質な輪郭が浮かんでいる。防御力が高そうだ。

 両腕の先は尖っていて、大きな爪がまとまっているような形状だ。攻撃力も高そう。

 近接攻撃が得意そうではあるけど、これ以上は戦ってみなくちゃわからない。

 

「行くよっ 《スロウダウン》」


 魔族が魔法をかけられたことで周囲を見回す。

 だがその動きはゆっくりとしていてまだこちらを見つけられないようだ。鈍化の魔法をかけてあるから当然ではあるのだけど。

 なら、防御力も削いでおこう。


「《デテリオレイション》」


 今度は声を聞き取ったのか、こちらに体を向けて真っ直ぐ近づいてくる。

 魔族が気付くのと同時、前に出ていったスフレの体が仄かに発光する。

 気というものを纏って身体能力を上げる拳スキルのリメイションフォースだ。スフレの戦闘開始時の行動はまずこれを使うところから始まることが多い。

 適度に距離を保ちつつ相手の行動を窺うスフレ。

 しばらくそうしていたが、近づく以外は特に何もしてこない。

 遠距離攻撃は持たないのだろうか?

 こちらから動いてみるか。


「《カーステンタクル》!」


 木の幹のような太さの蔦が相手を縛り上げる。

 それだけでメキメキと音を漏らす。

 硬そうな金属にも見えた相手の外骨格が砕けていっているようだ。


「スフレ!」

「うん!」


 スフレは後ろに跳び、大きく間合いを開けた。

 右手に力を溜めるように一呼吸――

 不意に倒れるかのように前傾姿勢になり、前に出した左足で地面を蹴り、一気に踏み込む。

 刹那、魔族の前に現れたスフレは右足を軸に上体を捻る。

 勢いを殺さぬまま遠心力を拳に乗せ、掬い上げるように突き出す。

 動きの速い相手には当てるのが難しいけど威力の高い拳スキル技、《フラッシングブロー》だ。

 防御力低下の魔法がかかっていたこともあり、外骨格のようなものを砕き内部に腕が突き刺さる。

 《カーステンタクル》で押さえつけていたので吹き飛ぶことも許さず、衝撃を全てその身に受け止めた魔族は弾けて霧散する。

 どうやら、防御力は高いけど打たれ強くはない魔族のようだ。


 霧となった魔族の欠片が集まり固まって、黒い石のようになる。

 黒鋼石(こっこうせき)と呼ばれるもので、丈夫な武器や防具の素材になるのでそこそこいい値段で取引される。

 そしてもう一つ、黒鋼石の上で行き場を失って漂う光。これが生物の根源の力、“深力”だ。これを取り込むことで勇者や冒険者は強くなっていく。身体能力が向上するだけでなく、魔力もこれを取り込むことで上がっていくのだ。今回の戦闘の目的でもある。

 ボクは手を翳して、深力を取り込んだ。


「これだとボクだけ強くなっちゃうね……」

「それでいいよ! おトイレの確保は最優先事項だもん!」

「それもそうだね……」


 ボクは永遠にも思えた落下の恐怖を思い出して身震いする。

 あんなのはもう絶対にごめんだ。


「よし、魔族が減ったことによって、また新たな魔族を送り込んでこようとするだろうから、近くの混沌の穴で出待ちしよう。幸い、弱体化魔法をかけたとはいえ、一撃で倒せる耐久力だとわかったから、サクサクいけるね」

「出てきたところを《カーステンタクル》で捕まえて、《デテリオレイション》で防御力を下げて、《フラッシングブロー》で倒す、で安定かなっ?」

「だね。何もさせずに倒すのはほんのちょっぴりかわいそうだけど、どうせこっちが何もしなくても攻撃されて戦闘になるだろうから慈悲なんてかけるだけ無駄だしね。攻撃手段はよくわかってないし、まだ油断はできないけど」


 そうして、ボクたちはここに湧く魔族に対する戦闘パターンを確立しつつ、魔力増強に努めるのであった。

冬コミがなくなってしまって皮肉にもこちらに時間を割けそうなので、更新頑張りたいと思います!

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