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嘘は言ってない。

 地図は貰えたけれど、まだ聞きたいことがいくつかあった。


「光剣に対する各国の動きや考え方についての情報とかってありますか?」

「光剣? そうだな。あれがあれば“混沌”の討滅も出来るんだろうから気にはなるだろうな。ギルドが持ってる情報はそこまで深くはないが……どうも、どの国も積極的に光剣を手にしたいとは思っていない感じがするんだよな」

「それはどうして?」

「まず第一に、どの国も自国の勇者を減らしたくないというのがある。冒険者は国に留まらないし、そもそも魔族の相手は基本的には出来ない。軍は対人用戦力だから、魔族相手では被害が大きすぎる。勇者であれば……まぁ勇者も力量の差はあるだろうが、とりあえずは魔族の討伐が出来る。帝国みたいにポンポン優秀な勇者が湧いて出る国だとしても、勇者の数は減らしたくないはずだ」


 なるほど。“混沌”を処理しなくても、魔族を処理出来れば一先ず被害は抑えられるというわけだね。であれば、無理に勇者を減らすリスクを負ってまでドラグティカに挑ませる必要は無いということ。


「第二に、光剣を手に出来るだけの勇者がいるのか、という疑念。これは何も、自国の勇者の実力を疑っているわけではない。何千年も持ち帰った者が現れなかったんだ。今いる勇者が都合良くその実力を持っているとは思えないのだろう。いたとして、さっきも言った通り、優秀な勇者を下手に失うリスクは避けたい。それでも自ら行くというのであれば止めはしないらしい。光剣が手に入れば安全の確保はもちろん、他国に対する影響力も絶大だからな」


 確かに、光剣を持つ国が在ったら、他国からすれば自国周辺の“混沌”を消すためならばいくらか不利な条件の交易でも飲もうというものだろう。間違っても敵対関係にはなりたくないはずだ。


「第三に、光剣は実在するのか、ということだ。本や資料はあるが、それらは当時書かれたモノではない。最早御伽話のようなものになってしまっている。別に神が創ったとかではなく、大昔の英雄が創ったんだ。それも守護するドラゴンと共に。そんなことを出来る人間がいたのだろうか? という疑問があってもむしろ当然と言えよう」


 それに関してはそう。ドラゴンや光剣を創る技や魔法など今この時まで語り継がれたという話は聞いたことがない。何故一本だった? 何故可能であったのが一人だった? そこに疑問はあるけれど、ボクたちは実際に見たので実在することは間違いない。


「そして第四に、信憑性の高いドラグティカ内部の情報が出てきたことだ。」

「内部の情報?」


 ボクとスフレは同じく首を傾げる。


「ああ。少し前からいくつかの勇者パーティが立て続けにドラグティカに挑んでいる。そのうちの最初のパーティが、光剣を守護する守護龍の前に化け物じみた“人間”が居て邪魔をしてきたと騒ぎだしたんだ。それを聞いた腕に自信のある他の勇者も、危険を取り除こうとする正義感や面白半分など理由はそれぞれだろうが、ポツポツ挑みだしたんだ。……結果は散々だったがな。それらの勇者の話では、魔術型でも身体能力がおかしいほどに高かったことから魔族であろうと断定された。最初のパーティは性格が原因で元々評判が良くなかったのもあるし、無謀にもドラグティカに挑み守護龍どころか魔族に負けたのを恥だと思って人間だと騒ぎ立てたのではないか、と思われている」


 あぁ、あのいけ好かない勇者たちのことか。あいつらさえ居なければボクたちは勇者と戦うような面倒な事にはならなかったのに。心底腹立たしいが、アレクと仲良くなれたのでそこまで後悔はないけれど……ない、はず。うん。


「それがどうしたの? 強い魔族が出るのは当然だろう? ほとんど勇者も寄り付かないような場所なんだ、魔族だって討伐されないんだし、強い魔族がうじゃうじゃ居てもおかしな話じゃない」

「いや、それがどうもそういうことじゃないらしい。道中の魔族は、それはまぁ強いらしいんだがそれらは地上の魔族と比べてもそこまで異常なほど強いわけではないらしい。が、奥に居る二体の魔族は別格。挑んだパーティの中には、【閃く双電】も居たらしいんだが……彼らが言うには、普通に人語を解するらしい。魔族の中にはそういうのも偶に居るから驚くほど珍しいわけではないが、完璧にすらすらと話す知能と自我を持っていたようだ」


