卒業
私は気づいてしまった。キャラがものすごく被っているという事を。青っぽい瞳に白髪の幼女。さらにそこに現代日本人が転生。さらに能力も元素を操る。めちゃくちゃ被ってた!知らなかったとはいえまずいと思いまして、当初とは少し予定変更で書かせていただきます。
木々の生い茂る森林の中央にそれはあった。そこだけがぽっかりとクレーターがあいているのだ。そしてそのクレーターの中心近くには、フヨフヨと浮いている透明な球体がぽつんとあった。
か
「一体何が……」
「自分諸々死ぬのはダメですね。これは延長授業をしなければ!」
球体の中にいたソフィアが何が起こったのか分からずそう呟く。その隣では、ウィズが嬉しそうにはしゃいでいた。
「おっと、そろそろ戻さなくては……」
そうウィズがつぶやくと球体は地面へと下がっていき、パリンと割れ、光となって消える。
「さぁーてと、我が名の下に時よ舞い戻…ん?」
詠唱を唱え終わる直前、なにかがウィズの首筋に触れた。そう、それはまるで手のような感触であった。しかし、今ここにいるのはウィズとソフィアだけであり、ソフィアは今、霊体であり、魔術も使えない。となると、それはもしかすると、
「もしかして…幽、れ」
「ウィーズーゥ!」
「ぴゃぁぁぁーーー‼」
「ギャ"ァ"ー出"だァ"ァ"ァ"ーってあれ…この声は…」
振り返るとそこには右手がフヨフヨと浮いていた。それだけでもホラーだというのにウィズの名を恨めしそうに呼んでいるのだ、ホラーでしかない。実際、ソフィアだけでなくウィズですら半泣き状態なのだ。だが、その声はどこかで聞いたことがある声であった。それは紛れもなく、童》 の声だった。
「もぅー!脅かさないでください、童ちゃん!」
「ふぇ…童様?」
「いや、脅かすつもりはなかったんだけど…」
そういうと、ぱぁっと光り、童が現れた。
「いや、悪い悪い。再構築するのに少し時間がかかった。ぶっつけ本番であれを使うとは思ってなかったけど…まぁ、これで最後の授業も終わりだな!で、ウィズ…さすがにもうないよな。」
「ええ、もう折角、殆どの魔力を消費して半無限蘇生にしたのに霊核ごと破壊するんですもん。頑張った意味がないじゃないですか!」
「ごめん…って!お前なんてことしてんだ!もし、霊核ごと破壊してなかったら絶対勝てなかったじゃん!てか勝たせる気あんのかよ!」
「いやだなぁ~、童ちゃん。そんなの勝たせないようにしたからにきまってるじゃないですか!」
「なぁ、ソフィア。こいつ殴っていいよな。」
「だって!もっともっと童ちゃんに魔術のこと教えたかったんです!弟子なんていなかったから、つい張り切っちゃって…」
「言いたいことはそれだけか?」
童はそう言うとカラッカラの残り少ない魔力を限界まで圧縮した魔力弾が、銃を思い浮かばせるような形にした右手の人差し指の先端に発生した。魔力弾は、周囲の魔力をも巻き込み、肥大化していく。
「あ、ちょっまっ」
「問答無用!」
「ア"ア"ア"ァ"!ウボァ!」
放たれた魔力弾はウィズの防御壁を貫通し、腹パンしたように吹っ飛ばした。どうやら相当の魔力を消化して強化したせいで防御壁の強度が下がったため、貫通したようだ。
「よし、ソフィア。パーティの支度でもするか。」
「ええと、ウィズは…いえ、なんでもないです。やりましょう。」
「とりあえず、私は食材集めでもするから、ソフィアは装飾でもしておいてくれ。」
「はい!」
こうして、童は山へ狩りに、ソフィアはウィズに憑依して川へ(ケルベロスの血で汚れた服を)洗濯に行った。
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「というわけで!童ちゃんの卒業パーティを開始します!」
「わーい(ぼう読み)」
「ちょっ、なんでそんなに元気ないんですか童ちゃん、ソフィア様!パーティの主役がそんなんじゃ、盛り上がらないじゃないですか!」
「いやー、なんかワイワイ騒ぐと子供っぽいというかー」
「自分より騒いでる年上を見てると逆に冷静になっちゃう的な」
「「感じです。」」
