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いいやつだったのに……!

「暇だねー」

「そうだねぇ~……」


 そう、暇だった。


 魔法や照明、侵入者の感知魔法具等を買い揃えてから五日ほど経った。

 ボクたちはそれらを取り付け、警戒も出来るようになったし最奥の空洞はお互いの顔が普通に見えるくらいに明るくなり、空は見えないけれど不満は特になくなった。外の空気を吸いたくなったら入り口に転移すればいいし。アレクには悪いけれど……。

 木鳥を使った地上への転移も問題なく出来ている。

 最初は地面との距離感や下を向いていた状態から横を向いて着陸させることに少し手間取ったりもしたけれど、今は自然と出来るようになった。

 速く地上へ飛ばすことを意識して、少しずつ地上への転移までの時間を短縮できるようにしていっている。


 この間、フィーネは二回訪れてくれていて、食糧の他に欲しいものを売ってもらっていた。

 まず地べたが硬いので寝具やクッションを売ってもらった。

 そして食糧を保存出来るように冷気の出る魔法具の入ったチェスト。

 それと持ち運びが出来る調理用の火の出る魔法具。

 喚起が出来ないので基本的には地上で使う予定。でも面倒だったらここでも使うかもしれない。焼くのは煙がしんどそうだけど煮るくらいなら平気……だと思う。

 あとは暖を取る用途でも使うかな? ここは洞窟なのでそこまでではないけど上空なので寒いときもあるかと思う。


 どれも今まで持ってなかったし持とうとも思わなかったもの。

 旅で荷物が多いのは邪魔になるし特段あまり必要性を感じなかった。


 もしかして、今が一番生活の質が充実している?

 皮肉にもこんな洞窟の奥で。

 よくよく考えてみれば旅の途中では家なんて当然持てないのだから、洞窟とはいえ一つ所に腰を据えるのであれば生活水準は上がって然るべきである。


 ただ、話は戻るが暇なのである。

 やることなんて三人で駄弁るか魔族を狩るくらいしかない。

 魔族狩りはお金になるし修練にもなるのでしなくてはならないというか、こんなに近くで魔族をぽこぽこ狩れるおいしい場所もそうない。恵まれていると言っていい。ただ如何せん単調なのは否めない。おいしいからといってそればかりずっとするわけにもいかない。飽きてしまう。

 侵入者に関しては感知出来るようになったし、たまには地上に降りてお店を見て回ったり、冒険者ギルドで依頼を受けてみたりしてもいいのかもしれない。

 けど急ぎの依頼や護衛依頼なんかは受けられないんだよね。いつ勇者や冒険者がドラグティカに来るかわからないから。

 そこまで考えて少し面白くなってしまった。普通の冒険者みたいなことしつつ勇者や冒険者と戦うなんて我ながら何してるんだろって思うけれど、自分で選んでしまったからには考えても仕方がない。



 ――リン


 思考の海を漂っていたらベルの音が届けられた。


「フィーネ?」

『違うようだな。魔力反応は四つ』

「ウィンちゃん、攻略者だよっ! どうしよう!」

「戦うことになるかもしれないね。ここの道中を突破できるかは分からないけれど、突破して来たら間違いなく戦闘になると思っていいだろう。一応着替えておこうか」


 ここまですぐ来られるわけはないから時間はそれなりにある。

 ボクたちは着替えることにした。

 さすがにここと地上で同じ装備でいるのは良くないだろうということで、装備も買っておいたのだ。

 今までは《リターンステイト》で傷や汚れと一緒に装備の損傷も戻していたし、荷物も増えるから他の装備なんて持っていなかった。

 色々なものを買い揃えてお金が飛んで行ったけれど、魔族産の黒鋼石が思いのほかポンポン入手出来る割りに高く売れるのでむしろ貯まる方が早かった。装備一式を躊躇わずに買えるくらいには……。もうここが家でいいかもしれない。


 そうしてボクたちが身を包んだのは、どちらも黒を基調とした装備だ。

 いつもは明るい色を基調とした装備を身に着けているスフレと違って、ボクはいつも黒に身を包んでいるのでそんなに違いはないだろと指摘されそうなものだけれど、黒鋼石を使われた装備なのでいつもよりもっとずっと黒い。値は張るし重いけれど防御性能は遥かに高そうだ。動きが鈍くなりすぎてまともに戦えないのでは困るので、硬さを残した金属部分はこちらの装備でもそこまで多くないように選んだ。


 スフレの髪や目は変わらず明るいしかわいいから魔族で通せるかわからないけれど、ボクは目も髪も黒なので魔族であると言えば信じられそうな気がする。

 それに何しろ黒鋼石だ。魔族の外骨格や武器のような部分も黒鋼石で出来ているように見えるから説得力はあるように思う。いける!


『その装備は好かんな』

「お前の好みは聞いてない」

「光剣に近しい存在だからアーちゃんは苦手なのかな? ごめんね?」


 ほらー、優しいスフレにどうでもいいことで謝らせちゃっただろ、どうしてくれるんだ! 謝れ!

