暇とお別れかな?
「この生活、いつまで続ければいいんだろう」
『またそれか』
そう、また“それ”である。
光剣を目指す勇者。
光剣を売るために。あるいは興味本位で訪れる冒険者。
それらを追い返す日々。頻度は高くないとはいえ厭わしい気持ちがあるのは否めない。
好きで戦っているわけではない。いや実際には似たり寄ったりなパーティ編成相手でも対人戦の修練にはなるし、次はどんな編成なのかなとかほんの少し楽しみだったりもするのだけれど、それは嫌なことの中でも出来るだけ楽しみを見つけて頑張ろうと言う心の自衛のための感情であって、戦わなくて済むなら戦いたくない。
だってそうだろう?
あちらはボクたちを魔族だと思って攻撃してくるんだ。普通に殺しに来ている。今は何とかなっているけれど、いつ死んでもおかしくないのだ。
ずっと勝てる相手だけが来るとも限らないし、こんな生活を延々続けるわけにはいかない。いつか死んでしまう。スフレも死んでしまうかもしれないし、アレクを守ることも出来なくなる。
こんな生活長くは続けたくない。
「ねーアレク~。なんか良い案はないの~?」
『“混沌”を全て滅すれば人間が光剣を欲する理由は無くなるのではないか?』
「出来たら苦労しないわッ! “混沌”を消すために光剣が必要なのに、ボクたちはそれを邪魔してる側なんだぞ!」
『別に“混沌”を消すのに光剣が必要と言うことはないと考えている』
「……なんだって?」
「アーちゃん、どういうこと? 光剣がなくても“混沌”を消すことって出来るの?」
『恐らくな。我が生み出される前から人類は存在していたし、“混沌”もまた、同じく存在していた。我と光剣は生み出された時期に然程差はない故、光剣が創り出される以前は光剣のない戦いであった筈じゃ』
……なんだか納得出来るような出来ないような。
「確かに光剣のない戦いはあったのだろうね。けど、その戦いは“混沌”との戦いだったのかな? それとも“混沌”から出てくる魔物や魔族との戦いだったのかな? もし後者だったら、光剣が無くても“混沌”を消し去る事が出来る、とは言えないんじゃないか」
『我は光剣が創り出された後の事しか知らぬ。故にそれ以前に“混沌”を消すことが出来たのかも知らぬ』
「つっかえ」
「ウィンちゃん!」
「ごめん」
『いや。希望を持たせることを言った我の過誤だ』
「……んーでも、光剣を封印しようと思ったのは“混沌”が無くなったと思ったからだよね。“混沌”がほぼない状態から現在までで、頻繁に魔物に遭遇するくらい“混沌”が増えちゃったけど……光剣が創られる前も同じくらいのペースで“混沌”が発生してたんだとしたら、魔物で溢れかえって光剣が創られる前に人類いなくなってた、かも?」
「……確かに」
アレクの言うことより説得力ある。さすがスフレだ。
「ということは、大昔の人は何かしらの対策を持っていたという可能性が高いね。その辺を調べたり試したり出来れば、光剣を封印したまま“混沌”を消し去って、光剣を欲しがるやつらとの戦いからも解放されるかもしれない」
「やったねウィンちゃん!」
――が、喜んだのも束の間。
「……“混沌”って一体どれだけあるんだ……」
「あ……」
『全ての“混沌”を消し去るのと。此処で勇者や冒険者の相手を延々とするののどちらが良いか?』
「それは考えるまでもない」
そう、終わりも見えない命がけの戦いよりは、終わりがあるものの方が良い。たとえ困難で無謀であろうとも――
「そうと決まれば情報収集からだ。“混沌”がどこにあるのか。どれくらいあるのか。どのようにすれば消せるのか。調べることは沢山ある」
「フィーちゃんなら“混沌”の場所、いくつか知ってそうだよね。一つならスーたちも知ってるのがあるけど……」
「ドラグティカにあるやつはだめだね。足止めの意味合いもあるし、ボクたちの修行もあるし、金策もあるし。消すなら一番最後にしたいな」
「じゃあ金策でもしながらフィーちゃん待とっ♪」
♢ ♢ ♢
「“混沌”の場所、ですか。別にお教えするのは構いませんけど……危険ですよ? 近づけば近づくほど魔物は多くなりますし魔族に遭遇する可能性も上がります」
フィーネの心配も尤もだ。
しかしボクたちはここで魔族狩りをしているし、なんなら“混沌”の前で魔族が出てくるのを出待ちしている。よっぽど勇者も冒険者も訪れない辺境の地で、魔族も魔物も飽和してなお生み出され続けているとかでない限りは大丈夫だろう。
「それと、お聞きしたいんですけど、なんでお二人は“混沌”を探しているんですか?」
その疑問も尤もだろう。
普通の冒険者は“混沌”を見つけたところで危険があるだけで利点はない。
「試してみたいことがあるんだ。大昔の人は光剣が無くても“混沌”を消すすべを持っていたんじゃないかって。出来るかは分からないけれど、もし出来れば、光剣を手に入れなくても“混沌”を消し去って魔物や魔族による被害を減らして行けるんじゃないかって……」
「……考えたことありませんでした。確かに人類の歴史に比べれば光剣が創られたのはつい最近と言ってもいいかもしれません。それ以前は“混沌”は普通に消せる存在だったのでしょうか。“混沌”を消すには光剣が必要なんだってずっと思ってました……」
「ボクたちもそうだったよ。そして、きっとほとんどの人がそう思ってる。もしかしたら世界のどこかには“混沌”を消すために動き、消している人たちもいるのかもしれないけれど……。だから、出来るのかどうか試してみたいんだ。そのための情報が欲しい」
「フィーちゃん、おねがいっ……!」
「ウィントさん……スフレさん……」
フィーネには欠片もメリットがない話だ。
それどころか、ボクたちの手伝いをしていたら変な情報ばかり集めてる変な子というレッテルを貼られる可能性もある。無理にお願いする気はなかった。断られたら他の手段を考えよう。
「分かりました。私も“混沌”が無くなって魔物の被害に遭う人が減ったら嬉しいですから協力します。けど、絶対に無茶な事はしないでくださいっ! これは約束です。守ってくれないならそれ以降情報はお譲りしません」
「フィーちゃん……」
だきっ
微笑ましいねぇ。なんだか村のおばあちゃんみたいな気分で見ちゃう。
ボクの実際のおばあちゃんは見たことがない。魔物による被害が珍しくない村だったから。ボクの両親もスフレの親御さんも……。村のみんながボクたちのお母さん代わりで、お父さん代わりで、おばあちゃん代わりで、おじいちゃん代わりで……家族だった。
昔のボクたちみたいな子供を減らすことにも繋がるんだ。頑張ろう。
「とりあえず、冒険者ギルドを中心に聞き込みしてみますねっ」
「……そうか。魔物に関しては冒険者ギルドを頼るのが一番か。だったらボクたちは冒険者だし魔物の情報なんかも聞きやすいだろうからボクたちが聞きに行ったほうが良さそうだ」
「でも、私ならあちこちのギルド回れますよ! 情報収集はおまかせくださいっ!」
「ありがとね、フィーちゃん。でもフィーちゃん忙しいんだから……」
「そうだね。無理のない程度に、立ち寄ったところで少し聞いてみるとかしてくれるだけでいいから」
「そうですか……そうですよね。お二人に無茶しないでくださいってお願いしておいて、私がご心配をおかけするのはだめですね。無理のない範囲で集めてきます」
「お願いするね。フィーちゃん」
そうしてボクたちは情報を集めることから始めることにした。




