早くも装備バレ。
『魔力反応が消えたな』
【閃く双電】を送り帰してから十日ほど経った。
その間来たパーティは三組だった。
その三組目はたった今、帰ったらしい。
少しコツを覚えたのだ。
まず先手で後衛を縛り上げて前衛を痛めつけ、手負いの前衛を本物の魔族がいる方へ投げ返してやる。そして後衛の縛りを解いてあげる。後衛だけで戦うのは不安だろうし、投げられた前衛が居る方で魔族が新しく湧くかもしれないのに前衛を放置出来るわけがないので追う。そしてそのままこちらへ戻らずに帰っていく。
このパターンで勝ててしまう。《奈落魔法》があまりにも認知度が低すぎてみんな弱体化魔法の警戒もしないし抜け方も分からないので同じ動きで勝ててしまうのだ。もっと言えばパーティ編成も似たり寄ったりであり、だからこそ同じ戦術が刺さってしまう。バランスの良いパーティは王道にして安心安全。責められるべきことではないんだけどね……。
別に戦闘に刺激が欲しいとか楽しみたいとかはまるでない。
でも結果が同じなので来ないで欲しい……。それはこちら側からの言い分で、向こうからしたらみんな初見なので結果が分からないから仕方ないんだよね……。
そんなに来る頻度が高いわけではないし、こちらとしては対策してきた変なパーティに来られるよりはずっと良いのだけれど、同じことの繰り返しはしんどい……。疲れる……。
「この生活、いつまで続ければいいんだろう」
『飽いたならば去れば良かろう』
「良くないよっ! 去って良くない! アーちゃんに会えなくなっちゃう!」
『ぬ……』
答えの出ないことを考えていると、ベルが鳴った。
『商会のが来たな』
「あいよ。《テレポート》」
「あ、ウィントさん。こんにちは」
「こんにちは、フィーネ」
「あれ? 装備、変えました?」
げ! 着替えてない!
うわー、どうしよう。
そう。一瞬で片付いたので戦ったということすら頭から抜け落ちて雑談していたのだが、今しがた勇者と戦ったばかりなので黒鋼石製の黒い装備を着ているのであった。
……もう開き直るしかないか。
「あぁいや、お金が貯まってきたからもう一セットくらい装備合ったほうが良いかと思って。ほら、予備はあったほうが良いだろう?」
「確かにそうかもしれませんね。また一段と黒くてカッコイイですねー!」
「そうだろう? 今回はスフレもお揃いで黒いんだ。かっこかわいいってやつだから見てあげてよ」
「わー、じゃあ早速、中行きましょ!」
うーん……。違和感無く誤魔化せたと思うけどどうかな。
というかよくよく考えれば居留守で良かったのでは。ボクたちは地上に降りてるときだってあるんだし、フィーネ一人じゃ中は危険だから入ってこないし。
そう、ボクたちがいない間に拠点に魔族が入り込んでるかもしれないから直接拠点に転移するのはやめたほうが良いよと言いくるめてある。実際は安全だけど、ボクたちが勇者や冒険者のパーティと戦闘中に直接転移して来たら流れ弾で死ぬかもしれない。【閃く双電】みたいな馬鹿みたいな火力の魔法を使うやつもいるのだ。あんなものが飛んでくる場所に転移とか危険が過ぎる。
「フィーちゃん、はいこれ。お茶どうぞ」
「いつもありがとうございます~」
和んでいた。それはもう滅茶苦茶に和んでいた。
イスやテーブルも買って、もはや普通に生活していた。
フィーネも馴染んでいた。ここに居ることに違和感が無くなっていた。
フィーネが居てくれる時間が増えてきたので、そろそろ勇者とか冒険者とかとかち合っちゃうかもしれない。来訪者が来た時にどうやってフィーネを帰すか考えたほうが良いね……。
「はう~。スフレさんの新しい装備もお似合いですね~」
「あ、えっと……そうでしょ?」
スフレがこっちをちらちら見ながら生返事する。
ボクはにっこり笑って選んだ方向性を示す。
「そうだろう? ほら、お揃いの真っ黒! かわいいスフレをシックな黒が引き立てててカッコイイだろう?」
「ですねー、それに黒はなんだか強そうです!」
「強そうではなく、スフレは強いぞ~」
「そういえば私、お二人がどれくらい強いのか全然知りませんけど、修行はいつまでなさるんですか?」
いつまでここにいるんですか? という意味合いもあるだろう。
こんなところに好き好んで住み着いているやつは明らかにおかしい。自分で言ってて辛いけれど。というかボクも止められるなら止めたいよ!
