ギルドの建物ってきれいなところが多いんだよね。
ボクたちは出発の準備をしていた。
もちろん情報収集をしにギルドへ行くためである。
準備と言っても生活感のあるものを端に避けたりしまったりしていただけで、特に持っていくもの等はない。そんな単純作業をしていると、なんだか考え事をしてしまう。それで“混沌”の消し方や光剣についてふと気になったことがあった。
「ねぇアレク。光剣ってそもそもなんなの? なんで“混沌”を消せると言われているんだい?」
『我は剣が封印されたときに生み出された故、使用されたのを目にしたことはないが……高密度に圧縮された魔素が何らかの作用を引き起こしているのであろうな』
「そうか……光剣は高密度の魔素の塊ということか。でもそれならおかしくないかい? 何故魔族は光剣を避ける? 魔物も魔族も“混沌”が生み出す魔素の塊、つまり光剣は餌ではないの?」
『そうじゃな。じゃが何から何まで憶測でしかない。我らは魔物でも魔族でも“混沌”でもないのじゃからな。答えは出ぬ』
むむ……
お前も魔族と同じ魔素の塊だろ、と思わないでもないが言わない。
いくら似たようなものでもあれらと同じ扱いは誰でも嫌だろう。そう、ボクたちは実際に良い気分ではないからね。魔族と呼ばれて。
でも答えが得られないからと言って、考えることを放棄してはいけないと思う。そこにこそ、“混沌”の消し方に繋がる何かがあると思うのだ。
「じゃあ行ってくるよ。誰か来たらすぐ帰ってくるけど、仮に来訪に気付けなかったり、すぐに帰って来られない状況だったとしても勝手に負けるなよ」
『我は討たれるために此処に在るのじゃがな……』
「消えちゃったら、だめだからねっ!」
ぐぬ……
アレクは応える代わりに低く唸る。
「だめだからねっ!」
『……帰りを待つとしよう』
念を押されて折れた。
守るとは言うものの、守られる側がこんなだからなんともしっくりこないものである。
どちらかと言えばアレクが正しいのだろう。でも友人を守りたいというボクたちは間違っているのだろうか? どちらも正しいのだと信じたい。世の中正解は一つとは限らないはずだ。ならボクたちの選択だって正解でも良いじゃないか。ううん、正解にするんだ。“混沌”を消し去って――
地上に降りたボクたちはまず、近くの街を目指すことにした。そこにギルドがあれば情報収集に入ろうと思う。目視出来る距離に街があるからそんなに遠くはないし、《シーユニバース》で木鳥を飛ばして《テレポート》で街のすぐ近くまで転移してもいいのだけれど、ボクだけ魔法を行使してることを気遣ってくれたスフレが散歩がてら歩こうと言ってくれたので歩くことにした。ボクはというと、魔法を二、三使った程度では魔力の枯渇に影響なんてこれっぽっちもないのだけれど、引きこもり生活のおかげで陽を浴びるのも軽く歩くのも気持ちよかったりするのでスフレと一緒に歩きたい気分なのであった。
「この辺魔物いないね~」
「そうだねぇ。反対側を見たわけじゃないから完全にはわからないけれど、安全な街なのかもしれないね」
危険は別に魔物や魔族だけではないけれど。人とか人とか……。
とはいえ、それを言ったらキリがないのでいちいち言わない。どこにでも良い人もそうでない人もいる。スフレに手を出すのが魔物だろうが人間だろうがボクは許さない。街の中でも安全だと良いな……。
特に大きな出来事もなく街に着いたボクたちは、ギルドを探して歩いていく。
「きれいな街だね~。それに結構大きい」
「だね。王都ほどじゃないけれど。大きなギルド支部があってもおかしくはないね」
探すと言ってもそこは冒険者ギルド。
建物自体が大きいものであるし、他所の冒険者も立ち寄る都合で分かりやすいよう全ギルド支部に同じ旗が掲揚してあるので割とすぐ見つかる。ちなみに旗には熊の顔が刺繍されている。強い冒険者になれという想いが込められているらしい。
「あった、ウィンちゃん、あれあれっ!」
「間違いないね。行こう」
食べ歩きとか物資の補充なんかもしたいけれど、一旦後にする。
フィーネから色々買い入れているのでそこまで困っていないし、今朝も軽く食べてきてしまっていたのだ。荷物が増えても面倒だし、先に用事を済ませてしまうことにした。
ギルドに入ると、依頼書が貼ってある掲示板で依頼を見繕うパーティ、報酬の分配をするパーティ、受付に並ぶパーティ、他のパーティを眺めつつ小声で話しているパーティ等々ぱらぱらと冒険者たちが居た。広い空間なので別に混み合っている印象はない。冒険者だって出稼ぎに出たり、宿に居たり、食堂に行ったりしているのでここには依頼を受けに来るとか完了の報告に来るとかするだけで基本的には長居はしない。混み合っていたらお互いに邪魔だしね。というわけでボクたちも早々に受付に並ぶ。が、順番はすぐに回ってくる。