「なんで二人ともそんなこと言うんです!私がバカみたいじゃないですか!」
「まぁ、それは置いといて…パーティを始めるか。」
「はい!」
こうして三人だけの卒業パーティが始まった。料理は鶏の丸焼き、鶏の唐揚げ、鶏のスープ、あとは鶏の…とりあえず全て鶏であった。まぁ、鶏以外食える生物がいなかったので仕方がないのだが…
「童ちゃん、実はプレゼントがあるんだ。これから先、ソフィア様は元の体に戻りますね。なのでその間、動けないと思うのです。なので!新しい体を用意いたしました!じゃん!」
そう言うと、次元が歪み、人型の物体が現れた。それは…その肉体は……
「これって…」
「そうです!」
「私の…体…」
そう、それは日本での童の体であった。
「え、すげぇ!どうやって作ったんだ?」
「ふふん、すごいんですよ。童ちゃんの記憶を元にホムンクルスの素体を構築したんです。専門外なので苦労しましたが…」
「ウィズはすごいのです!」
「くっ…」
少しの間呆けていた童は、目から雫を零した。
「な、泣くほどうれしいとは…小恥ずかしいですね。」
「ぢぃげえよ!ただ…初めてこんなにすごいと思った人がウィズだと思うと…うっ!」
「ちょっ、やっぱり童ちゃん、私に対してひどいです!訂正してくださぁーい!」
こうして最後の授業の夜は終わりを告げた。
~翌日~
「本当に行ってしまうのです?」
「ええ、私の本職ですから。」
「おい、ウィズ。…これもってけ。」
「へ、これは?」
それは、神社にあるようなお守りだった。
「もしも、もしものはなしだが…危険になったらこれを強く握れ。」
「え、あ、はい。」
「では、そろそろいきますね。二人ともお元気で!」
「ああ。」
「はい…!ウィズ!また、また…一緒に」
「ソフィア、大丈夫だ。ウィズは帰ってくる。」
「そうですよ、ソフィア様。では童ちゃん、後は頼みましたよ。」
「任せとけ…と、言っておこう。」
次元がぐにゃりと歪んだかと思うと、ウィズの姿が跡形もなく消え去った。そしてたちは、童もう一つの歪みのほうへ静かに歩いて行った。
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「父様!母様!お久しぶりなのです!」
「何を言っている、ソフィア。たった二日程度で…お前は公爵家の娘なのだぞ。もっと礼儀ただ」
「あらあら、まぁまぁ。あなたったら、昨夜なんて「ソフィアがぁー!ソフィアがぁー!二日も帰ってこないよぉー!どうしよ!どうしよ!は!まさか…誘拐に!」なんてさわいでいたではありませんか。」
「ア"ァ゛ァ゛--!頼むから言わないで!ほらあの公爵家当主としての威厳とかあるし…うわっ!」
一瞬で公爵家当主としての威厳やらなんやらが崩れ去ったすらりとした、髭すら生えていないこの男性はソフィアの父親であり、この家の当主でもあるクロード・ディラレンスだ。そしてもう一人のおっとりとした雰囲気の淑女がソフィアの母であり、ディラレンスの妻であるクロード・セレンテシアである。
「ところで君は?」
「あ、えっと。」
ディラレンスが少し警戒気味に尋ねたのを、ソフィアが説明しようとするが、童が先に一歩前にでた。
「お初にお目にかかります。ソフィア様の専用メイド、ウィズ殿の代理として推薦されました、加賀 童でございます。事情はウィズ殿からお聞きになられていると思うんですけど…」
「え、いや聞いていないのだが…」
「え、…まさか…!」
そういうと、ウィズに渡された手紙を見る。そこには…
一応、主人であるソフィア様の父親へ、
言うの忘れていたんですけど、私今日から本職の仕事をやらなきゃいけないのでソフィア様が名残惜しいのですけど、メイド辞めますのでそこんところよろしく頼みますよ。あ、あともう別に怒られないので言いますけど砂糖消滅事件とウサギさん(魔獣)領内大量発生事件、なんか警備システムがめっちゃ強化されてね?当主もここまで強化できないよ(笑)事件の犯人は私でぇーす!どうです!辞めたので給料減給なんて怖くないですよ!ほれほれ。…なんかほかに言うことあった気がするけど、まあいっか!