それはそうと痛いところを突かれてしまった。誤魔化さねば。
「それねー。ボクたちもどうしようか悩んでるんだけど、まだまだ自分たちの納得いくところまで行けていない気がするんだ」
「そうなんですか? お売り頂いている黒鋼石の数からして、かなり安定して、かつ、それほど苦労せず魔族を狩れていますよね。そもそもこんなところに住み着いて無事なのが強さの証ですし。中々いませんよ、ここで生活できる人。……ドラゴンも居ますし」
そう言いつつアレクを見上げている。
最早害はないと思ってくれているだろうけれど、最初に会ったときに倒したと言ってしまっている。これを倒せる人もそんなにいないのでは、と勘繰っているのだろうか。
「んーまぁちょっとでかいけどねこいつ。だからなんかちょっと構ってたら愛着湧いちゃって。それもここを出る気になれない理由かなー。ここに居ても地上へは行き来出来るしね。フィーネのおかげで」
「あはは、ありがとうございます。でも大人しいですもんね、アレクさん。構いたくなるのも分かります」
ふー、誤魔化しきれたかな。
これでいつまでここにいても疑問は持たれないだろう。
「そういえば強いで思い出したんですけど、気を付けてください」
「なにを?」
「ここの最深部に、二体の魔族が出るらしいんですよ。それがとても強いらしいんです」
「そ、そうなんだ。でも大丈夫だと思うよ、ボクたち最深部まで行かないから」
ま、ここが最深部なんだけどね。そして恐らくその二体の魔族とやらはボクとスフレのことだろう。
フィーネもまさか自分が最深部に出入りしているとは思ってもみないだろう。
「ちゃんと聞いてください! 魔族は別に移動しないとも限らないんですよ! こっちまで来るかもしれないのです」
「それは……怖いねぇ。ボクたちいっぱい狩ってるから恨みとか買ってる可能性もなくはないし」
魔族にそういった感情があるのかは知らないけれど。
「そうですよー。用心してください。なんて言ったって、あの【閃く双電】まで勝てなかったらしいんです。最大級の魔法を二人で同時に放つことが出来る、攻撃力では屈指の実力を持つパーティなんです。あのパーティがここに来たであろう日、少し離れた街からでもドラグティカから光の柱が伸びているのが見えたそうなんです。恐らく双子の魔術師が自信のある最大の魔法、《ライトニングノヴァ》を使ったのだと思われます。それを直撃したのか、回避したのかは分かりませんが、撃たせてもらう余裕があったのに負けたという事実があるのです。お願いします、遭遇したら絶対に逃げてくださいッ!」
「う、うん。そんなのと遭遇して逃げられるのか分からないけれど、善処します」
「そんな危険なダンジョンに、フィーちゃんもよく来れるね?」
「それは! ……お二人のこと、好きですし」
「フィーちゃん……」
ぎゅ。
いいよ。何も言わないよ。いいところだからね。
ボクもフィーネ好きだし。……この子も、守らなきゃね。
「フィーネ、仕事辛くないかい?」
「えっと……大丈夫ですよ?」
「どうして酷使するような商会で働いてるの? フィーネならどこも引く手数多だろうし、どこでもやっていけるんじゃない?」
「それは……商会主様にご恩があるからです。私、その、孤児だったので。たまたま魔力が他の子より多かったから拾って頂けて。継承の書まで使わせて頂いたんです」
継承の書は高い。
とてもじゃないが、拾った孤児に使わせるようなものではない。
けれど、元は取れると踏んだんだろう。
「……それ、いいように使う気満々じゃ……」
「いえ、違うんです。最初はそのためだったかもしれませんが、最近は物凄くよくしてくれるんです。美味しいものを食べさせて下さりますし、服もこんなに良いものを下さって。お金だって貯金出来てます。仕事が大変なのは当たり前ですし、これ以上を望んだら罰が当たっちゃいます。それに、世界のあちこちに行けるの、嬉しいんです」
「本当に、無理はしてないんだよね?」
「してません!」
確かに、孤児に対する待遇ではなさそうだ。
それでも、オーバーワーク気味なのは間違いない。
「まーもしこの先、嫌なことがあったらいつでもここに来ればいい。商会主さんに少し休み増やせって直談判しに行くよ。労働環境を変えたくなったら別の店を一緒に探してあげよう。商売から距離を置きたくなったら……ボクたちと一緒に旅でもする? まぁ旅と言ってもここで空の旅とは名ばかりの、洞窟暮らしかもしれないけどね」
「うんうん、それいい! 一緒に旅するの楽しそう!」
「あはは。ありがとうございます。そのうち……もしかしたら、お願いするかもしれません。修行の邪魔になっちゃうかもしれませんけど。戦闘ではお荷物ですけど、旅でしたらお役に立てると思いますので」
「ん」
現状に慣れてしまっているのはフィーネだけでなく、商会主もなのだろう。
人は一度吸った甘い汁を手放すのは難しい。けれど、フィーネが倒れたら困るのは商会主だ。待遇も良いみたいだし、働かせすぎですよ、と少し釘を刺すだけで見直してくれるような気がする。
そのうち会う機会もあるだろうし、その時にでも軽くせっついてみよう。