「こんにちは。お待たせしました。本日はどのようなご用件でしょうか」
「魔物や魔族、“混沌”について伺いたいことがあるのですが」
「“混沌”……あ、いえ、すみません。でしたら、二階へ上がって二つ目の部屋へどうぞ」
別に依頼を受けに来たわけではないので二階の応接室に通される。
まぁ、“混沌”について聞きに来る冒険者は少ないよね。それがどのようなものかを調べるならギルドより図書館だ。まぁ、本はそれなりに貴重だし、図書館がない街も多いけれど、ギルドで聞くようなことじゃない。それなのにギルドで聞くということは、所在や近辺の状況など、依頼などに関わってくることだと予想は付く。そして、魔物や魔族は討伐対象であるし、依頼も多いから情報を仕入れたいというのはわかるだろう。が、“混沌”など場所を知ったところで普通の冒険者は行くはずもないので無意味な情報である。それを考えると疑問に思うのもわかる。
「二階の二つ目……ここだよね、ウィンちゃん?」
「だね」
間違いようはないけど一応二人で確認した後ノックする。
「どうぞ、お入りください」
言われたままに部屋に入ると、広いとは言い難いが話をするだけなら不自由のない部屋、といった感じの部屋であった。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」
「色々聞きたいことはありますが……。ギルドの持っている、“混沌”についての情報を聞ける範囲でお聞きしたいのですが。」
「“混沌”の情報、ですか?」
「ええ。ギルドが把握している“混沌”の場所、数。討滅の前例の有無。“混沌”に関する過去の記録や資料の所在。とにかく開示できる情報があれば教えて頂きたいのです」
「え、あっ。すみません、もう一度お願いします」
「“混沌”の場所、数――」
今度はメモを取って聞いてくれる。予期せぬ質問事項が並べ立てられれば疑問が先に来て聞き取れないよね。
「要件はわかりました……。失礼ですが、登録証を見せて頂けますか?」
「どうぞ」
冒険者登録証。茶色い金属に冒険者の名前と登録したギルド支部が彫ってある。登録した支部にはその冒険者の出身等ある程度の個人情報が残っているため、冒険者の亡骸から登録証が見つかった場合、登録した支部経由で出身地へ知らせが届くようになっている。
「五つですか……」
五つ、というのは、登録証に開けられた穴の数である。
その冒険者がこなした依頼の難易度でギルドが穴を開けてくれるのだ。
穴一つで中級者。“混沌”から離れて一体でうろつく魔物なら狩れるであろうという見立て。
穴二つで上級者。魔物が複数、或いは魔族相手でも生きて帰れる可能性あり。
穴三つでどんな依頼を任せても良し。
そんな具合である。ちなみにそれ以降はギルドマスターが依頼の大きさを鑑みてノリで穴を開けている。随分と大雑把である。が、そもそもこのシステム自体が大分大味である。その冒険者が一つ穴だとして、一人で魔物と戦えるのか。穴を開けてもらったときのパーティはどの程度の仲間が何人いたのか。その辺は変動するからいちいち彫られていない。
つまり、三つ穴だからと言って何でも出来るとは限らないのである。仲間が強かっただけな可能性。もう仲間がいない可能性。戦力は変動している可能性があるのだ。
余談だが、穴を開けることはとても簡単である。ギルド特有の細かな印とかではなく、大雑把に開けられるものなので、開けようと思えば本人が適当に開けることも可能である。難しい、本来受けられない三つ穴の依頼を受けるために穴を開けちゃうぜ――みたいなことをする冒険者がいるのかと言えば、余程の馬鹿を除いていない。ギルドがわざわざ設けている難易度の指標を自ら崩すのは、自分の命に関わるからだ。実力に見合わない依頼を受けて帰って来られなくなるだけ。この、簡単に開けられる穴は、開けたければ自己責任でどうぞ、というギルドの無言の圧力というわけである。
「五つ穴で“混沌”の情報を聞くということはつまり……」
「出来れば討滅したいのでその情報が欲しい、ということです」
「パーティは何人ですか?」
「スーとウィンちゃんの、二人ですっ!」
「はぁ……私の手には余ります。ギルド長に相談してきてよろしいでしょうか」
どうぞ、と言ったら若干のふらつきを見せながら部屋を出ていった。
ボクたちが悪いわけではないのだけれど、なんとなく申し訳なさを感じてしまう。