 とは言わない。面倒なことになるから。今はそんな場合ではない。


「アレク、今どの辺か判る?」

『ちょうど中盤に差し掛かった辺りであろう』

「じゃあそろそろ魔族がちらほらいる辺りだね。抜けて来るかなー」

「来ないで欲しいな……。戦いたくないよぅ」

「だね」


 意味合いは違うかもしれないけれどボクも戦いたくはない。

 無駄に疲れるし相手が強かった場合死ぬかもしれないし。……その逆もあるかもしれないし。


『なかなか進行速度が早いようじゃな。侵入者はいてもここまで来られる者はそんなに多くはなかったのじゃが……。本に珍しいことよの。これもここの魔族が減っているというのもあるかもしれぬな』

「魔族が減ってる」

「魔族が減ってる?」


 ボクたちのせいじゃん!!!!!


 これからは少し魔族狩り、加減しよう……。


 あ。

 ボクたちが買い込んだもの、アレクの後ろの方に隠さなきゃ。誰かがこんなところに住み着いてるのが一目で分かってしまうもんね。誰かがというかボクたちしか候補らしい候補いないのだけれど。

 それと照明も消しておこう。


 照明に魔力を送り込むための対になっている魔法具に触れると照明の魔力が霧散してふっと明かりが消える。


「わー、暗いね~。でもこれで戦わないと生活感でバレちゃうもんね」

「まぁでもよく見えないのが逆にボクたちの存在がバレにくいということで利点でもあるから」

「どんな人たちなのかな」

「パーティ編成とかも気になるね」


 一応、こちらから先制攻撃を仕掛けることはしないと二人で話し合って決めた。

 戦わなくて済むならそれがいいという意見は二人ともあったし、相手の装備を観察したりパーティ間の会話とかを聞くことで情報を得られるのもアドバンテージを取れると考えたから。

 無論、相手に気付かれる前に弱体化の魔法を使った方が先手で数を減らしに行けるので、そのメリットを捨ててまで取りに行くほどのアドバンテージではないのだが……。



『来るぞ』



 最奥の空洞に足を踏み入れたのは前もって聞かされていた四人。

 装備で判断すると剣術士二人、魔術師二人。

 前衛二人は重装備と言っていい装いだ。剣と盾、それとしっかりとした鎧。

 魔術師を守り、魔術師が攻撃する形だろうか? でも治癒術師がいるとすると攻撃を担当するのは魔術師一人となる。前衛はあの装備でちゃんと攻めて来るのだろうか。情報が欲しい。何か口走らないかな。


「広い所に出たな……。そしてあの奥に見えるのが――」

「うん。龍神だろうね。今まで見たドラゴンとは明らかに違う。」

「……おかしいわね。あのパーティから聞いた魔族がいないみたいだけど」

「で、でも、もし本当に人間だったら帰った……とか」

「この間にも言ったでしょ! 光剣を守る人間なんていない。知能の高い魔族だっているんだから。魔族が光剣の入手の邪魔をしてくるほうが信じられるでしょ。それにあのパーティ弱そうだったし。頭悪そうだったし」


 ……うん、魔族だと思われているみたいだね。

 人間だと思われるのは困るけれど、魔族だと思われたら戦闘不可避。

 うーん、ダメ元で話しかけてみるか。すぐに戦闘が始まることを意識して。



「帰れ」


 とだけ言ってみる。

 相手の反応は――


「何!?」

「お前が例の魔族かッ!」

「もう一体は何処にいる!」

「そんなことはどうでも良い。帰れと言っている」

「はいそうですかと帰るわけには行かないのよ。あなた話が出来るみたいだから一応教えてあげる。私たちはオートリア王国所属の勇者パーティ【閃く双電】よ」

「……それで?」

「私たちのパーティ名を聞いてその反応……。魔族確定、ね。私たちはオートリアでは一、二を争う実力のパーティなの。人間ならとっとと立ち去るはず。ね? 言ったとおりでしょ?」


 いや普通に知らん。誰じゃお前ら。

 勇者なんて名乗るだけならあちこちの国に何組もあるしいちいち覚えとらんわ!

 それにボクたちは冒険者だから冒険者のパーティのほうがよく耳にする。そっちもそんなに覚えてないけど。


「もういいわ。魔族と判れば倒すだけよ。どのみち強い魔族はここから外に出ないように倒しておいたほうが良いんだから」

「それはそうだな」

「うん。じゃあ、いくよ、お姉ちゃん!」

「先手必勝……最初から最大火力をぶつけるわよ!」



「「《ライトニングノヴァ》!!!」」



 集束する光――


 迸る電流――



 いけない!

 そう感じたときにはスフレがボクを抱えて射線から離れていた。

 でもこれはアレクに直撃する!

 バリアか何か対抗する魔法はあるだろうけどあの魔法、恐らく本当に最上級の魔法だろう。防ぎきれるのか。当たった時に耐えられるのか。以前受けてた《ギガプロミネンス》は鱗が弾いていたけど―― 射線は逸らす!


「《カーステンタクル》!」


 暗闇から伸びる触手が相手魔術師二人の腕を縛り上げ上の方へと持ち上げる。

 間に合うッ? それとも発動時に射線は固定済みッ?


「ちょ、何よこれぇ!」

「えっ? えっ? どうしよう、お姉ちゃん!」



 放たれる光。



 魔力の奔流。



 二つの膨大な怒涛が周囲の空気も焼きながら驀進(ばくしん)する。



 ドラグティカの天井も焼き。壊し。吹き飛ばしながら空に二筋の閃光を描く。




 そう―― 天井に設置した照明も破壊しながら……。



「買ったばかりだったのに……。買ったばかりだったのにいッ!!!」

「落ち着いて、ウィンちゃん! 魔族は照明買わないよ!」


 スフレは意外と冷静だった。

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