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タイムリミットは数時間!

『お主ら、普段その魔法をそんなことに使っておるのか?』


 アレクがそう声をかけてきたのは、ボクが自分とスフレに《リターンステイト》の魔法を使っているときだった。

 《リターンステイト》は、アレクの怪我や魔力の消耗を修復するのに使っていた魔法だ。

 今回は、今さっきの出来事による体や服の汚れた状態をそれ以前のものへと戻すのに使っている。

 いろいろな用途に使える便利な魔法だと思うのだが、《回復魔法》に分類される浄化の魔法とは違って清めるのではなく、あくまで前の状態へ戻すだけなのでそれ以上に綺麗になるわけではないのが器用貧乏な感じのある魔法だ。

 なので一日に何度か使って頻繁に汚れの少ない状態に戻している。

 一番使っている魔法でもあり、一番気に入っている魔法、だと思う。

 これがなければ長旅は出来なかった……とまではいかなくても、だいぶ精神的に厳しいものになっていたかもしれない。


「そんなことって言うけどね、次にいつ湯浴みが出来るかなんて旅の間はわからないんだよ? ……あまり言いたくないけど、においとか漂ったら嫌だろう? 泥やら草やらで汚れたりさ。まぁドラゴンモドキの君にはわからないかもしれないけど、嫌なの! だから頻繁に戻して出来るだけ綺麗な状態を維持しているというわけさ」

『成程な。そういうことであったか』

「……何が言いたいのさ」

『お主ら、魂の劣化と肉体の劣化の具合がずれておる』

「劣化ゆーな! ……えっ!?」


 確かに、ボクたちの姿は故郷を旅だった頃とそう変わりない、かもしれない。

 スフレとは生まれたときからご近所さんで、今までずっと見てきたから細かい変化に気付かないだけだと思ってたけど、まだ成長の余地はあるように思える。

 成長が終わったのではなくて、止まっていた――!?


「ということは、ボクはまだ成長できるってことだね! 大きくなるんだね!」

「えーっ! ウィンちゃんはそのままでもかわいいよぉ!」

『そもそもその魔法を使い続けたらごくごく緩やかな成長速度になるのではないか?』

「!?」


 なんだって!

 《リターンステイト》を使い続ければ成長できない!

 でも使わなければ……いろいろ気になる! 汚れとかにおいとか!


「というか……肉体の劣化が遅れているということ? それってつまり」

『何百年と生きることになるやもしれぬ』


 ……えっ?

 今まで傷の修復や汚れ消し程度に思ってた魔法がそんなに訳の分からない魔法だったっていうの?

 《奈落魔法》の始祖、カリストローネもそこまで常軌を逸した長寿だったという記述は見かけたことがない。

 《リターンステイト》を習得するときの魔法書にも、修復の魔法と書いてあった。

 もしこの魔法の真の効果が知れ渡ったら大変だ。

 誰も死ななくなる。

 人口は増えてはいく。

 食料は枯渇する。

 奪い合って結局は大量に死ぬことになるだろうか。寿命が延びることって、いいことばかりではないよね……。

 というか、ボクたちは既に五年前後は延ばしてしまっている気がする。


「……すまないスフレ。ボクのせいで成長を止めてしまったかもしれない」

「なんで謝るの? ウィンちゃんと一緒に居られる時間が増えたんだったら、スーは嬉しいな! それにアーちゃんとも沢山一緒に居られるってことでしょ? それって素敵なことだと思う!」


 なんとなくアレクと目線を合わせてしまう。


『驚異的なまでの融通無碍じゃな』

「大物だよね……」


 スフレが問題ないなら、多少寿命が延びることくらいは気にしないでおこう。

 ただ、《リターンステイト》が寿命を延ばせる可能性のある魔法だということは、漏らさない方がいい。先ほど考えた以外にも、ボクでは想像もできないような事態が起こり兼ねない。ボクたちの成長が止まって見えることに関しては、別の理由があることを匂わせなければ。最悪、魔族であると名乗ってしまうのが手っ取り早いかもしれない。余計に本気で討伐隊を差し向けられたりされ兼ねないから少し気は進まないけれど。

 だけど、それはあとでゆっくり考えよう。ボクたちの考えるべきは、今はそれではない。


「考えることは沢山あるけど、まずは用場についてだ!」

「! そうだった! もう飛び降りたくないよ~っ!」

「だよね!」


 解決策としては、

 一つ、ボクの魔力を高めて強引に《テレポート》の距離を伸ばすこと。

 二つ、《テレポート》の熟練度や《テレポート》が属している《天外魔法》に対する理解度を深めて、《テレポート》の扱いの向上を目指すこと。

 三つ、何かしら解決できる道具を入手すること。

 ぱっと思いつくのはこれくらいだけど、どれも時間がかかるという欠点がある。《天外魔法》は正直、《テレポート》のために辛うじて習得しているようなものだし、今からコツを掴む時間はないだろう。道具を入手する、とは言ったものの具体的な道具はあまり浮かばない。魔力を高める道具なんかがあれば修練を積む時間が省けるのだけど……そもそも買い物出来る場所が近くにあるかどうかや、品揃えにもよるだろうから難しいと思う。現実的なのはやっぱり、魔力を高めることだろうか。魔力を高めるには、魔物を倒すと現れる根源の力、“深力(しんりょく)”を取り込むのが手っ取り早い。すぐそこに強力な魔物が湧く混沌の穴があるから、深力を取り込む場には困らない。

 ここまで考えたことをスフレにも相談すると、「それがいいと思う! 早く行って沢山倒そう!」と言ってくれたので、二人揃って戦闘準備を始めようとすると、アレクが言う。


『目的のものがあるかはわからぬが、道具の調達は近いうちに出来るのではないか? ドラグティカの入り口に来ては入らずに帰っていく者がおる。お主らの話と合わせて考えれば、その者は商人である可能性が高いであろう。』

「……確かに」


 盲点だった。そうだ、ドラグティカへの《テレポート》の媒介とするための石を獲りに来る商人がいるはずなのだ。運に任せて商店を探すより、こちらに来た商人に会うほうがずっと簡単だ。それにここに来られる商人なら、扱う品も豊富な可能性が高い。会ってみる価値はあるだろう。


「ありがとうアレク。商人にも会ってみるよ。ボクたちは狩りに出るけど、目に見えない範囲でも声は届けられたりするの?」

『そう遠くまで行かなければ可能であろう』

「なら入り口に人の気配がしたら教えてくれるかい。ここに異臭が漂うのは君も嫌だろう?」

『……承知した』


 そうしてボクたちは、早急に魔力を高めるための狩りに出るのであった。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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