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天窓に出来たらよかったのにな。

「何これ硬っ! ちょ、ちょっと! これ斬って!」

「あ、あぁ!」

「くっ! 何だこれは! 何で出来ているんだ? 植物なのか? それともあの魔族の一部……?」


 そうして前衛勇者が触手に斬りかかる。

 ボクも知りたい。何なんだろうね、あれ。

 最近はよく見るからなんとなく柔軟な黒鋼石をイメージして《カーステンタクル》を使っている。だから黒鋼石くらい硬いんじゃないかな?


「こんなのでギチギチに締め上げられたら骨折れるんじゃ……」


 折れそう。

 鎧は流石に少し凹むくらいにしかならないと思うけど、魔術師なら捕まえた時点で生殺与奪を握れるのかもしれない。ただの妨害魔法だと思ってたけれど……。

 でも折るわけにはいかない。

 下手につついてなりふり構わず魔法を放たれたら厄介だ。ここは程々に締め上げつつ睨みを利かせて、下手な動きを見せたらいつでも折ることが出来るぞ、と感じさせておく方が穏便に事が済みそうだ。

 魔術師二人が大人しくなったのを見やりつつ、前衛二人に声をかける。


「その鎧、随分良さそうな鎧だねぇ?」

「くっ、何の話をしている!」

「こっちも壊されたんだからさぁ……。いいよねぇ……?」

「だから何の話を」

「《デテリオレイション》」


 前衛二人に。


「? 何も起きないぞ。攻撃魔法か何かじゃなかったのか?」


 もう既にガタガタだよ、その鎧は。


 ボクはスフレに目で合図する。

 スフレは動く素振りを見せたと思えば一息の間に鎧の横で足を振り上げていた。

 そして続けざまに前衛二人に蹴りを入れた。特に技とかではなく普通に蹴った。

 鎧の重さもあって一回跳ねて転がる程度だった。

 だがそれだけで蹴られた部分、地面に接触した部分等が砕け、はらはらと落ちてゆく。それはもう鎧の役割を放棄していた。


「かっ……はっ。何だこれは。どうして、蹴りで、こんな」


 鎧の効果も多少あってまだ元気だ。

 もう少し分からせるべきだろう。


「《ルーズグラビティ》」


 今度は寝転がっている前衛二人のうちの、鎧の元気なほう一人の重力を奪った。

 そして襟首を掴むと半円を描くように反対側の地面に叩きつける。


「ぐはあっ」


「……嘘。な、なんで。魔法が得意なんじゃないの? 鎧を着た男を片手で……」

「お姉ちゃん! 無理だよ……。か、帰ろう? 締め上げられても、し、死んでるし、ダラスさんとオリオンさんに攻撃した後、私たちには何もしてきてない。遊ばれてる、よ……」


 別に遊んでないし面白くもない。

 ただ殺したくもないし魔術師は元気でいてもらわないと帰らせるのが面倒なだけです。


「帰るんですか? 貴女達、まだ一度ずつしか魔法、使ってませんよね?」

「……帰りたいって言ったら帰してくれるの?」

「光剣を諦めて頂けるのでしたら帰って頂いて結構ですよ」

「お姉ちゃん……」

「……いいわ、帰ります。これ解いて」


 《カーステンタクル》を解除する。


「本当に解いた……。反撃されるとは考えないわけ?」

「考えたけど考慮に値しませんでした」


 にこっ

 厭味ったらしく微笑んでみた。


「いつでも殺せるってわけね……」


 そう言い残して四人まとめて消えていった。




「また来るかな?」

「来ないで欲しいね。……はぁ~」


 空が見える。いい天気だなー。


 じゃなくて!

 照明を壊されたことよりまずいことがあるよ! 照明も大事だけどね! すごく!

 ドラグティカ最深部の天井に穴が開いていると知られてそれが広まったら入り口から木鳥を飛ばして上からこの空洞に入ったテレポートで一気に来られるようになっちゃう!

 ダンジョンの最深部にいきなり直で到達するなんて、冒険者としての矜持はないのか! ある! それはある! あるだろう! が! そんなもの、道中での消耗品の消費、魔力や体力の損耗が無くなることに比べたら些末な事! 万全で龍神と戦えるほうが良いに決まっている!

 アレクを護る身としてはそれは非常に困る! だが! それよりもさらにまずいことがある!

 木鳥でボクたちの生活スタイルとかを覗かれた時点でアウト!

 入り口に反応があってベルが鳴ってからあれこれ片付けたり着替えたりしてたら間に合わない! お尋ね者決定!