 魔物や魔族は“混沌”から生み出されるときに込められた魔素の量で強さが決まると予想されている。

 そして、“混沌”は周囲の環境から情報などを読み取り魔物や魔族を生み出すらしいとも言われている。例えば森にある“混沌”の場合、周囲の生き物を模した魔物を生み出すことが多いからだ。つまり、魔族の場合は近くにいる人間から情報を読み取るため、豊富な魔素で造られた魔族は言語能力を解するようになる、ということらしい。その言語能力が高いということは……


「わかるか? その魔族を形成する魔素は計り知れない、ということだ。喋る魔族は珍しくない。が、こちらの言葉を理解し、会話が出来る魔族ともなると、少なくとも俺は聞いたことがない」


 わかるか? じゃないよ。そいつらは普通に人語を学び、使って生きてきたのだ。珍しくもなんともない。


「【閃く双電】がボロボロになって帰ってきたことで、余程の馬鹿でない限りは自信のある勇者でもドラグティカに挑もうという者は居なくなった。最近では、その二体の魔族はこう呼ばれている――“動かぬ災禍”と、“背理の拳”」


 ぶふっ

 今まさに出されたお茶で喉を潤そうと思っていたところだったので吹きかけてしまった。

 この辺の話はボクたちのほうが詳しいからと油断していた。

 な、なんて?


「“動かぬ災禍”と“背理の拳”だ」

「え? 魔族に名前が付いてるんですか?」


 さすがにスフレもきょとーんとしている。


「ああ。奴らがドラグティカから出てきたら大変なことになると思うが、少なくとも帰れと言うだけで出ていく気はないらしいんだ。とはいえ、あそこに居座られると光剣は手に入らず、“混沌”を消すことが出来ない。故に“動かぬ災禍”。もう一体は素手で戦うらしいんだが、世界を光剣で平和にするという理を砕くということで“背理の拳”と呼ばれているらしい」


 なんということだ。知らない間に変な名前が付いている……。しかも、光剣の入手を阻むのは、魔族の視点では理であろう。背理と呼ぶのは人間の身勝手さが良く出ている。いや魔族じゃないから本当に背理なのだけれど。スフレが理に背いているみたいな言い方をされるのは腹立たしい。そう思うのはボクのエゴだろうか? そうかもしれない。少し冷静になってきた。


「俺も魔族が通称で呼ばれるのは初めて聞いたが、そうして異常性を示すことで、無茶をする者を減らそうという注意喚起の意味合いもあるのだろう」

「無茶をする者が減ることは良い事ですね……」


 ボクたち的には非常に助かる。通称は……納得しかねるが。


「まぁ、そういう様々な観点から、ドラグティカに積極的に勇者を送り込もうとする国はないというわけだ。間違ってたり他の要因もあるだろうが、納得は出来るだろ?」

「はい。とても参考になりました。ありがとうございます。ちなみになんですけど、光剣を手にして国から報酬を頂こうとする冒険者とかは居ないんですか?」

「居る……いや、正確には“居た”、か。例の魔族の情報が出てから、命知らずで一攫千金を狙う馬鹿者共がドラグティカに行かないように、ギルドでも注意喚起しているんだ。……まぁ、大抵は道中も抜けられないだろうがな。」


 それも助かる話だ。ボクたちの“家”に冒険者の遺体がころころ転がっていたら嫌だからね。


「というかお前たち……知ってて“混沌”の討滅を考えたんじゃないのか? ドラグティカが危険だから別の方法で消してやろうとよ」

「いやー何と言いうか……最近ギルドに立ち寄らなかったからその辺の話を聞かなかったんです」


 ……怪しまれている。


「ほう……例の魔族を知らなかった上で、光剣を取りに行くのではなく、他の手段も知らないのに“混沌”を直接どうこうしたいと考えた、と……?」

「ボクたちごとき一般冒険者風情が守護龍に勝てるわけないかな、と……」


 物凄く懐疑的な視線を向けられている。そんな目でみるなーっ!