「よかねえよ!弟子のことまで考えろ!」
「領内の事件、全部あいつが原因だとっ!というか(笑)って確実に私を馬鹿にしているだろ!」
「まあまあ、皆さん、そう怒らずに。」
「…そういう母様も、殺気がにじみ出ていますよ…」
「あら、私ったら。」
セレンテシアは領内で起こった怪奇事件の一つである、ウサギさん(魔獣)領内大量発生事件でまるでゴキブリのように湧き出てくる魔獣を見てトラウマになった過去があり、密かに犯人を探していたのだ。それを悪びれもなく、呆気なく告白したウィズはなんだか自身が必死に犯人を探していたのを嘲笑っているような気がして怒りが湧いてきていたのだ。笑顔ではあるが、そこにウィズがいたのなら瞬時にナイフで貫かれていただろう。
「まぁ、ウィズがホウレンソウができていないのは置いておいて…とりあえず、雇う前提で面接をさせてもらう。あぁ、緊張はしなくて大丈夫だ。言ったろう、雇う前提で面接をすると。こっちに来てくれ。」
「か、畏まりました。」
そうして、童はディラレンスに連れられ当主の部屋へと連れていかれた。
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「では、質問する。えー、君はどこからきた?」
「…遠いところ?」
「えっと…記憶がないのか?」
「ウィズが連れてきたのでよくわかりません。」
「あぁ、よくわかった。」
彼は深く追求しない。何故ならウィズが絡んでいるからだ。ディラレンスは一度だけウィズが力を使っているところを見たことがある。その時、ウィズは魔法の域とされている空間操作を行っていたのだ。だからそんなことがあってもウィズが絡んでいるのならおかしくはないのだ。
「では次に、君はどの程度の実力があるか試させてもらう。」
そう言いながらディラレンスはフィンガースナップをする。すると、どこからともなく扉が現れた。
「これは、我が家に伝わる家宝の一つ、試練の門というものだ。先祖が子孫に死なずに実践的に訓練できるように作ったものだ。死にはしないから安心してくれ。」
「どの程度やればいいですか?」
「竜種級まであるが…そうだな…できるところまでやってくれ。」
「了解です。」
童がドアを開けると、ドアの中に吸い込まれていった。だが、その感覚はつい最近味わったものだった。
「あー、これ絶対ウィズが作ったやつだわ。」
〜1時間後〜
それは童にとってあまりにも簡単すぎた。だからこそ童は誤った。潮時を。つまり、やりすぎてしまったのだ。竜種はおろか、古代種、神獣種、そして最後は遥か昔に退治された魔王(魔王は流石に苦戦した)を倒して、あれ?ちょっとやりすぎたかなと思った時には遅かった。帰ってきたとき、ディラレンスは頰を引きつっていた。魔王を一時間未満で倒したのだ。ディラレンスのポーカーフェイスであるからこそ、この程度で収まっているが、通常なら恐怖で失神するか、強大な力を手に入れたと悪事に手を出そうとするだろう。
「えぇっと、こんな感じで宜しいでしょうか?」
「あ、あぁ。これなら何がきてもソフィアを守れるな。」
ディラレンスは深く追求しない。何故ならウィズが絡んでいるからだ。大事な事なのでもう一度言おう。ウィズが絡んでいるからだ。
「OK、合格だ。では…仕事をしてもらう前にひとつだけ大事な事を言う。実は…ソフィアは……」
「?ソフィアがどうしたんですか?」
「ソフィアは……運が悪いんだ!それだけでなく、周りはよくそのとばっちりを受けてしまう。君はソフィアのメイド以前に友達なのだろう?出来れば何があってもソフィアと友達でいてくれ。」
「なめないでください、ディラレンス様。そんな事言われなくても分かっていますよ。こう見えて頭はいいので。それに、他のことならまだしも友達とは、利益、不利益などを基準に考えたことなんて一度もありませんので。では、私はメイド長のところに行ってまいります。」
「あ、あぁ。君…加賀…ありがとう。」
「いたみいります。」
童が座っていたところを見て、ディラレンスは感謝の言葉を発して、自身の仕事をすべく、机へと向かった。
「加賀 童か…一体何者なんだ?…だが、悪人でないことは確かだな。」
ディラレンスの目は相手の虚実を見抜く魔眼であり、気になることは多々あるが嘘偽りを言っていなかった。それだけでも信用が出来る。そして何より、ソフィアを、娘を見限らないと真実を言ってくれた。それだけで、父親は嬉しいのだ。
「さて、今日の仕事も終わらせるか。」
この領地の人々のため、この国のため、己の家族のために。
メイド編が始まりました!これからもよろしくお願いします!
※次回も同じ時間を予定していますが宿題が溜まっているので遅れるかもしれませんがご了承下さい。