「どうしようアレク。ドラグティカって勝手に修復されていくんでしょ? それどれくらいの早さなの?」

『知らぬ。次に他の者が来る前に修復が終わっていればよいのであろう? じゃが最近の此処は類を見ないほど活発な動きを見せておるから何とも言えぬな』

「フィーちゃんは来ても平気なのかな? 次に来るのはフィーちゃんだと思うけど」

「うーーーん……」


 どうだろうか?

 フィーネが知っても大丈夫だろうか。

 推測だけど、フィーネってすごく顔が広そうなんだよね。世界中どこでも転移できるというのもあるし、取引相手が多そうというのもある。なぜかと言うと、そもそもがフィーネの働いている商会が結構大きそうだと思っているからだ。あれだけ物品の移動をこなして見せるフィーネが居て儲かっていないはずはないだろう。

 ドラグティカの記録石なんか作っているくらいだ。冒険者との取引も多いだろう。だとすれば、冒険者にも情報が流れて広がることは念頭に置いたほうがいい……。


 ダメじゃん!

 フィーネに知られることも絶対に阻止せねばならない。入り口で取引する? フィーネだけならなんとかなる。

 でも結局他の勇者や冒険者が近いうちに来る可能性は十分ある。

 なんだっけ。あれ。【閃く双電】。あの人らが来た理由もどうやらその前のパーティから話を聞いたかららしかった。であれば、【閃く双電】から話を聞いたパーティもまた、ここに来る気になるかもしれない。

 【閃く双電】は自分たちで結構名が売れてるみたいな雰囲気を醸しだしていたけれど、実際は分からない。あいつらが負けたならやめておこうと思うパーティが増えてここに来るパーティが減るかもしれない。でも逆に興味を持って来たくなるパーティもあるかもしれない。

 元々滅多に人が来ない場所だったのだから、興味を持ったパーティが少しでもあればそれでこことしては珍しい数の訪問者ということになり兼ねない。うーん。いやじゃ~。めんどくさーい。


「ダメだね。フィーネにも天井が壊れていることを知られるわけにはいかない」

「そっかー……。じゃあ、直すか隠すかしないと、ダメだねっ。ウィンちゃんの《リターンステイト》で直せないかな?」

「あー。なるほど。んーでもあんな大穴直せるかな。とりあえずやってみよう」




 結論から言うと直った。

 今まで意識したことがなかったけれど、この魔法って、その対象全体にかかっているんだろうか? それとも損傷部分だけなのだろうか?

 アレクにかけたときは魔力ギリギリだったけれど、今回の方が魔力の消費が少ない気がする。まだ余裕がある。損傷度合いにもよるということか。そういえばアレクのときは戦闘後だったからそもそも魔力が消費した状態だったというのもあるか。

 うーんわからん。けど直ったのでヨシ!


「やってみるもんだねぇ」

「ウィンちゃんすごーい! さすがウィンちゃんだねっ!」

『……その魔法は優秀過ぎる。広く周知されぬほうが良いな』

「む」


 ボクとしては《奈落魔法》にはもっと広まってほしいし広めたいと思っているんだけれど。

 でもアレクの言いたいことも分かる。

 汚れを消したり傷を直したり。……老化を巻き戻したり。みんなが使うようになったら世界が滅茶苦茶になるような気がする。

 《奈落魔法》、面白い魔法多いんだけどな。《攻撃魔法》なんて物騒な魔法よりよほど流行るべきだと思ったのに。まぁそれじゃあ魔術師が戦闘での役割がだいぶ減るだろうということは容易に想像出来るから、今の形になったんだろうなというのも分かるけれど。

 《攻撃魔法》も《回復魔法》も《強化魔法》も、どれも戦闘では大事な魔法ばかり属している。《天外魔法》は程度の差はあれど、魔術師ならみんなある程度は習得するし。あれもこれも手は出せないよね。ボクも他の系統の魔法を選んでたら、スフレをもっと楽させてあげられたのかな。《攻撃魔法》で積極的に敵を減らしに行ったり、《回復魔法》で戦闘中にも傷や体力を癒したり、《強化魔法》でボクの防御力を上げてケガの心配が無くなればスフレは戦闘に集中出来るし、スフレも強化してより強力な攻撃が出来るようになる。

 なんて。今更だけどね。

 みんなそれらを優先するから《奈落魔法》が不人気だというのはよく分かる。

 けれど、どんな魔法があるかすらほとんど知られてないのは悲しすぎない?

 使い手がいないから知識が残らない。知識がないから使い手が増えない。この悪循環、なんとかしないといずれ《奈落魔法》という魔法体系自体が消えてなくなってしまうのでは……。


 広まってほしいけど広まってほしくない。全く逆の、矛盾した気持ちを消化できずに抱えたまま、とりあえず照明をいくつ買い足せばいいのかを数えることにした。

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