「まぁ、そうだな。お前たちが強いのはわかったが、冒険者と勇者では全然違う。お前たちは強いがあくまで冒険者。賢明な判断だな」


 ほっ

 許された。


「聞きたいことはこれで全部か?」

「あーいえ、あと少し。【閃く双電】についての話が聞きたいのですが」

「えっ?」


 スフレが「そんなこと聞く予定なかったような?」みたいな顔をしている。

 ここに来る途中でふわ~っと思いついただけなので特に話題に挙げなかっただけなのであとでになっちゃうけど説明しよう。


「なんだ? 【閃く双電】のファンか?」

「いえ違います。どこにいるかわかるかなぁ、と。少し所用がありまして」


 勇者も冒険者ギルドに顔を出すことがある。簡単な依頼を獲るようなことはしないが、魔族の討伐依頼や旅の中で採取した薬草などを売りに来たり。勇者は国から資金が出ているので、そのようなことはせずとも資金難になどならいないけれど、お金は少しでもあったほうが良いという考えの者や、ポーションの流通を助ける意味合いで、など細々した動きを見せる勇者パーティもある。なので、【閃く双電】の情報があるか聞いてみたというわけだ。


「ふむ……悪ぃが、どこのギルドに立ち寄ったとかは聞いてないな。そんなん聞いてどうする?」

「あのパーティに依頼したいと思いまして」

「冒険者が勇者に指名依頼だァ? お前ら本当におかしな奴ら……いや、“混沌”討滅するとか言っておきながら、【閃く双電】に丸投げするつもりじゃないだろうな? “混沌”の消し方も知らないくせに勇者を“混沌”に向かわせるとか、勇者なら帰って来られるかもしれんが、相手によっては死んで来いって言うようなものだぞ」

「そんなに無責任なことしませんよ。基本的にはボクたちが戦いますし。ただ、予備戦力兼“混沌”調査にご協力頂きたいだけです」

「どこに「勇者様は下がってていいです俺たちが戦うんで」って冒険者に言われて信用する勇者が居るんだよ! 大体、冒険者は依頼をこなす側であって出す側じゃないだろ。それに勇者は国が保有する戦力だ。おいそれと個人が使っていいわけないだろ!」


 めっちゃ怒るじゃん……。いやわかるけど。それで【閃く双電】に何かあれば依頼書を作成したこの支部の責任問題になる。


「ギルド長さんが信じてくれれば良いんですよ。あなたを物理でどうこうできる魔術師、他にどれだけ知っていますか? 少なくとも魔族ごときに負けるとは思えないですよね? まさかギルド長という立場の人間が、そんなこともわからないはずはないですよね?」

「ぐぬ……。いやな? 確かにお前たちは強いよ。やるというなら勇者なしでも“混沌”に辿り着けるかもしれん。が、保証はない。魔族の数は未知数だ。“混沌”に近づけば近づくほど、魔族も増えていく。お前たちが処理出来るとは限らん。そもそも、冒険者の依頼を受ける勇者なんかおらん」

「それが受けるんですよ」

「どうして言い切れる」

「勇者とは、大方は人々を守るために魔族と戦っているのです。“混沌”を消せれば魔族をちまちま倒すより余程人命を救うことが出来る。目的が一致しているのです。“混沌”を消せるなら消したいと思う勇者は多いはず」

「……仮に受けたとしよう。それで何かあったら俺はどうなる?」


 そんなの決まっている。


「光剣無しに“混沌”を消し去る事が出来たという快挙を遂げるにあたって、自らの処遇を顧みず英断されたギルド長であると歴史に名を刻みます」

「……」

「それか、黒鋼石以外得る事無く無事帰って来た【閃く双電】とボクたち二人を迎えるだけです」

「……ハァ。どこから来るんだその自信は。お前みたいのがあっさり死ぬんだよ」

「かもしれません。ですが、光剣入手が難しいのなら、それに代わる方法の研究は進めたほうが良いでしょう。いつまでもただ湧いて出る魔物や魔族をそのままにするのは賢明ではありません」

「口の上手いちびっ子だな。……最後に聞かせてくれ。勇者でもないお前たちが、何故そこまで“混沌”討滅に拘る?」

「……ボクたちの友人を助けたいのです。動けぬ身でありながら、近くに“混沌”があります。いつまでも湧き続ける脅威を払い続けるのは難しいでしょう。近くに別の村などありません。安静にしなければならない体では魔法で移動するのも憚られます。……ボクたちの親は魔物に襲われて死にました。繰り返すのは御免です」

「聞かなきゃよかったな……。まぁそうだな。“混沌”が無くなりゃ良いと思ってるのは俺も同じだし、人類の礎にでもなるか」


 こうしてボクたちは依頼書を作成して帰路についた。

連投はここまでになります。

以降はゆる更新になると思いますが書き溜めずに1話ずつ投稿していこうかなと思います。

お付き合いいただけたら幸いです。

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